「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」鑑賞

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当然ながらネタバレ注意。ディズニーとJJエイブラムスが嫌いで、エピソード1〜3を肯定する者が書いてますのでバイアスかかってます。

あらすじは砂漠の惑星においてしがない日々を送る若者が、ある日秘密の情報を託されたドロイドに出会い、その情報を反乱軍に届けるためミレニアム・ファルコンに乗って宇宙へと飛び立つ。しかしその情報を狙って、マスクをつけた黒づくめの帝国軍司令官(背後には謎の黒幕もいる)が若者のもとへと迫っていた。そして旅のなかで若者はフォースの存在を知り、自分の出生の秘密を学んでいく。そして最後に若者は惑星型巨大兵器を破壊するための戦いに巻き込まれる…というもの。

えーと、これ「エピソード4」のあらすじだよね?違う?もちろん新しいキャラクターとかもたくさん登場するのだけど、このくらい今回の作品は過去のものと内容が似通っているのだ。これは「スター・トレック」もそうだったけど、エイブラムスってオールドファンが喜びそうな要素を研究してチェックシートにまとめて、それを全部満たすような映画作りをしてるように思えるのよね。だからエピソード1〜3に失望してたオールドファンは当然「俺たちのスター・ウォーズが帰ってきた!」と大喜びできるわけだし、それはそれで悪いことではないだろう。そりゃXウィングの対地上戦とか雪のなかのライトセーバー戦とか、ビジュアル的には興奮必至ですがな。でもそれって過去30年のあいだにゲーム業界がすでに映像化してたことなんだよね。

エピソード1〜3はそれなりに新しいことをしようとしつつも(Xウィングもファルコン号も出てこなかったよね?)、プリクエルという最大の制限のために結局は展開が決まった話にならざるを得なかったわけだが、今回は未来の話なのに過去の出来事にものすごく制限を受けてしまっているという感じ。自分の好きな曲のカバー・バージョンを初めて聴いたときのようなもので、全体的には馴染みがあるし、それなりに目新しさもあるのだけど、人生を変えるような新しい発見は与えてくれない、といったところか。個人的にはどうしてもこの「馴染んだ感覚」に同時に居心地の悪さを感じてしまったよ。

というわけでエイブラムスって相変わらず新しい物語が作れないし、登場人物の出会いがみんな偶然ばかり(カークが落ちた惑星にたまたまスポックがいた、とか)だなとは思うものの、とあるキャラクターが去り、このあとは監督も代わるみたいだし、エピソード8以降は未知なる領域へと足を踏み入れていくことに期待しましょう。たとえディズニー帝国が今後何十年にもわたってスター・ウォーズの世界からカネを搾り取っていくにしても。

雑感:
・カイロ・レンをシリーズ初の「センシティブな悪役」として評価する向きもあるようだけど、なんか優柔不断なコスプレ好きの放蕩息子のようでもあったな。すぐブチ切れて部下にも見放されてたし。というかライトセーバーを初めて握った奴にも対等の戦いを挑まれるって、お前いままでちゃんと訓練してたのかよ!

・新キャラの大半がイギリス英語を話していたような。帝国軍はイギリス帝国の残党か?

・黒人や女性といった、過去の作品ではあまりフィーチャーされなかったマイノリティが主人公扱いされていることは素直に評価したい。一方でキャリー・フィッシャーは減量を強いられたようですが。

・BB-8はどうやって階段を上るの?

「While We’re Young」鑑賞

While We_re Young
ノア・バームバックの新作。主演がベン・スティラーで音楽がジェームズ・マーフィーということで、2つ前の作品「Greenberg」に通じるものがあるかな?

44歳のジョッシュは大成できないドキュメンタリー作家で、難解なドキュメンタリーを何年にも渡って撮影しているものの終わりが見えず、資金も底をつきかけていた。そんなとき講師をしている大学で、授業を公聴していたジェイミーという25歳の若者と知り合う。自分の作品のファンだという彼にジョッシュは好感を抱き、さらにジェイミーとその妻のダービーのクールな生活(イカした服装をまとい、家具や料理を手作りし、広いアパートに住んでLPレコードを何枚も持っている)に憧れたジョッシュは妻のコーネリアを巻き込んで夫婦同士の付き合いを始める。やがてジョッシュはジェイミーが撮影するというドキュメンタリーの手助けもするようになるのだが、自分と違って万事がうまくいっている彼の生活を妬むようになり…というあらすじ。

