「UPSTREAM COLOR」鑑賞


タイムラインが最大9つも重なる複雑さでカルト的人気を誇る「プライマー」のシェーン・カルースによる、約9年ぶりの作品。話の仕組みについて語らないとどうにもならないので、以降はネタバレ注意。

まず冒頭に出てくるのは、特定の蘭に巣食う小さなイモムシ。このイモムシは人間の体内に入るとその人の精神を操る能力を持っていた。そしてその力を悪用した「泥棒」によって、クリスという女性が精神を乱され、貯金をすべて「泥棒」に奪われてしまう。そしてクリスは正気に返ったあとに体内のイモムシを取り出そうとするが失敗する。そんな彼女の前に現われたのが、自然のさまざまな音を録音し、養豚場を経営する「サンプラー」という男性だった。彼によってクリスのイモムシは取り除かれ、とある豚にそれが移植される。そして日常生活に戻ったクリスは、ジェフという男性と出会い、やがて彼と恋仲になる。しかしジェフもまた、イモムシに寄生された経験を持っていた。そしてクリスとジェフのあいだではやがて精神がつながり、お互いの記憶が共有されていく…というようなストーリー。

あらすじをとてもざっくり書くと一応こんな感じだが、劇中では登場人物の意図などは一切説明されず、抽象的なセリフとイメージの積み重ねがひたすら続く、かなり難解な内容になっている。そして「プライマー」同様にカルースはこの映画の内容について明確な解説をせず、ネット上では例によってさまざまな見解が飛び交っているみたい。いちど前知識なしに観たあとに、そうした見解や監督のインタビューを読んでから再度観るといろいろ細かい設定や手がかりに気づくかもしれないが、それでも話の全貌が明らかにされることは「プライマー」と同様に無いだろうな。

いちおう「蘭・ブタ・人間」というつながりがあり、それぞれに「蘭の採集者・サンプラー・泥棒」といった人たちが関わっていることは示唆されてて分かるのですが、それらが何を意味しているのかは明確に分からず。あと途中で出てきた不和なカップルは何だったんだろう。また豚とクリスのあいだに何かしらのつながりがあることは明白で、この世における自然の大きなサイクルと、そこからの離脱が作品の大きなテーマになっているみたい。こうした万物のつながりをテーマにし、CGを使わずに化学的な特殊効果映像を用いているあたりは「ザ・ファウンテン」に似ているかとも思いました。

クリスを演じるエイミー・セイメッツという女優さんはインディペンデント系作品でいろいろ活躍している人のようで、ティナ・フェイを丸顔にしたような美人。このあとHBOのシリーズや「THE KILLING」の新シーズンに登場するらしいので、今後さらにブレークしていくんじゃないかな。そしてジェフ役を演じるのはシェーン・カルース本人。カルースは出演と監督・脚本のほかにも撮影や音楽などもこなす多才ぶりを発揮しているのですが、その映像も音楽も大変素晴らしいのですよ。「プライマー」は16ミリで撮影したテキサスの暑い日ざしが印象的だったが、今回はおそらくデジタル撮影をしていて、フレアを効果的に使った非常に美しい映像になっている。また「プライマー」では聞き取りにくかった音声も今回ははっきりしていて、サンプラーが録音・作成する音も劇中で重要な意味を与えられていた。

十分に楽しむには内容が難解すぎるきらいはあるものの、今後もその内容について多くの解釈が論じられ、新たな発見がされていく作品になるんじゃないだろうか。サンダンスで話題になったものの大手配給会社を通さず、カルース自身が直接配給を手がけていくとのことなので日本での公開はどうなるか分からないが、観ておいて損はない作品じゃないですかね。またこの作品の前にカルースは「A Topiary」という作品を長年企画していて、費用の関係などで製作を断念しているのだが、その映像らしきものがこの作品に少しだけ挿入されていて、それが大変面白そうなのですよ。こっちも映画化してくれないかなあ。なお今年の夏には早くも新作の撮影にとりかかるそうなので、また10年近くも待たされることにはならないでしょう。

「JUDGE MINTY」鑑賞


なんか知らぬ間にとつぜん作られていた「ジャッジ・ドレッド」のファンフィルム。クレジットから察するに、非営利目的での利用を条件に、キャラクターの使用を「2000AD」側に認められたのかな?「2000AD」に掲載されたストーリーが原作になっているらしく、主人公はドレッドでなくミンティという初老のジャッジ。ドレッドも冒頭にちょっと出てきてます。

