「スプライス」鑑賞


「CUBE」のヴィンチェンゾ・ナタリの新作。

研究機関で働く科学者のクライヴとエルサは恋人同士であり、動物の遺伝子操作(スプライス)を行うことによって全く新しい人工生物を生み出し、そこから薬品の製造に必要なプロテインを採取する研究を行っていた。さらに彼らは周囲の目を盗み、人間の遺伝子が混合された禁断の人工生物を生み出すことに成功する。最初はすぐに死んだかと思われたその生物は急激な速さで成長し(これ人工生命もののお約束ね)、やがて人間の子供のような外見を持つようになったことからドレンと名付けられる。しかし成長を続けるドレンを研究所のなかで隠しきれなくなったことから、エルサの生家で現在は無人になった農場へとドレンは連れて行かれる。そこでも成長を続け、人間のごとく知性を取得していくドレンだったが、『彼女』には恐るべき秘密があった…というのがおおまかなプロット。

何というか真面目なSFとB級ホラーの境界線上にあるような作品。ドレンの謎めいた行為がリアルかつ不気味にきちんと描かれている反面、主人公2人の行動がちょっと間の抜けたものに見えなくもない。話の冒頭ではきちんと防護服を着て胎児状態のドレンの観察を行ってたりするのに、少し大きくなったら隠れ場所の多い納屋に入れて放置しておくというのは怠慢だろう。ドレンの尻尾の先に毒針が仕込まれてるのにも対処してないし、しまいにはドレンとXXしてしまうほど『彼女』に翻弄されてやんの。おかげで本業のほうは疎かになっているし、あんたら本当に頭のいい科学者なのかと。

またドレンが高度な単語を理解していることが明らかにされたり、エルサが複雑な家庭環境で育って、その経験をドレンの育成に反映させていることが示唆されたりしてることから、人間と人工生物の境界線はどこなのかというテーマをもっと掘り下げれば面白くなったんだろうが、結局のところモンスター・パニック的な展開におさまってしまったのが残念なところではある。

それなりに金のかかってそうなCGを多用し、スター級の俳優(エイドリアン・ブロディとサラ・ポリー)を起用した一方で、登場人物が非常に少なく、低予算映画であるという雰囲気は否めないわけだが、今後のナタリはもっと大作指向になっていくんですかね。というのも彼の今後のプロジェクトとして「ニューロマンサー」をはじめ「スワンプ・シング」とか「ハイ=ライズ」といったマニア垂涎の作品の映画化が噂されているので、このままカナダのカルト的監督という立場にとどまらず、でかい作品を1本ガツンと作ってほしいところです。

「TEETH」鑑賞


前からちょっと興味のあった、2007年のサンダンス系映画。本国だとホラーコメディとして紹介されてるんだけど、コメディ色は殆どなくて文字通り痛いシーンのあるホラーであったよ。

田舎の高校に通うドーンは病弱な母親とボンクラな義兄のいる家庭に育ちながらも、敬虔なクリスチャンとして純潔運動を説き、当然ながら自分の貞操をひたすら守る真面目な少女だった。彼女はトビーという同級生とねんごろな仲になりつつも、婚前の性行為はどうにか避けようとしていたのだが、我慢ならなくなったトビーによって半ばレイプのような形で挿入行為をされてしまう。しかし次の瞬間、トビーは股間が血みどろになって苦悶の呻きをあげていた。なんとドーンの女性器には鋭い歯が生えており、それで男性のモノを噛み切ることができるのだった。予想もしなかった自分の能力(?)に戸惑いを隠せないドーン。しかし彼女がその能力を使いこなせるようになってからは状況が変わって…というようなお話。

「歯の生えた女性器」を意味する「ヴァギナ・デンタタ」という概念は劇中でも言及されるように昔から存在してたらしいんだが、寡聞にして知らなかったよ。「ドクター・アダー 」というSF小説にこれと似た展開が出てきたっけ。監督のミッチェル・リキテンシュタインはロイ・リキテンシュタインの息子でゲイな人らしいが、ゲイだからこういう発想が出てきたのかな。まあストレートな男性が観たほうが怖い思いをする作品ではあるが。男性器を噛み切られたからって必ずしも死ぬわけではないが、男としての存在理由のようなものが瞬時に消え去るというのは興味深いところですね。

ただし全体的に展開がまどろっこしいところがあって、主人公以外の人物の描写も薄っぺらいし、性的な目覚めを経験する若者たちの描き方なども物足りないところがあるのは確か。B級ホラーとして割り切ってしまえば十分楽しめるのだけど、カルト映画というかジェンダー研究の対象として優れた作品になった可能性があっただけに中途半端な出来になってしまったのが残念。クローネンバーグが監督してたらたいへん面白い作品になっていただろうに。ただドーン役のジェス・ウェイクスラーの演技は大変素晴らしいですよ。もっと注目されていい役者さんだと思う。

