「CAPONE」鑑賞

ジョシュ・トランクの久々の新作。トランクといえばファウンド・フッテージ超能力SF「クロニクル」で華々しくデビューし、スーパーヒーロー映画「ファンタスティック・フォー」の監督に抜擢され、さらには「スター・ウォーズ」のスピンオフ映画も監督することが内定していた人。しかし「ファンタスティック」の興行的および批評的な大失敗、さらに現場での振る舞いが問題視されてその評判は失墜したわけで、もう映画を撮ることは難しいんじゃないかとも思われてたが、しっかり復活したわけです。しかも内容は今までと違って、晩年のアル・カポネを主人公にしたもの。

アルカトラズ刑務所などに長年服役したカポネは40代の若さながら梅毒によって精神をやられており、彼を脅威と見なさなくなった政府によって釈放され、妻のメイたちと暮らすようになる。しかし彼の症状は日を追うごとに悪化していき、現実と妄想の区別がつかなくなっていた…というあらすじ。

内容はほんとこれだけ。痴呆老人と化したカポネが、妄想の世界にとらわれながら失禁したり脱糞したりして周囲に迷惑かけるだけの光景が、2時間弱のあいだにずっと続けられるだけなの。いちおうカポネが大金を隠してるんじゃないかとか、彼の釈放後もFBIが彼をずっと監視しているという設定もあるのだが、まっとうな伏線にもなっていない。

カポネが凶行に走る→妄想でした。また凶行に走る→また妄想でした、という展開の繰り返しなので、どんなに過激な展開があっても、また夢オチじゃね?と思ってしまうのでスリルもサスペンスもなし。カポネはもはやまっとうな発言をすることも出来ず、片言の英語とイタリア語を呟きながらウロウロしているだけ。

これが彼の過去のマフィアとしての行いに結びついているという説明があるとか、妄想がすごく美しく撮られているといった取り柄があれば前衛アート映画っぽく見ることもできただろうが、そういうのも全くなし。監督は何をやりたかったんだろう?という疑問だけが残る、なかなかしんどい作品だった。

カポネを演じるのはトム・ハーディだが、タワゴトを呟いてウロウロするだけの役なのですごく彼を無駄遣いしているような。彼の薄幸な奥さん役に、最近は薄幸な女性の役が多い気がするリンダ・カーデリーニ。あとはマット・ディロンとかカイル・マクラクランといった渋い役者が共演してます。俺の好きなコメディアンのニール・ブレナンも真面目な役でちょっと出てたな。

おれ「クロニクル」は傑作だと思ってるし、ジョシュ・トランクは応援したいと考えてるのですが、この作品はキツかった…。これから彼はどうするんですかね?せめて伝記映画ではなくSFに戻ってきて欲しいと思うのだが…。

「ARKANSAS」鑑賞

クラーク・デュークの初監督作。クラーク・デュークってあまり日本では知られてない役者で、代表作は「キック・アス」とか「HOT TUB TIME MACHINE」あたりか?小太りの童顔なので「未熟なオタク」役を演じてる印象があるけどもう30代半ばだし、子役出身なのでキャリアはすごく長いベテランなんだよな。そんな彼がジョン・ブランドンという作家の小説を映画化したもの。

麻薬の売人をやっているカイルは組織のボスである、フロッグという名の謎の人物の命令を受け、同じ組織のスインという男と合流して麻薬を南部へ運ぶことになる。途中で彼らは森林公園のレンジャーに尋問されてパニックに陥るが、そのレンジャーもまた組織の一員だった。そしてカイルとスインはレンジャーの部下として公園に住みつつ、各地に麻薬を運ぶ仕事をするのだが…というあらすじ。

まあ例によって仕事の途中にトラブルが起きて、それがさらなる問題を巻き起こしていくという展開。5章に分かれた形式をとっているのだが、2章と4章はフロッグの過去が描かれ、彼がいかに麻薬王へとのし上がっていったかが説明される。

全体的にフィルム・ノワールというかサザン・ゴシックの形式をとってるのだが、それにしてはエゲつない暴力描写はあまりなくて、比較的おとなしい内容になっているという印象。画面が妙に暗かったようなのは気のせいか?せっかく現在のカイルと過去のフロッグの姿を念入りに描いてるのに、二人が出会うクライマックスがあまり盛り上がってないのが残念。

