「Wrestling Isn’t Wrestling」鑑賞

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最近は映画製作者というよりもメディア・パーソナリティみたいになってきたマックス・ランディスによる新たな短編。彼のWWE愛を延々と綴ったもので、特に長年にわたって第一線で活躍し、WWEの幹部にまで登り詰めたトリプルHの立身伝のような内容になっている。

最初は貴族ギミックで登場したものの大成せず、ショーン・マイケルズなんかと組んだりD-ジェネレーションXを結成して名を成していくものの、やがて若手に立場を脅かされるようになって…といったストーリーはいちおうあるが、まあ全部ブック(シナリオ)で仕組まれてるわけだし…WWEの常としてまっとうな結末は存在せず、24分もあるうちの後半はかなりグデグデなのだが、「プロレスは本物じゃないって?プロレスはレスリング以外の全てのものさ!」と言い切るラストがファンボーイっぽいな。

男性レスラーをみんな女優が演じて、逆にチャイナみたいな女性レスラーを男性が演じてるのだが、当然ながら似てないのでナレーションなしでは誰が誰か分からず。また前の「The Death and Return of Superman」ほどではないのものの有名人がチョイ役で出ていて、マコーレー・カルキンやセス・グリーン、デビッド・アーケットなど、たぶんヒマそうな人たちが登場してます。

おれがWWE観てたのって2000年代初頭くらいまでなので、ランディ・オートンあたりが出てくる頃から話についてけなくなるのですが、ファンの方は余興で観てみるのもよりかと。

「POWERS」鑑賞

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アメリカのプレイステーション・ネットワークのオリジナル番組。こないだHBOも独自のVODサービスを発表してたけど、最近はVODプラットフォームの乱立が進んでいると言うか、どこも独自の番組を製作して客を呼ぼうとしているような。でも数年後にはそれなりの数のサービスが淘汰されてるんだろうな。やっぱり。

原作はブライアン・マイケル・ベンディスとマイケル・エイヴォン・オーミングの同名のコミック。おれベンディスって積極的に嫌いなライターのひとりでして、スーパーヒーローものを書いてるのに「悪役の描写にやたら力を入れる」「マイナーなヒーローにばかり焦点を当てる」「主人公のヒーローがろくに活躍しない」というカタルシスの感じられないストーリーの作り方がすんごく嫌いなのよね。

この「POWERS」はベンディスがマーベル・コミックスでスーパーヒーローものをいろいろ書く前の作品だが、テーマとしてはスーパーヒーローを扱っていて、超人的な能力をもったヒーローや犯罪者(「パワーズ」と呼ばれる)が数多く存在する世界において、かつて自身もヒーローだったが能力を失ってしまった主人公がシカゴ市警に加わり、相棒とともにパワーズ絡みの事件を解決していくという刑事ものの要素が強い作品。

俺も原作はそんなに詳しくないんだけど、第1話で死体となって発見されるパワーズのレトロ・ガールが番組では普通に生きているあたり、原作とは違う話になっていくのかな?主人公のクリスチャン・ウォーカーを演じるのは「第9地区」のシャルート・コプリー。原作だともっと熱血漢のマッチョのようなイメージがあるけど、番組では影のあるアンチヒーローっぽい感じ。彼の相棒のディーナ・ピルグリムは最近のトレンドに沿って白人から黒人のキャラクターへと変更されてます。あとはエディ・イザードやミシェル・フォーブスなどが出ていて、それなりに知名度の高い役者が出ているような。

第1話を観た限りでは、やはり低予算の作りがちらほら露呈しているような感じ。ウェブ・シリーズなどに比べれば凝っているんだけど、Syfyチャンネルあたりの番組には少し劣っているクオリティというか。そのプレイステーション・ネットワークというプラットフォームの特殊性から、多くの人々にリーチできるような作品ではないと思うけど、今後もこういうVODサービスにに特化した作品が増えてくるんだろうな。

「WHIPLASH」鑑賞

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センスない邦題は「セッション」。4月公開で、これ何の前知識もないまま観た方が楽しめると思うので、簡単な感想をざっくりと:

・音楽の師弟愛などではなく、あくまでも教師と生徒のガチな戦いに最後まで徹しているところが素晴らしい。教師の一線を越えたスパルタ的な教え方はブラック企業みたいなのですが、主人公がそれに迎合したりせず反撃するところが巧いなあと。

・しかし主人公もけっこう性格に難がある奴だというのがポイント。議論を呼びそうな終り方(意図的にああしたらしい)も含め、安直な感動作にしてないところがいいですね。

・でもタイミングよく起きる事件とか事故がちょっとクサいところもある。話のベースとなった短編映画はインターネット上から削除されてて視聴できないんだけど、どのくらい簡潔にまとめられてたんだろう。

・J.K.シモンズのアカデミー賞受賞は当然ですな。マイルズ・テラーは琴欧州に似ている。

・控え目ながら効果的なカメラワークも賞賛されるべきであろう。監督のダミアン・チェズルは音楽ものというニッチな分野を得意としてるみたいだけど、とりあえず今後の作品にも期待。

「Citizenfour」鑑賞

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こないだアカデミー賞を受賞したドキュメンタリーな。いちおうネタバレ注意。

9/11テロや中東のアメリカの戦争に関するドキュメンタリー映画を作り、アメリカ政府の監視の対象にもなったドキュメンタリー監督であるローラ・ポイトラスのもとに、「Citizenfour」を名乗る人物から暗号化されたメールが送られてくる。アメリカ国家安全保障局(NSA)による情報収集に関する重大な秘密を公表したい、というメールの内容に興味を持った彼女は「Citizenfour」と連絡をとり続け、同様のメールを受け取った英ガーディアン紙のグレン・グリーンウォルド(および同紙のユーウェン・マカスキル)とともに香港のホテルで「Citizenfour」と出会うことになるのだが…という展開。

