「LOVECRAFT COUNTRY」鑑賞

マット・ラフの同名小説を原作にしたHBOの新シリーズ。1話が無料公開中(要VPN)で、プロデューサーがジョーダン・ピールとJJ・エイブラムズ。

舞台は人種差別が台頭していた1950年代のアメリカ。朝鮮戦争から帰ってきたアティカスは、疎遠になっていた父親から謎めいた手紙を受け取ったことでシカゴへとやってくる。手紙によると彼の父親は自分の血族を探すために、マサチューセッツのアーカムならぬアーダムという土地へ向かったというのだ。そこでアティカスと叔父のジョージ、および友人のレティティアは父親の後を追ってシカゴを発つものの、田舎町では黒人は敵視され、保安官を含めた白人たちに彼らは追いかけられて大変な目に遭う。さらに人知を超えた怪物に彼らは遭遇し…というあらすじ。

題名から分かるようにHP・ラブクラフトのクトゥルフ神話をベースにしたホラーではあるものの、テーマとしていちばん前面に押し出されてるのはアメリカにおける人種差別の歴史か。「怖いのは怪物ではなく人間だった!」というクリーシェを使ってるわけでもないし今後の展開はどうなるか分からないけど、食堂で食事を頼んだだけで白人に銃で追いかけられ、秩序を守るはずの保安官にも殺されかける、黒人たちの置かれた理不尽な環境がひしひしと伝わってくる内容になっている。

黒人奴隷が主人公のシリーズ「UNDERGROUND」のクリエーターだったミシャ・グリーンがショウランナーを努めており、昨年のHBOの「ウォッチメン」におけるタルサ暴動のように、黒人の歴史を啓蒙するような要素もあるかな。人種隔離が公然と行われていた地域を表す「SUNDOWN TOWN」なんて表現、俺は知らなかったですよ。50年代の話ながら、65年のジェームズ・ボールドウィンのスピーチをBGM代わりに流すという演出も行われてます。

アティカスは体格こそゴツいもののSFとホラー小説が好きな素朴な少年で、ラブクラフトの小説も好きなんだけど、彼の人種差別的な主張には困惑している。当時は黒人のSF読者というのは少なかったようで、これも重要な要素になるみたい。そして叔父のジョージは黒人向け旅行ガイド(いわゆる「グリーンブック」な)を書いているという設定になっている。

それで肝心のモンスターですが、第1話ではラブクラフト絡みのクリーチャーがどのくらい出てくるのかは不明。いちおうショゴスっぽい、でもなんか違う怪物が出てきてえらいことになるのですが、今後はどうなるのだろうなあ。謎めいた白人の男女とかも出てきて、カルト教団とのつながりが明かされるようなのだが。シュブ=ニグラスとかヨグ=ソトースの登場を期待してはいかんのでしょう。

アティカスを演じるのは「The Last Black Man in San Francisco」のジョナサン・メイジャーズで、レティティア役がジャーニー・スモレット。このひとジャシー・スモレットの妹なのね。ジョージ役がコートニー・B・ヴァンスで、アティカスの父親役がHBOの常連マイケル・K・ウィリアムズ。冒頭の夢シーンで体を真っ赤に塗ったジェイミー・チャンが出てくるのだが、あれがアティカスが韓国に残してきた恋人ということになるのかな?

批評家と視聴者の評判も良いようで、昨年の「ウォッチメン」のような話題作になるでしょう。個人的にはクトゥルフ神話のクリーチャーにどんどん登場してほしいところですが。このままアラン・ムーアのラブクラフト・グレイテスト・ヒッツ的作品「PROVIDENCE」も映像化されたりしないかな。

「BRAVE NEW WORLD」鑑賞

NBCユニバーサルの配信サービス「Peacock」が今週開始されたのだよ。広告付きの無料オプションと、広告あり/なしで追加コンテンツが視聴できる2種類のプレミアムオプションというプラン分けのほか、NBC子会社のケーブルサービスに加入してると無料で観られるあたり、Disney+やHBO MAXよりもApple TV+のような既存サービスの付加価値的な役目を果たすのかな?品揃えはユニバーサル作品の旧作がいろいろあって、まあ目新しさはないけど手堅いラインナップという感じ。

