「NO SUDDEN MOVE」鑑賞

またHBO MAXに入ってだな、オリジナル作品をチェックしてるのだよ。これはスティーブン・ソダーバーグの監督作品で、例によってコロナの影響で配信ストレートになったのかな。

舞台は1954年のデトロイト。刑務所から出所したばかりのカーティスは裏社会のつてで見知らぬ男より、ロナルドとチャーリーという男たちと組んである仕事を行うように依頼される。それはある会社の経理士が会社の重要書類を持ち出してくるまで、経理士の家で家族を人質にとっておくというものだった。仕事の内容の割に報酬が良いことを不審に思いつつも引き受けたカーティスだったが、経理士が書類を入手することに失敗したことから状況は一変し、カーティスはロナルドとともに追われる身になるのだった…というあらすじ。

ソダーバーグお得意のハイスト/ケイパーものだが登場人物が多いうえにみんな腹に一物抱えた人物ばかりで、状況が二転三転するのでプロットを追うのが結構しんどい。よって「オーシャンズ」や「ローガン・ラッキー」みたいな軽快なケイパーものではなくて、もっと重厚な作りになっている。カーティスやロナルドは過去にやらかした行いのためにギャングに追われる身であり、その一方で白人のロナルドは黒人のカーティスを蔑視しているところもあり、お互いに信用しきれる仲ではない。これに経理士の家庭事情とかギャング同士の力関係とかも絡んできて、なかなか複雑な話の作品でございました。

出演者は「オーシャンズ」並みに豪華で、カーティス役がドン・チードル、ロナルドがベニチオ・デル・トロ。あとはデビッド・ハーバーにジョン・ハムにレイ・リオッタにエイミー・セイメッツにブレンダン・フレイザーなどなど、豪華で渋い面子が揃ってます。妙齢になって体型が丸くなった人が多いような。あとはノンクレジットでカメオ出演することが多いあの有名俳優がここでもカメオ出演、というか最後のおいしいところを喰ってしまっていて、あの人仕事を選ばねえなあ。

音楽もソダーバーグ作品常連のデビッド・ホームズ。広角レンズ、というか魚眼レンズを使ってるかのような撮影をしていて画面端の人物が歪んでいるのがえらく気になったのだけど、そういうところも含めて好き勝手やってるのがソダーバーグなんでしょうね。「オーシャンズ」シリーズのようなノリを期待していると肩透かしをくらうかもしれないが、良くできた作品ですよ。

「ブラック・ウィドウ」鑑賞

公開したばかりなので感想をざっと。ネタバレ注意:

  • 「エンドゲーム」の後日談で彼女の復活の物語、なのかと勝手に思ってたら「シビル・ウォー」後の話なのね。それをいま公開する必要があるのか?とは思うがいろんな要素が重なったのでしょう。
  • 前半のウィドウ養成所のくだりは既視感があって、これジェニファー・ローレンスが「レッド・スパロー」でやってた奴じゃね?と思わずにはいられない。単に似たようなネタを扱ってるのだが、あっちのほうがR15だったので訓練は生々しさがあったな。
  • 主人公がスーパーパワーを持たないスパイということで、内容はスーパーヒーロー映画よりも007映画に近い。マッチョな男性でなく女性スパイが奮闘するという切り口は「XXX」シリーズなどよりも上手く007映画を換骨奪胎していたかと。(文字通り「脱胎」の話も出てたし)。ただ悪役の顔が傷で醜くなっている、という007シリーズの悪しき慣習まで引き継がなくてもいいのに。
  • ヴィランのタスクマスターは相手の戦闘スタイルを見てコピーするという能力を持ってるのに、原作だとフードにケープをはおって武器をやたら抱えてるスタイルがどうも解せなかったのだが、今回の映像化ではもっとスリムなデザインになってて納得。中の人のキャスティングは、セリフもないんだし別にその人使わなくてもいいんじゃね?と感じたけど。
  • レイチェル・ワイズは一家の長女役かな、と思ってたら母親役であった。スカヨハの母親を演じるようになりましたか。みんな言ってるがやはりロシア訛りで演技するフローレンス・ピューが主演のスカヨハを喰ってしまっているわけで、これからマーベル映画の世代交代にあわせて彼女が台頭していくのかしらん。ただ体のキレがないというか、「ファイティング・ファミリー」で見せたようなパワーヒッター型のアクションのほうが似合うな。
  • 「エンドゲーム」でマーベル映画が大きな節目を迎えたあとの公開で、しかもCOVIDの影響で公開が遅れて、なんか微妙なタイミングでの登場となってしまったのは運が悪いね。おまけに配信と同時提供ということで特に日本では興業チェーンにハブられているし。今後の大作はコロナ明けを迎えて、また劇場公開のみになってくる可能性もあるわけで、そういう意味では内容的にもビジネス的にもいろいろ過渡期の最中に出てしまった作品であった。
  • 個人的にはやり前日譚に徹せずに、「エンドゲーム」におけるブラック・ウィドウの運命をもっと反映させた話を見たかったな、というところです。彼女だけが貧乏クジを引いたような印象なので。

