「COP CAR」鑑賞

Cop Car
ケビン・ベーコン主演のサスペンス。

舞台となるのはアメリカのど田舎で、家を離れて草原を歩いていたトラビスとハリソンの少年ふたりは、誰も乗っていない警察車両を発見する。その中に入って遊んでいた二人は車のキーを発見し、エンジンをかけてドライブに繰り出すことに。しかしその車両は汚職警官のクレッツアー(ベーコン)のものであり、車に入った「ブツ」を取り返したいクレッツアーによって少年二人は恐ろしい目に遭うのであった…というあらすじ。

尺は90分もないし、あらすじも上記のようにいたってシンプル。予告編を観れば話の8割が分かってしまうので、車で遊ぶ少年たちとか、彼らを追いかけるために別の車を奪うベーコンのシーンが余計に長く感じられるのよな。決して間延びしているわけではないのだけど、サスペンスの盛り上げ方が物足りないというか。こういう話って無邪気に楽しんでいた少年たちの気持ちががだんだん恐怖にとって代わられる描写がキモになるべきなのだが、少年たちの怖がり方が中途半端だったな。ここらへん芥川龍之介の「トロッコ」とか読んで勉強すべし。

あらゆる手を用いて盗まれた車の場所を探し出す悪徳警官(保安官か)のケビン・ベーコンの演技が最大の取り柄ではあるものの、ベーコンっていままでいろんな悪役を演じてきたので、意外性が無いといえば無いかもしれない。あとは俺の好きなカムリン・マンハイムが出ています。

まあ悪くはない低予算映画と言ってしまえばそれだけなのだが、この監督のジョン・ワッツって次は「スパイダーマン」の新作を撮ることが決まっているわけで、この作品を観る限りではちょっと大丈夫かな…?と思ってしまったよ。次のピーター・パーカーはさらに若くなる設定だが、特に少年の描写が上手いとも思えなかったし。例えば「アメイジング・スパイダーマン」を撮ったマーク・ウェブは男女の恋愛描写は非常に上手かったし、低予算映画「彼女はパートタイムトラベラー」のあとにいきなり「ジュラシック・ワールド」撮ったコリン・トレボロウも「トラベラー」は結構面白かったわけですが、この監督からはあまり光るものを感じないのよな。この不安が杞憂に終わると良いのですが…。

「ブリッジ・オブ・スパイ」鑑賞

Bridge_Of_Spies_2015
ううむ、地味な題材とパッとしない予告編のおかげであまり期待せずに観たのだが、かなり面白かった。

伝記映画の常として脚色がいろいろ入っていて、例えば主人公のジェームズ・ドノヴァンはごく普通の保険弁護士というよりも実はOSS出身で諜報活動には詳しかったらしいが、そういうことを差し引いても、国のまっとうなサポートを受けられないまま外国で孤軍奮闘する彼の描写が見事であったよ。

前半は法廷でのシーンが多いので「リンカーン」や「アミスタッド」を彷彿とさせて、それはそれで悪くはないものの、やはり後半になって主人公がベルリンに乗り込み、CIAの忠告もあまり聞かず、数に劣る人質交渉をやりくりするさまが面白かったよ。ここらへんはコーエン兄弟の脚本の手直しによるものなのかな。

キャストはトム・ハンクスが相変わらず「良い人」っぷりを発揮して好演。ソ連のスパイを演じたマーク・ライランスという役者のことは知らなかったけど、抑え気味の演技が見事。ただし今回の役はメークの関係か「老けたダニー・ボイル」にしか見えなかったのは俺だけ?あとはアラン・アルダやジェシー・プレモンズ、ドメニック・ロンバードッジなども出てます。エイミー・ライアンはクレジット見るまで彼女だとは気づかなかったぞ。

音楽も今回はじめてスピルバーグと組んだトーマス・ニューマンのものが抑えつつも効果的に使われていて素晴らしい。一方ではヤヌス・カミンスキーの色あせた撮影スタイルが個人的にはどうも好きになれんのよな…スピルバーグはそろそろ他の撮影監督を使ってもいいだろうに。

