「ATTENBERG」鑑賞


あの傑作「DOGTOOTH」を筆頭に、さいきんいろいろ目にするようになったシュールなギリシャ映画の1つ。アカデミー賞のギリシャ候補になったらしいけど、国が財政危機で破綻してる一方でこういう実に商業的でない映画を作ってるというのは何となく好きです。

マリーナは23歳になっても男性と付き合った経験のない奥手な少女で、ギリシャの山岳地帯にある工場で運転手として働き、病を患っている父親と暮らしていた。彼女の趣味はスーサイド(NYパンクの人たちだよ)を聴くこととデビッド・アッテンボローのドキュメンタリーを観ること(タイトルはここから来ている)で、男性経験の豊富な親友のベラからはキスや性に関する指南を受けていた。そんな彼女は工場である男性と知り合い…というようなストーリー。

と書いてはみたもののあまりストーリーらしきストーリーは存在してなくて、ただただ思わせぶりなシーンが淡々と続いていく内容になっている。親の過保護という明確なテーマが根幹にあった「DOGTOOTH」に比べるとつくりが弱いことは否めない。ちょっとエッチでかわいいシリーウォークを繰り広げる女の子たちとか、TVを観て動物のマネをするマリーナとか、部分的にはとてもいいシーンがあるものの、全体としてまとめるとなんか消化不良になってるというか。父親が「この国は近代化に失敗した」とか「俺は20世紀をボイコットする」なんて呟いてて、ギリシャの金融危機について言及してるのかと思いきやそれっきりになってたし。あと「DOGTOOTH」に比べて出てくるおっぱいがみんな残念であったよ。

いろんな面白い要素が入り込んでいるだけに、この程度の出来で終わってしまったのがどうも悔やまれるところか。ギリシャ映画では他にも「ALPS」とか「L」といった面白そうな設定の映画が控えてるのだが、実際の内容はどうなんだろうなあ。

「A Very Harold & Kumar Christmas」鑑賞


そのマリファナ万歳な内容のために(だよね?)日本では劇場公開はおろかDVDさえも発売されてない人気コメディ・シリーズ第3弾。今回は劇場だと3Dで公開されたので、タマゴから紙吹雪からマリファナの煙までありとあらゆるものが画面に向かってくる演出になっていたよ。これはちょっと3Dで観たかった気もする。

2作目が1作目の直後から始まってたのに対し、今回のストーリーは2作目の6年後という設定で、クマーが相変わらず小汚いアパートに住んでマリファナをキメてばかりの毎日を送っているのに比べ、ハロルドは出世してウォール街のオフィスで働き、妻のマリアと大きな家に住んでいた。そしてクリスマス・イブの朝にクマーのもとにハロルド宛の荷物が届いたことからクマーはハロルドの家を訪れるものの、それが大騒動に発展して…というようなストーリー。

相変わらずマリファナ・ジョークが満載だし裸のおねーちゃんたちも出てくるんだけど、前2作に比べてかなりメインストリームのコメディになったなという感じ。ラフなところが魅力だったインディーズのバンドが、メジャーデビューして良くも悪くも洗練された音になったようなものというか。3DゆえにCGを多用してるのはまだしも、ワッフルボットなんて登場させる必要あったのかな。その一方でマリファナ人間が今回は出演してないのは許せんなあ。あとトーマス・レノンが演じるハロルドの助手の役に時間が割かれ、メインの2人のドタバタの勢いが削がれてる気もする。

脇役は相変わらずニール・パトリック・ハリスが怪演技を見せつけてくれて、実際の婚約者(男性だよ)まで登場させつつも、女好きのスケベという役を力演している。たださすがに第1作目に比べるとインパクトが弱まったけどね。ハロルドの義理の父を演じるダニー・トレホはいつもの通りのトレホ。あとウクライナのギャングをイライアス・コティーズが演じてるんだが、俺は最後まで前2作に出演してるクリストファー・メローニだと思っていたよ。あの2人はそっくりなんだよな。

