「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」鑑賞


むろん2Dな。上映中なので感想を簡潔に。

おれコズミック系のアメコミってあまり好きではなくて、DCも「リージョン・オブ・スーパーヒーローズ」などは殆ど読まなかったのです。よってこの作品の原作にも疎かったので(90年代初頭に出てた前のチームのやつは読んでた)、観る前はある程度の不安があったのだけど、前知識など無しに十分楽しめるスペースオペラでした。「グリーン・ランタン」がすべて間違えたところを、すべてきちんと押さえているというか。

ストーリー自体はかなり王道を行っていて、ならず者たちが反目しあいながらも友情を培っていき、団結して悪を倒し、かつて自分たちを見下していた人たちからも賞賛を受けるというもの。決して目新しさはないものの、変にひねくり回さずにストレートな演出をしていることでちゃんと話に起伏をもたせている。CGのキャラクターの演技にも涙するのってそうあることじゃありませんぜ。まあ女性キャラ同士がタイマン勝負するあたりは、さすがに使い古されすぎてる気がしましたが。

監督のジェームズ・ガンはB級で知られるトロマ・ムービーの出身で、トロマの社長のロイド・カウフマンがしっかりカメオ出演してるあたりは自分のルーツに忠実ではあるな。その微妙にセコいセンスが今回のドタバタ演技にうまくマッチしていて、「スパイダーマン」のサム・ライミもそうだったけどB級ムービー出身の監督ってアメコミ映画によく合うんじゃないだろうか。それ考えるとやはりエドガー・ライトが「アントマン」降板したのは残念だよなあ。

主演のクリス・プラットも、下手すれば痛いだけのダンスシーンなんかを絶妙に演じていて、二枚目半のキャラがよく似合っている。「Parks and Recreation」のボンクラがこんな主役をはれる時代が来るなんて想像もつかなかったよ。ゾーイ・サルダナやバティスタもいいけど、それ以上にCGの仲間が良かったな。あとカレン・ギランはあそこまでメークをコエテコテにするなら別にスキンヘッドにしなくても良かったのでは。そして眉毛が見えないとリー・ペイスは誰だか分からなかった。対して残念だったのは、サノスがあまり強そうに見えなかったことか。

というわけで爽快に楽しめる夏休み映画(九月だけど)としてはうってつけの一作ではないでしょうか。これから他のマーベル映画との絡みが強くなっていくのだろうけど、普通に娯楽柵として独自の路線を進んでいっても良いような気がする。

「LOCKE」鑑賞


トム・ハーディの一人劇のような映画。監督は「イースタン・プロミス」の脚本家だったスティーブン・ナイト。

国際的な建設会社の現場監督をやっているアイヴァン・ロックは、大きな仕事を明日に控えて工事現場から車に乗って去る。しかし彼は妻子の待つ自宅へは戻らずに、とある方面へと車を走らせる。自分が行なおうとしていることについて、車中から妻に電話するロック。そして彼の行いは、工事現場の仕事にも影響することに…というストーリー。

ネタバレになるのであまり話の展開については明かせないが、ロックの目的は早い段階で明らかになるのでミステリーとかサスペンスの要素は少ない。主人公が過去の行ないについて対処するさまが、淡々と描かれていく。主な撮影はすべて車内で行なわれ、登場するのもロック一人のみ。彼が電話で妻子や職場の同僚と電話で話す(なおハンズフリーね)だけの、密室劇というか会話劇のような内容になっている。

ロック自身は自分の置かれた状況について一人で激高したりするものの、基本的には信念の強い男であり、「論理的に次のステップを考えよう」などと語るような人物。むしろ彼の行動に困惑した関係者たちを、電話で説得していくような展開が続いていく。これ30分くらいの短編映画だったり舞台劇とかだったらもっと面白かっただろうが、90分くらい電話で話す姿を延々と見せられるのはちょっとしんどいものがあるかも。

前述した通り出演してるのはトム・ハーディのみ。声の出演としてオリヴィア・コールマンやルース・ウィルソンなどが参加している。トム・ハーディはちょっと落ち着きすぎていて、どうも感情移入しにくいような。あと話す相手によって微妙にアクセントが変わってるような気がしたが、あれどうもウェールズ訛りを使っているらしい。

