「ONLY GOD FORGIVES」鑑賞


ニコラス・ウィンディング・レフンが「ドライヴ」に続いてライアン・ゴズリングと組んで作った新作。とってもバイオレントな内容なので、「ドライヴ」みたいにクールな内容を期待してデートで観たりすると後悔すると思う。

舞台となるのはタイのバンコク。そこでムエタイのジムを経営するアメリカ人のビリーとジュリアンの兄弟は裏で麻薬の密輸に手を染めていたが、ある晩にビリーが未成年の少女を強姦して殺してしまう。この事件は「復讐の天使」ことチャン警部によって法の外で裁かれ、少女の父によってビリーは殺害されてしまうのだが、物事の顛末を知ったジュリアンはさらなる報復を望まなかった。しかし2人の母であるクリスタルが事件を知ってタイを訪れ、ビリーの復讐を遂げるようジュリアンに命じる。これを渋るジュリアンだったが彼の手下たちが少女の父親を殺害、さらにチャン警部の殺害も計画するが返り討ちに遭ってしまう。そしてここに双方による血で血を洗う復讐劇の火ぶたが切って落とされるのだった…というストーリー。

トレーラーを観たときはマーシャルアーツ系の映画かな、と思っていたのだが完全なサスペンスというかスプラッターっぽい話でありました。タイの暗黒街を背景に、やられたらやり返すといった展開で人がバンバン死ぬ内容になっております。タイには売春婦と悪徳警官しかいないような描かれ方をしているのだが、いいのかこれ。あと「ドライヴ」同様に女性への暴力描写がちょっと気になりましたね。

ライアン・ゴズリングは「ドライヴ」以上に無口なキャラクターを演じていて、それなりのサイコ君であることが示唆されるものの、あくまでもビリーの不祥事を始末し、一家の主である母親(二の腕が立派なクリスティン・スコット・トーマス)のワガママに振り回される哀れな役回りを演じております。むしろ話の中心人物はウィタヤー・パーンシーガーム演じるチャン警部で、タイトルの「GOD」は彼のことを指しているらしいが、全くもって許したりはせず、ナベからナタを駆使して相手をフルボッコにし、しまいにはカラオケで一曲歌うという全能っぷり。こういうのは西洋人による東洋へのリスペクト感が表れているのかなあ。

「ドライヴ」で主人公がトンカチもって乗り込むナイトクラブのシーンが延々と続く内容というか、なんか極端な展開がずっと続くのでカタルシスなどは全く得られず、本国などではいろいろ酷評されたわけだが、かといって決して悪い作品というわけでもない。ガスパー・ノエに影響されたというタイの夜景やナイトクラブの映像はスタイリッシュで非常に美しいし、「ドライヴ」のシンセポップに代わってジョン・カーペンターばりの重厚なシンセミュージックが全編に渡って効果的に用いられ、とても印象的な出来に仕上がっている。ストーリーが「なんじゃあこりゃ?」なのが問題なわけで。

なんかこの作品で行きつくところまで行ってしまった感のあるニコラス・ウィンディング・レフンだが、次はどうするんだろうね?一説によるとイギリスのカルトコミック「Button Man」の映画化を企画しているらしいが…。

「From One Second to the Next」鑑賞


相変わらず知らぬ間にドキュメンタリーをしれっと作ってしまっているヴェルナー・ヘルツォーク御大の新作。

アメリカで増加している、運転中に携帯電話でテキストメッセージを送ること(テキスティング)による脇見運転から生じた交通事故について扱った30分ほどのドキュメンタリーで、携帯会社が出資したものらしい。youtubeで全編が視聴できるほか、学校とかにも無償で配布されるそうな。

登場するのはテキスティング中の事故によって不幸に見舞われた4組の被害者および加害者で、半身不随になった少年、アーミッシュの家族3人を死傷させたドライバー、事故で廃人のようになってしまった女性の兄弟、事故で父親を失った娘とその加害者、といった人たちが登場し、事故の状況やその結果などについて淡々と語っていく。

テキスティングの特徴としてドライバーの完全な前方不注意というものがあり、ドライバーが何が起こったのかを把握できていないことや、ブレーキをかけていないため事故が凄惨なものになるということが紹介され、事故の状況を説明している警官が途中で言葉を失うシーンが印象的であった。あと被害者なのにもかかわらず莫大な医療費を請求されるのはアメリカが国として改善すべき問題だよな。

