「BIG FAN」鑑賞

「レスラー」の脚本家、というよりも「オニオン」の元編集長としてチェックしているロバート・シーゲルの初監督作。

スタテンアイランドに住むポールは36歳になっても口うるさい親と同居し、駐車場のブース係としてしがない生活を続けているサエない男。そんな彼にも唯一情熱を注ぎ込めるものがあって、それはNFLのニューヨーク・ジャイアンツのファンとしてチームを応援することだった。試合のチケット代が払えないため親友のサルとスタジアムの外でテレビ観戦するような有様でも、彼のジャイアンツに対する愛情は変わらず、ラジオのスポーツ番組へ電話をしてジャイアンツへの応援コメントをすることが彼の生きがいだった。

そんなある日、ポールはジャイアンツのクオーターバックであるクアンテル・ビショップを偶然見かけてしまう。憧れの選手を間近に見て感激したポールはビショップの車を追いかけてマンハッタンまで行き、勇気を振り絞ってビショップに声をかけるものの、皮肉にもストーカーだと誤解されて彼に暴行を受けてしまう。そして重傷を負って病院で目覚めるポール。ポールの家族や警察はビショップへの告訴を勧めるが、この件によりビショップは出場停止となりジャイアンツは負けが込むようになる。暴行されたとはいえジャイアンツへの愛が消えないポールは周囲の声を無視してビショップを告訴せず、以前の生活に戻ろうとするが…というのが大まかなストーリー。

アメリカでは「タクシー・ドライバー」と比較されてるようだけど、主人公が悶々とした生活を送っているという点が似ているかな。外部の圧力にもめげずに「変化しない」ことを選ぶ主人公というのは珍しいといえば珍しいか。とはいえポールの日常というのは上記したように決して満ち足りたものではないわけで、自分が唯一愛情を注ぎ込めることにどこまで執着できるかというのが作品の大きなテーマになっている。

こういう場合は主人公にシンパシーを抱けなければ一発で作品は崩壊してしまうわけだけど、暗い話が続く展開ながらもポールへの共感を失わせないことに成功していると思う。ポールがだんだんサイコ気味になってきて、「タクシー・ドライバー」的展開になるか?と思わせておいて別のところに着地するラストも面白い。

主演のパットン・オズワルトは「レミーのおいしいレストラン」のレミー役をやったコメディアンで、彼のスタンドアップとかは聴いたことないんだけど、半端じゃない映画の知識をもっていて映画祭を編成してたりするので多分にリスペクトしてる人なのですが、今作ではあくまでも真面目にポールの役を演じきっている。映画としてはさすがに「レスラー」には遠く及ばないものの、初監督作品としては手堅い出来になっているんじゃないでしょうか。スポーツがテーマの映画なのに、予算を抑えるためか試合の映像を一切使っていない演出も巧いな。アメフトという題材は日本人にちょっと受けにくいかもしれないが、アニメであれゲームであれ情熱を注ぎ込めるものを持ったダメ男なら共感できるところがある作品なので、機会があれば観てみてください。

サンダンスの出品作

映画祭ってあまり興味がないんだが(というか映画が観れれば映画祭であろうとなかろうと構わない)、今度のサンダンスはいろいろ面白そうな作品が出品されるようで。クリス・モリスの新作「FOUR LIONS」やヴィンチェンゾ・ナタリの新作(残念ながら「ハイ・ライズ」の映画化ではない)のほか、興味を抱いたのは「DOUBLE TAKE」という作品。

冷戦時代を舞台に、歴史教授であるアルフレッド・ヒッチコックが自分の分身を目にするようになる…というサスペンスで、当時の映像を混ぜ込んだ虚実乱れる作品になっているらしい。まあアイデア倒れになる可能性もあるけど、いずれ機会があれば観てみたい作品。

「The Yes Men Fix the World」鑑賞

八木の野郎からもらったDVDで。カルチャー・ジャミングのコンビ「ザ・イエスメン」を追ったドキュメンタリーの第2弾。最初のやつは昨年日本でもテレビ放送されましたね。

内容としては前作のあとにイエスメンが行った様々な活躍を順に紹介していくものになっていて、ダウ・ケミカルの社員のふりをしてボパール化学工場事故の賠償を行う、とBBCの番組で発表したのを皮切りに、エクソンやハリバートン、ニューオリンズでの住宅都市開発省などを標的にして彼らなりの茶化しかたで大企業の強欲ぶりを暴いていく。「災害は企業にとって良いものです」といった彼らの偽のプレゼンに賛同し、サバイバボール(上の写真のコスチューム)を真に受けて「テロ対策の商売にいいですね」なんて言ってくる企業の職員がいるのには失笑を禁じ得ない。

作品の全体的なテーマとしては「アンチ自由放任主義」があって、ミルトン・フリードマンが唱えた「規制なき市場」のモデルにのっとって企業が利益ばかりを追い求めた結果、貧しい人々が増えて苦しむことになったとイエスメンは厳しく指摘している。末端の人間とか環境保護のことを考えずに利益の追求と市場の開放を求める企業の人間や、彼らに雇われた経済学者のコメントもいろいろ出てくるんだけど、ああいうのを聞いてるとなぜ中国が経済成長を続けてるのかがよく分かるような気がしますね。

とまあ笑えるところは笑えるし、考えさせられるところは考えさせられる作品なんだけど、前作に比べるとなんか地味というかのっぺりとした印象を受けるんだよな。これはたぶん前作はプロのドキュメンタリー作家であるクリス・スミスが監督を務めてたのに対し、今回はイエスメンたち自身が監督しているためで、撮影はビデオ撮りだしカメラのアングルが変だしナレーションが自意識過剰気味だし、なんかアマチュア映画を観ているような気になってしまう。前作が劇場での鑑賞に堪えうる作品だったとすれば、今回のはテレビ特番といった出来かな。

