「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」鑑賞

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まだ劇場公開中なので感想をざっと。

・前作はアニメ畑のブラッド・バードに初の実写監督を任せ、その賭けが当たって傑作が生まれたわけだが、今回はトム君とズブズブの関係であるクリストファー・マッカリーが脚本・監督を担当したことでスターに甘い作品ができてしまうのではと危惧していたものの、前作ほどではないにしろ娯楽精神に満ちて楽しめる作品になっていた。

・今年は奇しくもこれと「スペクター」「キングスマン」「コードネーム UNCLE」と4つも諜報機関ものの映画が公開されるのだが、本家007作品がドラマを重視したハイブローな方向にシフトしていったのに対し、「キングスマン」はローブローなところを、「UNCLE」はレトロ風味なところを、そして本作はアクションを重視したものということになるのかしらん。

・冒頭から中国の製作会社がクレジットされてることに驚くが、今後も中国出資の作品は増えてくるのかな?まあこのシリーズは3作目で既に中国ロケとかやってましたが。

・世界各地をまたにかけた大活劇のようで、前作のブルジュ・ハリファのような決定的なシーンに欠けているため、話にメリハリが足りない気もする。バイクのチェースは2作目でやってるし、オペラの裏舞台での格闘は007の「慰めの報酬」がやってしまったし。あと脚本家が監督もやったせいか話が必要以上に複雑なような?敵の組織はあんな強大そうなのになぜボスがいちいち現場まで向かうのかとか、水中の金庫は堅牢だろうけどメンテどうするんだとか、ツッコミどころも多かったな。

・あと「アウトロー」もそうだったけど、最後のボスとの戦いの描写が弱い。これはクリストファー・マッカリーの悪いクセなのかな。

・いずれHBOあたりがドナルド・トランプの物語をTVムービー化するときは、トランプ役はアレック・ボールドウィンでお願いします。

・トム君の相手をする女性にはヒールを履かせないことが一種のマナーなのですね。

・劇場のポスターには「最後のミッション!」みたいなことが書かれていたけど、前作でもそんなこと言ってなかった?しかもトム君は来年に新作を撮影開始すること公言してるし…。さすがに年齢的に無理があるようになってきたと思うものの、本人も相当思い入れがあるようなので、前作でジェレミー・レナーに譲ると言った話は破棄して、このまま体にムチ打って無茶なスタントに挑戦し続けてほしいところです。

「ベルファスト71」鑑賞

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カソリックとプロテスタント系の住民の衝突(いわゆる「The Troubles」)が激化していた1971年の北アイルランドはベルファストを舞台にしたサスペンス。

若くしてイギリス陸軍に入隊したゲイリーは、初の勤務地としてベルファストに派遣される。そこでイギリスに抵抗しているカソリック系の住民の抑圧にあたるのだが、経験の浅い上長が部隊を率いていたこともあり、住人たちとの小競り合いのなかでゲイリーは部隊に置き去りにされ、さらにもう一人の兵士が住民によって射殺されてしまう。こうして身の危険を察したゲイリーは必死に逃亡を続けるのだが、彼を狙う者たちが追いかけてきて…というストーリー。

まあ北アイルランドが舞台の「ブラックホーク・ダウン」みたいなもの?戦地における兵士の必死のサバイバルを描いているのだが、「ブラックホーク」同様に、主人公を狙う住人たちが冷酷な野蛮人みたいに描写されてるのがどうも気になるのよな。彼らはゴミ缶のフタを打ち鳴らし、殺人も厭わない人間として映し出されるわけだが、彼らの土地であったところにズカズカ入植してきたのはイギリス人であるわけだし、この扱いにはどうも腑に落ちないところがあったよ。いちおう冒頭でイギリス軍がカソリック系の住人に非人道的な恫喝を行なうシーンがあったり、重傷を負ったゲイリーが住人に助けてもらう展開もあったりするものの、政治的なバックグラウンドがある映画の割には凡庸なサスペンスに仕上がっていると思わずにはいられない。これを観た人は、カソリック側からの視点でイギリス軍の横暴を描いた、ポール・グリーングラスの「ブラディ・サンデー」も観といたほうが良いかと。

