「Theory of Obscurity: a film about The Residents」鑑賞

Theory of Obscurity_ A Film About the Residents
目玉のマスクやその他たくさんの仮面を被り、正体を隠して40年以上コツコツと奇妙な音楽とパフォーマンスを披露し続けているサンフランシスコ出身のバンド、ザ・レジデンツのドキュメンタリー。彼らの詳しい経歴についてはウィキペディアの記事(おれが訳しました)を参照してください。

ヒッピー文化真っ盛りのサンフランシスコに前衛音楽をやりたい若者たちが集まったところからザ・レジデンツの経歴が語られるわけだが、当然のごとくこのドキュメンタリーには本人たちがいっさい登場しないので、当時の彼らを知る人々や元スタッフ、彼らのファンたちによってレジデンツの功績が語られていく。

インタビューを受けてるのはレス・クレイプールやマット・グレーニング、ペン・ジレットなどといったレジデンツ好きで知られる人々のほか、ディーヴォのメンバーやトーキング・ヘッズのジェリー・ハリソンなども登場していたし、レジデンツをサポートする団体であったクリプティック・コーポレーションのホーマー・フリンも多くを語っていた。なおホーマー・フリンこそがレジデンツの中の人ではないかという噂はファンのあいだで長らく語られてきたのだが、それの手がかりとなるような話は何も出てこなかった。

扱っている題材に比べるとドキュメンタリーの作りはいささか凡庸だが、レジデンツとして活動する前にサンフランシスコで演奏していた映像とか(画質が悪くて顔は見えず)、未完に終わった白黒映画「ヴァイルネス・ファッツ」のセットのカラー写真とか、目玉マスクの仕組みの説明(瞳の部分から外を見ることができ、ベルトで頭に固定するらしい)などといった映像は貴重かも。

なお題名の「Theory of Obscurity」というのは彼らと初期に共演していたサックス奏者のミステリアス・Nセナダが提唱したという「アーティストは正体が分からないときこそ、その真価を発揮できる」というセオリーであり、これに基づいてレジデンツは顔を隠し、性別を隠し、正体を隠しているのである。ここらへんはバンクシーなんかと通じるものがあるのかな。しかしNセナダがそもそも実在の人物ではないという説もあるようで、実に謎である…。

レジデンツの入門書みたいなドキュメンタリーだが、これを観て興味を持った人は彼らのPV集である「イッキー・フリックス」なんかを観てみると彼らの斬新さが分かるのではないでしょうか。姿を隠したままこれからもザ・レジデンツは活動を行い、俺やあなたたちが亡くなったあともレジデンツは生き続けるのである。

「レヴェナント: 蘇えりし者」鑑賞

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ネタバレしないように感想をざっと:

・ディカプリオが(やっと)アカデミー賞を受賞したことで知られる作品だが、演技自体は前作の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のほうが遥かに上であって、あれがコメディだったから受賞できなかったのを、残念賞的な意味合いをこめて本作で賞を与えられたのだと個人的に思ってるのですがどうでしょう。

・しかし「ウルフ」で鍛えた技術が本作で如実に生かされているところが1つあって、それは「這うこと」!前作では麻薬でラリって腰が抜けたまま這いつくばって車に乗り込むという会心の演技を見せつけたディカプリオですが、今回はさらに雪原や森のなかをひたすら這う!這う!ほふく前進をやらせたらいま一番の役者ではないかと、スクリーンを見ながら考えてしまったよ。次は軍隊ものか難病ものでまた大地を這ってほしいところです。

・でも役どころとしてはやはり悪役の得というか、トム・ハーディのほうが凄みがあって良かったと思う。本国ではブツクサ言っていて何を言ってるのか分からないという批評も受けた演技だが、幸いなことに日本では字幕があるのでセリフの内容も理解でsきたし。あとはウィル・ポールターもいい役者になったなあと。

・実話に基づいたせいか、ストーリー自体は比較的凡庸だったものの、大自然の壮大な光景と巧みなカメラワークがそれを補って見る人を飽きさせない作りになっていた。最近VRアプリの映像を見る機会が多いのだけど、ワンカットで周囲でいろんなことが起きているなか、視点があちこちに移っていくカメラワークはVRのそれに近いものを感じました。今後はエマニュエル・ルベツキのカメラワークを参考にしたVR映画が増えてくるのではないかと。

