「ファイナルガールズ 惨劇のシナリオ」鑑賞

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先週末にアメリカで公開された、スラッシャー映画のパロディ。日本では12月にDVDスルー予定だとか。原題は「Final Girls」だが今年は「Final Girl」という良く似た題名の映画もあるので間違えないように。

少女マックスの母親はカルト人気を誇るホラー映画「血まみれのキャンプ場」に20年前に出演したものの、それによってタイプキャストされて、その後はろくな役につけないでいた。そんな母親を励ますマックスだったが、彼女のミスから交通事故で母親を死なせてしまう。それから3年、母の死から立ち直れないマックスは親友のガーティーたちに誘われて、ボーイフレンド未満の友人クリスと、「血まみれのキャンプ場」およびその続編のリバイバル上映に足を運ぶ。スクリーンに映った母の姿を観て気分が優れなくなるマックスだったが、誰かがこぼした酒に引火して映画館は炎に包まれてしまう。逃げ場を探したマックスたちはスクリーンを裂いてステージ奥に向かおうとするものの、彼らが到着したのは何と映画の中だった。呆気にとられるなか、母親(が演じる役)に再開するマックス。しかし彼女たちの滞在するキャンプ場にはマスクをかぶった連続殺人鬼「ビリー」が徘徊しており、マックスの周囲の人たちが次々と殺されていくのだった…というプロット。

まあ要するに「13日の金曜日」シリーズのメタなパロディになっていて、いちゃついたり、裸になったりした男女はビリーに殺される!とか作る側もよく分かっていらっしゃる。劇中の回想シーンではちゃんと周囲が白黒になって50年代にタイムスリップするといった設定も細かいな。なお題名の「ファイナルガール」というのはホラー映画で最後まで生き残る女性(「悪魔のいけにえ」とか)のことを指していて、劇中でファイナルガールだったはずの少女が実は…というのが1つの大きなプロットになっている。ちなみに「ファイナルガール」の対義語は「ファーストブラック」かな?と思ったけどこの映画では違いました。

いろいろ面白そうな設定ではあるんだけど、主人公たちが状況を理解してからの中だるみが結構激しかったような?90分程度の尺なんだから、もっとテンポよく人が殺されていかなくちゃ。とはいえ最後のほうは母と娘の物語になって、意外と感動するところもあったりしたよ。終り方も秀逸でした。

これ監督は「ハロルド&クマー」の三作目を撮った人?主演はタイッサ・ファーミガで、他にはマーリン・アッカーマンやトーマス・ミドルディッチといった中堅どころが脇を固めている。

ホラー映画をメタ的に扱った作品といえば「スクリーム」や「キャビン」などがありますが、これも低予算ながら頑張っている作品。こういうのこそ劇場でみんなで騒ぎながら観るべきだよなあ。

「ファンタスティック・フォー」鑑賞

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ご存知の通り本国では酷評されて興行的にも惨敗した作品であり、そんなにツマらないのかと恐る恐る観にいったわけですが、観賞中に席を蹴って帰りたくなるような内容ではなかった。とはいえ面白いのかと聞かれるとやはりツマらないと言わざるを得ないのですが。

脚本はリー&カービーのものでなくマーク・ミラーによるアルティメイト版のオリジン話を比較的忠実にフォローしていて、この映画と前後してミラーがフォックスのコンサルタントに就任したことを考えると必然的なことだったのかも。改善の余地はいくらでもありそうな脚本だが、そこまで悪いというわけではない。

問題はやはり演出面で、とにかく各所における「溜め」がないのだ。だから人を殴るシーンもすごくあっけないし、決めゼリフを言うところもカッコ良さがなくて、全体的にとてもメリハリが無い作品になってしまっている。まるで監督が自分の撮ったものに自身がなくて、とっとと次のシーンに行きたがっているような印象を受けてしまったよ。

公開されなかったロジャー・コーマン版のFFだって、(予算の関係で)作中ずーっと炎上しなかったヒューマン・トーチが最後にやっと炎につつまれて飛行するところは爽快感があったじゃん?この作品にはそれが欠けているのだ。個人的にアメコミ映画の映像化の1つの頂点はサム・ライミの「スパイダーマン」だと思ってるのですが、あれくらいベタな演出をやってくれたってバチはあたらなかっただろうに。