要するにジェネレーションギャップを題材にしたもので、自分より成功している若者が現れたらどう対応すべきか?というのが大きなテーマであり、冒頭に引用されてるイブセンの言葉がすべてを語っているかな。自分の気力や体力の衰えを感じているジョッシュの若者に対する憧れが話の軸になっているわけだが、一方でコーネリアは流産を経験していて子供が産めない体になっており、同世代のママ友たちのライフスタイルについていけないこととか(やはりそういうものなの?)、著名なドキュメンタリー作家であるコーネリアの父親とジョッシュの不仲という3つの世代(赤ちゃんを入れれば4つか)のギャップを描いていたりもする。後半ではジェイミーたちも実はクセ者であることが判明して、最後は「ドキュメンタリーとは何か?」という映画作家好みのテーマも絡んでくるわけだが、そこはストレートに「成功している若者への対応」に徹したほうが良かっただろう。

ジョッシュを演じるのがベン・スティラーで、劣等感に苛まれる彼を好演している。妻のコーネリアはグレタ・ガーウィグ…ではなくてナオミ・ワッツ。相変わらず薄幸そうな人妻を演じてます。ジェイミーとダービーの夫妻はアダム・ドライバーとアマンダ・セイフレイド。ジョッシュたちの友人をビースティ・ボーイズのアダム・ホロヴィッツが演じていて、とても良い感じ。あとなぜかピーター・ポール&マリーの人も出演してます。

おれ自身は年齢がほぼジョッシュと同じなわけですが、あまり彼の葛藤に共感を覚えることはできなかったかな。これは自分が独身だということよりも、いまの日本で「クールに暮らしてる25歳」というのをまず見かけないからだろう。上の世代の負の遺産に喘いでいるような世代だものねえ。よって有望な若者をたまに見かけると、妬むよりも素直に応援したくなるのだが、それはおれが多くの若者に会ってないだけでしょうか。

まあ共感できるかどうかは別として、バームバックの作品のなかでもかなりとっつきやすいドラメディになっており(興行的にも彼の作品でいちばん成功したらしい)、カジュアルに観て楽しめる良い作品ですよ。

「007 スペクター」鑑賞

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・公開したばかりなので簡単な感想をざっと。でもネタバレ少しあるかも。

・前作でQやマニーペニーなどが復活したことでその兆しはあったが、今回は続いてスペクターやら猫やらマオカラーの悪党などが復活していて、かつて「カジノ・ロワヤル」で縁を切ったはずの過去の設定がいろいろ戻っております。これはミニラを捨てたはずのゴジラシリーズにいつのまにかゴジラジュニアが登場していたのと同様に、フランチャイズムービーの宿命なのだろうか。

・加えて列車の中でのヘンチマンとの格闘とか、過去の作品へのオマージュがいろいろ入ってるし、ダニエル・クレイグの過去3作への言及が多分にされるなど、かなり昔を意識した内容になっている。でもシリーズ第20作ということで過去のネタをいろいろ詰めこみすぎて肥大しまくってた「ダイ・アナザー・デイ」よりかはずっとスマートにオマージュを捧げられているかと。

・でも「慰めの報酬」では「何でも知っててすげーんだぜ!」と吹聴されてた「クォンタム」が、「スペクターの下部組織だよ」と一言で片付けられていたのはガックリきたなあ。あと何で指輪を分析すると組織の関係者がわかるんだ?

・「ボンドの敵はカタワ者」という伝統は守られてましたね。でもクリストフ・ヴァルツは狡猾なタイプであっても凄みのある敵を演じるのは向いてないような。

・「Cが何を意味してるのか分かった」というセリフで四文字言葉を連想したのは俺だけ?

・前作はロジャー・ディーキンスの撮影が見事だったけど、今回のセピア色を多用した色合いはあまり好きではないな。でも群衆のシーンにおいても主要人物の動きが分かる画面の構図などは良かった。あと全体的にピントが合ってない気がしたが、あれは映画館の設定の問題かな?エンドクレジットの文字もぼけてたし。

・サム・スミスの主題歌が味気ないのが残念。ボンド映画の歴代作品のなかでもワースト3くらいに入る歌じゃないだろうか。

・ダニエル・クレイグの続投が微妙な一方で、「James Bond will return」としっかり最後に出ているわけですが、このまま復活したキャラクターたちとの絡みが続いていずれまたマンネリ化するのか、それともどこかでまた過去とは縁を切ってリセットするのか、長年続くシリーズはそこらへんの見極めが渦かしいところです。

「Trainwreck」鑑賞

Trainwreck
日本では知名度ゼロですが、アメリカの女性コメディアンにエイミー・シューマーという人がおりまして、コメディ・セントラルのスケッチ番組「Inside Amy Schumer」がエミー賞やピーボディ賞を受賞するなど、いろいろ高い評価を得ている人なのですよ。そんな彼女が主演した、ジャド・アパトー監督のコメディ映画。脚本はシューマーによるものだが、コメディ映画なのに2時間超えてるあたりはアパトー作品だなあ。

