「ROSEWATER」鑑賞

Rosewater
先日、16年近くにわたる「デイリーショー」の司会の降板を発表して世界中に衝撃を与え、親会社の株を3億5000万ドル下落させたジョン・スチュワートが、昨年「デイリーショー」を休んで監督した作品。

イランで拘束されたジャーナリストのマジアル・バハリに体験に基づいた内容で、イラン出身のカナダ人であるバハリは2009年にイランの大統領選挙を取材するため、身重の妻を家に残してテヘランへと渡航する。そこで彼はアフマディーネジャードを支持する学生や、対抗馬のムーサヴィーを支持して体制の変革を願い若者たちを取材し、さらには当時イランに来ていた「デイリーショー」特派員のジェイソン・ジョーンズの取材を彼が受けることになる。ムーサヴィーが大勝すると予想されていた選挙はアフマディーネジャードの勝利となり、不正選挙が疑われて各地で暴動が起きるなか、実家で寝ていたバハリは警察に叩き起こされ、西側のスパイだという嫌疑をかけられて刑務所に連行され、そこで激しい尋問を与えられることになる…というストーリー。

おれ上記のジェイソン・ジョーンズのイラン訪問はリアルタイムで観てましたが、イランについてクールに説明していたバハリがそのすぐあとに当局に拘束されたと言うニュースは結構驚きだったんだよな。「デイリーショー」でも彼のことを何度か取り上げていたと思う。その後バハリは強制されて国営テレビで自分の「罪」を告白し、118日間の拘束のあとに釈放されて「デイリーショー」に出演したりもしたわけだが、彼の物語に興味をもったジョン・スチュワートが映画化を企画。最初はほかの脚本家や監督を起用する予定だったものの、ハリウッドに任せてると遅々として話が進まないということで自分で脚本・監督を担当することになったらしい。なおバハリ役はメキシコ人のガエル・ガルシア・ベルナルが演じているが、さほど違和感はない…と思う。

撮影は当然イランは無理なのでヨルダンで行なったらしいが、イラン国内の映像もいろいろ使用されていて興味深い。反体制側の若者たちが衛星放送のアンテナを見つからないように設置して、海外のニュース番組から情報を得ているという描写も面白かったな。

なお題名の「ROSEWATER」とはバハリに目隠しをして尋問した人物がローズウォーターの香水をつけていたことに起因するもの。彼とバハリの間には奇妙な友情のようなものが生まれたりするのだが、獄中のバハリの葛藤の描写がどうしても弱いのよな。過去に彼と同様に収監されていた父親や姉の回想シーンとか、国外ではヒラリー・クリントンなどが彼の釈放を求めていたことなどを絡めているものの、出来事を律儀に描きすぎていて、釈放されるまでの流れが逆にあっけなく感じられたりする。例えばベン・アフレックなんかは「アルゴ」でフィクションを盛りまくってちゃっかりアカデミー賞を穫ってたりするわけだが、そういうことをしないところにジョン・スチュワートの人の良さというか、映画作りの経験の浅さが出ているのではないか。

「デイリーショー」を去ったあとにジョン・スチュワートは何をやるのか、という憶測が早くも話題になっているわけですが、この作品は批評的にはまだしも興行的にはかなり残念な結果になったわけで、映画の監督業をまた試みるのは控えておいたほうが良いのではないかと、1ファンとしては考えてしまうのです。

「Nightcrawler」鑑賞

Nightcrawler
硫黄の臭いをまき散らしながらテレポートするXメンの話…などでは当然なく、ロサンゼルスが舞台のサスペンス。

鉄線の泥棒をしていたルイスは、ハイウェイでの交通事故を撮影して映像をニュース局に売りさばくカメラマンを見かけたことから、自分もその仕事を始めようとカメラを購入する。交通案内役として高校を出たばかりのリックを雇って警察無線を傍受し、事故現場に急行するルイス。最初はライバル業者に出し抜かれてばかりだったが、やがて撮影した映像が売れてローカル局のプロデューサーであるニナとコネをもつようになる。警察の警告を無視し、必用とあれば事故現場の証拠の捏造も厭わないルイスの映像はやがて高く売れるようになるが、より刺激的な映像を求める彼の行動はさらにエスカレートしていき…というストーリー。

