「1917 命をかけた伝令」鑑賞

公開したばかりなので感想をざっと。いちおうネタバレ注意。

・日本の宣伝では「全編ワンカット」であることが謳われてるが、当然そうではない。作品を観ればわかるが、少なくとも2回は主人公が意識を失うことでカットが生じているし、それ以外にも劇中のあちこちで巧妙にカメラを隠すことなどで、細かいカットが入っているらしい。とはいえ長回しを多用した、切れのない演出を売りにした作品であることは間違いないのですよね。

・そこで出てくる疑問としては、そういう演出って意味あるの?ということでして。実際にワンカットで撮影された「ヴィクトリア」を観た時も思ったが、そういう長回しを使うことで話が面白くなるのでなければ、やる意味あるのかなと、映画製作で一番偉いのは編集者だと見なしている自分などは考えてしまうのです。

・1つの解としては、これがすべてリアルタイムで進む作品であり、ストーリーの最初から最後までを通して見せることで、主人公の与えられた任務の性急さを表すこともできるだろう。でもこの作品は、もっと夜になるまで出発を待つという選択肢が最初に与えられているわけで、果たしてこういうワンカット撮影をする必要が最も適切だったのだろうか。

・とはいえ撮影自体は撮影監督がロジャー・ディーキンス御大ですからね、さすがに見応えのあるものにはなってましたよ。曇り空から夜になっていく光景は、同じくメンデスと組んだ「スカイフォール」を彷彿とさせたな。

・話の内容はいま公開中の「彼らは生きていた」を事前に観てれば、第一次対戦中のイギリス軍の生活がどんなものだったかがわかるので、より深く楽しめるんじゃないでしょうか。主人公が若者とはいえ、なんか全編に渡ってナイーブすぎるのが気になったが(敵兵を捕獲したら武装解除を真っ先にやれよ、とか)、実際の兵士もあんなものだったんだろうか。

・主役のジョージ・マッケイって、「パレードへようこそ」で若手のゲイを演じてた彼か。まだスター然としてなくて垢抜けないルックスが、未熟な兵士役によく似合ってたかと。コリン・ファースやマーク・ストロング、カンバーバッチなどは殆どカメオ出演みたいなものでしたが、セリフが多いストロングがその分印象的でした。

・決して悪い作品ではないものの、「パラサイト」に比べれば内容が凡庸であることは間違いないので、こっちがアカデミー作品賞を獲らなくて良かったな、と改めて実感させてくれるものでした。

「フェアウェル」鑑賞

2週続けてオークワフィナ作品だぜ!日本では4月に公開される映画。

子供の頃に両親に連れられて中国からアメリカに移住した女性であるビリーは、中国にいる祖母がステージ4の癌にかかっていることを両親より知らされる。末期癌は本人には告知しないという中国の風習のもと、ビリーの一家および伯父の一家は、ビリーの従姉妹が結婚式をするという名目で中国に集まり、祖母の前では健気にふるまうのだが…というあらすじ。

咳はするものの自分が癌であることはつゆ知らずに身内のことをあれこれ言う祖母と、そんな彼女に気を使う親族たちの光景を淡々と描いた内容で、あまりコメディ要素はないかな。

A24製作のアメリカ映画だが内容は完全に中国映画で、監督のルル・ワンの実体験に基づいた話なのだとか。親族が集まったということでやたら料理の量の多い食事シーンが続くなか、中国とアメリカの違いとか、変わりゆく中国の風景などがいろいろ語られていく。中国に残った親族がビリーの母に「金持ちになりたいなら中国に来ればいいのに〜」とか言うのが時代ですかね。ビリーの父が「俺はアメリカ人だ」と言うのに対し、日本に移住したというビリーの伯父が「俺は中国人だ」と言うのも興味深かった。その伯父の息子が日本人と結婚式を挙げるということでみんな中国に集まったわけだが、中国語を離せない日本人女性にやはり一番共感を抱いてしまったよ。

オークワフィナは従来の役回りとは違って、中国人とアメリカ人のアイデンティティの間で揺れながら、親族のなかでもしっくりこないビリーの役を好演。中国語もペラペラ喋っていて、「バーニング 劇場版」のスティーブン・ユァンもそうだけど、バイリンガルのアジア人俳優っていろんな役が出来るよなあ。ビリーの父親役はツィ・マーで、祖母を演じる赵淑珍も中国では名の知られた女優なのだとか?

