「THIS IS ENGLAND」鑑賞

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日本じゃ殆ど無名の存在だが、イギリスで注目されている映画監督にシェーン・メドウスという監督がいて、派手なアクションとかCGIとは無縁の、ミッドランズ地方を舞台にした社会派作品をコツコツと作っている職人肌の監督なのであります。第2のケン・ローチになる存在じゃないかな。そんな彼の自伝的映画「THIS IS ENGLAND」がアメリカでも高い評価を受けていたのでさっそく観てみる。

舞台は1983年のイギリス。12歳の少年ショーンは父親をフォークランド紛争で亡くし、学校では友達ができずにいじめられる毎日だった。そんな彼はふとしたことからスキンヘッズの若者たちと友達になり、彼らの一員となって楽しく遊ぶようになる。しかしある日、彼らのリーダーだったコンボという男が刑務所から帰ってきた。刑務所でナショナル・フロント(イギリス国民戦線)の極右思想に感化された彼は、積極的に移民の排斥活動を行おうとしてショーンたちのグループを二分してしまう。コンボの側についたショーンは、自らも人種差別や犯罪活動に手を染めていくことになる…。というのが主なプロット。

俺もちょうどこの頃イギリスに住んでいたけど、あの当時の独特な雰囲気を的確に再現している点が素晴らしい。サッチャー政権のもとで失業者は増加し、フォークランドでは多くの兵士が殺され、冷戦の暗い雲がたちこめるなかナショナル・フロントは力を増していったんだよな。あとコンボとジャマイカ系スキンヘッドの微妙な関係とか(スキンヘッド文化はもともとジャマイカ系移民が始めた)の描写も興味深い。最近はイギリスでもスキンヘッズは減ってきたらしいが、1つのカルチャーをきちんと映像に収めたという意味では「さらば青春の光」に匹敵する傑作かと。

「EASTERN PROMISES」鑑賞

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傑作!「AVクラブ」では「ヒストリー・オブ・バイオレンス」ほどではない、というような評がされていたけど、個人的には原作からあらすじを事前に知っていた「ヒストリー」に対し、こちらのほうが見応えは多分にあったと思う。

第一印象としてはまず作り方が非常に手堅い。良い意味でメインストリーム的というか、無駄な部分をそぎ落とした良質のサスペンスになっている。またクローネンバーグ作品に共通する「肉体の変化」というテーマ(今回は体に経歴書として刻み込まれるイレズミ)に加え、「ヒストリー」で扱われた「生きる術としての暴力」および「アイデンティティの変化」というテーマが非常に巧みに昇華されている。ヴィゴ・モーテンセンが再び主演ということもあって「ヒストリー」の続編的なイメージがある作品だが、あちらで開拓されたアイデアが、さらにこの作品で実を結んだという感じ。そして数々のテーマをすべて担った主人公としてモーテンセンが相変わらず見事な演技を見せてくれる。今回は文字通り身体はってまっせ。ナオミ・ワッツは可も不可もなし。ヴァンサン・カッセル演じるドラ息子はちょっとステロタイプすぎたかな。あとタイトルにも関連している東欧女性の強制売春というサブプロットの、メインの話に対する絡み方がいまいち弱かったような気がする。ラストのナレーションはいらんよな。

クローネンバーグ初の全編海外ロケ(ロンドン)ということもあって、今までの彼の作品ともまた一風違った優れた作品になっている。ちなみにネット上だと「イースタン・プロミス(原題)」という表記が圧倒的に多いんだけど、原題なら「イースタン・プロミシーズ」と表記すべきじゃないか?細かいことですが。

「Battlestar Galactica: Razor」鑑賞

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やっと日本でも放送が決定した「バトルスター・ギャラクティカ」のDVDムービー「RAZOR」を鑑賞。久しぶりに観た「ギャラクティカ」だけど、やはりその出来の良さと面白さは他のテレビ作品を遥かに超えていることを実感できるような作品だった。

ストーリーは最近流行りのプリクエルとなっていて、シーズン2に登場した宇宙空母ペガサスのケイン艦長やその部下の新米士官を中心に、サイロンによる最初の襲撃の光景や、ギャラクティカと出会う前のペガサスでの出来事、リー・アダマ指揮下のペガサスが遭遇した謎のサイロン艦、さらには40年前のサイロン戦争における若きビル・アダマの活躍などが描かれていく。つまり複数の時期の物語がフラッシュバックで次々と紹介されるわけだが、ストーリーテリングが巧みなので観ていて混乱するようなことはない。ビル・アダマの戦闘シーンなどではオリジナル・シリーズ版のサイロン兵士なんかも登場するので、オールド・ファンの人は嬉しいんじゃないでしょうか。