監督のジョッシュ・トランクは前作「クロニクル」のほうが、ファウンドフッテージの型式をとりながらも、もっと臨場感のある映像が撮れていたと思うけどね。フォックスが内容に満足せず撮り直しを命じたのは有名な話だし、予告編にあって本編にないシーンが結構あることを考えると、未公開映像が多分にあることが推定されるが、監督の思い通りのバージョンが出来たとしてもあまり出来映えは変わらなかったんじゃないかな。

役者もマイルズ・テラーがセリフを棒読み気味で、「セッション」で見せた迫真の演技はどこへ行ったのという感じ。リーダーとしてのペップトークが全然元気良く聞こえないのだもの。まあこれは前述のように演出面に負うところが大きいのかもしれませんが。逆にいまいち頼りない男性陣を管轄するお姉さん役としてのスー(および彼女のお父さん)は良かったな。

この映画の失敗を受けて、「FFはマーベルに返せ!」という意見も強いようだけど、何でもかんでもマーベルの映画ユニバースに含めれば良いというものでもないでしょ。続編製作の意向はあるようだし、キャストはまだしも監督を変えることによって、心機一転して優れた作品が作られることに期待します。

機内で観た映画2015

ヨーロッパへ数日の出張に行っていたので、飛行機のなかで観た映画の感想をざっと:

「SPY」:メリッサ・マッカーシー主演のスパイ・コメディ。マシュー・ヴォーンの「キングスマン」にも劣らぬスパイ映画への愛情を込めてポール・フェイグが監督しており、思ってたよりもずっと面白かった。よくある主人公が愚鈍で無能なコメディと違い、実戦の経験は無いものの優秀なエージェントだというのがいいんだよな。ミランダ・ハートやピーター・セラフィノウィッツといった脇を固めるキャストも良いし、ジェイソン・ステイサムとジュード・ロウのコメディ演技も面白い。これ日本で劇場公開しないんだっけ?

・「SLOW WEST」:アートシネマっぽいウェスタン。マイケル・ファスベンダー演じる無骨なガンマンはカッコ良いのだが、彼と一緒に旅する純朴な青年の言動が青っちょろくてイライラする。ラストの銃撃戦もいまいちスカッとしないので観ていて不満が残る内容。

・「カリフォルニア・ダウン」:揺れる機内で観るとまさかの4DX体験!地震の科学的信憑性(内地の地震であんな派手な津波が起きるのかよ、とか)よりも、ロック様とカーラ・グギノの娘が真っ白な肌を持っているというのが気になって仕方なかったのですが。ロック様は家族の愛を取り戻す前に、妻の不貞を疑うべきだったのだろう。あとヨアン・グリフィズってやはり悪人顔だよな。

・「Asterix and Obelix: Mansion of the Gods」:フランスのCGアニメ。原作のコミックは商業主義とかの風刺が凝縮されていてアステリックス作品のなかでも難解なほうだが、これは話の展開をうまーく脚色して、原作のエピソードを丁寧に補填している。最後のローマ軍との戦いも、アステリックス側の一方的な勝利になりがちなところにきちんと緊迫感を持ち込んでいた。コミックを映像化するときはこうするんだよ、という1つのお手本になるくらいの出来ではないかと。

・「Me and Earl and the Dying Girl」:難病の少女をめぐるヤングアダルト小説という、最近流行りの原作をもった作品ですが、主人公たちがアートシネマかぶれのスネた奴、というのが共感が持てる。ヘルツォークとかニコラス・ローグのパロディを黙々と自主制作しているという。ナレーションに頼りすぎてるのがサンダンス映画だな、とは思うものの、ブライアン・イーノによる音楽も効果的に使われていて、最後はちょっと感動してしまったよ。主人公の親たちも手堅い役者たちが揃ってるし(モリー・シャノンがすごく良かった)、結構よい作品。

「イカとクジラ」でも使われてたけど、「ストリート・ハッスル」って青春映画の定番曲になったのか?

「アントマン」鑑賞

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いま公開中なのでネタバレせずに感想を簡潔に:

・良い映画。エドガー・ライトのファンとしては、彼が監督やってたらどうなってただろうとか、彼の脚本はどこまで使われてるんだろうかと考えずにはいられないのですが、ここはペイトン・リードの功績を素直に讃えるべきでしょう。でもザ・キュアーをサントラに起用するのはイギリス人のアイデアだと思う。

・ライトはマーベル(ディズニー)が口をはさんでくるのに嫌気がさして監督を降板したわけだが、「アベ2」に比べれば他のマーベル作品との繋がりは希薄だったと思う。まあ関係者もいろいろ出演してるけどね。良くも悪くもマーベル映画というよりディズニー映画みたいなノリだったけど、コンティニュイティーに縛られないマーベル映画がたまにはあっても良いと思う。「シビル・ウォー」でマーベル・ユニバースにズブズブはまることになるんだろうけど。

