「NAOMI」鑑賞

DCのコミックを原作にしたThe CWの新シリーズ。

主人公のナオミ・マクダフィって、マーベルで長年仕事をしていたライターのブライアン・マイケル・ベンディスが数年前にDCに移ってきてから生み出したキャラクターで、アメコミファンのあいだでも知名度はそんなに高くないんじゃないかな。個人的にベンディスの作品が好きでないことは以前に書いたが、マーベルではヒーローよりもヴィランの描写に偏重気味であった彼のライティングも、ヒーローが神々しいDCにおいてはそれが中和されて、思ったよりも良い作品を出していると思うのです。

その彼による「NAOMI」は6話のリミテッドシリーズとして始まり、アメリカの田舎町に住む心優しい少女ナオミが、自分に秘められたパワーが覚醒したことで、自分の生い立ちの秘密に迫っていくという内容だったような。スーパーヒーローとして目覚めたナオミ(別名パワーハウス)は頑丈で空が飛べてエネルギーブラストを発射することができるという実に無敵のキャラクターで、なんかベンディスの「ぼくのかんがえた最強キャラ」といった感じ。とはいえ大御所のベンディスのゴリ押し(?)により最近はジャスティス・リーグにも加入して、スーパーマンやバットマンと肩を並べる存在になってしまった。

それで今回のTVシリーズだが、第1話はコミックの内容と概ね同じで、ナオミの住んでいる街でスーパーマンがヴィランと闘ったことがきっかけでナオミの体に変調が起きはじめ、街に住む謎のイレズミ男から彼女の出生の秘密を聞き出そうとする…というあらすじ。ナオミが原作に比べてもっと知的で陽キャラっぽい(世界で3番目に人気のあるスーパーマンのファンサイトの運営者だそうな)ほか、ナオミの住む街に軍事基地があり、彼女の養父を含む軍の関係者がずいぶん多いことが強調されていた。

小さな街のスーパーヒーローの女の子、という点では同じくThe CWの「STARGIRL」によく似ているけどあちらは原作者のジェフ・ジョンズが脚本でも関わっているのに対し、こっちはベンディスがプロデューサーとして名を連ねるのみで、映像化にはエイヴァ・デュヴァーネイが積極的に関わっているみたい(第1話の脚本は彼女だが監督は別の人)。デュヴァーネイといえばDCの「ニュー・ゴッズ」の映画化を降板してこっちのシリーズに関わった人でして、そもそも歴史の浅いキャラクターだしベンディスよりもデュヴァーネイの意向が強く反映された内容になっていくのかな?

黒人の少女の物語であり、デュヴァーネイが関わってることなどから、放送前から「こいつはWOKEな作品だ!」(日本流に言えば「ポリコレに配慮した作品」)と叩いてる連中も例によっているようだけど、そんなもの実際に観てみないと分からないでしょ。とはいえ原作の知名度もあるわけではなく、キャストもあまり有名どころがいるわけでもないようなので、いろいろ頑張らないと長続きするのは難しいかもしれない。

https://www.youtube.com/watch?v=g6npbQTvaMo

「WHAT DO WE SEE WHEN WE LOOK AT THE SKY?」鑑賞

良い評判を目にしていたジョージア(アメリカじゃないよ)の映画。

舞台はジョージアの街(クタイシ?)。ワールドカップの放送に人々が期待するなか、ギオルギとリサという男女が街中で出会う。1日のうちに何度か出会ったふたりは、次の日にカフェで会いましょうと約束をして別れる。しかしその晩、ふたりは悪い呪いをかけられ、外見をまったく違う人のものにされてしまう。それでも約束通りカフェに向かうふたりだったが、お互いの外見が異なっているために気づかず再会はできなかった。さらに呪いの影響で職を変えることになったふたりは、ごく近くの場所で働くことになるものの、それでもお互いの正体には気づかず…というあらすじ。

あらすじだと災厄がふりかかってきた恋人の物語のように聞こえるが、全くそんな内容ではなくて、外見が変わった(異なる役者が演じている)ギオルギとリサがそのまま普通に暮らし、また接近していくさまが淡々と描かれている。呪いをかけたのは誰かとか、解くにはどうするのかといった展開は全くなし。

2時間半の長尺だが、子供たちがサッカーをして遊んでいる光景とか、野良犬がサッカー中継を観る話とかに多くの時間が割かれていた。監督のAlexandre Koberidze自身によるナレーションがまた飄々としていて、現代のおとぎ話を聞かされているような感じになってくる。ペースが間延びしているといえばそれまでだが、ジョージアの日常なんてそう目にするものではないから退屈ではなかったよ。

