「オデッセイ」鑑賞

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原作は読んでない。公開されたばかりなので感想を簡潔に:

・邦題が例によってダサいと叩かれている作品だが、冒頭に流れる製作会社のTSGエンターテイメントのモーションロゴが奇しくもオデッセウスなわけで、題名もこれにあやかった…わけではないよなあ、やっぱり。

・冒頭からアクションが始まり、主人公とNASAの人々がプロフェッショナルとして次々と難題を解決していくさまがテンポ良く描かれ、2時間20分以上の長尺ながら飽きさせない娯楽大作になっている。不屈の主人公もさることながら、地球で策を練るNASAのクルーがカッコよかったな。結束してないから次々とやられてった「プロメテウス」のクルーとは大違いで。ショーン・ビーンさえも最後まで生き残ってますからね。

・でも個人的には「プロメテウス」も「悪の法則」も全然オッケーの人なので、これでリドリー・スコットが調子を取り戻したとは特に思わないですが、彼にとっては久々の大ヒット娯楽大作なわけで、今後の企画(たくさんある)にも期待できそうではないですか。

・天才科学者を演じることで知られるマット・デーモンがまた天才科学者を演じていて、じゃあ天才科学者に見えるかというと全くそうではないのだが、まあ今回はフィジカルさが求められる役だったので良しとしましょう。地球のNASAおよび宇宙船のクルーの数がずいぶん多かったが、各人がきちんと活躍する場面があったのも巧みであった。コメディ畑のクリスティン・ウィッグやドナルド・グローバーなんかも真面目な役をやってて上手かったかと。

・本国ではキウェテル・イジョフォーの役が原作ではアジア人だったのに黒人に代わったことを非難する声もあるようだけど、アジア系のベネディクト・ウォン演じるエンジニアが活躍してたし別にいいんじゃね?中国政府も大活躍だったし。

・サントラは劇中でヒドいと言われるための曲が使われているので確かにヒドいものの、デビッド・ボウイの「スターマン」が流れるところはグっときましたね。

・科学的考証は、そもそも火星であんな激しい嵐って起きないんじゃないかという件は原作者も承知してるらしいが、まあ大目に見るべきかと。でも火星の低重力の描写はきちんとされるべきだったと思うが。あと酸素をどうやって作ったかという説明ってあったっけ?あとNASAってあそこまで情報開示が徹底してるのか?もし火星人が発見されても、24時間後にはその情報が自動的に発表されるわけ?

・主人公たちがあまりにもグイグイと難問を解決していくので、逆にメリハリに欠けてる気もしたので、もう一度くらい主人公が窮地に陥っても良いような気がしたが(原作ではあるらしい)、贅沢な注文ですかね。万人が楽しめる作品かと。

「CARTEL LAND」鑑賞

Cartel Land
今度のアカデミー賞にノミネートされてるドキュメンタリー。

メキシコの麻薬カルテルに対して、法の手を借りずに自分たちで対処することにした人々を追ったもので、アメリカのアリゾナではティム・ホーリーという男性が、メキシコではホセ・ミレレスという医師がそれぞれ自警団を結成し、カルテルの撲滅および麻薬の密輸の阻止のために活動するさまが紹介されていく。

ホーリーは崩壊家庭の出身で、自らも酒とドラッグに溺れていたが子供ができたことで更生し、きちんと職に就こうとするもののメキシコからの不法移民に職をとられ、やがて彼らが移民した背景にはカルテルの横暴があることに気づき、国境を守るために自警団を結成したというもの。決してレイシストのようには描かれていないし、夜中に荒野をパトロールしてたりするものの、カルテルのギャングに遭遇するわけでもなく、彼の行動にどこまで効果があるのかは微妙なところだったな。

対してメキシコのミレレスたちの状況は遥かに深刻で、麻薬カルテル(なぜか「テンプル騎士団」と名乗っている)が地元のビジネスを牛耳り、みかじめ料を払えない者は幼い子供も含めて一家皆殺しにされるという環境のなか、何もしてくれない政府を頼らずにミレレスたちは銃を手にして、ギャングたちと激しい銃撃戦を繰りひろげていく。捕まったギャングのメンバーが「叔父さんの仇だ!」とか言われて頭をボコボコ殴られているのが印象的であった。

