「ATLANTA」鑑賞。

Atlanta, Season 1
FXの新番組。舞台は当然ながらアトランタ。

アーネスト(通称アーン)はプリンストン大学に進学しながらもドロップアウトしてアトランタに戻ってきた若者。彼は店頭勧誘員をしてギリギリの生活費で暮らし、実家にも住まわせてもらえず、赤ん坊がいるのにその母親に愛想をつかされて半同棲するような暮らしを続けていた。そんなある日、いとこがペーパー・ボーイという名前のラッパーとして有名になってきていることを知り、彼のマネージャーになることを直訴する。最初はペーパー・ボーイに軽くあしらわれたアーンだが、なけなしの金を使ってラジオでペーパー・ボーイの曲をかけてもらったことで彼に気に入られるのだが、その直後にペーパー・ボーイが銃撃事件を起こしてしまい…というあらすじ。

最近はコメディに力を入れてるFXだが、こないだの「Baskets」に続いてルイ・CKが製作した「Better Things」という番組も始まりまして、どちらも「Louie」に似た、ダメ男(女)の不運な話が続くダウナーな内容になっていて、正直なところコメディといっていいのかかなり微妙な内容なんだよな。この「ATLANTA」も「Louie」のようにダメ男の日常を描いたものになっていて、あるいはNetflixの「Master of None」と比較する声もあるみたい。純真な主人公が世知辛い世の中でどうにか生きていこうとする物語というか。

だから抱腹絶倒できるようなコメディかというと全くなくて、登場人物の哀しくも滑稽な生き様が描かれるドラマといった感じ。でもダメ男が主人公の作品って個人的には好きなので、コメディではないと割り切って観れば普通に楽しめる番組であった。自分が成功できなかったことを、いとこに託すというか投影している主人公の悲喜劇がうまく表されているというか。ちょっと幻想的なシーンもちらほらあって、製作者たちは「ラップ版ツイン・ピークス」とか呼んでいるらしいが、まああそこまで奇妙にはならないでしょう。

主演・原案・脚本は「コミュニテイ」のドナルド・グローバー。「オデッセイ」のリッチ・パーネル・マヌーバーの彼ですね。彼は「チャイルディッシュ・ガンビーノ」名義でラッパーとしても活躍してるので、こういう音楽シーンを舞台にした物語には似合ってるんでしょう。これアトランタのラップ・シーンとか知ってるともっと楽しめるのかな。共演者にはイザイア・ウィットロック・Jrが出ていた。意外と彼はいろんな番組で見かけるな。多くのエピソードをヒロ・ムライという日本出身の監督が演出していて、ドローンで撮ったらしき上空からの映像が効果的に使われていた。

題材などで観る人を選ぶ番組かもしれないが、主人公が今後どうなっていくんだろう、という気にさせてくれる番組ではありましたよ。やはり俺はダメ男が主人公の作品には共感せざるを得ないのです。

「The Tick / ティック~運命のスーパーヒーロー~ (仮題) 」鑑賞

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「(仮題) 」だそうです。

アマゾンがよくやるパイロット版をいくつか公開して、そのうち人気があったやつをシリーズ化するという施策のうちの1つだが、日本でもプライムビデオが始まった関係で日本語字幕付きでタダで観られるよ。新番組なのにまったく宣伝してないところがアマゾンジャパンっぽいですが。トップメニューからどうやっても見つからず、「ティック」で検索してやっと見つけたぞ。

原作はベン・エドランドが80年代に生み出したインディペンデント・コミック「The Tick」で、インディペンデント作品としてはかなり有名な部類に入るんじゃないかな。スーパーヒーローもののパスティーシュ的なコメディ作品で、怪力だけど愚鈍なヒーローのティックと、そのサイドキックで小心者のアーサーたちが、悪の黒幕ザ・テラーや数多くの忍者たちとドタバタを繰り広げるような内容だったような。実はコミックはきちんと読んだことないのよ。ティックの雄叫びが「スプーン!」なのは知ってます。

アメリカで誰もが知ってるようなキャラクターではないものの、根強い人気はあるようで1994年にはアニメ化されているし、2001年にはパトリック・ウォーバートン主演で実写のシットコムにもなっている。そして15年ぶりにまた映像化されたというわけ。

このパイロット版の脚本はエドランド自身によるもので、意外にも話の主人公はティックよりもアーサーになっている。子供の頃にヒーローたちとザ・テラーの戦いの巻き添えとなって目の前で父親が死ぬのを見た彼は、それがトラウマとなって精神的に不安定な少年になっていたが、死んだとされるザ・テラーが生きていることを信じて独自に調査を行い、その過程で青いコスチュームに身を包んだ大男ザ・ティックに出会う。さらに彼はティックから蛾をモチーフにしたコスチュームを渡されて…といったあらすじ。

