「A Glimpse Inside the Mind of Charles Swan III」鑑賞


ロマン・コッポラの新作。「AVクラブ」では最低点の「F」をつけられ、その他の批評でもケチョンケチョンに叩かれていたいわくつきの作品で、iTunesストアで99セントでレンタルしたから金の無駄にはならなかったものの、まあ観るだけ時間の無駄な作品であったよ。

舞台は70年代。チャールズ・スワンは成功したグラフィック・デザイナーだったが、分かれた彼女のことが忘れられず、胸に痛みを感じて病院に担ぎ込まれる。そこへ彼の友人や妹、マネージャーなどが見舞いに訪れるが、スワンの頭のなかでは夢と現実がごっちゃになっていき…というプロット。

コッポラの前作「CQ」は60年代を舞台にした映画監督の物語だったわけで、どれだけ引き出しが小さいんだよ!こちらはストーリーを語ることももはや放棄していて、60〜70年代テイストの悪夢がつなぎあわされてるだけ。時には西部劇っぽく、時にはスパイものっぽく夢が展開していくのですが、中身がからっぽであることは一目瞭然なわけで。いちおう大団円のようなものも最後にあるけど、それまでに主人公が苦境に遭うわけでもなく、ただ淡々と話が進むのでカタルシスも何も感じられず。

遊び人である主人公のスワンを演じるのはチャーリー・シーン。実生活でもバッドボーイのイメージが定着しているシーンは確かにこの役に合ってはいるのですが、あまりにも本人そのまんまというか、役者に役が完全に食われてしまっている。あとはジェイソン・シュワルツマンとかビル・マーレイとかパトリシア・アークエットなどがペラペラの役で出ています。マーレイを出すことができたのはウェス・アンダーソンつながりかな。

そのウェス・アンダーソンだって60年代テイストを多用してるけど、あっちは家族愛とかをしっかり根底に描いているわけで、こんなスタイル以外に何もない映画のようにはなってないでしょ。とりあえずロマン・コッポラはミシェル・ゴンドリーや元義弟のスパイク・ジョーンズあたりに弟子入りして夢のシーケンスの撮り方を学ぶように。

確かにスタイル「だけ」は見事に決まっているし、いかにもなラウンジ・ミュージックも似合ってるよ。でも映画ってそんな上っ面だけのものじゃないだろうに。渋谷系(死語)とか好きな人はビジュアルだけ見て賞賛するかもしれないが、そんな人とは仲良くなりたくないね。「僕ってこんなの撮れるんだよ。ねえ、オサレでしょ?」というコッポラの自己満足だけが漂ってくるような作品。最後に本人が顔を出すところはもう勘弁してくれよ、といった感じでした。金持ちのボンボンに映画を作らせると、どんだけの駄作が出来上がるかがよく分かる1本。

「SOUND CITY」鑑賞


デイヴ・グロールが監督したドキュメンタリー。

ロサンゼルスにあったサウンド・シティという伝説的な録音スタジオを扱ったもので、60年代にヴォックスのショールームを改装して作られたサウンド・シティは(偶然にも)抜群のドラム・サウンドを誇っており、大枚をはたいてカスタムメイドしてもらったニーヴのミキシング・コンソールを装備していた。ニール・ヤングの「アフター・ザ・ゴールドラッシュ」はここで録音されたほか、スティーヴィー・ニックスとリンジー・バッキンガムのアルバムも製作されていた。そしてスタジオにたまたま来ていたミック・フリートウッドが彼らに出会い、そこでフリートウッド・マックのアルバムが録音されたことからミュージシャンの注目を集めるようになり、トム・ペティ&ハートブレイカーズ、グレイトフル・デッド、チープ・トリックといった有名どころが続々とアルバムをそこで収録していく。

またスタジオのオーナーたちはバンドのマネージメントも行うようになり、リック・スプリングフィールドを発掘して大当たりするものの、その後のマネージメントは成功しなかった(スプリングフィールドの奥さんはスタジオの元スタッフだそうな)。さらに80年代になってからはシーケンサーやサンプラーなどがポピュラーになり、デジタル音源が好まれるようになって、アナログ一辺倒だったサウンド・シティの人気は下火になっていく。しかし90年代になってニルヴァーナがたまたまそこで「ネバーマインド」を録音し、それが世界的な大ヒットになったことから、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやレッチリなどといったバンドがそこを使用することになる。2000年代になってもメタリカやQOTSAなどの有名バンドがアルバムを録音するものの、プロツールズの台頭による製作費のコスト削減の波には勝てず、2011年をもってサウンド・シティは閉じてしまったらしい。

そしてこのオンボロスタジオの思い出をニール・ヤングやスプリングフィールド、リック・ルービンにブッチ・ヴィグなどといった関係者がいろいろ出てきて語っていく。またニーヴのコンソールはその後グロールが買い取って自分のスタジオに設置し、そこでポール・マッカートニーやクリス・ノヴォセリックとセッションをしたりする姿が後半30分くらい紹介されている。