また麻薬を製造しているカルテルのメンバーへのインタビューも行われているが、メンバーが自警団のなかに潜入しているとか、カルテルと政府がズブズブだとか、しまいには自警団の活動資金はカルテルが出しているなどといった、メキシコの深い闇を示唆するような話が語られていく。ミレレスたちの自警団も市民の人気を集めていく一方で政府には疎んじられ、ギャングなのかどうか不明な人々を拷問したり、仲間割れをしたりするほか、ミレレスも決して公明正大な人間ではないところが映されていき、最後に皮肉な結末を迎えることになる。

この作品の評価って概ね「アメリカ側のシーンって不要じゃね?」というもので、確かに命がけで銃撃戦を繰り広げてる自警団と、山のなかをうろついてる連中を同等に比べるのは無理があるかな。とはいえメキシコのシーンだけあればいい、というわけでもないので難しいところである。アメリカとメキシコの対比という点では「皆殺しのバラッド」のほうが優れてたかと。

「CHI-RAQ」鑑賞

Chi-Raq
スパイク・リーの新作映画。彼の作品を観たのって10年ぶりくらいだな。

「シャイ・ラク」という題名はシカゴとイラクの名前を掛け合わせたもので、シカゴで銃による犯罪が急増したことから市民の犠牲者がイラク以上に多くなったという状況を比喩したもの。また劇中に登場するギャングスタ・ラッパーの名前でもある。劇中でも説明されるが古代ギリシアの戯曲「女の平和」を翻案したもので、トロージャンズとスパルタンズという2大ギャングの抗争に巻き込まれ、幼い子供を含む一般市民が命を落としていることに業を煮やしたリューシストラテーという女性が「セックス・ストライキ」を起こし、男たちが抗争を止めない限りはセックスの相手をしないことにする。彼女の周りの女性たちもこれに同意し、さらにはこの運動が世界中(日本も含む)に広がったことにより、世の中の男性たちは抗争を続けるか女性に従うかの選択を迫られるのだが…というあらすじ。

まあ風刺だからね、セックス・ストライキの効果とかを真面目に論じてはいけませんよ(リベリアとかで実際に行われたらしいが)。女性たちに蜂起されてあたふたする男たちの姿を描いたコメディだと思えば良いかと。歌や踊りのシーンがあったり、(ここネタバレ)最後はエロ漫画のごとく「ベッドで勝負だぁ!」となる悪趣味な展開があったりするものの、その一方では銃による被害を真面目に描いていたりして、コメディとしてもドラマとしても中途半端な印象を抱いてしまうことは否めない。どうも説教くさくなってしまうのがスパイク・リーの問題というか。意外とタイラー・ペリーあたりが監督したほうが面白くなったんじゃね?

またトレイヴォン・マーティンとかベン・カーソンとかブラック・ライブズ・マターといった黒人に関する時事ネタがわんさか盛り込まれているほか、戯曲っぽい演出を意識しているためセリフの6割くらいが韻を踏んでいるという。これ日本語に訳すの難しそうだな…。

サミュエル・L・ジャクソンが観客に直接語りかける狂言回しを演じているほか、ニック・キャノンやジェニファー・ハドソン、ウェズリー・スナイプスにアンジェラ・バセットなどといった有名どころの黒人俳優がいろいろ出演してます。黒人だらけの教会で説教する牧師をジョン・キューザックが演じているが、あれは実際にああいう白人の牧師がいるみたい。あとは市長役のD・B・スウィーニーが結構いい演技やってます。デイブ・シャペルが久しぶりに演技をしてるのだけど、声が低くなった?あと驚いたのは「ザ・ワイヤー」のフェリシティ・ピアーソンがチョイ役で出てたことで、こないだ麻薬の取引で逮捕されてなかったっけ?