そして単なるサスペンス映画として出来が良いかというと、そうでもなく。主人公のゲイリー(演じるのは皮肉にもアイルランド系のジャック・オコンネル)が終始あたふたしていて、どうも頼りないんだよな。ニーソン爺さんばりの孤軍奮闘をしろとは言わないが、もうちょっと機知を働かせて身を守っても良かったのではないかと。むしろ彼の運命は周囲の住人たちに委ねられているわけだが、イギリス軍の工作員としてイギリス寄りの住人たちと内通している人物が出てきたりして、変に難しい政治ゲームが主人公と関係ないところで繰り広げられたりしていた。

当時の北アイルランドでの衝突って、興味深いネタになりそうな話はいろいろあると思うのだが、これは全体的にパッとしない作品であったよ。

「IT FOLLOWS」鑑賞

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200万ドルというごく低予算ながら高い評価を得たホラー。日本でも配給会社が決まってるので劇場公開かDVD発売すると思うが、これ話のプロットがそのままネタバレにつながるので、前知識なしで作品を楽しみたい人は以下の文章を読むのをお控えください。

いいね?

ジェイはデトロイトに住む多感な女子大生で、少し謎めいたヒューという男性とデートするようになっていた。やがてジェイとヒューは彼の車のなかでセックスをするものの、クロロホルムによって彼女は昏睡させられてしまう。目覚めた彼女に、自分の「呪い」について説明するヒュー。それはセックスによって移る(拡散ではなく引き継がれる)ものであり、

・呪いがかかっている人物には、「それ」が静かに追いかけてくる。
・「それ」は誰かしらの人間の姿をしている(知人のときもある)が、その姿は呪われている人物にしか見えない。
・「それ」につかまった人は死んでしまう。
・呪われた人が「それ」によって殺された場合、「それ」はその1つ前に呪いがかかっていた人を再び追いかける。

というもの。呪いを移したことを詫びつつ、ジェイにひたすら逃げるように伝えて姿を消すヒュー。そして自宅にもどったジェイは、やがて自分をゆっくりと追いかけてくる何者かの姿を目にするようになり…というストーリー。

上記の「それ」の説明だけ聞くとJホラーの設定みたいで陳腐に聞こえるかもしれないが、演出と音楽が巧みなので、背後から見知らぬ存在が近づいてくる…というシーンがすんげぇぇぇ怖く描かれているわけですよ。引きのショットや360度回転のショットを多用して、主人公たちを何者かが覗いているかのような雰囲気を醸し出しているほか、ジョン・カーペンターを多分にリスペクトした(これは監督のデビッド・ロバート・ミッチェルが認めている)電子音楽が全編に鳴り響いていて、「それ」が登場した途端にシンセ音がデェェェと鳴ったりするのが怖いのなんのって。

「それ」は目に見えないものの物理的には触れることのできる存在であり、その対処方法や逃げ方にはいろいろツッコミも入れたくなるものの、いいんだよ細けぇことは!またストーリーの時代設定も意図的に曖昧なものにしてあるので、あまりとやかく言わないように。

「それ」が性行為感染症のメタファーであることは容易に推測できるが(チャールズ・バーンズの「ブラック・ホール」を連想した)、それについて監督は深くは語っていない。むしろ死を目前にして絶望し、それを克服しようとする若者の心境がうまく描かれているかと。ドストエフスキーやT.S.エリオットの引用を持ち出してくるのは青臭いと思ったけどね。また「それ」が身にまとう人の姿や、劇中に出てくる写真などにもいろいろ意味がありそうで、今後も長きにわたって解釈が論じられる作品になるかと。「ドニー・ダーコ」を最初に観たときと同じような印象を受けたな。

低予算ゆえ有名な俳優などは出演していないが、主演のマイカ・モンローは「インデペンデンス・デイ」の続編に出演するそうでスターの仲間入りするんじゃないかと。あと彼女に横恋慕するオクテの少年を演じるキーア・ギルクリストが良かったな。この作品のヒットを受けて早くも続編製作の話がでているそうだけど、「それ」の秘密が変に明かされたりするのは野暮なんじゃないかとも思う。

というわけでみんな、死にたくなかったらセックスするなよ!俺もしないからな!

