「Kingsman: The Secret Service」鑑賞

Kingsman_ The Secret Service
グラント・モリソンに恨みを買われてるマーク・ミラーと、アラン・ムーアに恨みを買われてるデイブ・ギボンズによるコミック(いや、別にこの言い方に他意はない)が原作の映画な。日本では「キングスマン」の題で例によってずっと遅れて9月公開とのことなので、ネタバレにならないよう感想をざっと:

・話の流れは原作に結構忠実なんだけど、労働者階級と上流階級のギャップよりも、監督のマシュー・ヴォーンによる昔のスパイ映画へのオマージュが前面に押し出された出来になっている。劇中でもスパイ映画について言及されたりしてるのだが、リアル路線を追求した今の007やジェイソン・ボーンものへの反動のような、秘密兵器と豪華なファッションが満載の作品となっていた。とはいえ結局はハッキング合戦になるのが今のスパイ映画の限界なのか。

・原作では主人公がもっと筋金入りのチャヴ(イギリスのDQN)だったような憶えがあるが、こちらは比較的素直な青年といった感じ。上流階級出身の仲間たちとの対比も控え目かな。彼が雇われる秘密組織「キングスマン」は紳士たちが揃ったエリート組織であり、悪の組織の首領も底辺の人々を抹殺しようとするエリート主義なわけで、一般の人が関わるようなシーンはなし。まあ昔のスパイ映画がそうだったといえばそれまでなんだけど、貴族の末裔だという監督にエリート全肯定みたいな話をやられるとちょっと鼻についたりもする。

・イギリスの田舎で若者たちが訓練するシーン、何かに似てるな…と思ったら「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」だった。その前の「キックアス」といい、マシュー・ヴォーンはどれだけ若者が訓練される映画が好きなのか。

・コリン・ファースにマイケル・ケイン、マーク・ストロングといったイギリス男優が揃ったキングスマン側の演技は鉄壁である。しかし彼らを相手にしても一切ひけをとらないサミュエル・L・ジャクソン親父の演技はもっと凄い。

・原作ではマーク・ハミルが本人役(?)で出てるのに、こちらではハミルが他人の役を演じてるのが勿体ないなあ。

・「2625」はあちらのテンキーだと「ANAL」だそうな。HAHA!

「キックアス」同様に、全編にわたって「これだけ無茶やればウケるだろ」みたいな計算深さが窺えるのが気になるが、まあ何も考えずに目の前で繰り広げられる暴力描写をゲラゲラ笑ってるぶんには楽しめるかと。続編も作られるようだし。

「EX MACHINA」鑑賞

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ちょっと前だけど飛行機の中で観て面白かった作品なので感想を簡単に。機内用の映像のため女性の裸とかにボカシが入ってたけど、話の内容は修正されてないはず。

検索エンジンの会社で働く若きプログラマーのケイレブが社内の抽選で無作為に選ばれ、会社の社長が住む山の奥地の別荘に招かれるところから話は始まる。そこでケイレブはエキセントリックな社長のネイサンに、人工知能を搭載したエイヴァと呼ばれるヒューマノイドと会話を毎日行ない、彼女の人工知能が本物であるかを試すように伝えられる。最初は真面目にテストを行なっていたケイレブだったが、やがてエイヴァに感情移入するようになっていき…というプロット。

ポスターとかではいまいち内容が分かりにくいが、意外と正統なSFサスペンスになっている。人工知能を備えたロボットの反乱、というと陳腐だけど、エイヴァとケイレブとネイサンの思惑が錯綜し、最後まで飽きさせない展開が続いていく。

監督のアレックス・ガーランドは「ザ・ビーチ」の原作とか書いた小説家でこれが初監督作品となるが、反射を効果的に使った映像が非常に美しいのですよ。あれは撮影監督の手腕が大きいのかな。哲学について語るシーンが多かったりするのは、まあ小説家が書いた脚本っぽいですね。

またケイレブを演じるのがドーナル・グリーソンで、ネイサン役がオスカー・アイザックなのだが、おれ最後のクレジットを観るまでオスカー・アイザックだとは気付かなかった。「ドライヴ」と「ルーウィン・デイヴィス」の役もまるで別人のようだったが、ここでもイメージを大きく変えてネイサンを演じている。