今回はヘルツォークの例のナレーションがないので「ヘルツォークっぽさ」が薄く、免許更新のときに見せられる不幸なビデオの特別延長版という感じではあるが、映像などは美しいし出てくる人たちの言葉は心に刺さりますよ。携帯電話を主因とした脇見運転というのは日本でも増えていると思うので、みなさんこれを観て安全運転を心がけましょう。

「パシフィック・リム」鑑賞


ジャパンプレミアで観てきたのだよ。いやー最高。オタクの恍惚ですな。ロボットアニメを観て育った世代にとって、これは外せないだろという話のツボをすべて押さえているという大変素晴らしい作品。文句のつけどころは殆どないのですが、気になったところをあえて挙げてみる:

・登場する巨大ロボット「イェーガー」のうち、ジプシー・デンジャーが主人公機のためかいちばんクセがなくて逆に物足りなかったりする。俺の好みは3人乗りのクリムゾン・タイフーン(上の画像)だな。ちょっとしか活躍しないけど。

・イェーガーの武器でいちばん強いのって、実は冷却ガスじゃないか?

・怪獣のデザインが「ヘルボーイ」のスピンオフコミック「BPRD」に出てくるモンスターに似てるな、と思ったら「BPRD」のガイ・デイビスがコンセプトアーティストとして関わっているのをクレジットで見つけて納得。

・怪獣の登場シーンはテロップつけて欲しかったっすね。「さそり怪獣 オータチ」といった調子で。

・ライバルのオーストラリア野郎のキャラが主人公とかぶってるのが勿体ない。あれはドーベルマンを飼っている、キザでニヒルな長髪という役にしてほしかった。

・いちばんいい役どころはストリンガー・ベル長官がすべて持っていっています。主人公たちは残り物にありついている感じ。

・菊地凛子の他の映画って観たことがないのですが、あれが地の英語力になるの?

・去年の「ダークナイト・ライジング」に続き、バーン・ゴーマンが夏の大作に出ているのが「トーチウッド」のファンには嬉しいこってす。

・そして謎の「由美子剣」!

本来ならば日本人が作らなければならなかった作品を、メキシコ人が作ってしまったことに我々は深く感謝すべきであろう。この作品の良さが毛唐どもには分からなかったらしく全米の興行成績は苦戦してるらしいが、日本のオタクどもよ、夏休みを返上してでもこの映画を観にいけ!俺も金払ってまた観に行くよ!

「トランス」鑑賞

ダニー・ボイルの新作。去年のロンドン・オリンピックの前後に製作したものらしい。以後ネタバレ注意な。

一流の絵画を扱うオークション・ハウスに務めるサイモンは、オークション中にフランク率いる強盗団に襲撃され、ゴヤの作品を奪われてしまう。しかしフランクが手にしたのは空の額縁だけだった。実はサイモンとフランクはグルであり、サイモンが協力してフランクに絵画を渡すはずだったのが、サイモンが途中でどこかに隠してしまったのだ。しかし襲撃の最中にサイモンが頭を強打されたことで記憶喪失になってしまい、絵画をどこに隠したのかは彼自身も分からなくなってしまっていた。サイモンを拷問にかけても絵画の行方が分からないことを悟ったフランクは、彼の記憶を取り戻すために催眠療法のセラピストであるエリザベスという女性の助けを借りることにするのだが…というプロット。

サイモンとフランクとエリザベスの三者にそれぞれに思惑があって、陰謀や裏切りが錯綜していくさまはボイルのデビュー作「シャロウ・グレイヴ」に通じるところがあるかな。脚本も「グレイヴ」のジョン・ホッジと久しぶりに手を組んでいるし。元々「グレイヴ」のあとに別の脚本家から持ち込まれたストーリーがベースになっていて、それを今になって映画化したものなのだとか。以前にもその脚本を用いたTVムービーが製作されてるらしいので、そっちも観てみたいな。

最近のボイルの作品に顕著であった、凝ったアングルや視覚効果は「やや」抑え気味になっており、比較的ストレートなサスペンス映画に仕上がっている。ただ画面の色使いは個人的には好きになれなかったかな。頭の中を扱ったサスペンスということで「インセプション」と比べる向きもあるみたい。

