「HELSTROM」鑑賞

米HULUのオリジナルシリーズでマーベル・コミックスの作品を原作にしたもの。基になったキャラクターのデイモン・ヘルストロムって70年代に「ゴーストライダー」のようなオカルトっぽいキャラクターの成功にあやかって考案されたもので、そのまんま「SON OF SATAN」というおどろおどろしい題名がつけられて登場したのだが、はっきり言って非常にマイナーなキャラクターなので、その名の通りサタンの息子らしい、ということ以外は俺もよく知りません。そもそもマーベル・ユニバースにサタンなんていたっけか?90年代初期にも彼を主人公にしたシリーズが短期間あって、駆け出しだった頃のウォーレン・エリスが敗戦処理のようなライターを務めていた覚えが。

そして彼にはサターナという妹がいるのだが、こちらになるとヘルストロム以上にマイナーなキャラクターなので全くよく知りません。彼と同様にサタンの娘(リリー・コリンズ?)ということくらい。

ただでさえマーベルはDCに比べてオカルト/魔法系のキャラクターの層が薄くて、地獄でいちばん偉そうなメフィストも人の結婚にちょっかい出してる程度なのだが、なんでこんなマイナーなキャラクターを映像化しようとしたのかはよくわかりません。いちおうTV-MAという大人向けのレーティングもついてエッジの効いた内容にしようとしたのだが、どうも話によるとマーベルの親会社であるディズニーがその方針を嫌がって、題名は「HELLSTROM」でなく一字とった「HELSTROM」に変更し、「サターナ」は「アナ」にしたうえで、NETFLIX作品などにはつけられた「MARVEL’S」という表記も題名には付けられていない。そんなの改変する意味あるのかね?と思うけど、子供向けディズニーにとっては重要なのでしょう。こうなると「ジョーカー」みたいなR15の劇場作品はマーベルから当面は出てこないだろうなあ。

それで肝心の作品の中身だが、デイモン・ヘルストロムは神秘的な能力を持った男性で、大学で教鞭をとりながらカソリック教会のエクソシズムに手を貸していたが、何かしら強大な脅威が迫りつつあることを知り、疎遠になっていた妹のアナに連絡を取る…といったもの。デイモンとアナの母親は悪魔に取り憑かれて精神病院に収容されているが、彼らの父親が悪魔だということは示唆されるだけで明言はされていない。あとは地下墓地の遺物から悪き存在が解放されたことも説明されるが、なんか話の展開が遅いのよこれ。数話観てもキャラクターの背景とかがなかなか明らかにされないし。

デイモンが世間に対して斜に構えたエクソシスト、という点では「コンスタンティン」に通じるところもあるが、あそこまでキャラクターは立っていない。物事があまり説明されないまま、おどろおどろしい展開が続くあたりは「アウトキャスト」にむしろ似ているかな。TVシリーズのホラー作品ってあまり優れたものが無いような気がするけど、これもあまり現地では評判が良くないみたい。

デイモン役はイギリス人のトム・オースティン。アナ役のシドニー・レモンってジャック・レモンの孫娘なのか。知った顔だと「ザ・ワイヤー」のロバート・ウィズダムが出演してます。主人公ふたりの母親をエリザベス・マーベルという、そのまんまな名前の役者が演じてるのにマーベル作品との関係が希薄で残念。

マーベルのTVシリーズがこれからDISNEY+に集約していくであろう過程での、微妙な立ち位置の作品、ということで良いのかな?大人向けの異色マーベル作品、という強みを出すこともできただろうにポテンシャルを生かせてないのが残念。

「Fargo」シーズン4鑑賞

シーズン3はちょっと失速したけど、ノア・ホウリーの「ファーゴ」はまだ続くのだ!というわけで3年ぶりの新シーズン。コロナの影響で撮影も延びたらしいが無事放送開始になりました。

シリーズの常として舞台となるのはミネソタ州ファーゴではなくて、ミズーリ州のカンサスシティ。そこでは移民によるギャング同士の抗争が1920年代から続いており、最初はユダヤ系が台頭していたところにアイルランド系がとって代わり、その後はイタリア系がとって代わる。そして50年代には黒人のギャングがイタリア系と対立し…というのが話の開始時点。

いちおうギャング同士での和平交渉は行われていて、お互いのボスの息子を交換して家族の一員として育てることで抗争を避けようとするしきたりがあるものの、結局はアイルランド系の息子の裏切りによってユダヤ系およびアイルランド系のギャングが壊滅に追い込まれていた。そしてイタリア系と黒人のギャング同士もお互いの息子を交換するが、傍らではシリアルキラーの謎めいた看護婦が暗躍していて…というあらすじ。

