「The Yes Men Fix the World」鑑賞

八木の野郎からもらったDVDで。カルチャー・ジャミングのコンビ「ザ・イエスメン」を追ったドキュメンタリーの第2弾。最初のやつは昨年日本でもテレビ放送されましたね。

内容としては前作のあとにイエスメンが行った様々な活躍を順に紹介していくものになっていて、ダウ・ケミカルの社員のふりをしてボパール化学工場事故の賠償を行う、とBBCの番組で発表したのを皮切りに、エクソンやハリバートン、ニューオリンズでの住宅都市開発省などを標的にして彼らなりの茶化しかたで大企業の強欲ぶりを暴いていく。「災害は企業にとって良いものです」といった彼らの偽のプレゼンに賛同し、サバイバボール(上の写真のコスチューム)を真に受けて「テロ対策の商売にいいですね」なんて言ってくる企業の職員がいるのには失笑を禁じ得ない。

作品の全体的なテーマとしては「アンチ自由放任主義」があって、ミルトン・フリードマンが唱えた「規制なき市場」のモデルにのっとって企業が利益ばかりを追い求めた結果、貧しい人々が増えて苦しむことになったとイエスメンは厳しく指摘している。末端の人間とか環境保護のことを考えずに利益の追求と市場の開放を求める企業の人間や、彼らに雇われた経済学者のコメントもいろいろ出てくるんだけど、ああいうのを聞いてるとなぜ中国が経済成長を続けてるのかがよく分かるような気がしますね。

とまあ笑えるところは笑えるし、考えさせられるところは考えさせられる作品なんだけど、前作に比べるとなんか地味というかのっぺりとした印象を受けるんだよな。これはたぶん前作はプロのドキュメンタリー作家であるクリス・スミスが監督を務めてたのに対し、今回はイエスメンたち自身が監督しているためで、撮影はビデオ撮りだしカメラのアングルが変だしナレーションが自意識過剰気味だし、なんかアマチュア映画を観ているような気になってしまう。前作が劇場での鑑賞に堪えうる作品だったとすれば、今回のはテレビ特番といった出来かな。

ただし前作に比べて良かったのは「あなたたちの冗談のおかげで貧しい人たちが偽りの希望を抱いたと思わないんですか?」と指摘された彼らが、実際にボパールやニューオリンズの住民たちに会いにいくところで、住民たちはイエスメンを怒るどころか彼らの行為を賞賛してくれたというのが興味深かった。

こうして様々な場所に登場したイエスメンだが、彼らが出番を前にして緊張しているところとか、プレゼンの直後に正体がバレて詰問され、うろたえている姿なんかもこの作品では映し出されている。彼らが有名になるのに伴って正体がバレる可能性は高くなってくるわけで、彼らの活動はそろそろ大きな転換期を迎えているんじゃないだろうか。こないだやった偽ニューヨーク・タイムズの配布というのは新しい手段ではあるもののそんなに繰り返せないだろうし。

何にせよ我々庶民にとっては、彼らのように大企業をコケにしてくれる存在がいるのは大変頼もしいことなので、このまま逮捕されたりせずに神出鬼没の活躍を続け、この「イエスメンが世界を直す」に続くドキュメンタリーの第3弾をぜひ作ってほしいところです。

「The Book of Genesis Illustrated by R. Crumb」読了

アンダーグラウンド・コミックの始祖、ロバート・クラムが旧約聖書の「創世記」を描いた本。

なぜクラムが聖書を?というのは誰でも考えることで、アンダーグラウンド・コミックに影響を与えたベイジル・ウルヴァートンが晩年に宗教に目覚めて聖書の物語を描いた例が過去にはあるけれど、クラムの場合はそうした信仰の目覚めみたいなのがあったわけではなく、むしろ「聖書は神の言葉などではなく、人間の言葉だと私は考えている。それが長年のうちに聖職者たちによって編集され、彼らにとって都合のいい内容に変えられてきたのだ」と序文で明記している。どうも最初はアダムとイブの話だけを描く予定だったのが、聖書の話に興味を持つようになって5年かけて「創世記」を描きあげることになったらしい。