いわゆる「カメラが捉えた決定的瞬間!」的な映像を求める世間とニュース局を風刺した内容になっていて、映像はショッキングなものが好まれ、特に「郊外の白人家庭を脅かす都市型犯罪」というアングルが良いということが劇中でも語られる。視聴率で苦戦している局にいるニナは脱法すれすれのところでルイスの映像をセンセーショナルに流すのだが、アメリカって国が広いせいかローカル局のニュース番組がかなり人気あるんだよな。

主人公のルイスはモラルが完全に欠如した人物(ほぼサイコパス)で、感情を爆発させる瞬間もあるものの、大抵は瞬きせずに自分の目標を淡々と語るような人物。仲間を脅すことも厭わず、ライバル業者を危機に陥れることも平然とやってのける。良いネタになると判断すれば映像の加工も行なうし、人助けをせず警察にウソをついていく。そんな彼のヤバさを承知しながらも、売れる映像欲しさに彼と手を組むニュース局を描くことで現代社会の批判をしているわけだが、結構突き放した視点で物語が語られていくので、あまり風刺という印象は受けないかも(かといってベタな内容にしてたらもっと凡庸になってたろうが)。

ルイスを演じるジェイク・ギレンホールは役作りのために10キロくらい減量したという徹底ぶりで、見事な怪演を見せつけている。そんな彼と手を組むニナをレネ・ルッソが演じていて、彼女って監督の奥さんなのか。いちおうヒロイン的な役割でもあるのだが、うーむ。あとはライバルのカメラマンにビル・パクストンとか、リック役に『FOUR LIONS』のリズ・アーメッドが出演している。

監督のダン・ギルロイは脚本家出身でこれが初監督作で、全体的にちょっと詰めの甘さが感じられるかな。あと15分くらいは短くても良かったと思う。あと海外のレビューを読んでてなるほどと思ったのが、今や事故現場などにはスマホもった素人がハエのように押しかけ、自らYouTubeなどにアップしてしまう世界なわけで、放送局と(いちおう)プロのカメラマンしか出てこないこの映画はすでに時代遅れになっているのかもしれない。

でもギレンホールの演技は凄かったし、一見の価値はある映画かと。例によって日本での公開が未定なのが残念。

「JOHN WICK」鑑賞

John Wick
前もそうだったけど、キアヌの映画はあらすじ書いてる方が楽しいので、この先はいろいろネタバレがあります。ご注意ください。

キアヌことジョン・ウィックは雇う側も畏怖するような凄腕の殺し屋だったが、ある女性と恋に落ち、彼女と結婚してからは血なまぐさい過去を捨てて幸せに暮らすはずだった。しかし彼女は突然の病に倒れ、帰らぬ人となってしまう(冒頭5分でここまで展開する)。哀しみにくれるジョン(名前はジョナサンらしいのだが、なぜか名前はJonでなくJohnとなっている)そんな彼のもとに一匹のわんこが贈られて来る。それは彼女の妻が自分の形見として彼に贈ったのだった(どうも人が死ぬと当日にわんこを配達してくれるサービスになっているらしい)。

そんなわんこに愛情を注ぎ、一緒にドライブに行くジョン。しかし彼の69年型ムスタングに目をつけたロシアン・マフィアのボンクラ息子たちが夜中にジョンの家に侵入して彼を痛めつけ、さらにはわんこを殺して車を奪ってしまう。俺のわんこと車を奪いやがって!と冷たい復讐に燃えるジョン(しかし車は空港でかなり乱暴に乗り回したりしてて、さほど大切に扱ってたようには見えないのだが)。自分の息子がジョン・ウィックの車を盗んだことを悟ったマフィアのボスはさっそくジョンに詫びの電話を入れるのだが、そんなものには耳を貸さないジョン・ウィック(嫌なやつだね、どうも)。地下に埋めていた武器を掘り起こし、豊富な資金力をもってボンクラ息子への復讐を計画する。仕方なしにマフィアのボスが送りこんできた刺客たちもジュードー・アクションでなぎ倒し、マフィアたちのいるニューヨークへと向かうのだった。