ミンティはメガシティ・ワンで長年にわたって法を裁いてきたジャッジだったが、年をとったことで判断力が衰えたことが明白になり、引退を勧告される。彼はアカデミーでの教職の座を断り、メガシティ・ワンの外の無法地帯「カースド・アース」に法をもたらすためにジャッジがそこを死ぬまで放浪する「ロング・ウォーク」に出ることを決意する。そしてジャッジたちに見送られてカーズド・アースに出たミンティだったが、さっそくミュータントの荒くれ者たちに身を狙われることになり…というプロット。

低予算の作品なので映像のクオリティとか小道具の出来とかに安っぽい感じもするのだけど、それを補ってありあまるくらいにファン精神にあふれ、細かく作り込まれた作品なのですよ。ローマスターバイクのデザインなんて過去の映像化のなかでいちばん原作に近いんじゃないだろうか。冒頭にはチョッパーも少し出てくるぞ。ただ最後のトカゲ(?)の設定がよく分からなかったので、詳しい方いたら教えてください。

カール・アーバン版の「ドレッド」のほうは興行成績があまり良くなかったために続編の製作は打ち切りになってしまったらしいが、こういう良質な作品を低予算で作ることができるのなら、今後はいろんなキャラクターをフィーチャーした短編を作る方向にシフトするのもありなんじゃないかと。「2000AD」の元の話はどれも比較的短いものばかりだし、無理して長編の話を作るよりも適合性があると思う。

「アイアンマン3」鑑賞


3Dなんかで観てやんないですよーだ。
ネタバレにならない程度に感想をざっくり:

・パラマウントのロゴはいつまで出すんだ。
・いちばん不思議なのはクリスマスの時期を舞台にしていることで、「夏の大作だけど、冬の話でもいいよね?」と言って企画が通るものなんだろうか。
・皆が中国におべっか使ってるご時世に、中国人の悪役を起用するとは大胆な…と思ってたらマンダリンは中国人ではないのか。ならばなぜマンダリンという名前なんだろう。
・ガジェットに重きを置きがちだった「2」に対し、あくまでも生身のトニー・スタークに焦点をあてることで、話を新鮮にすることに成功しているかと。
・ただ敵のアジトに侵入するくだりなどは、90年代のコップムービー的というか、シェーン・ブラックは脚本使い回してない?とも思いました。
・最初から最後までマーク42のアーマーが大活躍なのですが、やっぱりデザインが好きになれんのだよな…。シルバー・センチュリオン型とかではいけなかったんだろうか。

いちおうマーヴェル映画の、アベンジャーズ後を描いた「フェーズ2」の第1弾となる作品だが、後に続くような伏線が張られていることもなく、前作に比べてもスッキリと楽しめる良作。「アイアンマン」シリーズに出るのはこれが最後だとダウニーJr.自身は仄めかしてるらしいが、「アベンジャーズ2」には何かしらの形で出演するだろうし、エンドクレジットに「TONY STARK WILL RETURN」とデカデカと書かれてたので、数年後には必然的にイケメンが主演するリブートが待ち受けているのでしょう。

「iSteve」鑑賞


コメディ動画サイト「Funny Or Die」による長尺のパロディ作品。ここで無料で視聴できるよ。

名前で分かるようにアップルのスティーブ・ジョブズの生涯をパロディにしたもので、19歳のときに啓蒙を求めてアジアに旅したところから始まり、スティーブ・ウォズニアックやビル・ゲイツとの出会い、マッキントッシュの誕生、アップルからの追放そして復帰、ピクサーの創立、iPodの発売などといった出来事が駆け足で語られていく。

とはいえパロディ作品なので歴史的考証などはゼロに近くて、ゲイツとはメリンダ・ゲイツをめぐって三角関係になっていたとか、ジョン・スカリーはコモドール社が送った刺客だったとか、iPodのアイデアはスマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンとLSDをキメてたときに思いついたとか、かなりウソだらけの展開が続くので本気にしてはいけないよ。スカリーなんてジョブズが復帰したあとにコモドールのボスと一緒に服毒自殺したりしてるんだが、訴えられたりしないのかこれ。

