「フライト」鑑賞


やるじゃんゼメキス。ここ10年は不気味の谷のあちら側に行っていた感のある人ですが、「キャスト・アウェイ」で培った飛行機落としのテクニックに磨きをかけて、意外にもR指定で実写にカムバックしてきたわけです。

勝手に想像していた「事故のときに何が起こったのか?」という展開の話ではなく、事故とその後の話が時系列に沿って描かれていくわけだが、苦境に陥った主人公が宗教・家族・AAなどといった救済の可能性に触れ、最後に2つの選択肢を持つことになるという流れは「ライフ・オブ・パイ」に少し通じるものがあるかな。

アル中の問題児である主人公の自己中な振る舞いを最初から最後まで見せつけられる展開であるため、本来ならば観客は主人公に感情移入できないはずなのだが、それでも観る人の目を引きつけさせるデンゼル・ワシントンの演技力が凄い。顔面の細かな動きから体の微妙な揺らし方まで、すごく話のリズムに合っていて飽きさせない。彼は共演者からの評判が悪いことであまり好きな役者ではなかったのだが、やはり演技力は超一流であることを実感。相手役のケリー・ライリーって女優はよく知らなかったのですが、こちらもいい演技してます。対してドン・チードルとかはあまり目立ってなかったかな。ジョン・グッドマンがおいしいところを奪ってしまってる感じ。

とはいえ視覚的には前半の飛行機事故のシーンがやはり最大の見せ場であって、そこから先は中だるみこそしないものの地味なシーンが続くので、もう20分くらい削っても損はなかったかもしれない。劇場では隣のオッサンが退屈そうにモソモソしてました。

これはぜひ飛行機の中で観るべき映画ですが、インフライト上映させた度胸のある航空会社はどこかいなかったのかな?

「LAWLESS」鑑賞


日本では「欲望のバージニア」というアレな題名で6月に公開されるそうで。ニック・ケイヴ師匠とジョン・ヒルコートが「プロポジション 血の誓約」に続いてタッグを組んだ作品で、実在した3兄弟に関する小説を映画化したもの。

舞台となるのは1931年のヴァージニアの片田舎。禁酒法の時代にハワードとフォレストとジャックの3兄弟は密造酒を作って荒稼ぎをし、地元の警察も彼らのことを見過ごしていた。しかしシカゴから派遣された敏腕刑事とその上司の検事が利益の分け前を要求したのに対して3兄弟はこれを拒絶。こうして刑事と3兄弟による、血で血を洗う抗争が幕を開けるのだった…というようなプロット。

出演はシャイア・ラブーフにトム・ハーディ、ガイ・ピアース、ジェシカ・チャステイン、ミア・ワシコウスカ、ゲイリー・オールドマンなどといった豪華な面々が勢揃い。しかし登場人物それぞれに時間を割いているために、話が散漫なものになってしまったのが残念。女性2人とのロマンスの話はどちらか1つに絞ってもよかったのでは。オールドマン演じるギャングスターなんて途中でどこかに行ってしまうんですもの。抗争とロマンスとその他の話がが詰め込まれ、大きな盛り上がりに欠けるためにTVシリーズのダイジェスト版を観てるような気になってくるのは否めない。もっと贅肉を落として抗争に焦点をあてるべきだったのでは。

あとやはり主人公を演じるラブーフが徹底的にカリスマ不足で、話を通じて人間的に成長せず、最初から最後まで若気の至りで暴走して周囲に迷惑をかけまくってるのはどうも不快。なんでこんな役者がスター扱いされてるんだか。そんな彼をボコボコにする刑事をガイ・ピアースが演じていて、しゃれたスーツを着こなして香水をつけてるようなマンガチックなキャラクターなのだが、いちばん目立ってておいしい役ではないかと。3兄弟の長男を演じるジェイソン・クラークもぶっとんだキャラを演じていて面白いんだけど、カーディガン着てブツブツ言うトム・ハーディの影に隠れてしまっているのが勿体ないところ。