笑えるところは笑えるし、キャストも和気あいあいと演じてるのが感じられる作品なんだけど、どうも小ぢんまりとした作りになってしまった印象を受けてしまうな。劇中ではNPHが「第4作目でも会おうぜ!」なんて行ってるけど、興行成績も予測を下回ったらしいので、たぶんこれがシリーズ最終作になるんじゃないでしょうか。

「裏切りのサーカス」鑑賞


iTunes UK経由で。何を語ってもネタバレになりそうな作品なので、以下を読む時はお気をつけ下さい。

舞台となるのは1973年の冷戦下のイギリス。情報局秘密情報部(通称「サーカス」)のトップはある情報を得るためにハンガリーへエージェントを送るがその作戦は失敗し、その結果サーカスのトップおよび彼の右腕のジョージ・スマイリーは引退を余儀なくされる。しかしサーカスの上層部に共産側のスパイが潜り込んでいるらしいとの情報を聞きつけた政府は、スマイリーを呼び戻してスパイを探し出すよう命じるのだったが…というような話。

ジョン・ル・カレの原作読んでないし、アレック・ギネスの70年代のTVシリーズも当然観てないズブの素人が言うのも何ですが、かなり難解な映画だったなあ。ストーリーそのものが難解というよりも説明的なセリフやショットが極力省かれていて、話の行間を読むというか、登場人物の間の空気を読むことが多分に求められる演出がされていたのだよ。おかげですごく話が凝縮されて緊迫感があるのだが、ちょっとでも話を聞き漏らすとあとの展開が分からなくなるような感じでもあった。またフラッシュバックが多用されており、さっき死んだ人物が過去のシーンで再登場するなんてことが頻繁に起きていた。

登場人物もかなり多くて、それが話の複雑さに輪をかけているわけだが、主人公を演じるゲイリー・オールドマンを筆頭にみんな濃い演技を披露してますよ。コリン・ファースにトム・ハーディにカンバーバッチなどなど。個人的にはジョン・ハートとマーク・ストロングの演技が良かったな。特にストロングはベタな悪役ばかり演じてる印象が強かったので、繊細な演技が出来ることを改めて知った次第です。ただ映画として主人公の探すスパイにそれなりの役者を起用する必要があるため、何となく誰がスパイか想像がついてしまうのが難しいところか。小説だと誰もがスパイになり得たんだろうけどね。

あと特筆すべきは当時の諜報活動の描写で、70年代とはいえ終戦直後の世界のようにすべてが重々しく表現され、エージェントたちは報われない仕事を黙々と続けている。派手なドンパチもないし、スパイものとはいえ007シリーズとは対極をなす光景がずっと続いていく。バカでかい電話の受話器とか電線とつながって本国と連絡がとれるタイプライターといった機器を見ていると、携帯電話のおかげでスパイ映画がどれだけ変わったかというのかが良く分かりますね。

決して万人受けするような作品ではないし、気楽に見られるものでもないが、最近では珍しいくらいに密度の高いサスペンスであった。イギリス映画の本領発揮ですな。

「ドライヴ」鑑賞


批評家のあいだで高い評価を受けたライアン・ゴズリング主演のサスペンス。

主人公は物静かなドライバーで、昼間はメカニックや映画のスタントドライバーとして働き、夜は強盗の逃走を手助けする運転手という2つの顔を持っていた。そんな彼が同じマンションに住む子持ちの若い女性と仲良くなったとき、刑務所に入っていた彼女の夫が出所して帰ってくる。そして悪い仲間たちから仕事の依頼を受けて困っていた夫を主人公は助けることにするが、予期しなかった展開になり…というようなストーリー。

洗練されつくしたシネトグラフィーに、無駄な要素をそぎ落とした脚本と編集のおかげで、LAを舞台としたサスペンスなのにまるでヨーロッパのアートフィルムを観ているかのよう(監督のニコラス・ウィンディング・レフンはデンマーク出身)。主人公の名前が劇中で明かされず、役名がそのまんま「ドライバー」となっている点なども作品のストイックさを象徴しているといえよう。