映画としては明らかに破綻しているんだけど、いろいろ詰め込んだために破綻したのだと肯定的に考えるようにしましょう。作られる価値があって、観られる価値のある作品かと。

「COP CAR」鑑賞

Cop Car
ケビン・ベーコン主演のサスペンス。

舞台となるのはアメリカのど田舎で、家を離れて草原を歩いていたトラビスとハリソンの少年ふたりは、誰も乗っていない警察車両を発見する。その中に入って遊んでいた二人は車のキーを発見し、エンジンをかけてドライブに繰り出すことに。しかしその車両は汚職警官のクレッツアー(ベーコン)のものであり、車に入った「ブツ」を取り返したいクレッツアーによって少年二人は恐ろしい目に遭うのであった…というあらすじ。

尺は90分もないし、あらすじも上記のようにいたってシンプル。予告編を観れば話の8割が分かってしまうので、車で遊ぶ少年たちとか、彼らを追いかけるために別の車を奪うベーコンのシーンが余計に長く感じられるのよな。決して間延びしているわけではないのだけど、サスペンスの盛り上げ方が物足りないというか。こういう話って無邪気に楽しんでいた少年たちの気持ちががだんだん恐怖にとって代わられる描写がキモになるべきなのだが、少年たちの怖がり方が中途半端だったな。ここらへん芥川龍之介の「トロッコ」とか読んで勉強すべし。

あらゆる手を用いて盗まれた車の場所を探し出す悪徳警官(保安官か)のケビン・ベーコンの演技が最大の取り柄ではあるものの、ベーコンっていままでいろんな悪役を演じてきたので、意外性が無いといえば無いかもしれない。あとは俺の好きなカムリン・マンハイムが出ています。

まあ悪くはない低予算映画と言ってしまえばそれだけなのだが、この監督のジョン・ワッツって次は「スパイダーマン」の新作を撮ることが決まっているわけで、この作品を観る限りではちょっと大丈夫かな…?と思ってしまったよ。次のピーター・パーカーはさらに若くなる設定だが、特に少年の描写が上手いとも思えなかったし。例えば「アメイジング・スパイダーマン」を撮ったマーク・ウェブは男女の恋愛描写は非常に上手かったし、低予算映画「彼女はパートタイムトラベラー」のあとにいきなり「ジュラシック・ワールド」撮ったコリン・トレボロウも「トラベラー」は結構面白かったわけですが、この監督からはあまり光るものを感じないのよな。この不安が杞憂に終わると良いのですが…。

「ブリッジ・オブ・スパイ」鑑賞

Bridge_Of_Spies_2015
ううむ、地味な題材とパッとしない予告編のおかげであまり期待せずに観たのだが、かなり面白かった。

伝記映画の常として脚色がいろいろ入っていて、例えば主人公のジェームズ・ドノヴァンはごく普通の保険弁護士というよりも実はOSS出身で諜報活動には詳しかったらしいが、そういうことを差し引いても、国のまっとうなサポートを受けられないまま外国で孤軍奮闘する彼の描写が見事であったよ。

前半は法廷でのシーンが多いので「リンカーン」や「アミスタッド」を彷彿とさせて、それはそれで悪くはないものの、やはり後半になって主人公がベルリンに乗り込み、CIAの忠告もあまり聞かず、数に劣る人質交渉をやりくりするさまが面白かったよ。ここらへんはコーエン兄弟の脚本の手直しによるものなのかな。

キャストはトム・ハンクスが相変わらず「良い人」っぷりを発揮して好演。ソ連のスパイを演じたマーク・ライランスという役者のことは知らなかったけど、抑え気味の演技が見事。ただし今回の役はメークの関係か「老けたダニー・ボイル」にしか見えなかったのは俺だけ?あとはアラン・アルダやジェシー・プレモンズ、ドメニック・ロンバードッジなども出てます。エイミー・ライアンはクレジット見るまで彼女だとは気づかなかったぞ。

音楽も今回はじめてスピルバーグと組んだトーマス・ニューマンのものが抑えつつも効果的に使われていて素晴らしい。一方ではヤヌス・カミンスキーの色あせた撮影スタイルが個人的にはどうも好きになれんのよな…スピルバーグはそろそろ他の撮影監督を使ってもいいだろうに。

政治的な内容を扱っているだけに、説教的というかプロパガンダ的な要素がそれなりに含まれているのだけど、アメリカの寛容さを見せつけるためにソ連のスパイにもちゃんと法廷の裁きを与える、という大義がだんだんと薄れていき、それと反比例して主人公がどんどん奮闘していくさまも良かったな。ここらへんは現代社会においてもいろいろ学ぶことがあるんじゃないかと。