ちょっとでもSFや人工知能に興味がある人なら観て楽しめる作品じゃないでしょうか。日本でもいずれ劇場公開するでしょう。

「Kung Fury」鑑賞

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その80年代テイスト丸出しのトレーラーが大きな話題を呼んだアクション・コメディ短編。キックスターターで出資を募ってから完成が望まれていたが、この度ついに無料で公開されたのだよ。

舞台は1985年のマイアミ。悪がはびこり警官は平気で射殺され、さらにはアーケード・マシンが凶悪ロボットに変形して人を襲うなか、雷撃に打たれてコブラに咬まれたことで驚異的なカンフー能力を身につけた一匹狼の刑事カン・フューリーは一人で悪と戦っていたが、なぜか1940年代からやってきた悪のカンフー総統ヒットラー(「カン・フューラー」!)に上司を殺害されてしまう。上司の仇を討つため、天才ハッカーであるハッカーマンの力を借りてカン・フューリーはタイムマシンを使って1940年代を目指すものの、計器の故障によりはるか昔の恐竜が闊歩する時代に飛ばされてしまい…という展開。

とにかくシンセ音楽がバンバン鳴り響き、VHSのノイズが画面に走るなか、滑稽無糖なアクションで悪を倒すカン・フューリーがカッコいいのだよ!なんで警察の相棒がトリケラトプスなんだとか、恐竜時代に戻った意味ってあまりないんじゃないとかツッコミどころは当然山のようにあるものの、いいんだよ、細かいことは!突然画面がテレビ通販になったり、80年代アニメになったりと詰め込み過ぎのような気もするが、むしろこれくらいやってくれたほうが楽しいかと。

アマチュア映画とはいえ特撮とかアクションとかはよく出来てるし、クラウドファンディングで製作費を集めたところなどは「アイアン・スカイ」に似ているな…と思ってたら監督・製作・主演のデビッド・サンドバーグってスウェーデン人なのか。フィンランドの「アイアン・スカイ」といい、北欧ってこういう映画を製作できる土壌みたいなものがあるんだろうか。でもしっかりアメリカ市場を狙っていて、主題歌にデビッド・ハッセルホフを起用するあたり、日本の映画会社などよりも手堅い海外進出ができてるよね。

今回は30分の短編だが、劇場版の製作の話もあるとか。その際は出資を募ったら募金させていただきます。80年代に一泊500円で「レモ/第一の挑戦」とか「片腕サイボーグ」とかレンタルして観てた奴は今すぐ観よう!

「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」鑑賞

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これもアメリカで観てしまったよ。当然ながら以下はネタバレ注意:

・現地での大まかな評判は「悪くはないんだけど、前作ほど良くはない」というものだったが、確かにそんな感じ。前作は個々のヒーローが団結して行く流れが快かったのに対し、今回はチームが崩壊の危機を迎えてお互いに戦ったりするわけで、観ててあまりカタルシスが感じられないのよな。後半になってから危機を乗り越えて一緒に戦う展開は良いんだけどね。

・当然ながら今後のマーベル作品への伏線がいろいろ貼られているのだが、これも以前はワクワクさせてくれるものだったのに、だんだんそっちが重要になってストーリーを圧迫しているような感じ。監督のジョス・ウィードンがマーベルのプレッシャーに耐えられずこれ限りで降板したのもよく分かる。

・SHIELDの状態などはTVシリーズの流れを受けてるようなのだけど、そこまでチェックしてる時間はないのよ。映画だけでなくTVともユニバースをシェアさせるのって今後はどんどん整合性がとれなくなってくるんじゃないのか。

・クイックシルバーは「フューチャー&パスト」のほうが良い。まああっちはきっちり見せ場が与えられていたし仕方ないね。

・冒頭にロバート・ゼメキスの「THE WALK」のトレーラーを観た時も思ったのだが、登場人物が東欧とかフランス出身だからといって外国訛りの英語を喋らせる必要ってあるんだろうか。ワンダとピエトロの訛りがどうも気になってしまったよ。

・しかしあのキャラクターがああいう結末を迎えるなら、コミックのほうで無理して設定をああしなくても別によかったんじゃね?