「OUTSOURCED」鑑賞


NBCの新シットコム。いちおう元にある映画が存在してるらしいが、誰も知らんがな。

ここ数年のアメリカのテレビ界のトレンドとしてインド系の役者が増えてきてるというのがあって、ざっと思いつくあたりでも「ハウス」のカル・ペン、「THE OFFICE」のミンディ・ケイリング、「PARKS AND RECREATION」のアジズ・アンサリなどなどがレギュラー出演してる(してた)な。こないだエミー賞とった「THE GOOD WIFE」のアーチー・パンジャビもインド系だし。アメリカにおけるインド系の住民の数がここ数年で増えたというわけではないはずなので、これはインド系のコミュニティがアメリカ社会で存在感を増してきたことを反映してるのかな。最近選挙で立候補する人にはインド系が多いという話も聞いた事があるし。

でもまあハリウッドにおいて彼らが普通のアメリカ人として扱われるケースはまだ少ないわけで、流暢な英語を話す役者が無理矢理インド訛りの英語を喋らされ、マヌケな外国人の役をやらされる例も過去に何度か目にしたことがある。

この「OUTSOURCED」も限りなくそちらに近い作品で、主人公のトッドはノベルティ・グッズを販売する会社に務めていたが、そこのコールセンターがインドのムンバイへ外部委託(アウトソース)されることになったため、自分も仕方なしにインドへ向かうことに。そこで彼は個性的なインド人の部下たちとのカルチャー・ギャップに戸惑いながらも、皆と団結してグッズを売っていこうとするのだった…というのが大まかなプロット。

第1話を観た限りでは典型的なインド絡みのジョークとカルチャーギャップが描かれてるだけで、あまり面白くないなあといった感じ。たぶん「THE OFFICE」的な仕事場でのコメディを目指してるんだろうけど、インドというネタだけで何話も引っ張れるのかは微妙だな。アメリカ人は真面目なボスで、部下のインド人たちはクセ者だらけという図式もあまり感心できないし。

でもまあマイノリティが多く出演する番組が地上波ネットワークで放送されること自体は良い事だと思うので、今後のクオリティの向上に期待したいところです。本国の評判は微妙らしいのですぐ打ち切られるかも知れないけど。

「RUNNING WILDE」鑑賞


フォックスのシットコムはすべて「Arrested Development」と比較してしまう、なんてことを少し前に書きましたが、今年の新シリーズのなかでは理論的にはいちばん「AD」に近づきそうなのがこの「RUNNING WILDE」で、なんたってクリエイターが「AD」と同じミッチ・ハーウィッツだし、主演はウィル・アーネットだからね。おまけにデビッド・クロスもちょっと出てるぞ。しかしあくまでも理論の上の話で、実際のところは「AD」の再来ではないよな。といった感じだった。

ウィル・アーネット演じるスティーブ・ワイルドは石油会社の資産を受け継いだ大富豪だったが、そのボンボン暮らしが災いして世間一般の常識には疎く、その行いは傍若無人で、召使いなどのほかは友人もいないような状況だった。そんな彼が唯一心を開ける存在だったのが幼なじみのエミー(「フェリシティの青春」のケリ・ラッセル)だったが、そのエミーは環境保護の活動家となってボーイフレンドとともに娘をもうけ、アマゾンの奥地に暮らしていた。そしてスティーブが人徳者になったという話を聞いて一時帰国するものの、何も変わっていない彼を見て呆れてアマゾンに帰ろうとするものの、娘が戻るのを嫌がったことからスティーブのもとに滞在し、彼にまともな生き方を教えようとするのだった…というようなプロット。

こうして書くとコメディよりもドラマの要素が多いような気がしてきたな。とにかく第1話は悪い意味でいろいろ詰め込みすぎて、どういう方向に話を持っていきたいのかよく分からなかった。「AD」は個性的なキャラがたくさん出てきてドタバタを起こすのが非常に面白かったけど、この作品ではウィル・アーネットとケリ・ラッセルだけでどこまで話を抱えられるかは微妙なところだな。そもそもラッセルってコメディ向きの人じゃないような気がするけど。ラッセルの娘を演じる女の子も可愛いけどいまいち良く分からない存在になってるし。あとスティーブの隣人役に「LOOK AROUND YOU」のピーター・セラフィノウィッツが出ていたぞ。

「AD」と比べるのは酷としても、これから面白くなるのかどうなのか見極めが難しい作品かもしれない。ハーウィッツとアーネットは昨年「SIT DOWN, SHUT UP」という駄作を作っているだけに不安はあるのですが、でも面白くなりそうな要素もあるので今後に期待したいところです。