政治的な内容を扱っているだけに、説教的というかプロパガンダ的な要素がそれなりに含まれているのだけど、アメリカの寛容さを見せつけるためにソ連のスパイにもちゃんと法廷の裁きを与える、という大義がだんだんと薄れていき、それと反比例して主人公がどんどん奮闘していくさまも良かったな。ここらへんは現代社会においてもいろいろ学ぶことがあるんじゃないかと。

「ボーダーライン」鑑賞

Sicario
原題はメキシコで暗殺者を意味する「Sicario」。4月に日本公開ということで感想を簡潔に:

・FBIの女性エージェントがメキシコ国境を舞台にした麻薬戦争の対処に志願するが、その闇に巻き込まれていくというあらすじ。

・エミリー・ブラント演じるエージェントは当初こそ敏腕であることが強調されるものの、国防省のエージェントからはろくな情報を与えられず、法律的にグレー(というかブラック)な範囲で行われる活動を目の当たりにして、肉体的にも精神的にも追い詰められていく。

・これって女性(および彼女の相棒の黒人)は無能だよ、と言っているわけでは当然なく、要するに麻薬戦争の複雑さを強調するための役回りになっているわけだが、まあ少しモヤモヤとした気分が残ることは否めない。特に国防省のスタッフ(ジョッシュ・ブローリン)とそのエージェント(ベネチオ・デル・トロ)がすべてを把握している立場なので主人公の弱さが目立ってしまうんだよな。ここらへんの女性の扱いは「マッド・マックス」と対比すると面白いかもしれない。

・つうかデル・トロのキャラクターが強すぎて、彼が実質的な主人公になっているような。彼を主役にした続編の話があがってるんだって?

・前半に出てくるジェフリー・ドノヴァン演じるエージェントも飄々としてるようでいざというときには活躍し、いい感じ。ただヒゲを生やしてるし顔があまり出てこないのでドノヴァンだとは最初気づかなかったよ。

・国境をめぐるサスペンスの描写も見事。常にどこかからか狙われている雰囲気があるというか。とはいえアメリカ側が装備などで圧倒的に勝っているため、緊張感が少し薄れているんだけどね。「ブレイキング・バッド」みたいな、圧倒的な弱者からの視点はなし。

・ロジャー・ディーキンスによる撮影は、相変わらず夕暮れと夜の光景が大変素晴らしい。空に浮かぶ雲の形さえも味方につけてしまっているような。今回は赤外線スコープヨハン・ヨハンソンによる音楽も効果的。

・しかし劇中のメキシカンは復讐の理由や脅しの文句がみんな「おめーは俺の子供を殺した」と「いう事を聞かないとおめーの子供を殺すぞ」なのだが、悪事に手を染めるなら妻子と縁を切っておけよ!

・女性主人公の扱いにはちょっと引っかかるものがあったものの、非常に緊迫したサスペンスであった。ドゥニ・ヴィルヌーヴはサスペンス映画が巧いことはもはや確立された事実だと思うが、はたして次作のブレードランナー続編で、どのようなSF映画を見せてくれるのか…?

「ストレイト・アウタ・コンプトン」鑑賞

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個人的にはラップってあまり詳しくないのだけど、ギャングスタ・ラップは大嫌いでして、シカゴや東海岸ではサンプリングやビーツやライムなどの実験的で興味深いヒップホップの文化が育まれていってたのに、西海岸の連中がアホまるだしで銃だのプッシーだのドラッグだのと歌ったおかげで、世間にはラップってヘアメタルと同程度の文化だと見なされるようになってしまったというのが俺の持論です(結果的にギャングスタ・ラップの先駆者となったアイス・Tは好きだが)。ストリート育ちとか言ったって、実際にギャング出身のラッパーってそんなに多くないんじゃないの?