まあポスターにも大きく顔が載ってるしもはや秘密でも何でもないが、この「Citizenfour」こそがNSAの元職員だったエドワード・スノーデンであり、NSAが秘密裏にアメリカ国民および外国の一般市民のあらゆる通信内容や情報を裏で傍受しているという事実が、彼の証言によってポイトラスのカメラの前で明かされていく。

物事はすべてリニアな時系列に沿って展開されていき、謎のメールを受け取ってから、香港でスノーデンに会うまでの展開はまるでスパイ映画のよう(彼が指示する出会い方も映画めいている)。そして彼の証言をもとにグリーンウォルドがニュースをすっぱ抜き、それがまたたく間に世界に広がり、アメリカ政府やマスコミがスノーデンを狙って香港にやってくるものの、うまく国外に逃れた彼は結局のところロシアに落ち着くことになる。映画の終盤(つまりごく最近の時点)では話の内容があまりにもヤバくて口に出せないということでスノーデンとグリーンウォルドが「筆談」を続ける映像が流されるのだが、それが逆に物事の生々しさを伝えている。

そして話のなかで顕著なのが、スノーデンの圧倒的な落ち着き方。自分が公表する内容がどれだけ衝撃的であり、それが自分や自分の身内、およびグリーンウォルドたちの生活にどれだけ影響を与えるかを十分に承知したうえで、冷静に、ときにはユーモアを交えてNSAやアメリカ政府の行いを語っていく。自分はメディアに慣れていないと言いつつも言葉遣いがえらく流暢で、活動家のような血気盛んな意気込みとか、逆に自分の行動に対する不安のようなものが皆無だったのが印象的だったな。彼の話が世界的なニュースになっているのをホテルのテレビで観てもまったく動じないわけだが、アメリカに残してきた彼女のことは心配してたし、終盤にはさすがに疲れたような顔をしてたけど。あとホテルの火災報知器が誤作動してベルが鳴ったときに皆が身構えるのもリアルで面白かったです。

ニュースが公表されたあとにホテルの部屋へマスコミからの電話が相次ぎ、自分の身元が割れたことを悟ったスノーデンはアメリカ政府の手を逃れて国外への脱出を試みるが、香港の人権弁護士が即座にやって来て手助けをし、彼の保護のために国境を超えて弁護士たちがミーティングを行ない、さらにイギリスのエクアドル大使館からウィキリークスのジュリアン・アサンジが手助けをするという、そこらへんの一連の流れがとにかくカッコ良いのよ。これが日本だったら法律を無視して政府に連行され、アメリカに引き渡されてたんじゃないかと考えてしまう。

スノーデンが公表した事実によってアメリカの保安が危険に晒されることになったという意見ももちろんあるようだし、彼を国家への反逆者だと見なしている人も相当いるようだけど、自分たちに黙って政府が何をやっているのか、アメリカ市民だけでなく世界中の人々はやはり知っておいた方が良いと思うけどね。「最近の電話は受話器を外しておいても政府が自由に会話を録音できてしまうんだ」とスノーデンが説明しながらホテルの電話の回線を抜いてる姿を見ると、日頃普通に使ってる携帯電話やパソコンもすごく怖いものに見えてきますね。

なお冒頭からセキュリティ用語や法律用語、PC画面のメッセージが飛び交い、話のすべてを把握していくのが相当難儀であったことは付け加えておく。グリーンウォルドの記者会見のスピーチとかすごい早口だし(ポルトガル語だったけど)。これ日本語の字幕とかつけるの大変そうだな。しかしナイン・インチ・ネイルズの楽曲も効果的に使われ、下手なサスペンス映画よりもずっと面白い作品であった。オリバー・ストーンが例によって映画化を企画しているようだけど(スノーデン役がJ・G・レヴィットだそうな)、たぶんこれを超える出来にはならないんじゃないですかね。

「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」鑑賞

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アカデミー候補ということで駆け込み的に鑑賞。4月に日本公開なのでネタバレしない程度にざっと感想を(しかしネタバレするようなストーリーが無いのだが)。

・殆ど切れ目なしの長回しによる撮影で、さらにブロードウェイの舞台裏という設定もあり、1つの芝居を観ているような気分になる。

・演劇界や映画界の内輪ネタみたいなのもセリフのあちこちに散りばめてあって、いろいろ高い評価を受けたのも何となく理解できる。ハリウッドの人たちって自分たちに関する映画が好きだからねぇ。

・でも実際に作品として面白くて、マイケル・キートンの身体を張った演技が見事。あとはやはりエドワード・ノートンがずばぬけて巧いなあと。

・エマ・ストーンはどんどんマンガのような顔になっていっている。あのままCGアニメになっても違和感は無いんじゃないだろうか。

・マイケル・キートンってかつてバットマンを演じた(そしてそれ以降は落ち目になった)役者だよ、という前知識は持っておいたほうが良いでしょう。知らない人はいないと思うが。

・ドラムのみを使ったサントラがセリフとうまく絡み合っていて、ビート・ポエトリーかヒップホップのよう。これ吹替版作るの大変そうだな。

・レイモンド・カーヴァーの短編1本で長編舞台って作れるものなのか(時間的に)?

・最後のシーンを予告編に入れるのはどうかと思うの。

アカデミー賞で最低でも撮影賞は獲得するんじゃないかと。あとはどうだろうね?