ただし前作に比べて良かったのは「あなたたちの冗談のおかげで貧しい人たちが偽りの希望を抱いたと思わないんですか?」と指摘された彼らが、実際にボパールやニューオリンズの住民たちに会いにいくところで、住民たちはイエスメンを怒るどころか彼らの行為を賞賛してくれたというのが興味深かった。

こうして様々な場所に登場したイエスメンだが、彼らが出番を前にして緊張しているところとか、プレゼンの直後に正体がバレて詰問され、うろたえている姿なんかもこの作品では映し出されている。彼らが有名になるのに伴って正体がバレる可能性は高くなってくるわけで、彼らの活動はそろそろ大きな転換期を迎えているんじゃないだろうか。こないだやった偽ニューヨーク・タイムズの配布というのは新しい手段ではあるもののそんなに繰り返せないだろうし。

何にせよ我々庶民にとっては、彼らのように大企業をコケにしてくれる存在がいるのは大変頼もしいことなので、このまま逮捕されたりせずに神出鬼没の活躍を続け、この「イエスメンが世界を直す」に続くドキュメンタリーの第3弾をぜひ作ってほしいところです。

「The Book of Genesis Illustrated by R. Crumb」読了

アンダーグラウンド・コミックの始祖、ロバート・クラムが旧約聖書の「創世記」を描いた本。

なぜクラムが聖書を?というのは誰でも考えることで、アンダーグラウンド・コミックに影響を与えたベイジル・ウルヴァートンが晩年に宗教に目覚めて聖書の物語を描いた例が過去にはあるけれど、クラムの場合はそうした信仰の目覚めみたいなのがあったわけではなく、むしろ「聖書は神の言葉などではなく、人間の言葉だと私は考えている。それが長年のうちに聖職者たちによって編集され、彼らにとって都合のいい内容に変えられてきたのだ」と序文で明記している。どうも最初はアダムとイブの話だけを描く予定だったのが、聖書の話に興味を持つようになって5年かけて「創世記」を描きあげることになったらしい。

クラムが聖書を人間の言葉だと考えているからってアンチ宗教のような解釈は一切されておらず、むしろ表紙に「NOTHING LEFT OUT!」と書かれているように、「創世記」の出来事をすべて残らず緻密に描いた内容になっている。執筆にあたっては複数の版の聖書を研究し、当時の人物の衣装なども調べ上げる懲りようだったとか。

そして中を読んでみると分かるんだが、「創世記」で語られる物語は殺人・姦淫・裏切り・妬み・権力争いなどなど、今までクラムが描いてきたコミックと実は内容があまり大差なかったりする!白髪の老人という古典的な姿で描かれる神様(焼けた肉がお好き)は最初のほうは自分の創ったアダムとイヴを追放したり、洪水で人物の滅亡を図ったりとかなり理不尽な行為を重ねているものの、やがて人の夢とかに出てきて理不尽なお告げを与える存在という裏方にまわり、話はむしろノア・アブラハム・イサク・ヤコブ・ヨシュアといった男たちの(必ずしも宗教的ではない)年代記へと変わっていく。

そこで語られる話においては、割礼されていない男や子供を生まない女はまっとうな人間として見なされないし、父を騙して兄の代わりに祝福を受けたヤコブが公明な人間として描かれるなど、現代の観点からすると疑問に思われる箇所がいろいろ出てくるわけだが、当時のものの考えを知ることができるのが面白い。またクラム自身が奇妙に思った箇所については最後に解説がつけられていて、そもそも当時は女性を上位とする文化が栄えていたものの、やがて家父長制が台頭してくるようになり、それに合わせて聖書が書き換えられたために物語に歪みが生じたという推測をしているのが非常に興味深い。

何世代にも渡る物語が200ページ以上にびっしりと描かれているのはなかなか圧巻。クラムのイラストの素晴らしさは説明する必要もあるまい。いかんせんボリュームが大きいうえに話が淡々としているので読み進めるのには根気がいるかな。ロバート・クラムの入門書(あるいは聖書の入門書)としては必ずしもお薦めできないが、彼のファンならぜひ手にとってほしい大作。ニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストを独走していることから察するに、本国ではクラムのファン以外にも好評をもって受け入れられているみたい。

「デイリーショー」のジョージ・ルーカス

The Daily Show With Jon Stewart Mon – Thurs 11p / 10c
George Lucas
www.thedailyshow.com
Daily Show
Full Episodes
Political Humor Health Care Crisis

新年からHD放送になった「デイリーショー」のゲストとしてジョージ・ルーカスが出演していた。「コルベアー・レポー」に出演したときに比べるとちょっと真面目に映画について語っていて、スター・ウォーズに関する批評などについてもフランクに答えている。ジョン・スチュワートの「僕の息子は『ファントム・メナス』がお気に入りなんだけど、それは間違いだと言い聞かせてるんだ」というコメントがいいな。

まあエピソード1〜3(とテレビシリーズ)を作ったことには賛否両論あるだろうが、自分の好きな作品を作ってヒットさせてスタジオに束縛されなくなったという意味では最も成功したインディペンデント系監督なんだよな。このインタビューでもちょっと言及してる「RED TAILS」という新作は、監督やキャストに「THE WIRE」出身者が多いということで結構期待してるのです。公開はいつになるんだろう。