「JUDGE MINTY」鑑賞


なんか知らぬ間にとつぜん作られていた「ジャッジ・ドレッド」のファンフィルム。クレジットから察するに、非営利目的での利用を条件に、キャラクターの使用を「2000AD」側に認められたのかな?「2000AD」に掲載されたストーリーが原作になっているらしく、主人公はドレッドでなくミンティという初老のジャッジ。ドレッドも冒頭にちょっと出てきてます。

ミンティはメガシティ・ワンで長年にわたって法を裁いてきたジャッジだったが、年をとったことで判断力が衰えたことが明白になり、引退を勧告される。彼はアカデミーでの教職の座を断り、メガシティ・ワンの外の無法地帯「カースド・アース」に法をもたらすためにジャッジがそこを死ぬまで放浪する「ロング・ウォーク」に出ることを決意する。そしてジャッジたちに見送られてカーズド・アースに出たミンティだったが、さっそくミュータントの荒くれ者たちに身を狙われることになり…というプロット。

低予算の作品なので映像のクオリティとか小道具の出来とかに安っぽい感じもするのだけど、それを補ってありあまるくらいにファン精神にあふれ、細かく作り込まれた作品なのですよ。ローマスターバイクのデザインなんて過去の映像化のなかでいちばん原作に近いんじゃないだろうか。冒頭にはチョッパーも少し出てくるぞ。ただ最後のトカゲ(?)の設定がよく分からなかったので、詳しい方いたら教えてください。

カール・アーバン版の「ドレッド」のほうは興行成績があまり良くなかったために続編の製作は打ち切りになってしまったらしいが、こういう良質な作品を低予算で作ることができるのなら、今後はいろんなキャラクターをフィーチャーした短編を作る方向にシフトするのもありなんじゃないかと。「2000AD」の元の話はどれも比較的短いものばかりだし、無理して長編の話を作るよりも適合性があると思う。

「アイアンマン3」鑑賞


3Dなんかで観てやんないですよーだ。
ネタバレにならない程度に感想をざっくり:

・パラマウントのロゴはいつまで出すんだ。
・いちばん不思議なのはクリスマスの時期を舞台にしていることで、「夏の大作だけど、冬の話でもいいよね?」と言って企画が通るものなんだろうか。
・皆が中国におべっか使ってるご時世に、中国人の悪役を起用するとは大胆な…と思ってたらマンダリンは中国人ではないのか。ならばなぜマンダリンという名前なんだろう。
・ガジェットに重きを置きがちだった「2」に対し、あくまでも生身のトニー・スタークに焦点をあてることで、話を新鮮にすることに成功しているかと。
・ただ敵のアジトに侵入するくだりなどは、90年代のコップムービー的というか、シェーン・ブラックは脚本使い回してない?とも思いました。
・最初から最後までマーク42のアーマーが大活躍なのですが、やっぱりデザインが好きになれんのだよな…。シルバー・センチュリオン型とかではいけなかったんだろうか。

いちおうマーヴェル映画の、アベンジャーズ後を描いた「フェーズ2」の第1弾となる作品だが、後に続くような伏線が張られていることもなく、前作に比べてもスッキリと楽しめる良作。「アイアンマン」シリーズに出るのはこれが最後だとダウニーJr.自身は仄めかしてるらしいが、「アベンジャーズ2」には何かしらの形で出演するだろうし、エンドクレジットに「TONY STARK WILL RETURN」とデカデカと書かれてたので、数年後には必然的にイケメンが主演するリブートが待ち受けているのでしょう。

「iSteve」鑑賞


コメディ動画サイト「Funny Or Die」による長尺のパロディ作品。ここで無料で視聴できるよ。

名前で分かるようにアップルのスティーブ・ジョブズの生涯をパロディにしたもので、19歳のときに啓蒙を求めてアジアに旅したところから始まり、スティーブ・ウォズニアックやビル・ゲイツとの出会い、マッキントッシュの誕生、アップルからの追放そして復帰、ピクサーの創立、iPodの発売などといった出来事が駆け足で語られていく。

