「Black Angel」鑑賞


1980年に「帝国の逆襲」がイギリスで公開される際に併映されたという短編。

「スター・ウォーズ」のセットデザインや「エイリアン」「ライフ・オブ・ブライアン」のアートデザインを手がけていたロジャー・クリスチャンが、ジョージ・ルーカスに依頼されてスコットランドで撮影したものだとか(撮影監督はテリー・ギリアムとよく組んでいるロジャー・プラット)。その後ネガが紛失して長らく幻の映画扱いされていたものが、30年ぶりくらいにネガが発見され、映画祭で披露されたあとにこうしてyoutubeで公開されることになったのだとか。詳細については監督自らが冒頭でいろいろ語ってるんで参照ください。

内容は数年ぶりに故郷に帰ってきた中世の騎士が、戦争と疫病によって荒廃した城を見て落胆する。しかし彼は黒い天使に仕えるという女性に出会い…というもので、タルコフスキーに受けたいうことなので水のイメージなどはそういう感じなのかしらん。良く言えば抽象的、悪く言えば難解な内容で、チャンバラはあるものの血湧き肉踊る騎士の活躍などを期待してはいけないよ。

一番の見所はスコットランドの大自然で、険しい山々や激しい滝などの光景が作品の雰囲気に合っていて非常に美しい。今となっては荘厳な雲の姿などを見ると「お、CGかな?」と思ってしまうのだけど、当然ながら自然の光景をそのまま映したんだろうな。

スローモーションを使ったチャンバラのシーンは「帝国の逆襲」にも取り入れられたほか、ジョン・ブアマンの「エクスカリバー」もこの作品を参考にしたとのことで、確かに雰囲気は似ているかも。こういう幻想的な騎士の映画って最近は見かけなくなりましたね。

ロジャー・クリスチャンはそのあと「バトルフィールド・アース」を監督してまた違った意味で有名になるのだが、この短編は「ライフ・オブ・ブライアン」と「帝国の逆襲」をつなぐミッシング・リンク的な作品ということでも一見の価値はあるかと。

「DEAR WHITE PEOPLE」鑑賞

Dear White People
昨年のサンダンスでちょっと話題になったコメディ。

舞台となるのは名門校のウィンチェスター大学。そこの生徒たちは大半が白人で、黒人の生徒たちは1つの学生寮に集まって生活していた。そしてカレッジ・ラジオの番組「Dear White People」のDJとして、人種について煽ったコメントをして話題を呼んでいたサマンサは、学部長の息子であるトロイを選挙で破って学生寮の寮長に就任する。そんな彼女にライバル心を抱くユーチューバー(のようなもの)のココや、大学新聞のために記事を書くことになったライオネルといった生徒たちも話に絡んでいき、やがて理事長の息子である白人のカートが、黒人をテーマにしたハロウィーンパーティーを計画したことで物事は加熱していき…というような内容。

低予算映画ゆえか、知ってる役者はデニス・ヘイスバートくらいか。あとライオネル役のタイラー・ジェームズ・スミスって「Everybody Hates Chirs」で子供時代のクリス・ロックを演じてた人か。いつの間にか大きくなったのう。

アメリカの映画やテレビ番組をいろいろ観ていても、あちらの大学のフラタニティとか学生寮の仕組みっていまいち理解できないのですが、「アニマル・ハウス」みたいな和気あいあいとしたものとは限らず、こないだもオクラホマ大学での差別的な行為が発覚したりして、むしろ学生のアホさが助長される温床になっている、との批判も最近は強いみたい。この映画における「黒人」パーティーも実際に行なわれたものがモデルになっていて、エンドクレジットでは黒人の格好をした白人の学生たちの写真がいろいろ紹介されていた。

そういう意味では非常にタイムリーな作品であるはずなのだが、いかんせん出来が…。ゆる〜いジャズとヒップホップに乗って学生たちの生活がゆる〜く描かれている場面ばかりで、話の終盤に向けてのテンションがまったく上がらないのですもの。ストーリーをチャプター分けしたり、キャラクターに洒落たことを喋らせているものの、なんか頭でっかちになっていて、典型的なサンダンス映画みたいだと思わざるをえない。予告編を観た感じではもっと勢いのあるコメディだと思ってただけに、内容の緩さがどうも残念。

「WORLD OF TOMORROW」鑑賞

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今年のサンダンスで短編賞を獲得した、ドン・ハーツフェルトによる短編アニメーション。

少女のエミリーは、ある日テレビ電話でメッセージを受け取る。それは遠い未来のエミリーからのもので、クローン技術および記憶の移植による長寿(というか生まれかわり)が確立された世界における、エミリーの第三世代のクローンだと大人の彼女は名乗った。さらに技術の進歩により過去へメッセージを送るだけでなく、危険が伴うもののタイムトラベルも可能になったことで、未来のエミリーは少女のエミリーを未来へと呼び寄せる。無邪気にふるまうエミリーに対し、自分の人生、および未来の世界について語る大人のエミリー。そして彼女が少女のエミリーを呼び寄せたのには、1つ大きな理由があった…というストーリー。

僅か16分の短編ながら、クローンやタイムトラベル、月世界のロボット、記憶の移植、異生物との恋、過去へのノスタルジアなどといったSF的な要素がこってり詰め込まれていて、それでいて難解ににはならず、ユーモアとペーソスが混じった詩的な作品になっている。

おれハーツフェルトの作品を見るのってこれが初めてなのですが、昨年「シンプソンズ」の冒頭の斬新なカウチ・ギャグの演出をして数百万の視聴者の度肝を抜いたんだよな:

この「シンプソンズ」と「WORLD OF TOMORROW」を同時期に作ってたとのことで、どちらも遠い未来のことを描いてるのが興味深い。

単純な棒と線でできた人物が登場するそのスタイルは少しとっつきにくかったものの、逆にシンプルなほうが感情移入しやすいというか、単純なようで描写が細かい(クローンに不備があると目がパチクリする)ところが良かったな。今までフィルム撮りをしていたのを今回初めてデジタル撮影したらしいが、宇宙のシーンなどはとても美しい。また彼の4歳の姪っ子がアフレコしたという少女エミリーの声は少し聞きづらい箇所があるものの、無邪気な感じはよく出ているかと。

どこがどう面白いのか、なかなか文章では説明し難いのだが、メランコリックなSFが好きな人なら楽しめるであろう一品。日本からでも4ドルでレンタルできるよ。

WORLD OF TOMORROW – Trailer from don hertzfeldt on Vimeo.

