「Z for Zachariah」鑑賞

Z for Zachariah
「Z」のついた題名から、またゾンビ物かよと思って観たら全然違った。1974年に出た同名のジュブナイルSF(邦題「死の影の谷間」)を映像化したもの。

舞台となるのは、放射能によって殆どの人類が死滅した地球(核戦争によるものだろうが、明言はされていない)。気候や周囲の山によって放射能から守られた谷間に一人で暮らすアンは、ある日防護服をまとった謎の男ジョンに遭遇する。当初は彼を警戒していたアンだがジョンが誤って被曝したことから彼を介抱し、やがて彼らは一緒に生活するようになる。科学者であるジョンはサバイバルについての知識をアンに与え、やがて二人はねんごろな仲になるのだが、そこに新たな放浪者としてケイレブという男性が現れる。情緒が不安定なジョンに対して心優しいケイレブにもアンは惹かれ、やがて3人の関係は微妙なものになっていく…というあらすじ。

原作にケイレブは登場せず、アンとジョンの出会いと対立を描いているのだとか?SFっぽい展開は殆どなくて、世界に残された3人の男女の心理劇のような内容になっている。舞台はアメリカだが撮影はニュージーランドで行われたらしくて、山の谷間の雲海の映像とかやはり綺麗だなあと。

アンは信心深い農家の娘で、神よりも科学を信じるジョンとのあいだにわだかまりがあるのだが、そこはあまり深くは掘り下げられず。また白人ふたりに対する黒人という立場についてジョンが言及するところがあるものの、そこも深くは語られず。いろいろ面白そうなテーマは出てくるものの、どうも全体的に詰めが甘いんだよな。終わり方についても、もっと余韻を持たせることができたであろうに。あと終盤で突然タルコフスキーの「ストーカー」のオマージュが出てきたのは何だったのか。

監督は「コンプライアンス 服従の心理」のクレイグ・ゾベルで、プロデューサーにトビー・マグワイアが名を連ねてるが、なんか彼って最近は微妙な作品のプロデュースばかりやっているような。出演はキウェテル・イジョフォーとマーゴット・ロビーにクリス・パインと意外と豪華。まあこの3人しかキャストはいないわけですが。マーゴット・ロビーがすっぴんメイク(だよね?)で頑張ってます。なお題名にあるザッカリアというのはアダムのAに対する最後の人間Zという意味で、劇中にザッカリアという人が出てくるわけではありません。

極限の状態における男女の確執と受容の話にすればよかったのに、谷間の気候はおだやかだし、食物もやけに豊富だし、全体的に間延びした雰囲気になっているのが残念。もっと優れたものになる可能性はあるのだがなあ。

「マネー・ショート 華麗なる大逆転」鑑賞

BigShort_Full
実話に基づいた映画だが、以下はネタバレ注意。これ出来事について触れないと何も書けんので。

・内容は金融関係の用語が飛び交って、かなり難しかった!確かに難しそうな金融の仕組みになると、マーゴット・ロビーやアンソニー・ボーデインやセレーナ・ゴメスが直接観客に語りかける形で丁寧に説明してくれるのだけど、あくまでもアメリカの観客を相手にした説明をしてるわけですね。日本だと全く馴染みのない金融商品もあるし、翻訳のところで何割かの情報がどうしても失われてしまうから、字幕になるのは複雑な略称の羅列になってしまうわけで。話の展開自体はさほど複雑ではないものの、何でそこで支払いが必要になるのかとか、どこでどうしたら利益が出るのかとか頭のなかで整理するのが大変だったぞ。

・監督がコメディ出身のせいか編集のカッティングがこまめで速く、セリフの量も多いので字幕が追いついていない部分もあったような。気の利いたセリフも訳しきれてないのがもったいない。あと当時のテレビ番組などがいろいろ挿入されているわけで、アメリカのカルチャーについてある程度の知識がもとめられるかも。とにかく画面上の情報量が多いため、気楽に鑑賞できるような作品ではなかった。