こないだの「THE JESUS ROLLS」同様、役者が監督やった際のコネか出演者はやけに豪華で、リーアム・ヘムズワース、ジョン・マルコビッチ、ヴィンス・ヴォーン、マイケル・K・ウィリアムズ、ヴィヴィカ・A・フォックスなどなど。クラーク・デューク本人も弟と出ているほか、なぜかフレーミング・リップスのウェイン・コインなども出ていました。

これだけいい役者が揃ってるのに、どうも無難な話にしてしまったのが勿体ないな。説明的なセリフが多いのも、いかにも初心者監督だな、という感じはあるものの、全体的には悪くない線を行っていると思うので、今後のさらない監督業に期待しましょう。

「VIVARIUM」鑑賞

昨年の個人的ベスト映画の1つである「THE ART OF SELF-DEFENSE」のイモージェン・プーツとジェシー・アイゼンバーグという黄金コンビ(?)の新作。冒頭から出資会社のロゴが10社くらい続けて流れるのに驚くが、ヨーロッパのいろんな会社が関わってるみたい。以下はかなりネタバレしてるので注意。

ジェマとトムの若き夫妻は住む家を探しており、マーティンという奇妙な不動産業者に連れられてヨンダーという住宅地へと足を運ぶ。そこは同じ家が立ち並ぶ人気のない郊外で、そのうちの家の1つの案内を受けた二人は、マーティンに置いてけぼりにされたことに気付く。そして自分たちでヨンダーを出ようとした二人だが、どこに行ってもヨンダーを抜け出すことはできず、同じ家の前に戻ってきてしまう。こうして住宅街に囚われてしまった二人だが、食糧や日常品が入った謎の箱がどこからか送られてくるため、最低限の生活を送ることができた。そしてさらには赤ん坊の入った箱が送られてきて…というあらすじ。

脱出ものというよりも不条理SFホラーという出来になっていて、ジェマ達が具体的に何日間(何年間)ヨンダーで暮らしているのか、といった描写はほとんどなし。二人が脱出を諦めるなか、箱で届けられた赤ん坊は不気味な少年に成長していく。作品の冒頭にカッコウの托卵の光景が映されるのだが、まあわかりやすいメタファーですね。

これ内容はJG・バラードの小説あたりにかなり影響を受けてそうな気がするのだが、実際どうなんだろう?ヨンダーにはジェマ達しか暮らしていないので、テクノロジー三部作とか「殺す」みたいな郊外文化の風刺にはなっていないけど、バラードの初期のSF短編っぽい雰囲気を感じました。

1つのネタで勝負している作品なので、「トワイライト・ゾーン」のエピソードを長くしたというか、99分という尺ながら少し中弛みしている感もあるし、演出がもっと優れていれば(監督のローカン・フィネガンはこれが2作目)、より面白くなっただろうシーンもあるのだが、個人的にはかなりツボにはまった良作だった。エンドクレジットでXTCが流れる映画なんて、人生でそんなに出会えるものじゃないですぜ。「THE ART OF SELF-DEFENSE」とともに早く日本でも公開すればいいのに。

「THE JESUS ROLLS」鑑賞

カルト人気を誇るコーエン兄弟の「ビッグ・リボウスキ」の(非)公式スピンオフ…って何を言ってるか分からないかも知れないが、要するにあの映画でジョン・タトゥーロが演じた変態ボウリング師ジーザス・クインタナを主人公にした映画をタトゥーロが監督したもの。コーエン兄弟はキャラクターの使用を認めた以外は一切製作に関わってないらしい。

「リボウスキ」でのジーザスは子供に露出行為を働いて逮捕された変態として紹介されてたが、さすがにそれだと主人公として扱えないと判断されたのか、あの事件はあくまでも誤解だったということが冒頭で説明される。それでもジーザス自体が犯罪を繰り返してる変態であることは変わりなくて、刑務所でのお務めからショバに出てきたジーザスが、弟分のピーティーに迎えられ、早速また車を盗んだりして放蕩な旅に出る…というあらすじ。

というかこれ、フランス映画の「バルスーズ」のリメークなのですよね。男ふたりが田舎をぶらついて女性とかたっぱしから寝ていくというやつ。俺あれなぜか「さらば青春の光」と併映で早稲田松竹で観ましたが、女性器に銃を突っ込んで自殺する女性のシーン以外は殆ど記憶に残ってないような。

