「TABLOID」鑑賞


エロール・モリスの新作ドキュメンタリー。ドキュメンタリーなんだけど探偵小説のごとき展開を持った作品なので以下はネタバレ注意。

時は70年代後半。ワイオミングに育ったジョイス・マッキンリーは美人コンテストなどでも優勝していた淑女だったが、モルモン教徒のカーク・アンダーソンと恋に落ちて結婚寸前まで行ったものの、彼女が布教の邪魔になると考えたカークとその仲間は黙ってイギリスへ渡ってしまう。ジョイスはそれにもめげずに金をためて人を雇い、イギリスへ行ってカークの居場所を突き止め、彼をさらって田舎の小屋に連れ込んで三日間にわたる「愛の営み」を行う。そしてロンドンに行ったら誘拐罪で彼女たちは逮捕され、カークをレイプしたという容疑をかけられてしまう。果たして三日間の行為は強制的なものだったのか、それとも合意のもとで行われたことだったのか?この件はイギリスのタブロイド紙の格好のネタとなり、「Manacled Mormon(手枷をはめられたモルモン教徒)」として各紙のあいだで白熱した取材合戦が行われるようになる。世論的は彼女に同情的であり、ジョイスは時の人となるのだが、彼女が過去にいかがわしい仕事に関わっていたことをある新聞が探しあててしまう…というような話。

カルト教団に立ち向かったメンヘラな女性の物語、といえばいいんでしょうか。当時のことを語るインタビューはジョイス本人によるものが7割くらいで、それに昔の仲間やタブロイド紙の記者などのコメントが絡んでくるような形になっている。ジョイスは喜々として自分の冒険を語るものの、その大半が美化されておりウソまがいであることに注意が必要。彼女の話のどこまでが本当なのかを観てる人が考えるようになる、というのはインタビューに定評のあるモリスの映画ならではですかね。ちなみにジョイスは呼ばれてもいないのにこの映画の試写会に出没しては「この映画はウソよ!」なんて言い放ち、しまいにはモリスを訴えたそうな(モリスは以前にもドキュメンタリーの対象に逆ギレされて訴えられている)。

題名から予想していたほどメディア批判などは行っておらず、何にでもとびつくタブロイド紙を揶揄している程度。モリスの近年の作品としては戦争などを扱っていないし、比較的軽めの内容になっているが、おかげでかなりとっつきやすい作品になっているかも。これを観たからといって何かが学べるような作品ではないですが、ジョイスという非常に興味深いインタビュー相手のおかげでなかなか楽しめる映画になっているといえよう。

「Life’s Too Short」鑑賞


「THE OFFICE」と「EXTRAS」のリッキー・ジャヴェイスとスティーブン・マーチャントのコンビによるBBCの新シットコム。

「ウィロー」や「ハリー・ポッター」シリーズなどで知られる小人症の俳優ワーウィック・ディヴィスを主人公にした疑似ドキュメンタリー風の作品で、ディヴィスが演じるのはフィクション化された彼自身。
番組内での彼は仕事にありつけず、妻とは離婚の協議中というサエない状態で、無能な会計士のおかげで莫大な税金を払うことになって頭を抱えている始末。仕方なしに彼は仕事を求めて旧知のジャヴィエイスとマーチャントのところに赴くのだが、あまり歓迎されず…というようなプロット。

気まずいシチュエーションが連発される展開と、奇怪にデフォルメされたセレブリティたちが本人を演じる内容は「EXTRAS」そのまんま。あの番組の続編といってもいいくらい。主人公が主人公なので身長に関する際どいジョークがたくさん出てくるぞ。

個人的には「EXTRAS」や「Curb Your Enthusiasm」みたいな、主人公が遭遇する気まずいシチュエーションを笑うタイプのコメディってあまり好きではないんだけど、どんな状況にもめげずに絶妙なタイミングでツッコミを入れるディヴィスの姿は結構面白かったな。彼ってこんなにコメディのセンスがあったのか。「ウィロー」がもう20年以上前の映画なので彼って相当なベテラン俳優になるわけだが、まだ41歳なんだよな。

第1話ではゲストにリーアム・ニーソンが出てきて、「俺はコメディがやりたいんだ!」と言って何故かエイズに関するジョーク(?)を無表情で連発する光景は抱腹絶倒もの。「EXTRAS」でのセレブの出演は当たり外れが大きかったけど、パトリック・スチュワートみたいに威厳のある役を演じることが多い役者がコメディを演じてるさまは非常に面白いですね。この他にもスティーブ・カレルやジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム・カーターなんかがゲスト出演するらしい。

やはり設定があまりにも「EXTRAS」に似ており、今後の展開もあのシリーズと同じものになりそうでちょっと先が読めてる気がしなくもないのですが、少なくとも第1話は及第点だったし、サプライズはなくても面白いシリーズになることに期待しましょう。