ロングショットで撮影されたシーンが多くて、街の風景を遠くから眺めるような雰囲気をだしているほか、主人公ふたりの外見が変わっても特にクローズショットになったりせず、逆に人物の足元をよく撮っているあたり、自分の撮りたいものがよく分かっている監督だなと思いました。画面上に突然テロップが出て、「合図するまで目を閉じてください。いいですね?」なんて観客に指示する演出もあり、遊び心に溢れてました。

万人向けの作品ではないだろうけど、ほんわかした心地よい作品。ジョージア語は文字が可愛いね。

「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」鑑賞

観た人はご存知のようにこれ出オチが重要な映画なので、出演者について語るとネタバレになってしまうのよな。というわけで以降は完全にネタバレがあるものとして注意してください。そして感想をざっと。

  • 前作の終わり方からも想定されてたように、話のベースになってるのは原作の「ONE MORE DAY」のストーリーラインか。以前に書いたようにあれコミックは評判悪くてライターのJM・ストラジンスキー自身も不満を述べてるような代物だが、あれが映像化されてクレジットで謝辞も捧げられているストラジンスキーの心中はいかなるものだろう。尤も原作と違ってドクター・ストレンジを使うことで「オールリセット!」の過程はもっとマイルドになってたけど。
  • あとはマルチバースの概念が登場することから、原作の「スパイダーバース」に負うものも大きいな。ライミ版とアメイジング版だけではなく、アニメ版「スパイダーバース」も観ておいたほうが楽しめますね。
  • 個人的に、現在のアメコミ映画の(長い)トレンドはサム・ライミのスパイダーマン3部作から始まったと考えているので、あの潤沢な資産をきちんとリスペクトしたうえでリソースとして使い、一方では2作で終わってしまった「アメイジング」にも満足できる解答(着地シーンね)を与えていたのは旨いなと思いました。
  • ただし脚本でどうしても腑に落ちない点があって、それは全てのトラブルが主人公の未熟さ故に起きたということ。ストレンジの呪文を邪魔したのは若気の至りだと大目に見るとしても、そのあとの「ヴィランたちを元いた世界に返す」ことを拒否したために、結果として大事な人に危害が加わったわけで、彼がどんなに奮闘しようとも「あんたが人の言うことを最初から聞いていれば…」と冷めた目で見てしまったよ。
  • この一連の展開で感じたのが「アメコミ映画の業(カルマ)」のようなもので、有名ヴィランはどんなに極悪非道なことをしても死なないアメコミとちがって(死んで生き返る人もいますが)、アメコミ映画って89年の「バットマン」の頃から「主人公の正体を知ったヴィランが死ぬ」という結末が多かったんだよな。今回はそれを踏まえたのか「あなたたち今までヴィランを死なせてたのだから、今回はちゃんと救いなさい」という内容になっていたのは興味深かった。
  • でもやはりピーターが払った代償は割に合わないと思うのよねえ。それを受けて彼が何かを学んだのかと考えると微妙で、単に罰を黙って受け入れたような感じもしたのだが。おばさん、コミックでも2回くらい生き返ってるのでこっちでも復活するかと思ってたのに。

というわけで脚本の落としどころにはモヤモヤするものが残ったものの、過去のスパイダーマン映画の集大成という意味では楽しめる、よく出来た作品でございました。(劇場内での撮影は違法ですが)海外のファンのリアクション動画を見ていると、例の登場シーンなんかは相当盛り上がったみたいで、日本の観客ももっと騒いでもいいのにな、とこういう映画を観た時には思ってしまう。

「SLUGFEST」鑑賞

新型コロナウィルスの影響により、アメリカでは数年前まで言われていた「ピークTV」のピークが過ぎて以前ほど大量のテレビ番組が作られなくなったような気もしますが、その一方ではNETFLIXに負けじといろんな配信サービスが立ち上がっているような?そんななかで知ったのがROKUチャンネルというサービスでして、名前から分かるようにROKUが運営している配信サービスなのだそうな。ROKUって日本では展開してないので知名度低いが、NETFLIXなどをテレビで観られるようにするセットトップボックスのブランド。よってROKUチャンネルってROKUのデバイスでしか観られないんだろうな、と思っていたら普通にブラウザ経由でログインできてしまった(日本からは要VPN)。

作品の品揃えはお世辞にも豪華とは言えず、一昔前の映画が揃っている印象だが、数少ないオリジナル番組のなかで観たかったのがこの「SLUGFEST」。アメコミの二大出版社であるDCとマーベルのライバル関係を追ったドキュメンタリーで、同名の書籍をベースにしているらしい。