とはいえパロディ作品なので歴史的考証などはゼロに近くて、ゲイツとはメリンダ・ゲイツをめぐって三角関係になっていたとか、ジョン・スカリーはコモドール社が送った刺客だったとか、iPodのアイデアはスマッシング・パンプキンズのビリー・コーガンとLSDをキメてたときに思いついたとか、かなりウソだらけの展開が続くので本気にしてはいけないよ。スカリーなんてジョブズが復帰したあとにコモドールのボスと一緒に服毒自殺したりしてるんだが、訴えられたりしないのかこれ。

ただしハチャメチャな話が続くので面白いのかというと必ずしもそうではなくて、なんか全体的に間延びしているというか、ショボいジョークが続いていくような感じ。脚本が3日で書かれて撮影が5日で済んだそうだが、粗削りというか、こなれた作りになっていないんだよね。「Funny Or Die」は偽の映画のトレーラーを作らせると殺人的に面白いのだが(これとか)、実際の長尺映画を作れるほどのスキルはなかったということかな。

ジョブズを演じるのはオタクの星ジャスティン・ロング。アップルの「Get a Mac」のコマーシャルでマッキントッシュ役を演じていた彼です。劇中ではCMの撮影シーンで別の役者がロングを演じていて、ジャスティン・ロング演じるジョブズがロングを怒鳴る、なんてシーンもあるぞ。あとはスティーブ・ウォズニアックをホルヘ・ガルシアが演じてます。豪華俳優が無駄に出演していることが多い「Funny Or Die」の作品にしては有名どころがあまり出ていないかな。

今後はアシュトン・カッチャー主演のものとアーロン・ソーキン脚本のものというようにジョブズの伝記映画が2つ出てくる予定であり、それらに対抗して「最初のジョブズ映画」と自慢しているこの作品ですが、観たい人は時間があるときにダラダラ観ることをお勧めします。それでもアシュトン・カッチャーのやつよりかは面白いんじゃないか、という気もしますが。

「John Dies At The End」鑑賞


『ファンタズム』シリーズや『プレスリーVSミイラ男』のドン・コスカレリによる新作。原作はCracked.comでいろいろ面白い記事を書いているデビッド・ウォンことジェイソン・パージンの小説。

内容がぶっ飛んでて、話の時系列もかなり入り乱れてるのであらすじを説明するのが難しいのだが、とりあえず劇中の出来事を箇条書きにすると:

・主人公のデビッドが怪しい中華料理屋で記者の取材を受ける。
・デビッドは謎のドラッグ「ソイ・ソース」を服用しており、その副作用で超人的な感覚を備えていたため超自然的な怪物を探知することができ、友人のジョンとゴーストバスターズ的な仕事をしていた。
・デビッドとジョンはあるパーティーで知り合ったのだが、その晩にデビッドは謎の男に車中で襲われ、誤って「ソイ・ソース」を自分に打ち込んでしまう。
・その直後に警察に逮捕されるデビッド。彼らによるとパーティーの参加者がみんな死亡するという事件が起きており、それとの関与を疑われてデビッドは逮捕されたのだ。
・さらにジョンまでもが死亡したと警察に伝えられるデビッド。愕然とする彼だったが、携帯電話にジョンからの電話がかかってきて…。

という内容に加えて、片腕のガールフレンドとか空とぶ口ヒゲとか生体コンピューターなどが出てきて、クリーチャーもたくさん出てきます。ドラッグや幻覚(?)による意味不明な展開はリンチやクローネンバーグ的でもあるのだが、基本的には悪趣味コメディに徹していて、裸のランチっぽく始まったかと思いきや「ゴーストハンターズ」みたいになり、「キャプテン・スーパーマーケット」になったかと思ったらオチは「ビル&テッド」だった、というような映画。

そもそも「ソイ・ソース」って一体何よ、という疑問から始まり、観終わったあとでも話の整合性が全然理解できなかったりするわけだが、こまけーことはいいんだよ!という気分で先の読めないドタバタな展開を楽しみましょう。個人的にはかなり面白かったよ。そんなに予算かかってないと思うがクリーチャーもCGも結構効果的に使われており、もっとハードSFっぽい映画を作ろうと思えば作れたかもしれんな(別にその必要はないとはいえ)。