「Force Majeure」鑑賞

force-majeure
昨年高い評価を受けたスウェーデンの映画。東京国際映画祭でも「ツーリスト」という題で公開されてたのか。

山奥のスキーリゾートへ一家でやって来た父親と母親、そして二人の子供たち。スキーを楽しんだ彼らがホテルのテラスで昼食をとっていると、山の向こうで計画的な雪崩が起こされる。しかし雪崩は想定以上にホテルへ近づいてきて、客たちはパニックに。結局はすこし雪をかぶっただけで済んだものの、そのとき父親は一人で逃げ出してしまっていた。自分と子供たちを置いて逃げた彼を軽蔑する母親と、逃げたわけではないと弁明する父親。二人のいさかいは翌日も続き、周囲の人たちも巻き込むことに…という内容。

プロットは「ロンリエスト・プラネット」(未見)っぽいのかもしれないけど、リゾート地におけるパパさんの不遇を描いたブラックコメディ、という点では「エスケイプ・フロム・トゥモロー」を連想したよ。男性の威厳がショボンと萎えさせられるような展開が巧みに出てきます。個人的にはダメ男には共感せざるを得ないので父親の行為は十分理解できるのだけど、女性が観るとそこらへんは結構違うのかも。ラストの展開もちょっと考えさせられたな。

ヨーロッパ映画ゆえか会話シーンが多くてちょっと長ったらしい気もするが、悪い映画ではないですよ。ジュリア・ルイ=ドレイファス主演・製作でハリウッドでのリメークも決定したようなので、気まずい系のコメディとして彼女がうまくアレンジしてくれるんじゃないだろうか。

「インヒアレント・ヴァイス」鑑賞

Inherent Vice
トマス・ピンチョンの同名小説(邦題は「LAヴァイス」)を原作にした、ポール・トーマス・アンダーソンの新作。

おれピンチョンの小説って高校の時から好きで読んでるのですが、「メイスン&ディクソン」の冗長さに冒頭で挫折し、あれよりも長い「逆光」も当然ながら読んでおらず、長年彼の著作からは遠ざかっていたものの、今回の映画化にあたって原作を読んでみたのですよ。ピンチョンの小説にしては結構分かりやすい内容のものだったと思う。とはいえ話がちょっと進むたびに登場人物がどんどん増えてくるし、探偵小説のようで話があらぬ方向に進むなど、決して映像化しやすいような作品ではないけどね。

映画のプロットは原作に忠実で、舞台は1970年のカリフォルニア。ヒッピーまがいの私立探偵であるドック・スポーテッロのもとに昔の彼女が現れ、彼女のいまの愛人である不動産業の大物の失踪について調べて欲しいと依頼する。さらに別の案件も抱えたドックは調査にあたった店で何者かに殴られて昏倒。目覚めたら警察に囲まれており、しかも横に何者かの死体があって…というプロット。

でも普通の探偵ものではないからね、事件のまっとうな解決などを求めてはいけないよ。原作のマイナーなキャラクターにナレーションを行なわせてプロットの説明をしてるものの、原作をかなり端折っている部分もあるため、ストーリーを理解するのは結構厳しいと思う。小説だと登場人物について「あれこいつ誰だったっけ?」とページを戻して再確認することができるものの、映画だとどんどん話が進んでいってしまうのがデメリットだよな。

あとピンチョンの小説ってドタバタしてるようで、人知を超えた集団や組織(今回は麻薬カルテルの『黄金の牙』)が世界を乗っ取っていくことに対するペーソスと、過去の戻らぬ幸せに対する諦めのようなノスタルジア(警察に駆逐されるヒッピー文化、になるのかな)が根底にあると思っているんだが、映画版では『黄金の牙』の存在が控え目になっていることもあり、登場人物のもっとパーソナルな部分に話が終始していたような。夢が醒めたような原作ラストの文章は本当に素晴らしかったんだけど、映画の終わりはちょっと異なってましたね。

また原作は小説ながらも例によって当時の音楽やテレビ番組や映画が羅列され、音楽に至っては100曲くらい言及がされているけど、映画では版権の関係か意外と使用曲は少なめ。ニール・ヤングやカン、あとは「上を向いて歩こう」など。音楽自体はアンダーソン作品の常連であるジョニー・グリーンウッドが担当してるが、クラシックっぽくってあまり映像に合ってないような気もするのよな。

主演はホアキン・フェニックスで、ほかにジョシュ・ブローリン、リース・ウェザースプーン、ベネチオ・デル・トロなどなど。原作だと主役のドックは30手前だし、いろいろイメージが異なる役者もいたものの、みんな良い演技をしてるのではないでしょうか。マーティン・ショートが意外なくらいの怪演をしてたな。なお出てくる女性がみんなブスというか田舎臭いメークをしてるのは70年代を意識して?それとも監督の趣味?

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」ほどの傑作ではないものの、画面の構成とか斬新だし、悪い作品ではないですよ。でもやはり個人的には原作の方が良かったな。