・スーパーヒーロー映画はオリジン話が無いほうが面白い(「ダークナイト」や「スパイダーマン2」とか)と良く言われるけど、これは「アイアンマン」と並んで主人公の特訓が描かれていて面白かった。ただイエロージャケットのスーツ奪還をヤマ場に持ってきたことで話が単調になったような?最後にもう1つ盛り上がるシーンがあっても良かったと思う・

・マイケル・ダグラスを始めとする役者陣の演技も手堅い。ポール・ラッドはヒーローっぽくない雰囲気が良かったですね。悪役が太ったピーター・サースガードにしか見えなかった気もするが。ウッド・ハリスがチョイ役で出てるな…と思ったらセリフの多いマーティン・ドノヴァンよりもクレジットが上の扱いになってたのは何だったのだろう。

・字幕監修がテリー伊藤って何だ?まあ気になる翻訳はなかったけど。「Tales to Astonish」というセリフはさすがに訳せんよね。あと「アンディ・グリフィス・ショー」がなぜか「刑事ドラマ」と訳されてたな。

・前述したように後の映画のためにコンティニュイティーに縛られていた「アベ2」に対して、肩の力を抜いて気軽に観ることができるスーパーヒーロー作品であった。マーベルはこれからもこういった軽めの作品を、メインの作品と平行して作っていくべきだと思う。

「トレジャーハンター・クミコ」鑑賞

Kumiko, The Treasure Hunter
iTunesストアで安かったので何とはなしに視聴。WOWOWで今週やるみたいですが。

コーエン兄弟の映画「ファーゴ」に出てくる、雪の中に隠された大金が実在すると信じ込み、単身ミネソタに渡って死亡したという日本人女性の物語をフィクション化したもの。しかしそもそもクミコの話というのが都市伝説のようなもので、ファーゴが好きだったという日本人女性が彼の地で自殺したことについて、「彼女は大金を探していた」という尾ひれがついてしまったものらしい。

主人公のクミコは社長のお茶汲みをしているしがないOLで、会社の同僚たちとも打ち解けず、実家の母親には早く結婚をしろと小言を言われる毎日を過ごしている女性。アパートではウサギを飼っているもののエサは丸投げだし、学生時代の友人にお茶に呼ばれても脱兎のごとく逃げ出してしまう、まあいろいろ問題を抱えた人なのだが、そんな彼女の唯一の趣味というか日課が、家でカップラーメンをすすりながらコーエン兄弟の「ファーゴ」を鑑賞すること(DVDの時代にすりきれたVHSテープで観ている)。そして例の大金を隠すシーンでひらめいた彼女は、画面をもとに宝の地図を書き上げ(なぜか布に刺繍する)、単身ファーゴに向かうのだが…というプロット。

もちろん安月給のOLが海外で宝探しをする予算もなく、彼女は本能の赴くままに会社の金を使い、タクシーを無賃乗車し、ひたすら真冬のファーゴを目指す!日本とくらべてミネソタの人たちはみんな親切で、クミコに手を差し伸べてくれるのだが、いわゆる『痛い』女性がそんな周囲の親切を反故にし、野生動物のごとく逃げ出して雪原に向かう光景は、観てて楽しいかというとそうでもないのよな。もうちょっとクミコの内面を描いても良かったような気がするが、そこは難しいとこだな。あと音楽がやけにおどろおどろしくて、ペットハウスの動物の鳴き声とか雪嵐の音とかがサイコな主人公の姿と相まってホラーっぽい雰囲気にもなっています。プロデューサーにアレキサンダー・ペインが名を連ねているが、彼のロードムービーほどのユーモアは無い感じ。

話の前半は日本のシーンだが、日本人スタッフも加わって撮影してることもあり変な日本の描写などはなし。クミコを演じる菊地凛子の無口な演技は、結局のところ彼女の英語の拙さを反映したものであって何度もこういう役を演じるべきではないと思うが、目つきとへの字になった口だけでの演技は巧かったし、こういう女性うちの職場にもいるじゃん!と思ったりもしました。

肝心のラストはね、おれは逃げちゃったなと感じましたが、まあ人によって解釈が分かれるとことでしょう。この映画を作った意図はなにか?と考えるとあまり答えは見当たらないのだが、まあオフビートな映画としては悪くないです。