とはいえ最近のトレンドとしてオリジナルシリーズの1つや2つは持ってないといけないわけで、これがその1つ。オルダス・ハクスリーのディストピア小説「すばらしい新世界」を原作にしたもので、ライター兼プロデューサーにグラント・モリソンが関わっている。もともとSYFY用に作られたシリーズのようで、「HAPPY!」つながりでモリソンに声がかかったんだろうか。

舞台は原作と大体同じで、いまから数百年後のニュー・ロンドン。人々は遺伝子操作によってアルファからイプシロンまで5つの身分階級に分かれて生まれ、自らの身分に不満を抱くこともなく上の階級に仕えて暮らしていた。バーナード・マルクスは最上級のアルファ・プラスに属する身分で、人を高揚させるドラッグ「ソーマ」を分け与えられる立場にいたが、彼自身が何かしらの不安を抱えていた。そんな彼は部下の美女レーニナを連れてアメリカの蛮人保存地区へ観光に行くが、そこでトラブルに巻き込まれ…というあらすじ。

「現代社会をよく表してるのは『1984年』よりも『素晴らしい新世界』だよねー」って厨二病の決めゼリフのようであんま言いたくないのだが、実際のところ国民がなんとなく抑圧されて不幸せに生きている「1984年」よりも、自分の与えられた境遇に満足し、ドラッグとフリーセックスにうつつを抜かして政府への不満など抱かない国民が出てくる「新世界」のほうが現代の風刺としてはより効力があると言えるのではないか。みんなハイになってパーティーをやってるなかでも劣等感を抱くバーナードとか、いかにも管理職の小市民的な悩みで面白かったじゃん。

このシリーズも大まかな設定は原作と同じで、アルファやベータ階級の雑用はイプシロンたちが行い、上流階級はパーティーと乱行に明け暮れてる次第。乱行シーンとかはSYFYでも放送できなかっただろうな。ただ原作だと蛮人保存地区はネイティブ・アメリカンの居住地で、そこで育った白人の蛮人ジョンはシェイクスピアを愛する知的な青年という設定だったが、こちらでは蛮人保存地区に住むのは世界政府の管理を拒否したアメリカの田舎のホワイト・トラッシュたちで、ジョンもその一人ということになっている。

そして原作と異なり、その保存地区に住む白人たちは見世物扱いされることに反発して外部からの見学者に襲いかかることになる。またニュー・ロンドンでもイプシロンたちが何かしらの陰謀を企てていることが示唆されるのだが、ここらへんの展開はもろにHBOの「ウェストワールド」でして、いまそれをやるかい!という感じでした。

キャストはそれなりに豪華で、野蛮人のジョン役に若きハン・ソロことオールデン・エアエンライク、バーナード役にハリー・ロイド、あとはデミ・ムーアやハナ・ジョン=カーメンなんかも出演しています。

原作はもっとスピード感があって、特に後半はジョンの新世界における奮闘と空回りがグイグイ進んでいく感じだったが、こちらは全9話のシリーズにして、アクションシーンを加えたりしたことで逆にテーマが散漫になってしまった印象も受ける。批評家の評判もあまり良くないみたいだけど、まだ数話しか観てないのでもうちょっと続けて観てみます。

「8:46」鑑賞

Netflixが突然Youtubeで公開したデイブ・シャペルのスタンダップ。

警察に窒息死させられた黒人男性ジョージ・フロイドの追悼として、シャペルが地元のオハイオで行ったものを撮影したのかな?よってスタンダップ・コメディというよりも差別に関するスピーチといったところでジョークは僅かなのだけど、そこはシャペル、絶妙なスピーチで観客の注目をグイグイ引き付けていく。

デイブ・シャペルといえばコメディ・セントラルの番組「Chappelle’s Show」で人種をネタにした際どいジョークを扱って大人気を博したコメディアンだけど、自分自身が白人スタッフに笑われてるような気がしてちょっと神経衰弱っぽくなり、人気絶頂にあったときに番組を打ち切るなど、以前から人種問題には敏感なところがあった人なのですよね。

彼のスタンダップのすごいところは何も話さなくても観客の気を散らせないところ。ベラベラ喋って客の気を引こうとするするコメディアンなんて山ほどいるけど、ステージ上で何も話さないのに客の視線を引きつけるパフォーマーは彼とジョン・スチュワートあたりがトップレベルじゃないだろうか。もちろんそれなりの知名度が必要なので今までのキャリアが重要なのだろうけど。