・キャストは比較的豪華で、アスペルガー気味の非常識な金融マンを演じたクリスチャン・ベールの演技がさすがに巧いのですが、やはり怒れる常識人を演じたスティーブ・カレルのほうに観る側は感情移入できるかな。ライアン・ゴズリングはまあ普通、ブラッド・ピットはプロデューサーとして相変わらずオイシイ役を演じてんなあと。あとレイフ・スポールはそろそろまた体重に気をつけたほうが良いかと。実話がそうだったために仕方ないのですが、これだけのキャストいながらも出会って共演するシーンが少ないのが残念。

・冒頭でベールのキャラクターが不動産の暴落を見抜いて、実際に暴落が起きるから主人公たちがガッポリ設ける…という単純な話ではなく、本来なら儲かるはずが金融システム全体が大きなイカサマのうえに成り立っているために逆に窮地に立たされるという展開が面白かったな。でも邦題にあるような「華麗なる大逆転」を期待してはいけないよ。

・万人向けの映画ではないものの、金融のノンフィクション、および監督の金融業界への怒りをここまでエンタメに昇華できたのは立派ですな。ここで描かれた諸々のことが決して解決されたわけではなく、またいつか起きるかも知れないというのが怖いところですが。

「スポットライト 世紀のスクープ」鑑賞

Spotlight
「世紀のスクープ」なんて邦題をつけられると、そうか?と思ってしまうのだが、まあいいや。

ボストン(およびアメリカ全土、さらに世界全体)におけるカソリックの僧侶たちによる未成年者への性的虐待と、バチカンを含めた教会組織によるその隠蔽を暴き、ピューリッツァー賞に輝いたボストン・グローブ紙のコラム「スポットライト」のチームの奮闘を描いた内容な。

特に内紛などもなく、編集長から記者までがプロとして地道に調査をしてコツコツと仕事を行っていくさまは、現在ヒット中の「オデッセイ」に通じるものがあるかと。強調されているのはボストンの閉鎖性で、アイルランド系が多くカソリックの住民が多いこの街では教会が大きな権力を持ち、「スポットライト」の記者たちもカソリック学校出身者が多いため、教会が悪いことを行っているという考えが当初はなかったのだ。ボストンの外からやってきたユダヤ系の新編集長が「この疑惑を追ってみたらどうだ」と示唆するまで物事は動かなかったのだが、それでもカソリック系の読者を失うのではないかと危惧しながら記者たちは行動するのである。

この教会の権威とかスキャンダルって日本人にはどうも馴染みがないものだけど、天皇制とか同和問題とかに近いものなんですかね。あとアメリカの法律に関する専門用語(何をどうすれば文章が公開されるとか、どうすればそれが阻止されるのかとか)が多用されるので、そこも日本人にはとっつきにくいかもしれない。

監督のトム・マッカーシーって役者として「ザ・ワイヤー」のシーズン5ですごく嫌な新聞記者(捏造記事を書いて、バレないまま賞を獲ったりする)を演じてた人ですが、今回は監督として巨悪に立ち向かう新聞記者たちを描いている。自分たちの調査が教会や他紙に知られてしまうのではないかという不安を抱えながら、可能な限り深いところまで調査を行おうとする記者たちの姿はカッコいいものの、いかんせんコツコツとした調査が行われていくので話のメリハリはないかな。ハワード・ショアの音楽が単調なのもいただけない。またチームのなかでいちばん激昂しやすい記者を演じるマーク・ラファロはいいとして、レイチェル・マクアダムスの演技は地味すぎてアカデミー賞にノミネートされるほどのものではなかったような。

日本でヒットするにはいかんせん題材がマイナーなような気がするが、あとはアカデミー賞をどれだけ獲得できるかですかね。

XTCって「ディア・ゴッド」なんかよりも良い曲がたくさんあるんだけどね。なんであの曲だけアメリカでは有名なのか。

「ヘイトフル・エイト」鑑賞

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長かった…。70ミリの「ロードショー」版はもっと長いんだっけ?感想をざっと。少しネタバレあり。

・70ミリパナビジョンで撮影したのが売りではあるものの、壮大な自然の映像はほとんど無くて、雪山の密室ばかりが映し出されるという。種田陽平のセットは凝っていて見ごたえあったけどね。