グロールの音楽好きと、他のミュージシャンへのリスペクトはひしひしと伝わってくる内容ではあるものの、登場するミュージシャンの話はどれもスタジオを褒めてるだけで深い話はされないし、観たあとで考えさせられるようなドキュメンタリーではないな。アナログ万歳みたいな内容になるかなと思いきやプロツールズも悪くないよね、みたいな展開になってたし。サウンド・シティの閉鎖のことがきちんと描かれず、そのままグロールのスタジオに話が移るのも不満といえば不満かな。アメリカでは高い評価を受けたようだけど、劇場で金払ってまで観るほどの出来ではないかと。ここに出てくるミュージシャンたちを好きな人なら観て楽しめるし、そうでない人はあまり得るものがないだろうという、まあそんな感じの作品です。

「スター・トレック イントゥ・ダークネス」鑑賞


こないだアメリカで観てきてしまったのだよ。ネタバレにならない範囲で感想をいくつか:

・例によってJJエイブラムスの「宿題きちんとやりました」的な作品。でもまあ最初から最後までアクションの連続で、観てて飽きさせない内容になっていることは評価しておく。深いテーマも無くアクションに頼っているのを批判する人もいるようだけど、STは映画版はいつもそんな調子だったので大目に見よう。

・3Dは毎度ながら意味無し。しかし3Dで浮かぶレンズフレアだけはうざい。あれ本当にうざい。

・ストーリーは過去の劇場版のオマージュというかアレンジなので、あれを観てないと十分に楽しめないかも。

・ノエル・クラークは完全なカメオ出演。セリフもろくに無かったような。ブルース・グリーンウッドもチョイ役。

・アントン・イェルチンもあまり見せ場がないが、俺あいつ嫌いだからいいや。代わりにサイモン・ペグ演じるスコッティが大活躍!

・ジョン・チョウはジョージ・タケイの話し方を真似てるんだが、似合ってないよな。

・スポック、そいつに頼るなよ。

・クリンゴンは別に出さなくても良かったんじゃね?

・セクション31について言及されていた?

・宇宙大作戦のくせに地球とその周辺での展開に終始して、あまりセンス・オブ・ワンダーが感じられないのはちょっとね。というか宇宙艦隊の地球防衛網はザルか?DS9で地球が攻撃されたときはもっと立派に防衛してたぞ。

・最後にネタバレをひとつ。リンク先は音が出るよ。

前作では時間改変までやって過去と決別したかと思いきや、過去作の焼き直しになってしまっているのはどうなんだろうね。そりゃオールドファンは嬉しいだろうけどさ、まさか次回作ではタイムトラベルしてクジラを救ったりはしないだろうな?

まあでもこれでエイブラムスはSTと手を切るだろうから、あとはジョー・ジョンストンとかブラッド・バードみたいな冒険活劇を撮れる人が監督をすると面白いんじゃないだろうか。個人的にはやはりTVシリーズ化してくれると嬉しいんだけどね。

機内で観た映画

先週いっぱい海外に行ってまして、飛行機のなかで観た映画・番組の感想を簡単にざっと:

・「ヘンゼル&グレーテル」
完全にB級作品だと割り切って観れば、さほど悪くはない。ジェマ・アタートン可愛いし。でも主人公たちは武器を落としすぎ。ストラップつけとけよ!そして最強の武器がスコップだとは。敵の魔女は特殊メークがきついので別にファムケ・ヤンセンが演じる必要もなかったと思う。

・「Rise of the Guardians」
日本語吹替を作ってるじゃん!なら日本公開すればいいのに。ストーリー自体は比較的凡庸なので、「ヒックとドラゴン」や「メガマインド」などと比べると色褪せてるのは否めない。もっと大きな画面で観れば映像美などが堪能できたのかもしれないけどね。

・「バレット」
着陸前だったので少しはしょって観た。巨匠ウォルター・ヒル作品といえども、やっつけ仕事だなあという感じ。主人公のナレーションが入ると、どうも減点したくなるのよね。特にそれがスタローンだったりすると。軽薄なスーツ野郎を演じるクリスチャン・スレーターだけは本人そのままでやけに適役であったことを記しておく。

・「Phil Spector」
HBOのTVムービー。アル・パチーノ演じるフィル・スペクターと、彼の弁護士を演じるヘレン・ミレンによる密室劇が話の大半を占めるあたりは、いかにもデビッド・マメット作品というべきか。ただし現実の展開がどうしてもああなので、ものすごく煮え切らない終わり方をしてしまっている。