・ウルトロンは良くも悪くも人間味があって、なんかオッサン臭いような。表情のないキャラクターなので、声で感情を表現させるしかなかったんだろうな。

・ビジョンはアンドロイドというよりも顔を赤く塗ったポール・ベタニーにしか見えない。正直カッコわるい。

・ベロニカ可愛いよベロニカ。あれにはハルクのガールフレンドの名前がベティだから対抗してベロニカ、という誰も気付かないアーチー・コミックスへのオマージュが隠されているらしい。

・ “That was a good talk!” ”No it wasn’t!”こういう細かいジョークを書かせるとやはりウィードンは巧い。

・いろいろ厳しいこと書いたけど普通に楽しめる作品ではありますよ。前作の域には達していないだけで。しかし日本版のトレーラーやポスターはネタバレが含まれてると聞いたので観賞後にチェックしたのだが、確かに重要なプロットをバラしてますね。

・世界の他の国よりも2ヶ月近く遅れて公開させ、芸能人を吹替に起用し、事前にかなりネタバレをしているというのは、単に日本の観客がナメられてるのでは。他の国はアメリカとほぼ同時に公開してもそれなりの興行成績を出してるわけで、宣伝に2ヶ月かける必要があるというのは言い訳になってないだろ。

・例えば韓国は税制の優遇(資金援助?)をして映画の撮影を誘致し、韓国人のキャストも登場させてるわけで、日本もそれくらいに国レベルで宣伝に関わっていく必要があるだろう。(ロバート・ダウニーJr.ってまだ日本に入国できないんだっけ?)

・”… Assemble.”

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」鑑賞

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アメリカへ出張したので観てきたのだよ。プロットらしきものはあまり無いんだけどいちおうネタバレ注意な。

・皆が期待してる「ヒャッハー!」なアクションはもちろんあるよ。というか最初から最後までそればかりなんだけど、観て驚いたのはこれすごく女性を中心に添えた作品だということ。

・話の実質的な主人公はマックスというよりもシャーリーズ・セロン演じるフュリオサだし、彼女を頼ってイモータン・ジョーのもとから脱出する5人の女性は最初こそレイプの犠牲者であり、か弱い存在なのだけど、グロテスクな貞操帯を断ち切って自由になったあとは自由を求めて行動し、しまいには戦いの流れを大きく変えるような存在になっていく。

・女性の一人が身を挺してマックスを守るシーンなんて観てて涙がでましたよ。「トランスフォーマー3」では突っ立ってるだけだったクチビルオバケ(名前忘れた)がキャストに加わると発表されたときは何の冗談かと思ったが、彼女も他の女性も素晴らしい縁起をしてるではないですか。

・主人公の男性と恋に落ちるために女性が一人だけ用意されてる最近のアクション映画をあざ嗤うかのように、この作品はベクデル・テストを易々とクリアし、男たちが支配する世界における女性たちの奮闘を描いていく。

・そんな彼女たち(特にフュリオサ)に比べるとマックスなんかはあくまでも脇役的な扱いだったりする。まあそのぶんセリフや行動に重みがあって良いんだけどね。マックス本人は女性が相手でも特にドギマギしたりはしないのだが、そこらへんはニコラス・ホルト演じるイモータン・ジョーの手下がうまい役回りになっていたな。

・おれ映画館では3人の女性とカップルの男女に囲まれて観ましたが、これ女性が観てもかなり楽しめる内容になってるのでは。女性の描写についてフェミニスト作家のイブ・エンスラーをコンサルタントに呼んだというのは伊達じゃない。

・といいつつも男の子映画の要素も当然ながらタンマリあって、最初から最後までひたすらカーチェイス!悪夢のチキチキマシーンみたいな車が次々と登場して、豪快にドンパチやってくれます!CGを控え目にした生身のアクションは大迫力ですよ。

・意外と良い上司っぽい(気がする)イモータン・ジョーよりも、その部下たちのほうが気が狂っててヒャッハー!という感じ。いちばん良かったのはキャタピラのついた車を乗り回すバレット・ファーマーで、○○になっても銃を撃ちまくるその姿はもう最高!

・なおマックスを演じるトム・ハーディは相変わらず話し方がどんくさいオッサンのようである。彼のセリフは非常に少ないし、イモータン・ジョーの言葉もマスクでくぐもって何言ってるのか聞き取りにくいわけで、そういう意味では日本語吹替の声優に素人を起用してもあまり作品に影響は無いような気もする。まあプロの声優を使うにこしたことはないんですが。

・この作品の成功を受けて早くも続編(プリクエル?)の製作が決定したみたいですが、ここまでプロットを削り落とすことはもう出来ないんじゃないかな?でも個人的には「アベンジャーズ2」よりもずっと楽しめた作品なので、またブレンダン・マッカーシーを起用して新たな「マッドマックス」シリーズを作り上げて欲しいところです。

Females are strong as hell.