・ネイティブ・アメリカンにいろいろ配慮したストーリーになっていって、やはり今後のハリウッド映画ってそういう流れになっていくのかなと。主人公にネイティブ・アメリカンの妻と息子がいたというのも完全な脚色らしいし。まあアダム・サンドラーみたいに差別的な作品を作るよりはマシでしょうが。なおフランス人はいつまでたっても悪者ですね。

・音楽も効果的に使われているが、作曲者が3人?いるみたいなのでどこらへんに坂本龍一が貢献してるのかはわからず。

・本国では「ディカプリオは熊にレイプされた」という噂が出回ってましたが、確かにそう思いたくもなる腰使いであった。まあメスの熊でしょうけどね、あれ。

・「バードマン」に比べると監督の暴走というよりも技巧が際立った作品ではあるが、悪くはないですよ。いろいろ血まみれにはなるので万人向けではないだろうけど。

「HUNTERS」鑑賞

Hunters, Season 1
「ウォーキング・デッド」が大ヒットしてイケイケのゲイル・アン・ハードが製作を務めるSyfyの新シリーズ。

退役軍人のフリンはPTSDを抱えつつも、愛しい妻とかつての戦友の娘とともに暮らしていたが、ある日妻が何者かに誘拐されてしまう。彼女を探したフリンは人里離れた一軒家で奇妙な能力を持つ人物に遭遇する。実はハンターと呼ばれる宇宙人たちが地球に侵入しており、フリンの妻は彼らに誘拐されたのだった。アメリカ政府もハンターたちの動向に気づいており、極秘組織ETUを設立して彼らの動向を探っていた。そしてETUに加わったフリンは妻を求めてハンターたちと戦うことになるのだが…というあらすじ。

いちおう原作小説があるらしいけど、非常にベタなエイリアンもののプロットですね。ハンターとの戦いを現実社会のテロリストとの戦いになぞらえて、政治的な要素を盛り込んでるみたいなことを製作陣は言ってるらしいが、それって「ギャラクティカ」がずっと上手く描写していたでしょ。

なおハンターは人間そっくりに化けられるものの、中身は「バカルー・バンザイ」のエイリアンみたいな格好をしていて、「第9地区」のエイリアンみたいにカチカチとした音を立てるほか、音楽(第1話ではなぜかOMDの「Maid of Orleans」)にメッセージを隠して交信を行い、使う武器もソニック・ウェポンという設定になっている。ただフリンの妻を誘拐した以外は具体的に悪いことをしておらず、本当にこいつら怖いのか…?という感じは否めない。

あと全体的に編集が雑というか劇中の時間の経ち方がなんか変で、冒頭はフリンの妻が監禁されてるところから始まり、それから72時間前に戻って、ETUのエージェントがハンターを襲撃して殺すシーンになり、それからフリンが登場して、ETUがハンターを解剖して、あれどこまでが72時間だっけ?という感じ。オーストラリアで無名の役者を使って撮影してるせいか、そもそもフリンが主人公だということ自体が途中まで分からなかったぞ。

アメリカでも評判は押し並べて悪いようだし、あまり長続きはしない作品かと。最近のSyfyは数年前に比べてSF番組をまたいろいろ作っている印象があるのに、どうも評価が高いものが無いのが残念。

「THE LAST PANTHERS」鑑賞

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デビッド・ボウイが生前に楽曲(「★」な)を主題歌に提供したことでも知られる、フランスの犯罪ドラマ。

物語の発端はマルセイユ。伝説の宝石泥棒グループ「ピンクパンサー」の一員だったミランは新たな仲間と組んで宝石店へ強盗に入り、ダイヤモンドや高級時計を奪うことに成功する。しかし警察から逃走する際に仲間が6歳の少女を誤って射殺してしまったことから、仕事の依頼主に宝石の買取を拒否されてしまう。仕方なしにミランたちは別の買い手を探してジェノヴァやベオグラードなどを転々とすることになるが、フランスの刑事やイギリスの保険調査員もまた彼らを追っていた…というようなあらすじ。

冒頭こそ手の込んだ強盗劇を見せられるものの、だんだんとミランたちの計画が崩れていき、あとは自分の過去と向き合う人間ドラマみたいになっていきます。ミランが過去にパンサーの仲間たちといろいろあったこととか、保険調査員がかつて国連軍の兵士であり、ベオグラードで何かトラウマとなる出来事を経験していたらしいことなどがフラッシュバックなどで示唆されるのだが、これらは今後の話で明らかになっていくのでしょう。