主人公のエイミーは、幼いときに両親が離婚した影響で「一夫一婦主義は成り立たない!」と信じ込んで育ち、妹は結婚したにもかかわらず、自分はカジュアルなボーイフレンドを持ちつつも行きずりの男と気ままに寝る奔放な生活を送っていた。そしてニューヨークの雑誌社に努める彼女は、スポーツ選手の医師について記事を書くように命じられ、バスケ選手を主に扱うアーロンという医師に出会い、やがて二人は恋に落ちるのだが、エイミーは彼と結婚するほどコミットできず…というようなあらすじ。

あまり明確なプロットはなくて、エイミーの父親や妹夫婦との会話などを交えながら、エイミーとアーロンの関係がルーズに描かれていくといった感じ。とはいえ話の始まりと終わりが当然あるわけで、そういう意味では面白い部分だけ切り出してるような彼女のスケッチほどのインパクトはないかな。こないだ彼女の番組でやった「12人の怒れる男」のパロディなんて衝撃的な面白さがあったわけですが、この映画はシングルの女性のライフスタイルを比較的ストレートに描写していた。あとアメリカの時事ネタに絡めたジョークもいくつかあって、それが分からないとあまり楽しめないかも。アーロンがいままで手がけたスポーツ選手の名前を聞いて男友達が感心するなか、アレックス・ロドリゲスだけ罵倒されるというジョークが何か面白かったっす。

エイミー・シューマーは彼女の番組と同じような感じで演技してて、まあ良いんじゃないですか。対してアーロンを演じるビル・ヘイダーはカタブツの医者という役なのでハメを外せずちょっと損してるかな。脇をブリー・ラーソンやランダル・パークといった役者が固めてます。あとエイミーの父親と老人ホームでやりあう老人を演じるノーマン・ロイドって100歳なのか!それとティルダ・スィントンが別人のようなメークをして女性編集長を演じてるのですが、最後のクレジットを見るまで彼女だと本当に気付かなかったよ。またルブロン・ジェイムズが本人役で出ていたり、エイミーのボーイフレンドをWWEのジョン・シナが演じてるのですが、どちらも役者が本業でないのに面白い演技を見せつけてくれます。特にジョン・シナは体を張ったアホな演技が最高で、あの人はアクション映画よりもコメディのほうが向いてるんじゃないだろうか。映画の前半にしか出てこなかったのが残念。

まあ主人公の生きざまにどれだけ共感できるかで、この映画がどれだけ楽しめるかも変わってくるでしょうね。個人的にはあまりピンとこなかった作品。

「Mr. Holmes」鑑賞

Mr. Holmes
イアン・マッケランが老齢のシャーロック・ホームズを演じた作品。監督はビル・コンドン。

舞台は1947年。ワトソンとは死に別れ、93歳になったホームズはサセックスに引退して養蜂を営んでいた(ここらへんはコナン・ドイルの原作どおり)。健康に良いという山椒を得るため、そして文通相手のウメザキと会うために日本の広島まで長旅をした彼は、マンロー女史が世話をするサセックスの家へと帰って来る。そこでマンロー女史の息子のロジャーと仲良くなった彼は、彼にせがまれて昔の事件について語るようになり、やがて自分が引退するきっかけとなった事件について回想することとなる…というようなあらすじ。

いちおう原作小説があるらしいけど、ドイルではなく別の作家によるもの。サセックスの生活に絡めて、引退のきっかけとなった事件、および日本におけるウメザキとの出会いがフラッシュバックで語られていくが、老齢のホームズの記憶力が不確かなものになっており、彼自身が「信頼できない語り手」となっている。ただしミステリー映画というほどではなく、晩年のホームズの姿が淡々と描かれるドラマなので、推理小説ファンには不満が残るかも。

76歳のマッケランがさらに老けメークをしてホームズを好演。彼が日本で出会うウメザキを真田広之が演じていて、日本の描写などはそんなに気にならなかった。真田広之、もうちょっと身長があればさらに活躍できると思うのだが…。エキセントリックなホームズに翻弄される薄幸なマンロー女史は薄幸な女性ばかり演じるローラ・リニーが薄幸そうに演じていて、ここらへんは平常運転ですかね。彼女はビル・コンドンとよく組んでいるけど、今回の役はイギリスの役者が演じたほうが良かっただろう。アクセントがなんかしっくりこないんだよな。あとワトソンの小説のためにホームズは有名人ということになっていて、過去の事件が映画化されたりしてるのだけど、映画版で彼を演じるのが「ヤング・シャーロック」でシャーロックを演じたニコラス・ロウ、という小ネタも隠されてます。

まあ手堅く作られたヒューマンドラマなのだけど、我々がシャーロック・ホームズに期待してるのってそういう内容ではないような。劇中でいちばん面白かったのはやはり若かりし頃のホームズが不敵な笑みを浮かべながら推理を働かせるシーンなわけで、変に老けメークなどせずにマッケランがそのまま名探偵を演じた方が面白かったのではないかと思ってしまうのです。