・「ダイ・ハード/ラスト・デイ」
いかにも第5作目のアクション映画、という内容。もはや「ダイ・ハード」を名乗る必要はないのでは。画面づくりも暗くて陰気くさいし。

・「シュガー・ラッシュ」
ゲームの世界の規則が文字通り「機械じかけの神」っぽいというか、なんか都合良く出来てんなあ、という気がしなくもないが、それでも主人公がやる気を取り戻していく様は良かったよ。性格ひん曲がった少女の声をサラ・シルバーマンがあててるのが素晴しすぎる。

・「HOUSE OF CARDS」
日本でも今度やるネットフリックスのドラマ。ケヴィン・スペイシーは嫌いではないが、これもやはり主人公のナレーションが入り、第4の壁を破って視聴者に話しかけてきたりするとすごく鼻につくな。スクープを狙う新人女性記者とか、冷淡で野心的な政治家の妻といったキャラも陳腐すぎる。でもこれクリステン・コノリーが出てるのか。

「UPSTREAM COLOR」鑑賞


タイムラインが最大9つも重なる複雑さでカルト的人気を誇る「プライマー」のシェーン・カルースによる、約9年ぶりの作品。話の仕組みについて語らないとどうにもならないので、以降はネタバレ注意。

まず冒頭に出てくるのは、特定の蘭に巣食う小さなイモムシ。このイモムシは人間の体内に入るとその人の精神を操る能力を持っていた。そしてその力を悪用した「泥棒」によって、クリスという女性が精神を乱され、貯金をすべて「泥棒」に奪われてしまう。そしてクリスは正気に返ったあとに体内のイモムシを取り出そうとするが失敗する。そんな彼女の前に現われたのが、自然のさまざまな音を録音し、養豚場を経営する「サンプラー」という男性だった。彼によってクリスのイモムシは取り除かれ、とある豚にそれが移植される。そして日常生活に戻ったクリスは、ジェフという男性と出会い、やがて彼と恋仲になる。しかしジェフもまた、イモムシに寄生された経験を持っていた。そしてクリスとジェフのあいだではやがて精神がつながり、お互いの記憶が共有されていく…というようなストーリー。

あらすじをとてもざっくり書くと一応こんな感じだが、劇中では登場人物の意図などは一切説明されず、抽象的なセリフとイメージの積み重ねがひたすら続く、かなり難解な内容になっている。そして「プライマー」同様にカルースはこの映画の内容について明確な解説をせず、ネット上では例によってさまざまな見解が飛び交っているみたい。いちど前知識なしに観たあとに、そうした見解や監督のインタビューを読んでから再度観るといろいろ細かい設定や手がかりに気づくかもしれないが、それでも話の全貌が明らかにされることは「プライマー」と同様に無いだろうな。

いちおう「蘭・ブタ・人間」というつながりがあり、それぞれに「蘭の採集者・サンプラー・泥棒」といった人たちが関わっていることは示唆されてて分かるのですが、それらが何を意味しているのかは明確に分からず。あと途中で出てきた不和なカップルは何だったんだろう。また豚とクリスのあいだに何かしらのつながりがあることは明白で、この世における自然の大きなサイクルと、そこからの離脱が作品の大きなテーマになっているみたい。こうした万物のつながりをテーマにし、CGを使わずに化学的な特殊効果映像を用いているあたりは「ザ・ファウンテン」に似ているかとも思いました。

クリスを演じるエイミー・セイメッツという女優さんはインディペンデント系作品でいろいろ活躍している人のようで、ティナ・フェイを丸顔にしたような美人。このあとHBOのシリーズや「THE KILLING」の新シーズンに登場するらしいので、今後さらにブレークしていくんじゃないかな。そしてジェフ役を演じるのはシェーン・カルース本人。カルースは出演と監督・脚本のほかにも撮影や音楽などもこなす多才ぶりを発揮しているのですが、その映像も音楽も大変素晴らしいのですよ。「プライマー」は16ミリで撮影したテキサスの暑い日ざしが印象的だったが、今回はおそらくデジタル撮影をしていて、フレアを効果的に使った非常に美しい映像になっている。また「プライマー」では聞き取りにくかった音声も今回ははっきりしていて、サンプラーが録音・作成する音も劇中で重要な意味を与えられていた。

十分に楽しむには内容が難解すぎるきらいはあるものの、今後もその内容について多くの解釈が論じられ、新たな発見がされていく作品になるんじゃないだろうか。サンダンスで話題になったものの大手配給会社を通さず、カルース自身が直接配給を手がけていくとのことなので日本での公開はどうなるか分からないが、観ておいて損はない作品じゃないですかね。またこの作品の前にカルースは「A Topiary」という作品を長年企画していて、費用の関係などで製作を断念しているのだが、その映像らしきものがこの作品に少しだけ挿入されていて、それが大変面白そうなのですよ。こっちも映画化してくれないかなあ。なお今年の夏には早くも新作の撮影にとりかかるそうなので、また10年近くも待たされることにはならないでしょう。