「ヒューゴの不思議な発明」鑑賞


これ大変素晴らしい映画ではないですか。まさかスコセッシが人生のこの時点においてこんな作品を作ってしまうとは。

フィクションのなかに史実を丹念に織り込み、少年の物語でありながらも年老いた男の人生の情熱を語ってしまう巧みさ。すべての人には存在意義があるという観念のもと、映画にしかないというハッピーエンディングが現実にも訪れ、すべての愛が成就する見事さ。どこまでは原作に基づいているのかは知らないけど、子供の頃は喘息のため外に出られず、窓から外界を眺めていたというスコセッシの、映画に対する愛情なしではこんな作品は作られなかったであろう。

3Dによる撮影はものすごく画期的というわけではなかったが、それでも最近のとりあえず3Dで撮ったような映画よりも画面構成などが細かく練り込まれ、3Dで観ても損はなかったと思う。サシャ・バロン・コーエンの顔のアップとかにも効果的に3Dが使われているのが良かったな。ただその反面CGが多用されていくつかチャチに見えてしまう光景があったのも確かで、おもちゃのネズミとか博物館の火事とかはもうちょっとリアルに描いても良かったかもしれない。あと映画史でいち早くギミック撮影を用いた人物の話をギミック撮影で語る、というメタな要素があることも重要だな。

というわけで個人的には大変素晴らしい作品であり、映画への愛情を語った作品としてはフェリーニの「インテルビスタ」を彷彿させるものだと思うのだけど(子供の頃に観たあの映画は大好きなのです)、ヤフーの映画掲示板とか見ると「期待はずれ」とか「主人公が発明してないじゃん」などという意見が大半で残念なところですね。別に「映画を観るならメリエスのことくらい知っとけ!」などと上から物を言う気は全くないのですが、みんな少年が魔法を使うファンタジー映画だとでも思ってたのかな。確かにトレーラーだけだと話の内容が分かりにくいものの、期待を良い意味で裏切ってくれる作品だと思うけどね。それに原作小説の題名が「ヒューゴ・カブレの発明」なので、邦題もそんなズレてはいないよね。

いつもなら他の人が映画についてどういう意見を持とうと気にはしませんが、映画好きとしてはこの作品だけは意地でも弁護しないといけないような気がする。これはファンタジー映画じゃないし、発明も(あんまり)出てこないけど、でも素晴らしい傑作なんだよ!いまから木戸銭握って映写小屋へ向かえ!

「ファミリー・ツリー」鑑賞


アレクサンダー・ペインの7年ぶりの監督作品。

主人公のマットはハワイに済む弁護士で1800年代からずっと一族に引き継がれてきた膨大な土地の相続人でもあったが、法律によってその土地を売却する必要に見舞われていた。そんなとき妻のエリザベスがボート事故により回復する見込みのない昏睡状態に陥ってしまう。やがて彼女が死を迎えることを2人の娘に伝えるマットだったが、実はエリザベスが不倫をしていたことを知り…というようなストーリー。

妻の死をベースにしながら、娘たちや親族との和解や妻の不倫相手探しなどがハワイの大自然をバックに描かれ、とてもいい感じ。急な話の展開や派手な出来事などがあるわけでもなく、ただ話が進んでいくだけなのに2時間弱の長尺でもまったく飽きさせない。ここらへんはアレクサンダー・ペインの巧いとこだよね。逆に今までの彼の作品がダメだった人はこれも好きになれないかも。

主演のジョージ・クルーニーも非常に良い演技を見せてくれて、仕事第一だったために妻や娘たちの面倒を見ることができず、今になって必死に家族をまとめようとするダメ男を、ユーモアとペーソスをもって絶妙に演じきっている。まあクルーニーが寝取られ男を演じるのは多少無理があるけどね。脇を固めるロバート・フォスターやジュディ・グリアー、マシュー・リラードなども、出番は少ないものの好演を見せている。いちばん良かったのは長女役のシェイリーン・ウッドリーかな。