サイモンを演じるのがジェームズ・マカヴォイで、「Xメン」とかを観たあとではスコットランド訛り全開の演技は結構違和感を感じますね。ヒール役のフランクはヴァンサン・カッセルが演じていて、熱演をしているものの他の2人に翻弄されてばかりなのでちょっと損な役。そして実質的な主人公ともいえるエリザベス役のロザリオ・ドーソンは下の毛も剃ってすっぽんぽんになるほどの体を張った演技をしているのですが、フェム・ファタールというには行動的すぎるというか、「やる側」と「やられる側」の境界がいまいち曖昧すぎたかもしれない。

登場人物みんなに陰があって感情移入しにくいところや、後になって考えるといろいろ穴があるプロット、そしてそもそも催眠術が万能すぎやしないか?という点などがひっかかって、ボイルの作品のなかでは必ずしも上位に来るものではないものの、相変わらずテンポのいい編集や比較的短めの尺に助けられ、中だるみせずに最後まで話を引っ張っていくことには成功しているかと。ボイルはいまの映画界においていちばん多種多様なジャンルを手がけている監督であり、人によっては「スラムドッグ」や「127時間」よりもこっちを好むこともあるでしょう。そしてジョン・ホッジと久々に手を組んだということは、次はいよいよ「トレインスポッティング」の続編か…?

「Comic-Con Episode IV: A Fan’s Hope」鑑賞


日本じゃあまり報道されないが、アメリカではこの時期にサンディエゴで巨大なコミック・コンベンション(コミコン)が開催され、全米中のオタクどもがコスプレして集結し、マンガやフィギュア買ったりプロのアーティストのサインもらったりするわけですよ。

もともとは70年代に数百人ほどが参加した程度の集いだったが、特に21世紀に入ってからはジャンル映画の格好のマーケティングの場所であることに気づいた映画会社がスターなどを送り込んで大々的な宣伝やニュース発表を行い、もはやコミックというより映画やゲームの集いとなって10万人以上の参加者がやってくる大イベントになってしまった。今年はメタリカが来てライブをやったらしく、今後は音楽業界も絡んでいくのかな?

そんな数多の人々が集まるコミコンの姿を紹介したのがこのドキュメンタリーで、監督は「スーパーサイズ・ミー」のモーガン・スパーロックだが彼自身はカメラの前には登場しません。スタン・リーやジョス・ウィードン、ギレルモ・デル・トロ、グラント・モリソン、AintItCoolのデブ君などオタク好みの有名人がそれぞれのコミコン体験を語る映像を散りばめながら、コミコンに参加した何人かの一般人を追った内容になっている。

カメラが追う参加者はフィギュアのコレクター、アマチュアのコミックアーティスト、コミックのディーラー、コスプレのコンテストの参加者、そしてケヴィン・スミスのいる会場でガールフレンドにプロポーズしようと試みる少年など。コミコンの数日間のなかで彼らはそれなりの喜びや挫折を経験したりするわけだが(ちなみにプロポーズは成功するよ)、興味深かったのは自分のアートをコミック会社のブースに持ち込んで披露し、それが評価されたことで仕事を得るアマチュアのアーティストのところで、コミック会社がきちんとカウンセリングしてプロへの道を開いてあげる、という場は日本のコミケとかにもないんじゃないかな?その一方で作品を評価されずに落胆するアマチュアもいたりするわけですが。

また参加者のなかでいちばんパッとしなかったのは皮肉にもコミックのディーラーで、老舗オンラインストアのマイルハイ・コミックスの社長が出てくるんだけど、あまり期待したほどの売上も出せず「コミコンはもはやコミックのイベントではなくなった」と嘆くのが印象的であった。俺もむかしマイルハイを使ってたので寂しいのですが、ゲームや映画の派手な宣伝が行われてる片隅で、古いコミックを並べて売っているディーラーたちは確かに時代に取り残されていくのかも。

コミコンの裏事情を解説したりこれからの課題を問うわけでもなく、ただ参加者たちの様子を撮影したドキュメンタリーであり、金払ってまで観るようなものではないかもしれないけど、参加者の熱気はよく伝わってくるし悪い作品ではないですよ。いつか俺もコミコン行ってみたいなあ。