「HEAVY ROTATION」読了」

ヴァーティゴ・コミックスで活躍していた編集者のシェリー・ボンドがKickstarterで出資を募っていた単発コミック。彼女が在籍していたNY州イサカの大学にあった学生ラジオ局を中心に、80年代のカレッジ・ラジオ文化の思い出がいろいろ詰まった35ページほどの作品。コミックとエッセイが半々の内容になっていて、夫君のフィリップ・ボンド(上のカバー画も担当)が関わっていたイギリスのカルチャー雑誌DEADLINE(タンク・ガールで有名なやつね)に体裁は近いかな。

アメリカのカレッジ・ラジオというとおれ日本のFM情報誌(そういうものがあったのよ)でその存在を知りまして、ビルボード全米チャートなどとは全く別にR.E.M.とかウォール・オブ・ヴードゥー(知ってる?)といったバンドが人気を博していて、それが90年代のオルタネイティヴ・ロックのブームへの土壌を作っていたと認識している。80年代半ばから後半がカレッジ・ラジオ文化の最盛期かなと思ってたけど、冒頭にある年表によるともう少し前から盛り上がりがあったみたい。これに合わせて公開されてるSPOTIFYの関連曲リストを見ると、意外とイギリスの80年代初期のバンドの曲がフィーチャーされていて、これはこうしたバンドのアルバムがアメリカでは発売が何年も遅かったことが影響してるのかもしれない。今じゃ全世界同時配信開始の時代だものねぇ。

カレッジ・ラジオが経済的にどのように運営されてたのかよく分からんのですが、DJたちはローテーションを組んで雪のなか深夜や早朝にスタジオにやってきて、視聴者のリクエストをかけたりミュージシャンへのインタビューを行ったさまがいろいろ説明されてます。自分の好きな曲ばかりをかけられた訳ではなく、曲の人気度によってステッカーで色分けがされて、この曲をかけるのは週に何回まで、とか細かい指定がされていたそうな。カミソリを使ったオープンリールのテープの編集のやり方とか、おそらく今後の人生で全く使うことのないテクニックなども説明されてるが、ノスタルジア全開で面白いですよ。

エッセイはイサカ大学の元スタッフやミュージシャンの思い出話がいろいろ語られていて、ビル・シェンキビッチやジル・トンプソンなどのイラストがついている。「マッドマン」のマイケル・オールレッドがマンガ家になる前はDJでTVレポーターだったとは知らなかったよ。ミュージシャンのエッセイだとイギリスはリーズのCUDのベーシストなどがカレッジ・ラジオの思い出を書いてまして、CUDって知ってる?XTCのデイブ・グレゴリーがアルバムをプロデュースしてたんだよ。あまり売れなかったけど。あとジ・アラームのインタビューも載ってるが、おれあのバンド嫌い。

エッセイが多いので、コミックばかりを期待してると肩透かしをくらうかもしれない。またカレッジ・ラジオ文化を懐かしめるのって40代後半〜50代のアメリカ人くらいなもので、そういう意味では非常に対象の狭いニッチな本ではありますが、自分の好きなことについて書いて出資してもらうという点ではクラウドファンディングに最適なものなんだろうな。電子版が3ドルでもらえたので十分お得でした。

「FALSE POSITIVE」鑑賞

みんな大好きA24 製作の映画で、米HULUのオリジナルムービー。

ルーシーは夫のエイドリアンとともに何年も子供を授かろうとしていたものの妊娠することができず、夫の元上司である医師のヒンドルを訪れる。ヒンドルは画期的な生殖補助医療の手法を開発したと言う人物で、彼の治療を受けたことでルーシーは見事妊娠に成功する。しかし彼女は男子ふたりと女子ひとりを妊娠しており、3人が健康に生まれてくる可能性が低いことから減数手術を勧められる。ヒンドルの意見を拒んで女子ひとりを生かすことにしたルーシーだが、臨月が近くにつれて奇妙な幻覚を見るようになり…というあらすじ。

水子の霊に祟られる母親の話、ではなくて、妊娠したことで情緒不安になり現実と妄想の境界が曖昧になった妊婦の心理ホラーといったところ。何か大きな陰謀に巻き込まれているのではとパラノイア気味になる主人公の心境を見せているほか、彼女の体に関する決断も男性たちによって行われ、職場においても妊娠したとたんに地位を同僚の男性にとって代わられる世の中の差別を扱っていたな。