主人公のナレーションとか、ケイヴたちによる挿入歌(「ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート」は2バージョンも使われている)なども用いられ、「プロポジション」に比べるとずいぶんメインストリーム寄りの映画という感じがするのですが、個人的にはもっと幻想的だった前作のほうが好きだな。

「アルゴ」鑑賞


今さらながら観ました。遅れてすみません。

昨日のアカデミー賞では監督賞や主演男優賞にもノミネートされていないのに作品賞を穫ったことについていろいろな説が飛び交っているようだけど、個人的な感想としてはこれが「ハリウッドが活躍する映画」だからだということでして、いつもは脚本のオプション権を値切ったりB級映画のメークをしてるような裏方さんたちが、CIAに頼まれて秘密任務を遂行し、人命を救助するなんて話を見せられたら、アカデミー会員の大半を占める裏方さんたちはそら喜ぶわな。

現実ではハリウッドはおろかCIAも中心的な役割を果たさず、カナダが尽力したことで人質が救出されたらしいが、まあそこはハリウッド映画ですから。古き良きハリウッドを甘ったるく描いた「アーティスト」が昨年作品賞を穫ったのと同じような事例かな。おまけにどちらの映画もジョン・グッドマンが陽気なハリウッドガイを演じているわけですが、ならば彼が映画監督を演じたジョー・ダンテの傑作「マチネー/土曜の午後はキッスで始まる」だって作品賞を穫っても良いと思うのだが、そううまくはいかないようで。

このようにハリウッドが重要な要素となる映画であるものの、イランの場面との話の緩急のつけ方が気になるところでして、冒頭の大使館襲撃とかラストの空港のシーンなどは結果を知っていても手に汗握ってしまう展開が続く一方で、ハリウッドの陽を浴びてダラっとしてるシーンが挿入されると話の流れが断ち切られてしまうような。終盤の電話のシーンも、「撮影現場を横切れない!」ではなくて他に話の盛り上げ方があっただろうに。

出演者は濃いオッサンたちがいろいろ出ていて個人的には大満足。カイル・チャンドラーやビクター・ガーバーなどテレビ畑の人たちが出ているのもいいな。ブライアン・クランストンは「ブレイキング・バッド」が終了したらいま以上に劇場映画で引っ張りだこになるのではないか。あとジェームス・ネズビットが何でアメリカの職員を演じてるんだろうと思ったら、あれはタイタス・ウェリヴァーだったのか。なおベン・アフレックのキャラクターの造形はとても浅いと思ったよ。もっと子供とのつながりを深く描くとか、任務への情熱を見せるかしたほうが「人質を救出して必ず帰る」という感じが出て良かったと思うのだが。

あとは外人(イラン人)の描写についてもなんか腑に落ちないところもあるが、それについては国際情勢などに詳しい人たちがいろいろ解説してるでしょうからここでは省く。あとやはり映画のストーリーボードはジャック・カービーのデザインしたものをそのまま使うべきであった。決して悪い映画ではないが、作品賞に値するかと聞かれるとちょっと考えてしまうな。

「Seven Psychopaths」鑑賞


「ヒットマンズ・レクイエム」に続くマーティン・マクドナーの長編第2弾で、相変わらず過度なバイオレンスとブラックなユーモアが混じり合った傑作。

ハリウッドで脚本家をやっているマーティはライターズ・ブロックに陥っており、「7人のサイコパス」という作品の脚本が書けずに酒ばかり飲んでいる状態。そんな彼を心配した友人のビリーは実在の連続殺人犯の話をしてネタにさせ、さらには「サイコパス求む!」という広告を出したためにマーティのもとにヤバそうな人がやってくる羽目に。一方でビリーは公園で犬を誘拐し、飼い主が懸賞金をだしたところで「返却」するという詐欺行為で小金を稼いでいたのだが、マフィアのボスの犬を盗んだために相棒のハンスとともに狙われる身になってしまい…というようなプロット。

題名通りにサイコな人たちがたくさん出てくる展開になっており、マフィアのボスなんてのはまだ可愛いほう。マフィアを狙う連続殺人鬼とか、数十年前からシリアル・キラー殺しをやってるカップルとか、なんかヤバそうな人たちがいろいろ出てきます。しかも「こいつは普通そうだな」と思ってた人が後になってどんどんサイコになっていくあたりの展開がすごい。登場人物はみんな頭のネジが緩んでるので会話が微妙にかみ合わなかったりするんだけど、それでも話がグイグイと進んでいく感じ。