「RED STATE」鑑賞


ケヴィン・スミスが珍しく真面目に撮ったホラー映画。彼がコメディ以外の作品を撮ったのって初めてじゃないかしらん。ホラーというほど怖くはないし、サスペンス映画というわけでもない中途半端な内容だけどね。以降はネタバレ注意。

アメリカ中部の田舎町に住むジャレッドたち3人の高校生は、近所に住む女性がセックスの相手を募集しているというネット上の広告を見つけ、喜びいさんで彼女の所へと向かう。しかし出されたビールを飲んで気絶してしまった彼らは、半裸になって拘束された格好で目覚めることに。実は彼らはウルトラ保守のキリスト教団体「ファイブ・ポインツ・チャーチ(以下FPC」によって誘拐され、性の乱れを象徴する者として処刑されようとしていたのだ。どうにか処刑を免れようとするジャレッドたち。そしてその騒ぎを町の保安官がたまたま耳にしたことからFPCの所行が明らかになり、教会に機動隊が派遣されるのだが…というようなストーリー。FPCのモデルは明らかにウエストボロ・バプティスト教会で、銃撃戦になる展開はブランチ・ダビディアンの事件をベースにしたものだな。

まず驚くのがその説明的なセリフの多さ。学校の先生がFCPの非道っぷりを語るシーンから始まり、FCPの教祖が彼の信条を延々と語り、政府のエージェントが上司にFCPの捜査状況を説明し、FCPの教会のある建物がどれだけ武装されているかが機動隊に解説され、最後に物事の顛末をエージェントが上司に報告するといったクドい展開が続く。ケヴィン・スミスが演出家というよりも脚本家タイプだってのは十分承知しているのですが、もっとセリフを削っても良かっただろうに。

そしてこのクドさを解消できるような演出が出来ているのかというとそうでもなくて、逃げた少年が追いかけられるシーンとか銃撃戦のシーンとかは、前にもいろんな映画で見てきたような感じの出来。もう10本近く映画を撮っている監督なんだからもうちょっと巧みな演出や撮影を期待してたんだけどね。話の展開がグデグデになるところと銃撃戦が膠着状態になるところが妙にシンクロしてたのはいい雰囲気を出してましたが。

その一方で出ている役者たちのレベルは非常に高く、教祖を演じるマイケル・パークスが真に迫った演技を見せつけてくれるほか、メリッサ・レオやジョン・グッドマン、スティーブン・ルートにケヴィン・ポラックなどといった俺好みの濃い役者たちがいろいろ出てきていい演技を見せつけてくれる。あの説明調のセリフを自然な感じで語るには相当の演技力が必要ではないかと。メリッサ・レオはアカデミー賞を穫っても変に気取った映画に出ず、ホワイトトラッシュのオバサンを演じるところがいいですね。

どこかの新人監督が撮った映画として観れば別に悪くはないんだろうけど、ケヴィン・スミスの映画だという前知識を持って観てしまうと全体的に物足りなさを感じてしまうな。俺は彼の書いたコミック(デアデビルとかグリーン・アロー)が好きなので、コメディだけでなく真面目な映画もきちんと撮れるかと思ってたのですが、これを観る限り必ずしもそうではないようで。ちなみにあと2本映画を撮って監督業は引退すると発言してるらしいけど、本当なのかな。

「Writing Movies for Fun and Profit: How We Made a Billion Dollars at the Box Office and You Can, Too!」読了


「ナイトミュージアム」や「ハービー/機械じかけのキューピッド」「キャプテン・ウルフ」「TAXI NY」など世界中で大ヒット!の映画の脚本を手がけたロバート・ベン・ガラントとトーマス・レノンによる、ハリウッドで脚本を売って成功するためのノウハウが面白おかしく書かれた本。

彼らの手がけた映画自体は大して面白いとも思わないが、2人ともカルト的人気を誇るコメディ集団「THE STATE」の出身だし、コメディ・セントラルで長年続いた「RENO 911!」なども手がけた人たちなので、決してツマらない脚本しか書けない人たちではないのですよ。そんな彼らがハリウッドにおける10年以上の経験をもとに、メジャースタジオに脚本を買ってもらうためのアドバイスを書き連ねているわけだが、「優れた脚本」や「賞を穫りそうな脚本」あるいは「ヒットする映画の脚本」などの書き方ではなく、あくまでも「スタジオに金を払ってもらえそうな脚本」の書き方に徹しているところがポイント。

まず「ハリウッドで成功したければとにかくハリウッドに住め!」というアドバイスから始まり、「ハリウッド映画の話のパターンは1つだけだ!」とか「却下された脚本にはこだわらずすぐ次の脚本を書け」「映画の企画をスタジオにもちかける際はなるべく他の映画を例に出せ」「スタジオやスターには逆らわず、リライトを命じられたらすぐに書き直せ」「良いアイデアを生むためには酒を飲め」などといった、アート系の人なら顔をしかめそうなアドバイスがいろいろ書かれている。