そのテーマからあちらの批評では「ローズマリーの赤ちゃん」と比べられてるようでして、あの映画って長すぎてあまり好きではないのですが、こちらも「主人公が怖い目に遭う」「妄想でした」「また怖い目に遭う」「また妄想でした」というパターンの繰り返しで、怖いシーンがあっても「また妄想でしょ?」と考えてしまうし、あまりストーリーに厚みがないのよな。ラストの光景はなかなか印象的だったけど。

ルーシーを演じるのはイラナ・グレイザー。コメディ・セントラルで「Broad City」という番組やってた人ですね。それがこんなホラー映画に主演していて、脚本も共同執筆している。監督のジョン・リーも「Broad City」の監督とかやってた人…ってあのキチガイ番組「WONDER SHOWZEN」のクリエーターなのか!あれと比べるとこの映画、ずいぶん普通なほうかも。エイドリアン役にジャスティン・セローで、ヒンドル先生役にピアース・ブロスナン。ブロスナンって肩に力が入った演技をすると下手なのだけど、このようにリラックスした不気味な医者の役を演じているとなかなか怖いね。

個人的にはそこまで面白い作品だとは思わなかったけど、これ女性が観るとまた違った感想を抱くのかもしれない。実際にグレイザーはこれの撮影後に妊娠したそうで、撮影が変なトラウマにならないと良いのですが…。

「THE PLOT HOLES」読了

「Batman: White Knight」や「Chrononauts」(ストーリー:マーク・ミラー)、さらにこないだ映画化が発表された「Tokyo Ghost」(ストーリー:リック・リメンバー)といった人気コミックを連発し、勢いに乗っているアーティストのショーン・マーフィーによるSFファンタジーコミック。1年前にIndiegogoでのクラウドファンディングに出資してな、完成品が届いたのだよ。

舞台となるのは電子書籍を管理するプログラムの中の世界。毎日数多くの書籍がそこに投入され、エド(エディター)と呼ばれる老女が実際に本の中の世界に飛び込んで必要な校閲を行って書籍を管理していたが、謎のウィルスのよって多数の書籍が破壊されていることに彼女は気づく。ウィルスに対抗するために彼女は様々なジャンルの本から優秀な戦士たちを集め、「プロット・ホールズ」というチームを結成してウィルスを撃退しようとするのだが…というあらすじ。本の世界と現実世界(プログラムだが)が交錯するさまはマーフィーがグラント・モリソンと組んだ「Joe The Barbarian」に少し似ているかな。

後述すように話の設定はよく分からんのだけど、要するにいろんなジャンルのキャラクターたちが集まって戦うコミック版「スパイダーバース」と思ってくれればいいかと。チームのメンバーには姿を自在に変えられる巨大トラ男とか、日本の漫画のキャラとか、女性吸血鬼とか、子供向け新聞マンガのキャラクターなどが揃っていて、新たにクリフ・ウィーゼルウィッツ(別名インクスレイヤー)というコミック作家がチームに加わるところから話は始まる。いちおうクリフが話の主人公ではあるものの、チームを率いるエドが今年亡くなったマーフィーの祖母をモデルにしているそうで、いちばんおいしい役回りになっているかも。

ショーン・マーフィーのアートは冴えていて、アクションシーンなんかもカッコよく描かれているものの、作品のウリであるキャラクターの描き分けはあまり顕著じゃないかな。例えば日本の漫画から出てきた「ジョニー・マンガ」と言うキャラクターは周囲に「あんた目が大きいね〜!」と言われるのだけどあまりそうも見えなくて、少なくとも「スパイダーバース」のペニー・パーカーみたいに明らかに別世界のキャラというデザインではないわな。また無数の本からキャラクターを選べたはずなのに、チームのメンバーがSFとファンタジー系のキャラに偏ってるのも凡庸かな。例えばニール・ゲイマンとかグラント・モリソンといったライターがストーリーを担当していたら、どんなキャラクターが登場してただろうと考えてしまう。なお「ガンダム」や「カウボーイ・ビバップ」などといった作品も言及はされますが当然登場はしません。

全体的な印象としては「いろんなジャンルのコミックのキャラが共闘する作品が描きたかったんだな!」というものでして、まあコミック・アーティストとしては理解できる願望だしその目的は果たせているかと。ただやはりストーリーが弱くて、プログラムの世界の設定にしても、電子書籍が破壊されても元の紙の書籍は残ってるのかとか、どのキャラクターも自分の世界がフィクションであることをすんなり受け入れすぎてるだろとか、いろいろ雑な設定が多いのが読んでて気になってしまった。いくら本の題名が「THE PLOT HOLES」でも、話の設定に抜けがあってはいかんでしょ。約150ページのボリュームで10ドル(電子版)というお買い得だったし十分に楽しめる作品ではあったものの、やはりマーフィーは他のライターと組んだ方が良いかな、と思ってしまうのです。