「SLUGFEST(殴り合い)」という題名ではあるが、アメコミの歴史をちょっと齧ったことのある人ならご存知のように、DCとマーベルってそんなに仲が悪いという訳ではなくて、日本に比べればずっと小さいマンガ市場のパイを二社で分け合ってたような関係なのですよね。よってこのドキュメンタリーも二社の関係を追ったアメコミ史になっていて、スーパーマンやキャプテン・アメリカの誕生から始まり、ジャック・カービーのDCへの移籍、「スーパーマンVSスパイダーマン」の制作秘話、スーパーマンの死、スパイダーマンのクローン・サーガ、そしてスタン・リーがDCで書いた「Just Imagine」シリーズで結末を迎えている。ダークホースやイメージなどといった他の出版社への言及は一切なし。

1話あたり約7分で全10話と比較的短い構成で、内容としては初心者向けというか、数年前にAMCで放送された「Secret History of Comics」の方が内容は濃かったかな。アメコミのストーリーとアートの紹介に加えて、クリエイターやNETFLIXのマーベルのシリーズに出ていた役者たちのインタビューも流れるが、この作品の最大の特徴はアメコミのクリエイターを有名な役者が演じた再現シーンがあること:

レイ・ワイズのジャック・カービー。
ティム・ブレイク・ネルソンのスティーブ・エングルハート。
モリーナ・バッカリンのジェネット・カーン(DCの元社長)。
誰が演じているか分からない、似てないアラン・ムーア。

よくもこんなチョイ役にこれだけの役者を揃えられたなあ…と変なところで感心してしまう。どのシーンも短いものの、好きなクリエイターを好きな役者が演じているのを見るのは面白いですね。初めて知った小ネタもチラホラあって、それなりに良くできたドキュメンタリー。

ドクター・フー「Eve of the Daleks」鑑賞

「ドクター・フー」の新年特番でございます。

2021年には「FLUX」と名付けられた全6話のミニシリーズ的なシリーズ13も放送されて、このブログでは取り上げなかったが全てのエピソードを観ましたよ。でもね、これ欧米のメディアでも言われている話だが、13代目ドクターの話って、なんか面白くないのよ。とはいえ初の女性ドクターを演じるジョディ・ウィテカーの演技は普通に素晴らしくって、ずっとドクターを演じていても構わないくらい。問題はショウランナーも兼ねるクリス・チブナルの脚本にあるわけで、番組をどういう方向に持っていきたいのかよく分からんのよな。決して悪いエピソードがある訳ではないものの、未来の女性ドクターが登場したりキャプテン・ジャック・ハークネスが再登場したりする一方で、そこらへんの伏線が全く回収されないままドクターにまつわる新しい設定が紹介されたりするのでどうも消化不良の感が強いのです。

昨年の「FLUX」も、ドクターを狙う新しい敵・星を喰らい尽くす謎の現象・嘆きの天使たち、という興味深い設定を持ち出してきたのに、なんか相乗効果が出たわけでもなく登場人物だけやけに多いままごちゃごちゃになって話が終わり、ファンのあいだでも不評を買っていたな。新コンパニオンのジョン・ビショップもただ突っ立ってるだけだし。

そんでもって今回の新年スペシャルですが、ドクター・フーでは禁じ手とされてきた「タイムループ」の設定を上手く使ったのは面白かった。大晦日の夜、マンチェスターにある貸し倉庫を舞台に、謎のタイムループに囚われたドクターと仲間たちが、同じ倉庫に出現したダーレクたちに何度も殺されながらも、タイムループから抜け出そうとする話。ドクターたちもダーレクもタイムループに囚われていることを把握していてお互いを出し抜こうとするのに加えて、ループされる時間がどんどん短くなっているという設定も良かった。その一方で話のオチの付け方がなんか説明不足で、そこらへんがチブナルの技量不足なのかなあ、という感じ。過去のショウランナーの場合、スティーブン・モファットはもっとSFっぽい不思議なヒネリを加えてきただろうし、ラッセル・T・デイビスは特番ならではの冒険活劇に仕立ててたと思う。

何にせよ今年あと特番ふたつをもってウィテカーはドクター役を降板し、クリス・チブナルもショウランナーから外れることになる。チブナルの後任は「ドクター・フー」のリブートの立役者であるラッセル・T・デイビスの復帰がすでに発表されており、いわゆる「ニュ・フー」もリブートから15年以上が経ち、そろそろ原点に帰る時期がきたと言うことなのですかね。デイビスの復帰により、番組としてはおそらく:

  • 登場人物がゲイかバイセクシャルの人ばかりになる(キャプテン・ジャックも戻ってくるだろうな)
  • スペシャル番組のたびにロンドンが襲撃を受ける
  • ウェールズが文化・モラル・その他すべての中心地となる

という内容になるのかな。ジョディ・ウィテカーでなくても引き続き女性がドクターを演じても良いとも思うけどね。とりあえず残りの2話、チブナルが良い脚本を書いてくれることに期待しましょう。なお次のエピソードはすんごく懐かしいクリーチャーが登場するそうで、これはちょっと感激してしまったよ。