これらにの行為については書いてる本人たちも決して好きでやっているわけではないことが明確に書かれていて、「ハービー」とか「TAXI NY」が酷評されたこともちゃんと了解したうえでアドバイスをしており、気取ったギョーカイ人のような雰囲気はまるでなし。首切りや再雇用が日常茶飯事である業界で、スタジオから仕事をもらうにはどれだけアホみたいなことをしなければならないのがよく分かる本ではないかと。脚本をまるで読んでないのにストーリーに注文を出してくる重役や、ストーリーの長さを脚本の重さで判断する重役の話、「ハービー」が完成するまでに24人の脚本家が関わった話など、ハリウッドにまつわるいろんなコワい話も紹介されているぞ。

個人的にいちばんツボだったのは、『どこの駐車場に車を停められるか』で自分がどれだけスタジオに気に入られているかが測れるというのが一章を割いて詳細に説明されている部分で、例えばディズニーだと「屋外の駐車場は偉い人向けだが、地下の駐車場はダンテの地獄よりも最悪だ!」といった具合。土地勘がないと分からないネタだけど大変面白かった。

なお冗談めいたアドバイスだけでなく実際に脚本を書くにあたっての説明もきちんとされていて、必須のソフトウェア(Final Draft)やスタジオごとの脚本の余白の取り方、脚本家組合への申請方法やクレジットで揉めた際の調停の仕組みなどについても書かれている。こういう情報をちゃんと載せた本ってそんなに多くないのでは。映画のクレジットの意味を詳細に説明した巻末部分だけでも読む価値があるかもしれない(それでもExecutive Producerが具体的に何をやる人なのか説明できてないけど)。複数の脚本家が関わったときのクレジットで「&」と「AND」では意味が違うなんていう小ネタも面白かったな(前者は一緒に仕事をした場合で、後者は書き直しなどをした場合)。

アドバイスや小話のほかにもサンプルとして映画の企画案とか、没になった劇場版「RENO 911!」の脚本のアウトラインとかが掲載されているんだけど、これがみんなお世辞にも面白いとはいえない代物で、サエない男性がトラブルに巻き込まれるもののどうにかそれに打ち勝ち、意中の女性(もしくは家族の愛)をゲットする、という典型的なストーリーばかり。でもまあうまく脚本が売れて万事がうまくいった場合(いかない場合が多いのだが)、懐に転がり込む金額というのは相当な額になるらしいので、そうなると魂の1つや2つでも売ってゴミのような脚本を書きたくなるようなあ。この本の著者たちがやってることには賛否両論あるだろうが、読んでて非常に面白い本でしたよ。アマゾンのレビューにある「この本は彼らの映画よりも面白い!」という意見がすべてを語っているかと。


最近は「THE STATE」の出身者をいろんなところで見かけるな。

「ALLEN GREGORY」鑑賞


「マネーボール」などで今をときめくジョナ・ヒルが原案と声優を担当するフォックスの新作アニメ。

金持ちでゲイの父親を持つアレン・グレゴリーは7歳なのに寿司やワインをたしなむマセた少年で、父親のパートナーにホームスクーリングを受けていたものの、彼が仕事を持つことになったために民間の学校に通わされることとなる。しかし当然ながら一般的な子供たちのあいだでアレン・グレゴリーの言動は浮きまくり、彼はさっそく学校のジョックたちの標的にされ…というようなプロット。他にもカンボジアからの養子であるアレン・グレゴリーの妹(姉?)とか、黒人の召使いなどのキャラクターも出てくるぞ。

第1話が本国ではまんべんなく酷評されていたので身構えて観たのだが、そこまで悪くはなかった。面白いかというとそんなことはなくて普通にツマらないんだけど、気分を害するような内容ではないというか。主人公がオバハンの校長先生に恋をする展開はちょっとオエッという感じでしたが。マセた子供の話、という点ではむかしMTVでやってた「ダリア」に似てるかな。あとはいまいち方向性が分からないアニメという点では短命に終わった「SIT DOWN, SHUT UP」に通じるものがあるかも。

アニメーションは流行りのフラッシュ風なんだけど、非常に動きがなめらかであることに驚く。製作会社のBento Boxって「Bob’s Burgers」も作ってるところなのか。声優はジョナ・ヒルのほかにウィル・フォーテとかレスリー・マンなどの有名どころも使ってるんだけど、まあ評判が悪いので長続きしないシリーズだろうなあ。ジョナ・ヒルってセス・ローゲンとかと比べてもまっとな脚本が書ける人ではないような気がするので、普通に俳優をやってたほうがいいのではないと。

ちなみにフォックスはこのあと「Napoleon Dynamite」のアニメ版も製作するはずなんだが、あの映画の印税をめぐってプロデューサーがフォックスを訴えた件ってどうなったんだろう。