「イカとクジラ」鑑賞

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やっと観た。

いろんなところでこれをコメディと呼んでいるのを目にするけど、コメディじゃねえよなあ。どうにもならない陰気な状況において、いかに人々が「痛い」行動をとるかをきちんと描ききっているだけだろう。ジェフ・ダニエルズ演じる父親なんて実にリアリスティックにサイテーだし、じゃあ逆にローラ・リニーの母親はちゃんとしてるかというとそうでもなくて、次々に若い男とつきあってるばかりだし。脇役ながらウィリアム・ボールドウィン演じるテニスのコーチも実にサイテーでいい感じ。ローラ・リニーは薄幸な役柄が本当に身に付いてきましたね。あの甘ったるいラブコメ「ラブ・アクチュアリー」でも唯一恋が成就できないキャラだったのは伊達じゃないな。

両親に翻弄される2人の子供たちの振る舞いも実にリアル。離婚とまではいかなくても、親のケンカを2階で聞いてたような経験は誰にでもあるよね。高校でピンク・フロイドとかにハマって、「ブルー・ベルベット」を親の前で観て気まずい思いをするなんてとても他人事とは思えない。崩壊家庭において気が変になっていく弟の描写も見事。痛々しいけど。

気になった点を挙げるとすれば、ハンドカメラによる揺れ気味のカメラワークが邪魔だったかな。特に前半。変に臨場感を出す必要はないんだから、もっとどっしり構えて撮ればいいのに。あとアンナ・パキンの顔がティム・ロビンズに見えたのは俺だけでしょうか。

「偉大なるアンバーソン家の人々」鑑賞

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たまには古典も観るべえ、ということでオーソン・ウェルズの監督第2作「偉大なるアンバーソン家の人々」を鑑賞。

名家を舞台にした愛憎うずまく物語ということで昼メロ的な展開が多分にあるものの、一家の栄光と没落がドラマチックに描かれていてそれなりに面白い。惜しむらくは主人公のドラ息子があまりにも愚直すぎて、「市民ケーン」にあったような幅広い性格描写ができていないことか。それでも長廻しや引きのドリーショット、影を多用したライティングといった撮影のテクニックが1942年の段階で確立され、物語を語るにおいてきちんと使われているところなんかは興味深い。というか最近の映画における過度なBGMやカメラワークなんて殆どの場合ストーリーからむしろ観客の興味をそらす結果になっていると思うんだけどね。話の内容をしっかり伝えるにはむしろ映像が白黒のほうがいいんじゃないかと、ボグダノヴィッチ的なことも考えてしまうんだが。

ウェルズ作品なら次は「黒い罠」を観てみたいところです。

「ローズ・イン・タイドランド」鑑賞

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テリー・ギリアムの「ローズ・イン・タイドランド」をやっと鑑賞。俺まだ「ブラザーズ・グリム」はまだ観てなかったりする。昔はギリアムの新作が出れば劇場に真っ先に足を運んだものだがのう。いや、別に嫌いになったとかじゃなくて、他に観る映画がいっぱいありすぎて時間がないだけの話ですけどね。

んでこの「ローズ・イン・タイドランド」。結論から言うと明らかな失敗作。でもギリアムの失敗作だからただの失敗作とは1つも2つも違うけどね。雰囲気としては「バンデットQ」と「ラスベガスをやっつけろ」を足して2で割ったような感じかな。「バンデットQ」はあくまでもファンタジーの世界の話だったけど、「タイドランド」は舞台がずっと現実世界なので話に救いがないのが痛々しい。最初から最後まで変人ばかりが出てきて気色悪いことをやってる映画というのは全然ありだとは思いますが、ギリアムにはもうちょっと別のものを期待してたんだけどね。なんかむしろティム・バートンや最初期のデビッド・リンチが作りそうな作品だったな。俺にとってギリアム作品といえば「未来世紀ブラジル」のような毒々しさとファンタジーが絶妙にブレンドされたものを期待してしまうのですが、今回は毒のバランスが強すぎたようです。現実の悪夢を理想の幻想で乗り切るというテーマは「ブラジル」にも通じるはずなのに、なぜ今回はこうして不快な作品になってしまったんだろう。

作品の取り柄としては、主人公のジョデル・フェルランドの体を張った演技は見事。ジェフ・ブリッジスは大統領も演じられるような役者だけど、やはり「ザ・デュード」のようなボンクラを演じてる方がいいっすね。死体になってもいい雰囲気を醸し出しております。その他の俳優はキモくて駄目でした。うむ。

この作品アメリカでもかなり酷評されたみたいだから、ギリアムは今後の作品がさらに作りにくくなるだろうなあ。

「NOTHING ナッシング」鑑賞

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ヴィンチェンゾ・ナタリの2003年の映画「NOTHING ナッシング」を観た。まあ可も不可もなし。

同監督の「CUBE」や「カンパニー・マン」とかに比べると拍子抜けするくらいに脳天気な作品ではある。「何もないところ」を舞台にした物語なんだけど、話のネタになるようなものが本当に何もないので、90分の作品なのに冗長的に感じられるかも。コンセプトはむしろ短編アニメーションに向いていると思うんだけど、それを実写の長尺で見せられてもねえ。悪い作品ではないですが。

ちなみに撮影場所はトロント。舞台となる家が建っている場所の比較的近所に俺は住んでいた。

「ATROCITY EXHIBITION」鑑賞

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J.G.バラードの小説「残虐行為展覧会」を映像化した作品「ATROCITY EXHIBITION」を観た。監督はジョナサン・ワイス…って誰だ。音楽はジム・フィータスことJ.G.サールウェルが担当。

俺が原作を読んだのはもう10年以上前だから、内容はまるで覚えていない。そもそもプロットらしきものが存在しない実験小説なんだけどね。映画版でも確固としたストーリーはなくて、失踪した科学者とその上司、およびフェム・ファタール的な女性を軸に、いかにもバラード的な車の衝突、コンクリートの構造物、整形手術の光景、戦争の犠牲者、そして無機質なセックスなどの映像が重ねられていく。もちろんロナルド・レーガンもちょっと顔を出してます。

とにかくこれらの映像の使い方が非常に素晴らしいんですよ。一歩間違えればアート気取りのスノビッシュな作品になりかねなかったはずだが、印象的な風景やストック映像を巧みに混ぜ合わせ、独特な雰囲気をもった音楽をのせることで低予算の映像作品とは思えない出来になっている。観ていてものすごく不穏な気分になるんだけど、それでも目を離すことができない映像美だとでも表現すればいいのかな。あと原作には当然なかった、チャレンジャー号の爆発事故の映像を効果的に使っている点も興味深い。

題名通りグロい映像もあって万人に勧められる作品ではないものの、隠れた傑作であることは間違いない。

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