でもサスペンスの臨場感は非常に楽しめるし、カーチェイスのシーンも迫力があって良かったよ。アメリカでは「ワイルド・スピード」みたいな内容を期待してたのに!と実際に訴訟まで起こした物好きがいるようだけど、ボンクラなアクション映画なんぞよりもずっと面白いよ(本当にボンクラなアクション映画を期待してるなら話は別ですが)。80年代っぽいシンセポップを多用したサントラも、不似合いのようで実はとても効果的だった。

寡黙に自分の仕事を行う主人公を演じるライアン・ゴズリングは非常にカッコよくて、仏頂面なんだけど子供の前などではニンマリ笑うあたりがいいなあと。物事の状況が悪くなっていくにつれ服がどんどん血に染まっていくあたりはかなりサイコな人なのですが、絶妙なバランスでアンチヒーローとしてのスタンスを保っている。彼に仕事をもちかける役のアルバート・ブルックスも、従来のコメディアンのイメージとはうってかわって腹黒いボスを好演。ヒロイン役のキャリー・マリガンは毎度のことながら薄幸な女性を演じてますが、まあ似合ってるんだから文句は言うまい。他にもブライアン・クランストンやロン・パールマン、クリスティーナ・ヘンドリックスといったケーブル局の人気番組で活躍する役者たちが脇を固めているぞ。

主人公がちょっと万能すぎるような気もするし、LAってもっと渋滞してない?というツッコミもあるのですが、非常に完成度の高い洗練された作品。ただその洗練度のゆえに万人受けするものではないかな。あとトレーラーが意外とネタバレ満載なので要注意:

「The Death and Return of Superman」鑑賞


アメリカでは今週「クロニクル」っていうSF映画が公開されまして、結構いい評判を得てるのですが、その脚本を書いてるのがジョン・ランディスの息子のマックス・ランディスなわけです。そして「クロニクル」にあわせてネットで公開されたのが、90年代初期の「スーパーマンの死」およびその復活に関するこの短編映画。

スーパーマンがドゥームズデイと戦って死亡し、4人の後継者がでてきた後にちゃっかり復活する様を皮肉っぽく語っていく内容で、ついでにグリーン・ランタンの「エメラルド・トワイライト」についても少し語られてるぞ。おちゃらけて語ってるようで、当時は説明されてなかったドゥームズデイのオリジン話についてもしっかり語ってるあたり、かなりのアメコミ通とみたぞ。キャラクターのコスプレもそれなりに良く出来てるし。

おまけに出演者が無駄に豪華で、ここらへんは親のコネなのかしらん。イライジャ・ウッドにマンディ・ムーア、ロン・ハワードなどなど。ジョン・ランディスを演じてるのってサイモン・ペッグだよね?

コミックを知らない人はこれを観てもチンプンカンプンかもしれないが、ストーリーのツボおよびファンの反響などを的確にとらえていて非常に面白い。当時はスーパーマンが死んだ号がプレミアつきまくって大変だったんですよ。俺も苦労して入手した覚えがある。あの頃のアメコミの常としてバッグに入ってたりカバーにギミックがあったりしたんだよな。

そして締めくくりには「スーパーマンが死んで復活したおかげで、アメコミにおける死は何も意味を持たなくなってしまった」みたいなことが語られるんだけど、当時すでにアメコミのキャラクターってみんな生き返ってなかったっけ?「記念号でキャラクターを殺し、あとで復活させる」という90年代前半のトレンドはスーパーマンよりも前に確立されてたような。具体例が思いつかないけど。当時は「アメコミでずっと死んでるのは2代目フラッシュと(キャプテン・アメリカの)バッキーだけ」なんてジョークがあったくらいだが、あの2人も2000年代にはしっかり復活を遂げてしまったっけ。