いちおうコメディなんだけど笑える箇所はあまりなくて、スーパーヒーローのいる世界を比較的リアルに描いた内容になっていた。「キック・アス」や「POWERS」なんかに近い雰囲気かな?そもそもティックは実在せず、アーサーの想像が生み出した存在なのではないか、ということも示唆されていたりする。ベン・エドランドってここ10年くらいはコミック作家よりもテレビドラマの脚本家をやってたらしいが、その経験がこういうリアルな描写につながったのかな。

プロデューサーにパトリック・ウォーバートンが名を連ねているが今回のティックを演じるのは彼ではなくピーター・セラフィノウィッツ。ダース・モールの声に始まり「スペースド」から「LOOK AROUND YOU」から「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」、さらに最近ではドナルド・トランプの声までいろんなことをやってる多才な人ですな。裏のサイモン・ペッグというか。ここでもいい感じで演技してるけど、マスクで顔の大半が隠れてるのが残念といえば残念か。あとは敵のザ・テラー役をジャッキー・アール・ヘイリーが演じていたが、コミック原作の作品にばかり出てるなこの人は。

コメディを期待すると肩透かしをくらうかもしれないが、ヒーロー(サイドキックか)のオリジンを真面目に描いたものとしては比較的よくできていた。いかんせん知名度のある作品だからアメリカでシリーズ化が決定されるんじゃないでしょうか。そしたら日本でも題名が正式決定されるのでしょうか。

「Naked Attraction」鑑賞

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恋人探しをする身体障害者たちを題材にした「The Undateables」など、やたらエッジの効いたリアリティ番組で知られる英チャンネル4の新番組。

『現代ではみんなデートアプリを使って恋人を探し、ファッションとか髪型に気を使ってるけど、重要なのは結局のところお互いの肉体に興味を感じるかでしょ?ならば最初から裸を見ればいいじゃん!』とかいうコンセプトのもと、恋人募集中の男性もしくは女性の前に、すっぽんぽんの6人の候補者が登場し、ほぼ肉体的興味だけで候補が絞られていくという身も蓋もない構成になっている。イギリスのテレビ局(民放のみ?)は深夜帯なら性器を見せても良いことになってるらしく、あれもこれも見せられて凄いことになっております。

第一回目の前半では恋人を探している女性が登場し、その前にはケースで隠された6人の全裸の男たちが。そして司会者の「それでは下半身を見てみましょう」という掛け声とともにケースの下半分が開き、みんなのチンコが見えることに。そして女性は各候補者の体を吟味し、「あれは大きすぎるわね」とか「割礼してるのもありね」とか「ゾウさんの入れ墨(!)してる人がいますね」とか気ままなコメントをしていく。なお様々な人種の候補者がいるだけでなく、義足の人がいたのはチャンネル4っぽいところですね。

そして下半身の段階でまず1名の候補者が脱落し、次はさらにケースが上がって首から下が丸見えに。「腹筋ボディもいいけど、ぽっちゃりお腹もいいわね〜」と女性が気ままに候補を選んでいて、ここらへん男性の視聴者としては身悶えしながら観ておりましたよ。さらにここで1名が脱落し、次でやっと候補者の顔が明かされることに。それでも候補者は声を出すことができず、純粋に見た目だけでまた1名が脱落することに、それから候補者は少しだけ女性と話すことができ、そのときの印象でさらに1名が候補から外れることになる。

そして残った二人のうちから一人を選ぶわけだが、「これはお互いの肉体的相性を見ないといけないですよね」ということで今度は女性のほうが全裸になって登場!下の画像ではモザイクかかってるけど実際はかかってなくて、なんかすごい光景になってましたよ。
Naked-Attraction
こうして一人の男性が最終的に選ばれ、やっと服を着て女性とデートに行くことに。番組ではその1ヶ月後の二人についても紹介され、いい感じで付き合っているみたい。脱落した候補者はいわゆる「脱ぎ損」ではないかと思うのだけど、「番組で裸になることで自分の体に自信が持てた」と皆が口を揃えてコメントしており、そういうものなのかなあと。なおモデル並みのボディをしてるような候補者はあまりいなくて、緩んだ体型の人も結構いたりします。

さらに番組の後半ではバイセクシャルの女性が恋人探しに登場し、彼女の前には全裸の男性3人と女性3人が出てくるという、なんでもありの展開になってました。これ最初から男性が女性を物色する内容にしてたら相当叩かれていただろうけど、恋人探しをするのが女性だったことでそこらへんは「政治的に正しく」なった感じですかね。それでも本国では賛否両論の意見が巻き起こってるらしいが、視聴率はかなり稼いだようなのので今後も話数を重ねていくことになるかもしれない。