コンセプト的には悪くはないんだけど、話にひねりがあるわけでもなく、実際観てみるとそんなに面白い作品ではなかったかな。トム・ハーディが鼻をかみながら(撮影中カゼをひいてたらしい)90分間話し続ける姿が観たい人におすすめします。

「Show Pieces」鑑賞


アラン・ムーアとミッチ・ジェンキンズがキックスターターで資金を調達した短編映画「His Heavy Heart」が完成してダウンロード用のリンクが送られてきたので、過去の4作品とあわせて一気に鑑賞。5つあわせて「The Show」という作品を構成するのかと思いきや、「The Show」はもっと包括的なコンセプトで、これらはその1部を成す「Show Pieces」という作品群になるんだとか?よって今後もこの世界を舞台にした話が作られていくのかな?まとめて鑑賞することで、以前に書いたときよりもなんとなく世界観が分かるようになったので、各作品を時系列ごとに紹介する:

「Act Of Faith」
タブロイド紙の記者をやっているフェイスという若き女性が、クローゼットで一人SMを試みるものの、最悪の結果を招くことになる。

「Upon Reflection」
怯えたファイスは小汚いパブ(兼クラブ)にたどり着く。そこで彼女はクラブのマネージャーのマッチブライト氏と出会い、彼から侮蔑的な扱いを受ける。部屋の角の鏡に映った映像になっているのが特徴的な一編。

「Jimmy’s End」
土砂降りのなかクラブにたどり着いたジェームス。彼はそこでフェイスとマッチブライト氏、そして道化のボブルスに出会う。赤い光のなかでダンスをするジェームスとフェイス。クラブのもう一人のマネージャーであるメタートン氏がステージに現われ、スピーチを行なう。

「A Professional Relationship」
マッチブライト氏とメタートン氏がクラブの楽屋で、お互いの微妙な関係と将来について語り合う。

「His Heavy Heart」
ボブルスに拷問を受けるジェームス。彼のハートは羽と天秤にかけられ、彼は有罪であることを宣告される。恐ろしい運命から逃れるために、彼は1つの提案を受け入れるのだが…。こないだ亡くなったムーアの師匠、スティーブ・ムーアに献辞が捧げられている。

これだけ読んでも話がさっぱり分からないだろうが、映像を観てもわからないんだよ!かなり明白なのは舞台となるパブ(クラブ)は死後の世界を表していて、だから事故死したフェイスはそこに辿り着いたらしい。一方でジェームスがやって来た理由は明言されないものの、女性絡みであることが示唆されている。ハートと羽を天秤で量るのはエジプトの「死者の書」からの引用だよね。

またクラブのマネージャーであるマッチブライト氏とメタートン氏はそれぞれ影と光を象徴するような存在で、ムーア御大自らが演じるメタートン氏は顔を金色に塗りたくり、さらにGCTA(遺伝子の塩基を表す)と書かれたカードを並べ替えて思索しているあたりは、創造主でもあるのかしらん。ここらへんキリスト教の概念っぽいが、「キリスト教なんてモダンすぎる!」なんてセリフも出てきます。

とりあえずこれで今回の映像化の話は一段落ついたと思うのだけど、DVDの売れ行き次第ではまた撮影とかするのかな?あるいは別のメディアで「The Show」の物語は続いてくのだろうか。でもやはりムーアはコミックを主体に活動してほしいと思うのです。

「THE ZERO THEOREM」鑑賞


テリー・ギリアム御大の4〜5年ぶりの新作。イギリスではもうDVD出てますが、日本では秋くらいに公開ということで、ネタバレしないように感想をざっと:

・舞台は明言されないけどおそらく近未来。主人公のコーエン・レスは、とある電話を待ち続けているために在宅勤務を上司に希望。謎めいた会社社長に会ったのちに彼は在宅勤務が認められ、「ゼロは100%」という謎の定理「ゼロ・セオレム」を解明するように命じられる。しかしコンスタントにデータのアップロードが求められるその業務にコーエンは耐えられなくなり、やがてブチ切れることに…というようなプロット。

・「未来世紀ブラジル」を彷彿とさせる近未来のセットのデザインがね、金かかってなさそうなのに独創的で素晴らしいのですよ。ペダルを漕ぐ職場とか、仮想現実スーツのデザインとか。こういうのやらせるとギリアムの右に出る人はいないですね。