・そしてウエスタンというよりも「レザボア・ドッグス」的な密室劇になっているわけだが、エクスマキナ的な存在がいるので手堅いフーダニットを期待してると少し肩透かしをくらうかもしれない。

・これよく知られているように役者の誰かが脚本を事前に流出させたことで製作がいったん頓挫した経歴があるので、タランティーノ本人が役者たちを並べて「ホンを流出させたのはどいつじゃあぁ!」と尋問するフーダニットも観たいのですが、まあ無理か。

・役者はビッチ役がよく似合うジェニファー・ジェイソン・リーが久々にビッチ役全開で大変素晴らしい。アカデミー賞にノミネートされたのも頷けるが、そういう意味ではサミュエル・ジャクソン爺も迫力ある演技をしているわけで、そこらへんやはりアカデミーは不公平だなと。

・アカデミー賞ではエンニオ・モリコーネの音楽が有力視されてますが、いかんせん曲が少なかったような?個人的には「ボーダーライン」のほうが音楽が効果的に使われてて良かったと思う。

・役者が少なくてCGも使ってないということで、エンドクレジットの短さが印象的であった。「cat trainer」ってクレジットがあったたけどネコいたっけ?

・あのギターは骨董品だそうです

毎度ながらタランティーノ作品に感じる「悪くはないんだけど、あのノリにはどうも同調できない」という感触を払拭するものではなかったですが、クリストファー・ノーランとはまた違ったところでフィルムの伝統を守っている人でもあり、シネフィルなら見て損はない作品かと。

「サウスポー」鑑賞

Southpaw
アントン・フークア監督のボクシング映画。日本では8月公開かな?

ビリー・ホープはライトヘビー級の無敗のチャンピオンで美しい妻と娘にも恵まれていたが、彼との対戦を求める選手とのいざこざにおいて、妻が流れ弾を受けて死んでしまう。これのショックで自暴自棄になったビリーは飲酒運転などで事故を起こし、ボクシングのライセンスばかりか娘の養育権まで剥奪されてしまう。すべてを失ってどん底に落ちた彼は、町の小さなボクシングジムのトレーナーと出会い、再起をかけてまたボクシングを始めるのだが…というようなあらすじ。

予告編でバラされている内容が1時間半くらいかけて展開していく時点でもう減点対象なのだが、なんか3流漫画誌にありそうな非常にベタなストーリーの作品。すべてを失った男が、娘のために再起を誓う…って話は今までどれだけ目にしてきたことか。主人公と妻が孤児院の出身だとか、家庭内暴力に悩む少年がジムに通っているとか、コテコテな設定が中途半端に投げ込まれています。脚本は「サンズ・オブ・アナーキー」とかやはり短命に終わった「THE BASTARD EXECUTIONER」のカート・サッターだが、彼の脚本って肩に力が入りすぎていて話の流れに緩急が無いのでは。

これもともとはエミネム(左利き)が主演する予定だったのが、音楽活動に専念したいということで主役がジェイク・ギレンホールに交代したらしい。しかしギレンホールは右利きだ!「サウスポー」という題名を残す必要はあったのか?とはいえその前は「ナイトクローラー」でガリガリに痩せていたギレンホールが、短期間で筋肉モリモリの役作りをしたのは凄いけどね。主人公のサイコっぽい戦い方は「ナイトクローラー」に通じるものがあって、激昂して鏡をブチ壊すシーンもまたやってます。

ただ主人公が「殴られれば殴られるほど強くなる」というこれまたベタな設定なため、試合中は喋ってばかりでろくにガードをせずにボコボコに殴られてるのだが、実際にそんな試合やったら負けてますから!ガードができないチャンピオンって何なんだよ。良い子はマネしちゃだめだよ。

脇役にはレイチェル・マクアダムスとかフォレスト・ウィテカーとか揃えてるのにろくに活用してなくて勿体無い、一方でカーティス・ジョンソン(50セント)は演技がヘタなので起用しないほうがいいいと思うぞ。アントン・フークアって微妙な内容の娯楽映画ばかり作ってる印象があるのだけど、これもそんな作品であった。最近のボクシング映画ならこれじゃなくて「クリード」観ましょう。