予算が多かったのかSFXも見事で、特にサイロンのバトルスター基地に対する襲撃のシーンは圧倒的。下手なSF映画よりもずっと出来はいいよ。またミシェル・フォーブス演じるケインがペガサスを率いるうちにどんどん独裁的になっていくところや、サイロンの進化の過程が少し明かされる40年前のシーン、指揮官として苦労するリーの描写なども巧い。そしてもちろんシーズン4へつながる手がかりが随所に隠されている。ただし最後のクライマックスは個人的にはイマイチだったかな。次に何が起こるか本当に分からないというのが「ギャラクティカ」の最大の醍醐味なのに、プリクエルという形をとってしまったため、決死のミッションに行った兵士たちの誰が死んで誰が生還するのかが大方予想がついてしまうんだよな。シーズン3に登場した人が、それより前の時点で死んでしまうわけないじゃん。「スター・ウォーズ」もそうだったけど、ここらへんがやはりプリクエルの最大の欠点だよな。

とにかく「ギャラクティカ」のファンなら絶対観て損はしない作品。ちなみにシーズン4っていつ始まるんすかね。聞いた話では脚本家のストライキにより製作がストップしたそうで、そうなると最終回は2009年どころか2010年放送とかになったりして。

「Futurama: Bender’s Big Score」鑑賞

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来た!観た!「フューチャラマ」の復活DVDムービー第1弾。ここに辿り着くまでは長い年月だったなあ。トレーラーがショボかったのと、冒頭で下ネタとグロがちょっと多かったことからあまり期待してなかったんだけど、なんのなんの見事に期待以上の出来を誇る作品になっていた。

話の舞台となるのはTVシリーズが終わってから2年後の3007年。プラネット・エクスプレスの面々はヌーディスト・ビーチで出会ったエイリアンたちによってオンライン詐欺にあい、事務所の資産をすべて奪われたほか、ベンダーはエイリアンの作ったウィルスをダウンロードしたことで彼らの言いなりになってしまう。さらにエイリアンたちはフライの尻になぜかあったイレズミに、時間旅行を可能にするコードが隠されていることをつきとめ、このコードを使ってベンダーを過去に送り、歴史上の財宝をごっそり奪い取らせてくるのだった。すべての財宝(エディ・ヴァン・ヘイレンのギターとかもある)を奪ったエイリアンは、もう誰も過去に戻れないようにフライを抹殺しようとするが、間一髪のところでフライはコードを使って2000年に逃亡する。そこでエイリアンたちはベンダーを過去に送り、彼にフライを殺させようとするのだった…。というのが主なプロット。タイム・トラベルが関係しているだけに、後のほうになると何人ものフライやベンダーが登場してきて話の時間線がかなり複雑になってくるが、「フューチャラマ」ならではのドタバタのおかげでそんなに気にはならない。

とにかく復活を待ちわびたファンたちへのサービスが満載の中身になっていて、プラネット・エキスプレスの面々はもちろん、ロボット・サンタやハーレム・グローブトロッターズ、そしてもちろんヒプノトード様といったマイナーなキャラたちも総出演。アル・ゴアも本人役で出てきて、とんでもないネタをやらかしてくれる。ウサギのビンキーもちょっと出てるでよ。ジョークもキツいのから他愛ないのまでがテンポよく出てきて観る人を飽きさせない。

そしてこのシリーズの強みの1つであり、「シンプソンズ」では決してきちんと表現できなかった「若者の恋物語」が今回もきちんと押さえられているのが素晴らしい。従来のフライとリーラの関係に加えて、今回はラーズという男が出てきてリーラと恋仲になってしまうのが重要なサブプロットになっている。いちおう俺と同年生まれという設定のフライが、いつまでたっても女に恵まれずダメ男のままでいるのを観るとものすごく共感してしまうのです。「シンプソンズ」の劇場版はまだ観てないけど、あっちよりも優れた作品なんじゃないのかな。

技術的な面ではシリーズ初となるHDの映像が奇麗でいい感じ。DVDの特典にはコメンタリーのほか「EVERYBODY LOVES HYPNOTOAD」のフルエピソード(30分ヒプノトードが映ってるだけ)なんてのもあってなかなか楽しい。「フューチャラマに関する数学教室」なんて映像もあるんだが、あれを観るとデビッド・コーエンをはじめとするスタッフが筋金入りのギークだってのがよく分かるぞ。

とまあ、DVD第1弾はそれなりの傑作だったと思う。あと3つDVDムービーが作られる予定なので、今後の期待はいやがうえにも高まるなあ。これらが売れてついにはTVシリーズの復活につながると最高なんだけどね。

「Gayniggers from Outer Space」鑑賞

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そのあまりにもな題名からカルト人気を博しているデンマークの短編映画「Gayniggers from Outer Space」をYouTubeでチマチマと観る。

内容はタイトルそのまんま。男だけが住むアヌス星からやってきたゲイの黒人の宇宙人たちが、宇宙を旅行中に地球を発見。そこの女性の存在に驚愕した彼らは、地上に降り立って光線銃で女性たちを抹殺していき、地球の男性たちを解放するのだった…。というだけの話。一見ブラクスプロイテーション的な内容ながら、ロシアや中国、ドイツなんかも一緒にコケにしていたりする。チープながら味のある特殊効果や、内容はバカみたいなのに変にダウナー系の音楽が鳴り響いていてまったりしてるところなんかは、ジョン・カーペンターの「ダーク・スター」を彷彿させる。

何の意図を持って作ったのかがまるで分からないけど、それなりに良く出来た作品。デンマーク映画侮りがたし。