ただしハチャメチャな話が続くので面白いのかというと必ずしもそうではなくて、なんか全体的に間延びしているというか、ショボいジョークが続いていくような感じ。脚本が3日で書かれて撮影が5日で済んだそうだが、粗削りというか、こなれた作りになっていないんだよね。「Funny Or Die」は偽の映画のトレーラーを作らせると殺人的に面白いのだが(これとか)、実際の長尺映画を作れるほどのスキルはなかったということかな。

ジョブズを演じるのはオタクの星ジャスティン・ロング。アップルの「Get a Mac」のコマーシャルでマッキントッシュ役を演じていた彼です。劇中ではCMの撮影シーンで別の役者がロングを演じていて、ジャスティン・ロング演じるジョブズがロングを怒鳴る、なんてシーンもあるぞ。あとはスティーブ・ウォズニアックをホルヘ・ガルシアが演じてます。豪華俳優が無駄に出演していることが多い「Funny Or Die」の作品にしては有名どころがあまり出ていないかな。

今後はアシュトン・カッチャー主演のものとアーロン・ソーキン脚本のものというようにジョブズの伝記映画が2つ出てくる予定であり、それらに対抗して「最初のジョブズ映画」と自慢しているこの作品ですが、観たい人は時間があるときにダラダラ観ることをお勧めします。それでもアシュトン・カッチャーのやつよりかは面白いんじゃないか、という気もしますが。

「John Dies At The End」鑑賞


『ファンタズム』シリーズや『プレスリーVSミイラ男』のドン・コスカレリによる新作。原作はCracked.comでいろいろ面白い記事を書いているデビッド・ウォンことジェイソン・パージンの小説。

内容がぶっ飛んでて、話の時系列もかなり入り乱れてるのであらすじを説明するのが難しいのだが、とりあえず劇中の出来事を箇条書きにすると:

・主人公のデビッドが怪しい中華料理屋で記者の取材を受ける。
・デビッドは謎のドラッグ「ソイ・ソース」を服用しており、その副作用で超人的な感覚を備えていたため超自然的な怪物を探知することができ、友人のジョンとゴーストバスターズ的な仕事をしていた。
・デビッドとジョンはあるパーティーで知り合ったのだが、その晩にデビッドは謎の男に車中で襲われ、誤って「ソイ・ソース」を自分に打ち込んでしまう。
・その直後に警察に逮捕されるデビッド。彼らによるとパーティーの参加者がみんな死亡するという事件が起きており、それとの関与を疑われてデビッドは逮捕されたのだ。
・さらにジョンまでもが死亡したと警察に伝えられるデビッド。愕然とする彼だったが、携帯電話にジョンからの電話がかかってきて…。

という内容に加えて、片腕のガールフレンドとか空とぶ口ヒゲとか生体コンピューターなどが出てきて、クリーチャーもたくさん出てきます。ドラッグや幻覚(?)による意味不明な展開はリンチやクローネンバーグ的でもあるのだが、基本的には悪趣味コメディに徹していて、裸のランチっぽく始まったかと思いきや「ゴーストハンターズ」みたいになり、「キャプテン・スーパーマーケット」になったかと思ったらオチは「ビル&テッド」だった、というような映画。

そもそも「ソイ・ソース」って一体何よ、という疑問から始まり、観終わったあとでも話の整合性が全然理解できなかったりするわけだが、こまけーことはいいんだよ!という気分で先の読めないドタバタな展開を楽しみましょう。個人的にはかなり面白かったよ。そんなに予算かかってないと思うがクリーチャーもCGも結構効果的に使われており、もっとハードSFっぽい映画を作ろうと思えば作れたかもしれんな(別にその必要はないとはいえ)。

デビッドとジョンを演じる役者たちはよく知らないけど、有名どころとしてはデビッドを取材する記者をポール・ジアマッティが演じている。それなりに怪演をしているのだけど、それでもこの映画では他のキャラに喰われてしまっているという。

日本で公開するかどうかは分かりませんが(追記:『クリーチャーズ 異次元からの侵略者』という題で6月にDVD出るらしい)、マグネット・リリーシングの他の作品(「RUBBER」や「タッカーとデイル」とか)に比べてもかなり楽しめる作品なので、ハイになって鑑賞することをお勧めします。

ちなみにジョンは最後に…。