これはそんなギャングスタ・ラップで知られるNWAの伝記映画ですが、メンバーのうち大成したアイス・キューブとドクター・ドレーがプロデュースに関わっていることもあり、かなり彼ら(および他界したリーダーのイージー・E)を立てた内容になっていることは否めない。監督はキューブのダチだし、キューブが大学まで進学したことは隠されてるし、メンバーは一人いなかったことにされてるし(アラビアン・プリンスな)、ドレーが女性に暴力を振るった話なども一切出てこない。ロドニー・キング事件に象徴されるLAの人種差別に対抗してグループが音楽活動をやってたかのように描かれてるけど、当時の彼らってもっと頭の悪い事ばかり言ってたんだがなあ。こうしてミュージシャンを立てたとばっちりとしてマネージャーのジェリー・ヘラー(ポール・ジアマッティが好演)が悪役の扱いを受けていて、ヘラー自身はこの映画に対して訴訟を起こしてるんだとか。

まあこのように実際の出来事の描写に偏りがあるとはいえ、グループの立身伝として、成り上がっていくまでの描写に勢いがあることは間違いないし、そこらへんは観ていて意外と面白かった。しかし1時間くらいたったところでグループに内紛が起き、あとは分裂と解散に向かってドロドロとした話が続くわけだが、そこらへんの展開が長いのよ。もう20分くらい短い内容にしても良かったんじゃないのか。

キャスティングに関してはアイス・キューブを本人の息子が演じているのだが気色悪いくらいにソックリで、あれは結構画期的かも。もう父親は無難なコメディ映画に出るようにして、エッジの効いた役は息子に任せればいんじゃないのか。

というわけでNWAの「正しい」物語かというとたぶんそうじゃないだろうと思うのですが、典型的な音楽伝記映画といった感じですかね。ラップ映画ならこれよりも「ハッスル&フロウ」見た方がいいんじゃないですか。

「クリード チャンプを継ぐ男」鑑賞

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ネタバレせずに感想をざっと:

・ベタではあるものの素直に楽しめる作品。おれも「ロッキー」シリーズは1と2くらいしか観ていないクチですが、アポロとロッキーに関する最低限の知識があれば十分じゃないでしょうか。

・主人公が戦いを求める葛藤をもう少し描いても良かっただろうが、話を盛り上げていくさまが巧い。特に音楽がね、あのテーマを断片的にちらつかせながらかけていって、最後のクライマックスでジャーン!とかかかると、そりゃもう感動するがな。

・体を鍛えたマイケル・B・ジョーダンも凄いが、やはりサポート役にまわったシルベスター・スタローンの演技が素晴らしい。彼の演技を上手だと思ったのってこれが初めてじゃないだろうか。アカデミー助演賞にノミネートされるだろうな。

・LAのジムのコーチ役をウッド・ハリスが演じてまして、ジョーダンと「ザ・ワイヤー」以来の共演をしてます。あの番組でジョーダンのキャラクターが早々に亡くなったのはハリス率いるギャングのせいだったわけですが。

・フィラデルフィアってあんなバイクでウィーリーやってる連中がいるの?あのチーズステーキの店はいろんな旅行番組とかでも紹介されてるよね。

・ワンカット長回しで撮影された中盤のファイトシーンは確かに臨場感があって見事だが、もうちょっと引きのショットがあっても良かったかも?ボクサーのPOVショットっぽくなっていたので。

・ラストの試合は意外にもイギリスであったが、最近はイギリスでもボクシングが相当盛り上がっているんだって?チャンピオンは腹のあたりがユルい気がしたが、正真正銘のプロボクサーだったのですね。失礼しました。

・アメリカでも絶賛されていて、早くも続編の話も出てきているようだけど、使えるカードをすべて使ってしまった感もあるので、続編のネタなんてあるのかな?ドラゴの息子と戦うとか、ISISのボクサーと戦うとか、オリジナルが辿った変な道には行かないでほしいところですが…。