保険調査員を演じるのがサマンサ・モートンで、彼女の辛辣な上司にジョン・ハート、フランスの刑事に「預言者」のハール・ラヒムと、キャストは比較的豪華か。国際的なキャストが揃ってる反面、英語とフランス語(あとセルビア語?)のセリフが入り混じるので話を追うのがちょっとしんどかったりする。

色あせたトーンの映像のなか、暗い話がずっと続いていくのはいかにもヨーロッパのドラマだなあと。でも欧米の評判は良いようだし、2話以降の展開が気になるような出来ではあった。

「Future Shock! The Story of 2000AD」鑑賞

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「ジャッジ・ドレッド」や「ローグ・トルーパー」などの作品で知られるイギリスのコミック雑誌「2000AD」に関するドキュメンタリー。

物語は70年代後半から始まる。イギリスで不況の嵐が吹き荒れてパンク・ロックが盛り上がりを見せるなか、コミックのライター兼編集者であるパット・ミルズは当時のイギリスの凡庸なコミック業界に風穴を開けるために「Action」誌を発刊。「ジョーズ」などのハリウッド映画に影響を受けた作品を載せたこの雑誌はイギリスの少年たちに大きな人気を博するものの、その暴力的な内容によってメリー・ホワイトハウス(そういう有名な保守の活動家がいたんすよ)たちの抗議を受けて廃刊に追い込まれる。このためミルズは検閲を逃れるためにSFっぽい話を多くした「2000AD」を、仲間のライターであるジョン・ワグナーとともに小さなオフィスで立ち上げる。

人を食いちぎる恐竜や、架空の共産国に侵略されるイギリスといった題材を、相変わらずの暴力描写で描いた「2000AD」はすぐさまヒット。しかし作品の多くは反体制的なものでありながら、明らかにファシストである主人公をもった「ジャッジ・ドレッド」が一番の人気作品になったのは皮肉ではありますね。

そして「2000AD」はイギリスの数多くのコミック・ライターおよびアーティストが活躍する場となり、このドキュメンタリーでもグラント・モリソンやケヴィン・オニール、デイブ・ギボンズ、ニール・ゲイマンなどといった錚々たる面々がインタビューに応えている。例によってアラン・ムーアは出てないけど、娘のリア・ムーアは出てます。

なお著作権をめぐってムーアがケンカして打ち切られた作品「ヘイロー・ジョーンズ」が本来ならばどういう結末を迎えるはずだったのかをムーアに教えてもらったゲイマンが、その内容を思い出しながら涙目になってるところが印象的。リア・ムーアが「私もヘイロー・ジョーンズの続きを教えて欲しいんだけど、パパ忙しいのよね…」とか語ってるのだが、いやそれは絶対聞き出して公表したほうがいいぞ!

こうして多くのライターとアーティストを輩出し、作品に彼らの名前をクレジットしていた一方で、「2000AD」の出版社は彼らの著作権を一切認めず、海外でリプリントされた作品についても印税を払わないなど、その労働条件は決して良いものではなかった。さらに80年代前半には海外の才能ある人々を探しにやってきたDCコミックスによってライターとアーティストがごっそり引き抜かれ、それが後の「ウォッチメン」やカレン・バーガーによる「ヴァーティゴ」の設立につながるわけだが、こうした作家たちを失った「2000AD」は人気が低迷していくことになる。

んで皆の証言によると90年代半ばあたりがいちばん低迷してた時期らしいですが、おれこの頃の「2000AD」は比較的よく読んでたんだよな。まあ「B.L.A.I.R. 1」みたいな俗っぽいパロディを連載してたりしたので世間受けは良くなかったのでしょう。それでこれはいかんということで編集長が代わり、出版社も別のところに移り、2000年代になってまた活気が出てきたよね、というような話で締めくくられている。個人的には最近は読んでないのでどうクオリティが向上してるのか分かりませんが。

いちばんインタビューの時間が割かれているのが(当然ながら)パット・ミルズで、意外とおとなしいジョン・ワグナーに比べて、ことごとく悪態をつきながら「2000AD」の歴史を語っていくその姿は高齢ながらも非常にエネルギッシュであった。往年のファンのとっては必ずしも新しい情報が含まれてるドキュメンタリーではないが、イギリスのコミックに興味がある人には格好の入門書となるような作品ではないでしょうか。