デビッドとジョンを演じる役者たちはよく知らないけど、有名どころとしてはデビッドを取材する記者をポール・ジアマッティが演じている。それなりに怪演をしているのだけど、それでもこの映画では他のキャラに喰われてしまっているという。

日本で公開するかどうかは分かりませんが(追記:『クリーチャーズ 異次元からの侵略者』という題で6月にDVD出るらしい)、マグネット・リリーシングの他の作品(「RUBBER」や「タッカーとデイル」とか)に比べてもかなり楽しめる作品なので、ハイになって鑑賞することをお勧めします。

ちなみにジョンは最後に…。

「リンカーン」鑑賞


スピルバーグの映画を観るのはかなり久しぶりだったりする。リンカーンは黒人を解放した一方でインディアンたちは虐殺してた、なんてことを事前にウィキペディアで読んでしまったためについヒネくれた見方をしてしまったが、まあそれはそれで。

南北戦争の勝利を目前にしつつも、勝ってしまえば自分が戦争に対して唱えた奴隷解放宣言が破棄されてしまうことを危惧し、奴隷の所有を禁じた憲法修正第13条を議会で可決させようと努力するリンカーンの姿を描いた作品だが、登場するリンカーンは決して威風堂々としているわけではなく、その長駆を弱々しく曲げ、ひしゃげた声でしゃべる小話好きな老人として表されている。

そして第13条を可決するためには野党の民主党の票が必要であることを悟った彼は、小汚いロビイストたちを雇い、レームダックとなって次の選挙の心配をする必要のない民主党の議員たちを1人ずつ狙っていく。ロビイストたちのやり方は非合法スレスレであり、リンカーン自身も議会で虚偽の証言まがいのことを行ってしまうわけだが、決してリンカーンの行為はダーティなものとしては描かれず、正しい目的のためには多少の汚い手段を用いるのもやむを得ない、とういう趣旨がそこには含まれている。文章で書くとひどく偏向してそうだが、映像では演出の巧みさによって、そうは感じさせない内容になっていた。これを同性愛者の結婚の可決を目指すオバマに対するスピルバーグなりのメッセージとして見なす人もいるようだけど、実際はどうなんだろうね。

とはいえ南北戦争について初歩的な知識しか持ってないので、前半はなかなか話の流れがつかめず、ヒゲ面の登場人物も誰が誰だかよく分からないし、フランシス・ プレストン・ブレアって誰よ、という感じであった。しかし後半になって票集めに焦点があてられるうちに話が面白くなっていき、評決のシーンは結果が分かっていても見事なカタルシスを感じさせる出来になっていたよ。そこらへんで話を終わらせず、残りの時間で暗殺までを淡々と描いていくクドさも相変わらずのスピルバーグですね。ただ個人的にはやはりヤヌス・カミンスキーの色調を抑えたシネマトグラフィーって好きじゃないんだよな。

役者陣はやはりダニエル・デイ・ルイスが圧巻。他のキャストは「あ、あの役者が演じてるな」と分かるのに対し、デイ・ルイスはリンカーン本人にしか見えない。そんな彼を支える(もしくは振り回される)周囲の人々も他の映画なら主役をはれる一流どころが揃っていて、トミー・リー・ジョーンズも圧倒的な存在感を放っているし、JGLやデビッド・ストラザーンなども巧い。個人的には上記のロビイストたちを演じるジェームズ・スペイダーにティム・ブレイク・ネルソンとジョン・ホークスという実に濃い3人組が好きでした。「ジャンゴ」のウォルトン・ゴギンズもいい役で出てるよ。あと日本ではあまり知られていないがデヴィッド・コスタビルがかなり目立つ役を演じていて、この人は「ザ・ワイヤー」や「ブレイキング・バッド」などでも印象的な役を演じているので今後のブレイクに期待。

日本の観客に通じるものがある内容かというと微妙ではあるのだが、巨匠が丹念に作った佳作ということで観て損はないかと。