今回のパフォーマンスも観客との他愛ないお喋りから始まり、口数も少なめで、つかみでは90年代の地震について語っていく。カリフォルニアで経験したノースリッジ地震はシャペルにとって初めての地震で、えらく揺れて死ぬほど怖かったと。「でも揺れてたのは30秒くらいだろうな…それに比べて、あの警官はフロイドの首に8分46秒も乗っかってたんだぜ!」と突然ジョージ・フロイドに関する本題に入っていくまでの流れは鳥肌もの。

あとはジョークも控えめに、黒人を非難する保守系のコメンテーターへの罵倒や、警察によって不当に殺された黒人たちの話へと彼のスピーチはつながっていく。ここで凄いのは、差別への不満をただぶちまけるのではなく、話の流れがものすごく綿密に計算されていること。最初のほうで「8:46」というのは自分が生まれた時間でもある、と語ったあとで最後のほうでコービー・ブライアントの背番号が自分の誕生日と同じだった、とつなげるところや、ジョージ・フロイドが死ぬ間際に母親の名前を呼んだ姿は、自分の父親が死ぬときに祖母の名を呼んだのと同じだった、としたうえで最後に自分の祖先が誰だったかを語るところなど。スピーチ全体に伏線と回収があるというか、単に言いたいことをぶちまけてるのではなく、しっかり計算した上で話しているのがよくわかる、スタンダップの教科書のような内容だった。

個人的には数年前にシャペルが「サタデーナイト・ライブ」で行ったオープニングのモノローグは神がかったような出来だと思ってたけど、今回のパフォーマンスも(ジョークが少ないとはいえ)非常に力強いものだった。日本ではコメディアンが政治を語るのに顔をしかめるような人も多いけど、コメディアンが本当に上手く政治を語るとどんな見事なことができるかを証明した好例。

「STARGIRL」鑑賞

有料サービス「DC UNIVERSE」の新作シリーズ…なのだが1日後には地上波のTHE CWで放送されることになっていて、ますますDC UNIVERSEの存在意義が薄くなっているような。

90年代末のDCコミックス作品「Stars and S.T.R.I.P.E.」をベースにした番組で、第1話の脚本はコミックと同じライターのジェフ・ジョンズ。コートニー・ホイットモアは幼い時に父親が疾走したせいか少し内向的な少女で、母親がパット・デュガンという男性と結婚したことでネブラスカの田舎町ブルーバレーに引っ越してくる。そこで彼女はパットがスターマンというスーパーヒーローのサイドキック(相棒)だったことを知り、さらにスターマンの形見であるコズミック・スタッフを発見し、空を飛べるその杖を持って冒険に出かける。しかしブルーバレーには、スターマンが属していたジャスティス・ソサイエティを壊滅させたグループのメンバーが住んでいたのだった…というあらすじ。

アメコミ読んでいたほうが当然いろいろ楽しめるわけだが、初心者にも分かりやすい内容になってると思う。ジャスティス・ソサイエティというのはジャスティス・リーグに先んじるスーパーヒーローのチームで、スターマンのほかにドクター・ミッドナイトとかワイルドキャット、アワーマンといった人たちがいました。その宿敵がインジャスティス・ソサエティという悪者グループで、メンバーはアイシクルにブレインウェーブ、スポーツマスターなど。後述する「スターマン」の重要なキャラであるシェイドの存在が示唆されるシーンもありました。

コートニーが使用するコズミック・ロッドというのは星から降り注ぐパワーを溜めて、飛行やビーム発射などを可能にする杖のことでして、コミックでは90年代の傑作タイトル「スターマン」(おれ全冊持ってます)の主人公スターマンことジャック・ナイトからコートニーは譲り受けるのだが、番組ではジャックは登場せず。逆に番組のスターマンことシルベスター・ペンバートンはコミックだとスカイマンと名乗っててスターマンだったことは無いぞ…というのは野暮なツッコミですね。なおコミックと違ってコズミック・ロッドは意志があるような設定になっていて、コートニーにじゃれたりしてます。

そしてスターマンの年長の相棒だったパットの正体はストライプシーという元B級ヒーローで、年を取ったいまはストライプという巨大ロボットに乗り込んでコートニーのサポートをすることになる。DC UNIVERSEの番組って「アローバース」の番組よりも予算があるのか、ストライプをはじめとする特殊効果はなかなか良くできていました。