「ターミネーター:新起動/ジェニシス」鑑賞

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ネタバレにならないように感想をざっと:

・「新起動」といいつつも初代「ターミネーター」(あとちょっと「T2」)のストーリーをかなり踏まえた内容になっていて、あれ観てないと話がよく分からないかも。そこらへん不親切といえば不親切。

・タイムトラベルもので何本も続編を作れば当然ながら時代設定が破綻してくるわけで、複数の時間軸が存在するのなら過去に戻って歴史を修正する意味がないんじゃね?改変されるのは自分がいるのとは別の時間軸になるということで。まあそれにツッコむのは野暮でしょうが。

・ジョン・コナーの正体とかをトレーラー(しかも本国の)でしっかりとバラしてくれたおかげで、話の後半まではそれなりに予定調和で話が進む。これに関連したわけではないだろうが、未来の展開を知っているキャラクターが多いのため、なんか話の展開がちょっと安直なところがあるんだよな。

・外側の皮膚は人間と同様に老けるんだそうな。あーそうですか。

・エミリア・クラークが場面によってはリンダ・ハミルトンに似てるように見えるのは意外だった。一方でジェイ・コートニーのアクション顔はニコラス・ケイジに似てきた。

・「ドクター・フー」ファンの諸君、マット・スミスの活躍を期待してはいけないよ。

・病院から逃走するときはクツを履こうね。3人で車に乗るときはバスよりも小さい車に乗ろうね。

・エンドクレジット途中に短い映像シーンあり。でもストーリーの大きな謎が最後まで説明されない、というか放棄されている。

・シュワちゃんは毎度ながらシュワちゃんだし、アクションもさほど悪いわけではないものの、じゃあ作る必要があった映画かというとちょと悩んでしまう。タイムトラベルの要素さえもなかった「ターミネーター4」に比べるとずっとマシだけどね。

・アメリカでの興行成績がパッとしてないので続編は当分ないだろ…と思いきや、IMDB情報によると2019年に権利がジェームズ・キャメロンに戻ってしまうため、それまでにもう2本製作する話が進んでるのだとか?シュワちゃん年齢大丈夫か?俺は初代しか認めてない原理主義者ですが(「T2」も余計だったと思う)、タイムトラベルものの続編を作り続けるのはやはり無理があるだろうと思わずにはいられないのです。

「トゥモローランド」鑑賞

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公開中なのでネタバレせずに感想をざっと:

・田舎のティーンが不思議な事件に遭遇するSF映画、と言う意味で全体的な雰囲気は80年代のスピルバーグ作品のようであった。意図したものではないだろうけど、「SUPER 8」なんかよりもずっと似ていたと思う。

・でもスピルバーグ作品に比べて人の吹き飛び方とか、ロボットがボコボコにされるさまは結構えげつない描写がされていて、あれはアニメーター出身の監督だからですかね。映像を観ながら「アニメだったらどう描写してたかな…」とつい考えてしまうのは偏見かな。

・ストーリー自体は面白いものの、脚本に粗さが目立つのが残念。ビデオ撮りしてる冒頭から「はぁ?」となるし、「この先どうなるんだろう」というワクワク感よりも「いま何が起きてるんだろう」という五里霧中な印象を観客に与えてしまうというか。もう2回くらい脚本をリライトしてもバチはあたらなかったと思う。

・でもグッズ店の店主の名前が「ヒューゴー・ガーンズバック」だったり、店でのバトルの音楽が「スター・ウォーズ」のパスティーシュであったりと、SFに対するオマージュが散りばめられていて、監督の愛情が伝わってくる作品でありました。

・ビル・マーも自分の番組で指摘してたが、いまハリウッドにおける頭のいいキャラ(今回はアテナ)ってみんなイギリス英語を話しますね。

・「ルーパー」「エクスタント」に続き、ピアース・ガニォンって「SF作品に出てくる小生意気なガキ」ばかり演じているな。

・興行的にコケたので、今後ブラッド・バードが実写作品を撮るのは難しくなるかな?何にせよ次回はいよいよ「The Incredibles 2」なので大いに期待できますね!