悪趣味といえば悪趣味な番組ではあるのだけど、日本では絶対に放送できないということもあり、なかなか刺激的な番組でございました。

「THE A WORD」鑑賞

The A Word
BBCのシリーズで、イスラエルの番組をもとにしたものだとか。

舞台はイギリスの湖水地方の小さな町。そこでビール構造業を営むポールは妻のアリソン、娘のレベッカ、息子のジョー、および父親のモーリスと暮らしていたが、5歳のジョーがヘッドフォンで音楽ばかり聴いていて、家族や周囲の子供たちと打ち解けないことに困惑していた。そしてロンドンでの生活がうまくいかず故郷に戻ってきた弟のエディーの妻ニコラが医者だったこともあり、以前に彼女から紹介された専門家に診てもらったところ、ジョーには自閉症の傾向があることが分かり…というあらすじ。

第1話(から3話まで)の監督は「フル・モンティ」のピーター・カッタネオだがコメディにはなっておらず、かといって重々しい内容にもならず、自閉症の子供を抱えた一家の生活をテンポよく描いている。観る人は題名からしてジョーが自閉症(autism)であることは分かってるので話の前半はまどろっこしいところもあったけどね。

また話の焦点はジョーだけにあたらず、家庭で気にされてないと感じる娘のレベッカや、過去に不倫をしてエディーとよりを戻そうとするニコラの話などが、噂がすぐ広まる小さな町において語られていく。つうか湖水地方って一年中ずっと雨が降ってるところで自殺率もやたら高いし、なんであんなところに人は住むんですかね。でも自然の風景は美しいですよ。

キャストはそんなに知ってる人はいなかったが、一家の祖父であるモーリスを演じるのがクリストファー・エクルストン。この人最近やたらイギリスとアメリカ両方の番組に出演してるような?祖父を演じるには若すぎるような気もするが、家庭の空気を読まずに自ら積極的に行動するジイさんを好演している。また自閉症のジョーを演じるマックス・ヴェントの演技も大変素晴らしい。

ジョーはサヴァン症候群の天才などではなく、あくまでも周囲とコミュニケーションがとれない子供として描かれているが、彼が音楽を聴きまくり、その歌詞を暗唱できるのは周囲との壁をつくるためだという理由が話のなかで示唆されている。そして彼が聴いているのは父親のポールの好きなニューウェーブ系の音楽なのだが、5歳児がジュリアン・コープとかジ・オンリー・ワンズとか歌ってるんですぜ。ここらへんは製作者の趣味だろうか。

自閉症の描写がどこまで本物なのか俺にはわかりませんが、ガーディアン紙が実際に自閉症の娘がいる家庭に番組の感想を聞いてたりしてます(そこそこ正しいらしい)。全体的には手堅い作りの番組ですかね。第2シーズンも製作されるらしいぞ。

「ROADIES」鑑賞

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劇場新作「アロハ」は本国で酷評されて興行成績も散々になり、日本ではVODスルーでDVDさえも発売されないという憂き目に会ったキャメロン・クロウの監督・脚本によるShowtimeの新シリーズ。

題名通りロックバンドのツアーを支えるローディーたちの生活を追ったもので、ロードマネージャーのビルとプロダクションマネージャーのシェリを中心に、映画学校へ通うことを考えているケリーアン、その双子の弟のウェズリー、予算管理のために管理会社から派遣されてきたレッジといったキャラクターが登場する群像劇になっている。

キャメロン・クロウの作品の常として悪人が存在しないため、セックスや四文字言葉が飛び交っても過激な内容にはならないし、バンドを追うストーカーもメンバーを射殺するような輩ではなく夢見る少女といった振る舞いで、なんか全体にほわ〜んとした感じ。登場人物がファミリーとして結束し、夢を語り合うあたりは、いかにもキャメロン・クロウ作品かと。

いちおう舞台は現代で、ツアーをしているバンドもザ・ヘッド・アンド・ザ・ハートという実在のバンド(おれ知りませんでした)なのだが、劇中で流れる曲はボブ・ディランとかだし、スタジアムは観客で一杯になるし、音楽配信によるビジネスの変化とかには言及されないし、なんか「あの頃ペニー・レインと」のレトロなロック黄金期がいまだに続いている世界なんでしょうね。

キャストはルーク・ウィルソンにカーラ・グギノ、イモージェン・プーツにレイフ・スパールと、インディ映画なら主役をはれる面子が揃っていて異様に豪華。ゲストにはルイス・ガスマンとかレイン・ウィルソンなんかも登場するらしい。

まあキャストだけでも一見の価値はあるとは思うが、コメディとしてもドラマとしてもストーリーの起伏に乏しいというか。仲良い人たちが和気あいあいとしてるのを見るのは決して不快じゃないんですよ。ただそれを何話も観たいかというと、ちょっと考えてしまうような番組であった。