第1話は典型的なオリジン話といったところで、コートーニーがスターガールの衣装を着たりもしないのだけど、上のポスターなどから察するに、彼女の他にも新たなワイルドキャットやドクター・ミッドナイトたちが登場して、新しいジャスティス・ソサイエティ(それって「インフィニティ・インク」では?)を結成することになるみたい。ほかにもセブン・ソルジャーズ・オブ・ビクトリーが登場するとかしないとか。ティーンのヒーローたちが田舎町で悪と戦うあたりは「バッフィ」を彷彿とさせ、そこらへんはTHE CWの観客と相性がいいんじゃないですか。ストーリーは意外と暗くなっていくらしいけど。

コートニー役はブレック・ベイシンガー。知らない役者だったけど20歳にして結構な数のTVシリーズに出演してるみたい。パット役がルーク・ウィルソンで、ちょっと気弱なパパ役が似合ってます。あと死んでしまったスターマンをジョエル・マクヘイルが演じていて、今後はフラッシュバックとかで登場してくるのかな。

原作者が脚本を書いているだけあって手堅いストーリー展開になっているし、コミックのファンにはいろいろ楽しめる番組になりそう。とりあえず続きも観てみます。

「スノーピアサー」鑑賞

TNTの新シリーズで、言わずと知れたポン・ジュノ監督の同名映画のTVシリーズ版。日本でもNetflixでやるのね。数年前に製作は発表されてたのだがスタッフの交代とかいろいろあって放送がえらく遅れたわけだが、結果としてその間にポン・ジュノがアカデミー賞獲ったりしてるわけで、ケガの功名になるのかな。

話の設定は映画版とほぼ同じで、地球温暖化への対抗措置が失敗して凍てつく星になってしまった地球において、永久期間によって走り続ける列車「スノーピアサー」の中で暮らす最後の人類たちの抗争を描いたものになっている。映画版は列車が15年くらい走り続けてるのに対し、こっちは7年くらいの設定なのかな?

スノーピアサーを設計した謎の人物ウィルフォード氏以外は登場人物はみんな映画版と別だが、列車の最後尾には劣悪な環境で暮らす貧民たちが収監され、先に進むにつれて住人の待遇が良くなっていくというのは映画版と同じ。

主人公のレイトンは列車の最後尾で暮らす男性で、より良い生活環境を求めて仲間たちと共謀して管理者たちに蜂起する予定だったが、なぜか彼だけが呼び出されて上層部のもとに連れて行かされる。実は彼はスノーピアサー乗車前は殺人課の刑事を務めており、列車のなかで(連続)殺人事件が起きたことから、それを調査するために抜擢されたのだ。そして彼は貧民たちの生活の向上と引き換えに、調査を引き受けるのだが…というあらすじ。

映画版は列車の後ろからただ前に行くという、ある意味ではストレートな話だったが、こちらはミステリの要素が加わって面白くなりそう。レイトンには車両のあいだを自由に行き来する権限が与えられる一方で、貧民層を抜け出した彼の元妻、さらには謎めいたウィルフォード氏なども絡んできて、スノーピアサーにまつわる謎が明かされていくみたい。

このスノーピアサーはなんと1001車両あるという設定で、移動するだけで日が暮れそうな代物なのだが、女性スタッフがヒール姿で気楽に歩き回ってるんだよな。すべて屋内で話が進む作品だが、温室の車両や水族館の車両などもあって環境のバラエティは豊か。しかしセット代を節約したのか各車両の幅が映画版に比べて狭いような?人のすれ違いとかが窮屈そうだったぞ。映画版が営団地下鉄ならばこっちは都営大江戸線の車両というか。あれで24時間通勤してたら暴動を起こしたくなる気も理解できるな。

レイトン役には「Blindspotting」のダビード・ディグス。でっかいドレッドヘアが気になるのだがずっとあの姿でいるのかな。彼に捜査を依頼するスノーピアサー上層部の管理係にジェニファー・コネリー。シーズン2の製作もすでに決まっていて、ショーン・ビーンが登場するとか?

放送されるまでのゴタゴタがいろいろ報じられた作品だけど、第1話は意外と面白かったですよ。いかんせん話の舞台が限られた内容ではあるもので、これからどうやってストーリーを引っ張っていくんだろう?