なんで「ビッグ・リボウスキ」のキャラクターを主人公に「バルスーズ」のリメークをやるのか?という大きな疑問は最後まで解消されないわけだが、原作通りに男ふたり女性ひとりが、組んず解れつするロードムービーが繰り広げられます。ジーザスってもとの映画での登場シーンが一瞬だったから強烈な印象を残したわけで、彼を主人公にした映画を作ったら逆に彼の魅力が薄れるような気がするんだけどね。どうなんだろうね。

ジーザスの相棒ピーティーを演じるのがボビー・カナヴェイルで、彼らを行動を共にする女性マリー役にオドレイ・トトゥ。みんなムダ脱ぎしてます。あとは俳優が監督をやった作品にありがちな、友達のよしみで有名俳優が大量にチョイ役で出演していて、コーエン兄弟組ではティム・ブレイク・ネルソンやマイケル・バダルッコ、あとはジョン・ハムにスーザン・サランドンにクリストファー・ウォーケン、ピート・デビッドソン、グロリア・ルーベン、さらにはジプシー・キングスとかが3分くらい出演して消えていってます。

アメリカでは散々な評判を受けた作品だが、有名俳優が次から次へと出てくる気ままなロードムービーといった感じで、個人的には思ったよりかは悪くなかった。作る必要があったのか?と聞かれると考え込んでしまう映画ではありますが。

https://www.youtube.com/watch?v=btp_Yd-MRoI

「PALM SPRINGS」鑑賞

サンダンス映画祭において史上最高の額で購入された作品…なのだが米HULUへの配信ストレートだったりする。これ内容は何も知らないほうが楽しめると思うので、以降はネタバレ注意な。

舞台は当然カリフォルニアのパーム・スプリングス。妹の結婚式のためにそこを訪れていたサラは、ナイルズという奇妙な男性と出会う。式場を抜け出したふたりはねんごろな仲になるが、突然何者かにナイルズが弓で射たれてしまう。負傷したナイルズは近くの洞窟の中に入り、サラにはついて来るなというものの、サラもその洞窟に入ってしまう。そして次の朝に目を覚ましたサラが見たものは、妹の結婚式の準備をするスタッフたちだった。つまりサラは同じ日を何度も繰り返すタイムループのなかに入り込んでしまっており、アンディは彼女よりも前に同じループのなかに入っていたのだ。こうして同じ日を何度も繰り返して経験することになったふたりは、あり余った時間をどうやって使うか考えるのだった…というあらすじ。

つまりアメリカでは映画ジャンルとして確立された感のある「恋はデジャ・ブ」ものの最新版ですかね。今作のポイントは同じ日を繰り返すループに入ってるのが2人いるというところか。別に洞窟に入らなくても眠ったり死んだりすれば1日がリセットされるために、ループから抜け出すのを諦めたふたりはずっとビール飲んだりバカ騒ぎをしたり。

ナイルズはサラよりも長くループに入っていたためにより多くの体験をしており、その一方でサラには明かせない秘密を抱えているし、サラもまたナイルズに言えないことがあったりする。永遠に同じ1日を過ごすなかでお互いの気持ちをどう整理するかに後半は焦点が当てられており、コメディなんだけれどもロマンスに重きが置かれている内容になってました。

ナイルズを演じるのがアダム・サムバーグで、周囲が彼の言動に慌てふてめくなかで余裕の振る舞いを見せる演技は「ブルックリン・ナイン-ナイン」のジェイクそのまんま。例によって彼の属するザ・ロンリー・アイランドの人たちもプロデューサーに名を連ねてます。サラ役を演じるクリスティン・ミリオティは「ウルフ・オブ・ウォールストリート」とかに出てたらしいけど記憶になく…でも自分に自身の持てない女性を好演してました。サラの妹と結婚する新郎役がタイラー・ホーチンで、あとは詳しく書かないけど重要な役でJK・シモンズが出演してます。

ストーリーは最終的にはある方法で決着がつくのだけど、そこに至るまでの流れが男女の違いをうまく表していて、あーなるほどねーと妙に納得してしまった。アメリカでは批評家や視聴者に絶賛されてるようで、この楽しめる内容が皆に受け入れられたんだろうな。日本での公開・配信はどうなるんですかね?