同じ監督の「アバウト・シュミット」や「サイドウェイ」同様に、どこがどう良かったのかきちんと説明することが難しいんだが、1人の男が出会いや別れや細かいことをいろいろ経験しつつ、少しずつ変わっていくところがいいんですよ。ただ冒頭で「ハワイに住んでるからって、別に楽園に住んでいる訳じゃない」みたいなセリフが出てくるんだが、やはりハワイの生活ってえらく楽しそうなんだよなあ。あと全編を通して流れるハワイアン・ミュージックは賛否両論あるみたい。

地味といえば地味な内容なので、観る人の年齢や性別などによって感想がいろいろ変わってくる作品かもしれないが、自分はとてもいい作品だと思いましたよ。

「ヤング≒アダルト」鑑賞


なんかメタファーがてんこ盛りの映画ですな。主人公の心境が彼女の書く小説にそのまま表れるとことか、青春時代の曲を繰り返し聴くところとかに加え、主人公が1人でジャンクフードばかり食べてる描写とか、登場人物のTシャツとかが「いかにも」といった感じで使われているといった感じ。とはいえあざとい訳ではなく、きちんと効果的に使われているのは巧いな。

観てて気になったのは登場人物の性格描写が少し一元的なところで、主人公は「元カレを取り戻す」という執念で凝り固まっているし、元カレのほうは彼女の魂胆に愚鈍なほど気付かないまま話が進んでいってしまう。しかし観てる側にとっては主人公の勝手な思い入れが報われないことは明らかなわけで、最後に主人公が自分の行為に気付くのがストーリーのテンポ上ちょっと遅いような気がする。これは「マイレージ、マイライフ」もそうだったけど、主人公の成長曲線の上がり方がストーリーよりもワンテンポ遅いような?これは個人の好みの問題かもしれないけどね。

なお個人的にシャーリーズ・セロンって能動的に嫌いな女優でして、無名の頃は積極的におっぱい見せてたくせに、ちょっと有名になると「私を外見でなく中身で評価して!」と言わんばかりに「モンスター」みたいな汚れ役を演じたりするのがどうも計算高いような気がして好きじゃないのですが、今回の役はよく似合ってたと思う。おっぱい見せてくれても良かったけどね。パットン・オズワルトは何をやらせても才能ある人なので安心して見てられる。パトリック・ウィルソンは女性に振り回されるヤサ男の役ばかり演じてない(ナイト・オウル含む)?まあ似合ってるからいいけど。

しかし俺はこの映画の主人公と同じ年で、聴いてる曲の趣味とかも一緒なんだけど、どうも彼女に共感できなかったのは何故なんだろう。ストレス溜まってるとはいえ社会的にそこそこ成功してて結婚も経験してる彼女に対し、こちらは人生を半ば諦めてる独身だからかしらん。

「JUSTICE LEAGUE: DOOM」鑑賞


DCコミックスのアニメーション・ムービー最新作。

90年代後半にマーク・ウェイドがストーリーを担当したJLAのコミック「TOWER OF BABEL」をベースにしたもので、ジャスティス・リーグの宿敵ヴァンダル・サヴェジがベインやチータ、メタロにスター・サファイアといったヴィランたちを招集し、リーグを壊滅させるためのプランを彼らに与えて実行させる。そしてそのプランは功を奏し、弱点を突かれたリーグのメンバーたちは次々と倒されていく。果たしてジャスティス・リーグはこの危機を脱することができるのか?そして彼らの弱点が網羅されたプランを作成したのは誰なのか?というようなストーリー。

まあ思わせぶりなジャケットの絵を見ると、そのプランを作ったのは誰だかすぐ分かっちゃうんですけどね。原作では敵役となるのがラーズ・アル・グールだったけど、彼は他のヴィランとツルまないタイプなのでヴァンダル・サヴェジに変更されたのかな。原始時代から生きていても未だ世界征服を遂げてないサヴェジって実はかなりのヘタレではないかと思うのですが、まあいいや。彼が招集したヴィランたちのグループが悪のリーグことリージョン・オブ・ドゥームであるわけで、作品の題名もそこから来ている。