なおこの作品、実話をもとにしただけに製作後にちょっとした出来事があって、映画のラストに関わることなので白文字で書きます:

劇中の最後において祖母は亡くならず、現在においても元気であることが伝えられるのだが、映画製作の時点まで彼女が癌であることは彼女に告知されず、周囲は必死に隠してたそうだが、製作後のレビューを読んで彼女は初めて自分が癌であることを知ったそうな!お祖母さんタフだねえ。

自分も年老いた親を持っているので、いろいろ考えさせられる作品であった。よくできた小品。

「Awkwafina Is Nora from Queens」鑑賞

「クレイジー・リッチ!」「ジュマンジ」「フェアウェル」と出演する映画はみんなヒットして破竹の勢いを誇るオークワフィナ嬢が、弱小ネットワークのコメディ・セントラルでシットコムの主役を務めることになったのだよ。

内容はタイトルそのまんまで、クイーンズに住むノーラという20代の女性を演じるのがオークワフィナ。ノーラは父親と祖母と同居してるのだが定職につかず、UBERのドライバーとかやりながらのらくらと暮らしている毎日。決して悪い人間ではないのだが、自分のズボラさなどが災いしていろいろトラブルに巻き込まれ…というような話。

コメディ・セントラルの番組らしい緩さがあるというか、ちょっとスケッチ・ショウ的なノリもあるかな。パイロット版がYoutubeで公開されているほか、先行公開された第6話を観たのだけど、父親と祖母の設定が少し変わってて、どちらも本編では少し真面目なタイプになっているみたい。下ネタもいろいろ出てきまして、第6話は股間を蹴られたノーラが四六時中QUEEFすることになってさあ大変…という話でした。おかげでQUEEFなんて言葉を覚えてしまったよ。

ちょっとボケた祖母を演じるのが「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」のロリー・タン・チン。ノーラに手を焼く父親を演じるのがBD・ウォン(老けない)。第6話ではゲストとしてみんなのミン・ナ様(若返ってる)が叔母役で登場してました。

パイロットでは少し中国語の会話が出てきたり、中華料理屋で食事してたりしたけど、それ以外はアジア系アメリカ人としてのアイデンティティを強調するような描写は何もなし。みんな普通に白人や黒人やヒスパニックと交流して、ドタバタしてます。ここらへんも最近のハリウッドにおけるアジア系の台頭が反映されてるんだろうな。決して抱腹絶倒するような番組ではないけど、早くもシーズン2の製作が決まったらしいので、オークワフィナのさらなる人気拡大に貢献してほしいところです。

「HONEYLAND」鑑賞

こんどのアカデミー賞でドキュメンタリー映画賞だけでなく外国語映画賞にもノミネートされたマケドニアのドキュメンタリー。以降は最後まで内容を語ってるのでネタバレ注意。

舞台となるのは北マケドニア共和国(「北」をつけないと怒る人たちがいるらしい)の田舎村。そこに寝たきりの母親と住むハティゼ(Hatidze )という女性は高い崖の上にいる蜂の巣や、自分の家の近くに作った蜂の巣から蜂蜜をとり、それをバスに乗って首都のスコピエに行って売ったりして、細々と暮らしていた。そんな彼女の家の隣に、7人の子供をもつ一家が引っ越してくる。彼らは牧畜を生活手段としており、ハティゼとも仲良くなるが、やがてハティゼが行っている養蜂を自分たちも行おうと巣箱を大量に持ち込み…という話。

撮影には3年が費やされたそうだが、作品自体の尺は90分もない。しかもナレーションもテロップもなく、ハティゼの名前もろくに紹介されないまま話がどんどん進んでいくので、登場する人々の素性などをとにかく憶測しながら観ていくことになる。ハティゼの経歴や、彼女がなぜ養蜂を始めたなどかの説明は一切なし、母親が85歳だというので、彼女自身は60前後くらいだろうか。

ハティゼが蜂蜜を集める蜂は岩場のあいだに蜜蝋を作るという、おそらく日本にいないタイプの蜂で、こういう野生の蜂の蜜をとって暮らす人はマケドニアでもごく少数であるらしい。とはいえ必ずしも自然ドキュメンタリーというわけでもなく、とにかく製作者の意向が分からない作品ではあるのだが、個人的には田舎でのミクロ経済が描かれているのが印象的であった。

ハティゼの隣人一家は決して悪い人たちではないのだが、家族を養うために父親がハティゼの蜂蜜に興味を持ち、自分たちも養蜂をやってみようと巣箱を大量に仕入れてくる。ハティゼも親切に養蜂のやり方などを教えていたのだが、父親は商人(だと思う。見るからに強欲そうな人物)に大量の蜂蜜を仕入れるように要求されてしまう。蜜蝋を巣から取るときも半分だけ取り、半分はそのまま蜂のために残すというハティゼと違って隣人の父親は蜜が欲しいために蜂を乱獲するようになり、やがてそれはハティゼの蜂にも影響をもたらすことになる。