クラムが聖書を人間の言葉だと考えているからってアンチ宗教のような解釈は一切されておらず、むしろ表紙に「NOTHING LEFT OUT!」と書かれているように、「創世記」の出来事をすべて残らず緻密に描いた内容になっている。執筆にあたっては複数の版の聖書を研究し、当時の人物の衣装なども調べ上げる懲りようだったとか。

そして中を読んでみると分かるんだが、「創世記」で語られる物語は殺人・姦淫・裏切り・妬み・権力争いなどなど、今までクラムが描いてきたコミックと実は内容があまり大差なかったりする!白髪の老人という古典的な姿で描かれる神様(焼けた肉がお好き)は最初のほうは自分の創ったアダムとイヴを追放したり、洪水で人物の滅亡を図ったりとかなり理不尽な行為を重ねているものの、やがて人の夢とかに出てきて理不尽なお告げを与える存在という裏方にまわり、話はむしろノア・アブラハム・イサク・ヤコブ・ヨシュアといった男たちの(必ずしも宗教的ではない)年代記へと変わっていく。

そこで語られる話においては、割礼されていない男や子供を生まない女はまっとうな人間として見なされないし、父を騙して兄の代わりに祝福を受けたヤコブが公明な人間として描かれるなど、現代の観点からすると疑問に思われる箇所がいろいろ出てくるわけだが、当時のものの考えを知ることができるのが面白い。またクラム自身が奇妙に思った箇所については最後に解説がつけられていて、そもそも当時は女性を上位とする文化が栄えていたものの、やがて家父長制が台頭してくるようになり、それに合わせて聖書が書き換えられたために物語に歪みが生じたという推測をしているのが非常に興味深い。

何世代にも渡る物語が200ページ以上にびっしりと描かれているのはなかなか圧巻。クラムのイラストの素晴らしさは説明する必要もあるまい。いかんせんボリュームが大きいうえに話が淡々としているので読み進めるのには根気がいるかな。ロバート・クラムの入門書(あるいは聖書の入門書)としては必ずしもお薦めできないが、彼のファンならぜひ手にとってほしい大作。ニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストを独走していることから察するに、本国ではクラムのファン以外にも好評をもって受け入れられているみたい。

「デイリーショー」のジョージ・ルーカス

The Daily Show With Jon Stewart Mon – Thurs 11p / 10c
George Lucas
www.thedailyshow.com
Daily Show
Full Episodes
Political Humor Health Care Crisis

新年からHD放送になった「デイリーショー」のゲストとしてジョージ・ルーカスが出演していた。「コルベアー・レポー」に出演したときに比べるとちょっと真面目に映画について語っていて、スター・ウォーズに関する批評などについてもフランクに答えている。ジョン・スチュワートの「僕の息子は『ファントム・メナス』がお気に入りなんだけど、それは間違いだと言い聞かせてるんだ」というコメントがいいな。

まあエピソード1〜3(とテレビシリーズ)を作ったことには賛否両論あるだろうが、自分の好きな作品を作ってヒットさせてスタジオに束縛されなくなったという意味では最も成功したインディペンデント系監督なんだよな。このインタビューでもちょっと言及してる「RED TAILS」という新作は、監督やキャストに「THE WIRE」出身者が多いということで結構期待してるのです。公開はいつになるんだろう。

「第9地区」鑑賞

原題は「DISTRICT 9」。もともとピーター・ジャクソンのもとで人気ゲーム「HALO」の映画版の監督を務めるはずだった南アフリカ出身のニール・ブロムカンプが、「HALO」の話がオクラ入りになったことを受け、ジャクソンの支援を受けて自身の短編映画「Alive in Joburg」を長編映画化したもの。

舞台は南アフリカ共和国のヨハネスブルグ。そこの上空には1980年代に巨大な宇宙船が突然到来したのだが、宇宙船を操っていたと思われるエイリアンの支配層はすべて死に絶えており、その「働きバチ」とも言うべき無学なエイリアンたちが船内に残っているだけだった。彼らは南アフリカ政府によって地上に降ろされて隔離された居住区域「第9地区」をあてがわれるのだが、彼らは「エビ」(厳密にはコオロギ)呼ばわりされ、南アフリカの住民に嫌悪されることとなる。また宇宙船にあった技術や兵器はエイリアンのDNAがないと起動できないことから、地球人にとっては無用の長物であった。