サイコさんの小話とかフラッシュバック、さらにはマーティの脚本の中の話などが随所に挿入される構成は、いかにも作家による脚本だな、という気もするが、どれも奇想天外でぶっ飛んでるので観てて飽きがこない。現実世界でも空想のなかでも人がバンバン撃たれて死んでいっております。

キャストも無駄に豪華で、コリン・ファレルやクリストファー・ウォーケン、サム・ロックウェル、ウディ・ハレルソンなどに加え、トム・ウェイツ、ハリー・ディーン・スタントン、ガボレイ・シディベ、オルガ・キュリレンコなど実に濃い人たちがいろいろ出演。どうもクリスピン・グローバーも一瞬出てるらしい。あとミッキー・ロークも出るはずだったのが監督とケンカ別れしたのだとか。

前回の「ヒットマンズ」はブルージュという小さい街の話だったために、まだ舞台劇っぽさが残っていたが、今回の舞台は砂漠などにも繰り広げられ、砂漠に光る月の映像なんてのがとても美しいぞ。ただ砂漠に移ってからの展開は少しダラけたかな。

巧みな台詞回しと過度なバイオレンスのためにタランティーノ作品と比較されるのは避けられないが、やたらオマージュを捧げたがるタランティーノよりも、もっとブラックでドライな展開が続くこっちのほうが個人的には好きだな。人が次々と死ぬ話の展開ながらも、ゲラゲラと笑える内容になっておりました。日本でもきちんと公開・宣伝すればカルト人気を誇れるであろう傑作。

「SAFETY NOT GUARANTEED」鑑賞


サクッと観られる去年のサンダンス映画。

ダリウスは人見知りする孤独な少女で、シアトルの出版社でインターンとして働いていたが、新聞に載っていた「過去へ一緒にタイムトラベルしてくれる人を募集。安全は保証せず」という個人広告について調べるよう命じられ、広告を出したケネスという男性の住む町へと記者たちと3人で向かうことに。そこで出会ったケネスは風変わりな人物で、タイムトラベルができるという証拠を見せないまま、自分は政府に狙われていると言いながらも「タイムマシン」の構築の準備をしていた。そんな彼に戸惑いながらも、話をするうちに彼に興味を抱いていくダリウス。しかし怪しい男たちが実際にケネスを尾行していることが分かり…というプロット。

あらすじだけだとSFものっぽく聞こえるかもしれないが、科学技術とか政治サスペンスなどとは無縁の内容で、あくまでも社会のはずれ者たちの生活を描いた青春コメディになっている。ダリウスとケネスは過去における母親や恋人の死をトラウマとして抱え、ダリウスの同僚の記者たちも町で出会いや別れを経験していく。やはりSF的がそんなに強くなかったサンダンス映画「アナザー・プラネット」を100倍くらい軽くした感じですかね。なお前述の新聞広告は実在したもので、そこから話がふくらんでこの映画になったらしい。

主人公のダリウスを演じるのは「Parks and Recreation」のオーブリー・プラザ。ゴスというには不細工すぎ、上目遣いで睨むような風貌はコミュ障の主人公によく似合ってるのですが、「Parks」で演じてる役とあまり変わらないような?そんな彼女を翻弄するケネスを演じるのがマンブルコアで知られるデュプラス兄弟の片割れ、マーク・デュプラス。崩れたジェラルド・バトラーといった容貌でこちらも目つきが悪く、頭のネジの緩んだケネスを熱演している。あとはジェフ・ガーリンやクリスティン・ベルなどが拘束時間半日、といった感じのチョイ役で出演してました。

悪い作品ではないし、ラストの展開は結構面白かったものの、じゃあ日本でウケるかというとフックに欠けていることは否めない。今後もしかしてオーブリー・プラザがもんのすごく有名になったら、その人気にかこつけて変な邦題とともにDVD発売されるかもしれませんが。