結局のところ隣人の養蜂はうまくいかず、おまけに飼っている牛たちも謎の病気によって大量死し、彼らは別の土地へと去っていく。ハティゼも元に暮らしにすんなり戻れる訳ではなく、自分はこのあとどうなるのかと嘆いたりするのだが、母親が無邪気に「結婚すりゃいーじゃん」とか言い出すのが、同じ独身者として観ててひやっとしました。そんな母親もやがて死に、独りになったハティゼが外を歩くシーンで映画は終わる。なおこの映画が高い評価を得て賞などを獲得したことで、製作者たちはハティゼに新しい家を買ってあげることができて、彼女は親族たちの近くで暮らしているんだそうな。

とにかく説明が一切ないドキュメンタリーなので、これを観てどういう感想をいだくかは、人によってかなり違ってくるかもしれない。自然の描写は美しいし、それを寡黙に見つめるハティゼの姿もいろいろ印象的でした。外国語映画としては先日の「MONOS」のほうが良かったけど、ドキュメンタリー部門に選ばれたのは納得できるような作品でした。

「MONOS」鑑賞

昨年のサンダンスで高い評価を得た、コロンビアとアメリカ合作の映画。IMDBなんかでは「猿」という邦題がついてるのだけど、日本公開は決まってるのかな?

舞台となるのは南米の某国。内戦が続くその国において反政府ゲリラは高地に建つ廃墟を占領し、そこに誘拐したアメリカ人女性を人質として拘留していた。その廃墟の管理にあたるのは10代の少年少女からなる8人の兵士たちで、彼らの上司はごくまれに指導にやってくるのみ。兵士とはいえまだ若者である彼らは他愛ない遊びに明け暮れるような日々を過ごしていたが、戦火が拡大したり人質が逃走を試みたことで彼らはやがて野蛮化していき…というあらすじ。

話の背景はかなり曖昧にされていて、舞台となる国もコロンビアのようだが明確にはされていない。ゲリラ組織の名前はそのまま「組織(THE ORGANIZATION)」で、彼らが何と戦ってるかの説明はなし。高地を守る少年少女たちは上司には「モノス(猿)」と呼ばれ、メンバー同士は「ウルフ」「ドッグ」「レディー」「ブームブーム」といったニックネームで呼びあうほか、「ランボー」という兵士は性別も曖昧な感じ。彼らの監視下に置かれる人質も「ドクター」と呼ばれるだけ。そうした意味ではかなり抽象的な内容になっている。

内容はゴールディングの「蝿の王」にインスパイアされたそうで、自分たちの世界を与えられたあどけない少年少女たちが疑心暗鬼に陥り、仲間割れしていくさまが生々しく描かれている。そんなに予算は高くないと思うが撮影が非常に美しくて、標高4000メートルを超える高地における雲の光景とか、ジャングルにおける水中撮影とかが綺麗に撮られている。これ軍隊とか地元スタッフの協力があったのかな。あれだけの高地で撮影された映画ってそう多くはないはずなので、後半から舞台がジャングルに移ったのが少し残念ではあった。

監督はコロンビア人のアレハンドロ・ランデス。役者は人質を演じるジュリアンヌ・ニコルソンと、少年たちのリーダー役を務めるモイセス・アリアス以外はみんな演技経験ゼロの人たちを起用したそうだが、それでもスタントなしで激流に身を投じたりして、体当たりの演技を見せ付けています。モイセス・アリアスってディズニーの「ハンナ・モンタナ」出身だそうだけど、アイドルみたいな雰囲気はゼロで怖いリーダーを演じ切ってます。あとゲリラの上司を演じる人が低身長なのに筋肉モリモリですごいのだが、実際にコロンビア・ゲリアで戦ってた人なんだそうな。

音楽を「アンダー・ザ・スキン」のミーカ・リーヴァイが担当していて、音楽が流れるシーンは多くないものの、使われている箇所では非常に印象的な音楽になっている。というか音楽が派手すぎてシーンを食っちゃっているような印象も受けるのだけど、そういうのは監督がどこまで意図しているのだろうかと、こないだ同じくリーヴァイが音楽を担当したジョナサン・グレイザーの短編を見たときも考えてしまったのです。

ゲリラのメンバーが上司の前でお互いの不正をチクりあうシーンもあって、連合赤軍などでも同様のことが行われたんだろうか。ただ映画自体は決して政治的なものではなく、もっと人間の本質に迫るようなものであった。高い評価も納得の傑作。