・なお「ブラジル」と似ていることろが沢山あって、主人公は妄想(仮想現実)に逃避してるし、彼の上司を演じるデヴィッド・シューリスは話し方とかがまんまマイケル・ペイリン。デブとノッポの「輸送人」コンビは「ブラジル」の修理人コンビみたいで、ついでに言うなら「マインクラフト」みたいな定理解明用のプログラムも「ブラジル」の地下迷宮に似ているな。もちろんダクトチューブも出てくるぞ。

・また自分なりの信念をもって突き進み、身を破滅にさらす主人公というのは80年代〜90年代のギリアム作品に通じてますね。そういう意味では(00年代の迷走期を抜けて)ギリアムが戻ってきた!と喜びたくはなる一方で、過去のスタイルに戻ってしまったのかなという気にもなる。監視カメラやオンラインセックスというネタは非常に現代的で、時代がギリアムに追いついてしまったのかなあとも思う。

・出演者の演技はどれも素晴らしくて、クリストフ・ヴァルツが眉毛も剃ったスキンヘッドになって主人公を熱演。ヒロインはメラニー・ティエリー。あとはマット・デーモンが出てたり、ティルダ・スウィントンがラップを披露してたりします。ベン・ウィショーなんかもちょっと出てるよ。少年プログラマーを演じたルーカス・ヘッジスの演技が特に良かった。

・なお主人公が訳あって自分のことを複数形で呼んでいて(「I」でなく「We」)、そこらへん日本語訳は面倒くさそう。さらに主人公が務める会社の名前が「MANCOM」というのも、日本語字幕にしたらちょっと恥ずかしそうだな。

・話の結末がちょっと弱い気もするが(レディオヘッドねえ…)、ギリアムのファンなら十分楽しめる作品であった。例によって配給会社がなかなか見つからないらしく、カナダでは劇場公開されない憂き目にあっているそうなので、日本で公開されたときは金を払って観に行きましょうや。

「UNDER THE SKIN」鑑賞


日本では「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」の題で10月に公開だそうな。

何もない宇宙から何もないスコットランドにやってきた、スカーレット・ヨハンソン型の宇宙人。彼女は死んだ少女の服を身にまとい、バンを乗り回しながら道を尋ねるふりをして通りの男性たちに声をかけて車内に誘う。彼女とねんごろな関係になれると期待した男たちはいそいそと彼女に従うのですが、彼女の家で服を脱ぎだしたところで暗闇にズブズブと沈んでいき、中身を吸われて哀れ皮だけの存在に…というようなストーリー。

お色気宇宙人に男が餌食になる「スペース・バンパイア」とか「スピーシーズ」を思わせるような設定ですが、中身は全く似てなくて、何の説明もなく断片化された話が続く、コテコテのアートフィルムになっている。70年代のアートなSF映画、特にニコラス・ローグの「地球に落ちてきた男 」に雰囲気は似ているかな。

不安をかきたてるような音楽にのせて描かれる、スコットランドの夜景とか男たちが餌食になるシーンはとても美しくて、批評家たちに絶賛されたのは分かるのですが、じゃあ観てて面白いかというとそうでもなく…。正直なところ結構しんどかったな。

でも寡黙な宇宙人の役に、ビッチな雰囲気のスカヨハはよく似合っている。あとはライダースーツを着た、セブン上司のような宇宙人も出てくるのですが、演技力よりもバイクのスキルが求められたということでプロのレーサーが演じてるそうな。またスカヨハに車で誘われる男性たちはみんな素人で、実際に声をかけられるシーンを隠しカメラで撮影していたのだとか。でも普通だったら「あなた、『アベンジャーズ』に出てませんでした?」とか言われそうなものなんだがなあ。彼らスッポンポンになって頑張ってます。顔に障害がある男性も、メークではなく実際にそういう人がキャスティングされたのだとか。

例によってメディアでは「スカヨハがフルヌードに初挑戦!」なんて煽られてますが、どのくらい裸が拝めるのかはここでは書きません。スカヨハの裸を期待した男たちが哀れな目に遭う映画に対して、スカヨハの裸を期待して映画館にやってきた男たちが哀れな目に遭うというメタな展開が繰り広げられるのではないかと、今から勝手に期待しておきます。