いっぽう我らがジャスティス・リーグはリブート後のコミックを反映してサイボーグが加入している一方で、リブート版では在籍してないマーシャン・マンハンターがいるなど、ちょっと変則的な編成。とはいえ声優はベテランのティム・デリーやケヴィン・コンロイが起用されてるので往年のファンも安心して観られるのでは。

脚本はこないだ他界してしまったドウェイン・マクダフィの遺作になるらしいが、弱冠間延びしていた原作を90分以下の尺に収めたためか7割くらいが格闘シーンになってしまったのはちょっと芸がないかな。そもそも「TOWER OF BABEL」ってそんなに面白い話だったっけ?JLAのライターがグラント・モリソンからマーク・ウェイドに交代した直後の作品で、モリソンのファンである俺としては何となく失望した印象が残ってるのだけど。といはいえスーパーマンとグリーン・ランタンが宇宙空間で共闘している姿などはオタク心をくすぐるし、オリジナルの結末も結構良かったよ。

このあとのDCのアニメーションはどんなのがくるんだっけ?一説によると「WONDER WOMAN」の販売不振を受けてスーパーマンかバットマンの出てこない作品は作らなくなったらしいんだが、前に製作のウワサがあったニュー・ティーン・タイタンズの傑作「JUDAS CONTRACT」はアニメ化して欲しいなあと願うばかりです。

「MARTHA MARCY MAY MARLENE」鑑賞


名前を暗記するのに3ヶ月くらいかかった昨年のサンダンス映画。

物語はマーサという少女が、2年間所属していたカルトのグループから脱走するところから始まる。彼女は母親の死などをうけて俗世間を離れ、リーダーのもと自給自足を目指すカルトのコミューンに加わり、メイシー・メイという新たな名前を与えられて他のメンバーとともに生活していたのだ。しかしカルトの冷酷さを知るにつれ、初エッチまで捧げたリーダーへの憧れは畏怖へと変わり彼女はコミューンから脱走し、姉夫婦のもとに身を寄せる。そこで平和を見いだしたかのように見えたマーサだったが、コミューンでの生活は彼女の精神に大きな傷を与えていた。奇行を繰り返す彼女のため姉夫婦の関係にも不和が生じていき…というようなプロット。

最初から最後までカルトの影が重くのしかかっているんだけどサスペンスや心理ドラマなどではなく、ひたすら暗い展開が続く内容になっている。ちょっとセレブな姉夫婦の家での生活と最低限の暮らしをするコミューンでの生活がオーバーラップしながら描かれ、そのどちらもがただ暗いという…。2つの生活に通じるものがあることを描こうとしてるのかもしれないが、あまりそこらへんは巧くできてなかったような。

またラストも例によってとても曖昧なものにされており、ネット上ではさまざまな憶測を読んでいるみたい。深読みしようと思えばいくらでもできる展開ではあるのだけど、むしろ製作者が手を抜いているような印象を受けたのは俺だけではあるまい。こないだの「アナザー プラネット」もそうだったけど、サンダンスではこういう終わり方が流行ってんのかしらん。

主役のマーサを演じるエリザベス・オルセンはあのオルセン姉妹のさらに下の妹で、化粧したガイコツみたいな姉妹とは異なり「演技のできるオルセン」として体当たりの演技をみせて高い評価を得たみたいだけど、この映画ではサイコさんを演じてるので普通の演技がどこまでできるのかは未知数だな。むしろ彼女の奇行に耐える姉を演じたサラ・ポールソンの演技がとても良かった。そしてチャールズ・マンソンがモデルらしいカルトのリーダーを演じるのがジョン・ホークスで、激高したりせず冷徹に重々しく周囲に命令を下すリーダーを好演している。「ウィンターズ・ボーン」もそうだったけど、この人は「アパラチア山脈の怪しいオヤジ」という役が似合いますね。

サンダンスだけでなくいろんなところで昨年高い評価を得ていた作品だけど、個人的には地味すぎてどうも好きにはなれなかったな。