ニューヨークでジョンが泊まるのは、殺し屋たちのために作られたホテル。これがこの映画でのいちばん特徴的な設定なのだが、バーに情報源に闇医者と、殺し屋が必用とするものは何でも揃っているホテルで、おまけに場内での格闘・暗殺は禁止というルールが(いちおう)徹底している。ジョンはそこの古参の客なのでみんなにいろいろ助けられて…という感じなのだが、復讐される側のボンクラ息子と力量差がありすぎるだろこれ。

デンゼル・ワシントンの「イコライザー」を観た時も思ったが、悪に単独で立ち向かうかと思われた主人公のバックに強大な組織がついていて、主人公がチートなレベルで強いようだと観ていてドキドキハラハラせんのよね。「007」シリーズだってジェームズ・ボンドには孤軍奮闘させてたのに、この映画では主人公のピンチは周りが救ってくれるし、ライバルの殺し屋も他人が始末してくれて、主人公が優遇されすぎているような。一方でその主人公はクールな殺し屋のように見えて銃をバンバン乱射するような奴で、あれ一般人に被害を加えてるんじゃないだろうか。

あと敵がロシアン・マフィアなのでロシア語と英語字幕がたくさん出て来るわけですが、「殺し屋」とか「Fuck」といった言葉に色付きのフォントを使っているあたりが日本のヤンキー漫画みたいで微笑ましいですね。しかし最近の映画の悪役はなんでみんなロシアン・マフィアばかりなんだろう。在米のロシア人たちはそろそろ抗議してもいいかもしれない。

キアヌはいつも通りのキアヌ。ディカプリオみたいにそろそろコメディに挑戦しても良いと思うのだがなあ。スタッフもダチで固めてるし。あと脇役はミカエル・ニクヴィストやウィレム・デフォー、イアン・マクシェーンにジョン・レグイザモなどと結構豪華。でもみんなあまり見せ場がないような。

世間的には評判が良くて、続編の製作が早くも決まったようだけど、個人的には平凡なアクション映画とした思えなかったよ。とりあえず続編ではわんこ殺さないでおいてねわんこ。

「PRIDE」鑑賞

Pride
日本では「パレードへようこそ」という邦題で4月公開だそうな。

舞台は1984年のイギリス。サッチャー政権のもと各地の炭鉱は次々と閉鎖され、失業の危機に面した炭坑夫たちはデモやストライキで抵抗を試みていた。そのニュースを知ったゲイの活動家のマークは、「政府に迫害されている者同士が力を合わせるべきだ!」と決意して(当時は同性愛行為が違法とされていた)、レズビアンとゲイによる炭坑夫へのサポートグループを結成、寄付を募って炭坑夫に送ろうとする。しかし炭坑夫の組合は同性愛者たちと関わりになるのを嫌がったため、マークたちは炭鉱の街を直接支援することにする。そして南ウェールズのオンルウィンという小さな町を選んだ彼らは、住人たちに好奇の目で見られながらも炭坑夫たちを支援していくのだが…というストーリー。

失業の危機に対して奮闘するイギリスの労働者たちを扱った、「フル・モンティ」や「ブラス!」「リトル・ダンサー」といった一連の作品に連なるもので、あれらの映画が好きな人なら十分楽しめるんじゃないでしょうか。男女が偏見を乗り越えて団結するさまは、ベタながらもやはりスカっとするものなので。ただしオンルウィンの人たちの多くは意外とあっさりと同性愛者たちに寛容になってしまうので、結果的にはストーリーの起伏が乏しいものになっているかも。同性愛に反対知る親や住人たちとの葛藤にもう少し踏み込んでも良かったのでは。あとこういう映画にありがちなのだが、ゲイの人たちがやたら素晴らしく描かれているんだよな。地元のボンクラがゲイのように踊ったら女の子にモテモテになった、というのはちょっと安直すぎるだろう。