そして20年の月日が経ち、エイリアンの居住区域は完全にスラム化し、ナイジェリア人のギャングが暗躍するような状況になっっていた。南アフリカ政府は彼らの居住区を都心からさらに離れた土地に移すことを決定し、エイリアンの強制移住にとりかかる。政府の職員であるヴィッカスはエイリアンから移住の同意をもらう仕事をあてがわれて第9地区に向かうが、そこで宇宙船の燃料とされる液体を浴びたことから、彼の身に変化が起きてしまう…というのが大まかなプロット。

隔離されて迫害されるエイリアンというのは露骨にアパルトヘイト時代の黒人のアナロジーなんだけど、変に政治的なメッセージを唱えたりせず、まずエンターテイメントありきのハードSFとして楽しめる作品になっている。最初の30分はヴィッカスの仕事を追った疑似ドキュメンタリーの形式をとっており、そこから話がどんどんシリアスなものになっていく展開には弱冠のアンバランスさを感じなくもないが、先が読めない展開に助けられて観る人を最後まで飽きさせない出来になっている。南アフリカで実際に使われているという兵器もいろいろ出てくるし、しまいにはパワード・スーツまで登場してアクション映画としても十分に堪能できる作品かと。

エイリアンや宇宙船なんかは最新鋭のCGによって描かれているものの、全体的な雰囲気としては80年代のアクションSFを彷彿させるところがあって、監督自身も「ロボコップ」とか「ターミネーター」などの影響を公言してるらしい。あと彼の短編なんかを観ると日本のアニメからも影響を受けてるようだ。というかですね、このパワード・スーツとかエイリアンとか大都市でのドンパチとかって、そもそも日本人が80年代あたりのアニメとかで得意としていた分野だったと思うのですよ。それを換骨奪胎されてしまったような気がする。しかもこの映画は南アフリカやニュージーランドやカナダなど、ハリウッド外のところで製作された比較的低予算の作品ですからね。南アフリカには地の利があったとはいえ(スラム小屋はすべて本物らしい)、なぜ日本の映画界はこういう作品を製作できないのか激しく自問すべきであろう。

ドクター・フー「THE END OF TIME」パート2鑑賞

ついに来たよ10代目ドクターの最終話。いちおうパート1よりかは良い出来になっている。大まかに分けて2部構成になっていて、最初の50分はジョン・シム演じるザ・マスターとティモシー・ダルトン率いる「あの連中」との戦いの決着が描かれ、残りの20分において自分の死を察したドクターと、今までの登場人物との別れが描かれていく。

マスターおよび「あの連中」との戦いはね、派手な展開などもあって面白いことは面白いんだけど、三つどもえになったせいか話の焦点が定まらず、どうも消化不良なオチになってしまったのが残念なところ。「あの連中」の何が脅威なのかいまいち分かりにくかったし、あのオバサンは誰だったんだろう…今までの話に見切りをつけるエピソードかと思っていたけど、これに関しては今後の伏線になるのかなあ?

残りの20分はそれよりも話がまとまっていて、ドクターが死ぬのに時間がかかりすぎな気もするけど、懐かしい顔ぶれが再登場してドクターと最後の面会をしていく。ここらへんは今回でシリーズを離れるラッセル・T・デイヴィスによる自分への餞別ですかね。最近はディヴィスを批判する人がずいぶん増えてきたけど、ここまで「ドクター・フー」を人気番組へと復活させた手腕は俺はちゃんと評価してますよ。ただ話の展開をやたら大きくしておいて後できちんとまとめることが出来なくなってるのは今回のエピソードを見ても明らかなわけで、ここらへんは彼に代わってシリーズを指揮するスティーブン・モファットが、傑作「BLINK」のように小粒でもアイデアの効いたエピソードを作ることに期待しよう。

そして最後は11代目ドクターが登場するわけだが、マット・スミスはあの変な顔の助けもあってなかなか面白そうなドクターになりそう。ドクターの喜怒哀楽を見事に表現したデビッド・テナントの後を継ぐのは容易ではないだろうけど、2010年代を代表するようなドクターになってほしいところです。新しいキャッチフレーズが「ジェロニモ〜!」だというのはどうかと思うけどさ。