出演者はビル・ナイやイメルダ・スタントン、ドミニク・ウェスト、パディ・コンシダイン、アンドリュー・スコットといった錚々たるイギリス(とアイルランド)の役者たちが顔を揃えていて、手堅い演技を見せてくれている。パディ・コンシダインの出ている映画にハズレはない、というのが俺の持論であります(「シンデレラマン」は大目に見よう)。あとはFGTHやコミュナーズといった当時の音楽がふんだんに使われているよ(〆を飾るのはやはりビリー・ブラッグ)。

実際にあった話をベースにしていて、実在の人物もいろいろ出てくるのだが、まあ例によって事実と異なっている、という批判もあるみたい。あとは有色人種が出てないとか、ウェールズ人の役者が起用されてないという批判もあるらしいのだが、そこまで細かくつつかなくてもいいだろうに。普通に良い映画ですよ。

「THE INTERVIEW」鑑賞

The Interview
んで今年の最初に観た映画がこれ。

巷でいろいろ話題になってるので大方のあらすじをご存知の人もいると思うが、セレブ相手のゴシップ・インタビューを得意としている番組のホストとプロデューサーが、実は北朝鮮の金正恩がその番組の大ファンであることを知り、彼に生放送でインタビューする機会を与えられる。これで俺らも真っ当なジャーナリスト扱いされると浮かれる2人の前にCIAが現れて、アメリカを核攻撃すると脅している金正恩をこの機会に極秘で暗殺するように依頼する。2人はこれを仕方なく承諾するものの、ホストの方は金正恩と接しているうちに情が移ってしまい…というような展開。

チャラけたホストを演じるのがジェームズ・フランコで、心配性のプロデューサー(ユダヤ人)がセス・ローゲン。ファニーマンとストレートマンという組み合わせはコメディの王道ですが、これに下ネタとかアメリカン・カルチャーのジョークとかがテンコ盛りになってます。英語でないと分かりにくいジョークもあるので、もし日本で公開されたとしてもそんなにウケなかったんじゃないかな(日本のソニーピクチャーズはDVD発売も含め完全に封印する予定だった)。

最初の3分の1くらいはリジー・カプラン演じるCIAのエージェントとのやりとりが多くて、彼ら3人は「フリークス学園」からの仲なので相性はピッタリですね。そこからフランコとローゲンが北朝鮮に行き、出会うのがランダル・パーク演じる金正恩(あんま似てない)。ケイティ・ペリーをはじめとする西洋文化が好きで、建国者の家系の後継ぎとしてのプレッシャーを常に感じている彼は意外といい人として描かれている。もちろん暴君としての側面もあるんだけどね。あとは彼の側近がヒロイン的な役回りになってます。

北朝鮮というかアジア人をコケにしたような描写も無くはないのだけど、外国の要人の暗殺を繰り返すアメリカを風刺したようなセリフもあって、思っていたよりも真っ当な作りのコメディであった(当初は金正恩の顔が溶け落ちるシーンなどもあったらしいが、上層部の判断で控え目になったらしい)。身内ネタに徹していた「THIS IS THE END」よりも個人的には良かったかも。

ソニーピクチャーズへのハッキングがこの映画とどのくらい関係があるのかはまるでわからないけど、まあ国の首脳をここまでコケにしたら快く思わない人もでてくるだろうな。こないだの「ドクター・フー」特番にあった「地球人は『エイリアン』なんて名前のホラー映画を作ったのか?なんて失礼な。異星人に侵略され続けてるのも無理はない」というセリフを連想してしまったよ。コメディたるものタブーにも挑戦していかないといけないわけですが、表現の自由とか権力の風刺などといった大それた論議にかけるほどの作品でも無いような気がする。すったもんだした挙げ句にVODでもリリースされてそれなりの収益を上げたわけだが、特異なケースであって今後のVOD市場に与える影響も大きいとは思えないし(全てはソニーの壮大なステマである、とか勘ぐってる人たちはスルーしましょう)。

とはいえ今回の騒動が世界的な話題になったおかげで、これを観なければならないと感じた各国の首脳やお偉方も多いだろうから、そんな人たちが「臭いチンコ」や「ウンコ漏らした」というジョークを目にすることになっただけでも、この映画の使命は達せられたと考えて良いだろう。何の使命なのかよく分からないけど。