非常にスタイリッシュな映像でギャングの世代交代が描かれる冒頭などは流石なのだが、ストーリー的には比較的おとなしいというか、突拍子もない事件はまだ起きていないかな(いま2エピソードを鑑賞)。イタリア系ギャングのボスが不慮の事故で亡くなり、血気盛んな2代目が黒人ギャングと一発触発の展開になっていくみたい。

今までのシーズンも時代設定がバラバラだったが、今回は最も昔の1950年代が舞台ということで時代劇的な雰囲気がありますな。ギャングの抗争を描いているという意味では、コーエン兄弟の「ミラーズ・クロッシング」に似ているところもあるし、差別に抵抗してたくましく生きようとする黒人たちが主人公という点ではHBOの「ウォッチメン」や「ラブクラフト・カントリー」に通じるところがあるかも。50年代が舞台なので、唯一シーズン1〜3を通じて登場したキャラである「聾唖の殺し屋」は生まれてもいないのだが、たぶんあとになって何かしらの形で登場するんじゃないだろうか?

このシリーズの特徴であるキャストの異様な豪華さは今回も顕著で、黒人ギャングのボスにクリス・ロック。ギャングでありながらも、自分が考案した「クレジットカード」を銀行に売り込んでカタギの商売を始めようとする家長を演じている。コメディアンとしての印象が強いクリス・ロックだけど、「ニュー・ジャック・シティ」のシリアスな役とかおれ好きなのよね。対するイタリア系ギャングにはジェイソン・シュワルツマンやベン・ウィショーなど。ティモシー・オリファントも「JUSTIFIED」みたいな保安官として登場するぞ。

批評家の評価は過去シーズンほど高くはないみたいだけど、まだ始まったばかりだし、50年代のギャングの話が他のシーズンとどう関連していくのかを見守ることにする。

「LOVECRAFT COUNTRY」鑑賞

マット・ラフの同名小説を原作にしたHBOの新シリーズ。1話が無料公開中(要VPN)で、プロデューサーがジョーダン・ピールとJJ・エイブラムズ。

舞台は人種差別が台頭していた1950年代のアメリカ。朝鮮戦争から帰ってきたアティカスは、疎遠になっていた父親から謎めいた手紙を受け取ったことでシカゴへとやってくる。手紙によると彼の父親は自分の血族を探すために、マサチューセッツのアーカムならぬアーダムという土地へ向かったというのだ。そこでアティカスと叔父のジョージ、および友人のレティティアは父親の後を追ってシカゴを発つものの、田舎町では黒人は敵視され、保安官を含めた白人たちに彼らは追いかけられて大変な目に遭う。さらに人知を超えた怪物に彼らは遭遇し…というあらすじ。

題名から分かるようにHP・ラブクラフトのクトゥルフ神話をベースにしたホラーではあるものの、テーマとしていちばん前面に押し出されてるのはアメリカにおける人種差別の歴史か。「怖いのは怪物ではなく人間だった!」というクリーシェを使ってるわけでもないし今後の展開はどうなるか分からないけど、食堂で食事を頼んだだけで白人に銃で追いかけられ、秩序を守るはずの保安官にも殺されかける、黒人たちの置かれた理不尽な環境がひしひしと伝わってくる内容になっている。

黒人奴隷が主人公のシリーズ「UNDERGROUND」のクリエーターだったミシャ・グリーンがショウランナーを努めており、昨年のHBOの「ウォッチメン」におけるタルサ暴動のように、黒人の歴史を啓蒙するような要素もあるかな。人種隔離が公然と行われていた地域を表す「SUNDOWN TOWN」なんて表現、俺は知らなかったですよ。50年代の話ながら、65年のジェームズ・ボールドウィンのスピーチをBGM代わりに流すという演出も行われてます。

アティカスは体格こそゴツいもののSFとホラー小説が好きな素朴な少年で、ラブクラフトの小説も好きなんだけど、彼の人種差別的な主張には困惑している。当時は黒人のSF読者というのは少なかったようで、これも重要な要素になるみたい。そして叔父のジョージは黒人向け旅行ガイド(いわゆる「グリーンブック」な)を書いているという設定になっている。

それで肝心のモンスターですが、第1話ではラブクラフト絡みのクリーチャーがどのくらい出てくるのかは不明。いちおうショゴスっぽい、でもなんか違う怪物が出てきてえらいことになるのですが、今後はどうなるのだろうなあ。謎めいた白人の男女とかも出てきて、カルト教団とのつながりが明かされるようなのだが。シュブ=ニグラスとかヨグ=ソトースの登場を期待してはいかんのでしょう。

アティカスを演じるのは「The Last Black Man in San Francisco」のジョナサン・メイジャーズで、レティティア役がジャーニー・スモレット。このひとジャシー・スモレットの妹なのね。ジョージ役がコートニー・B・ヴァンスで、アティカスの父親役がHBOの常連マイケル・K・ウィリアムズ。冒頭の夢シーンで体を真っ赤に塗ったジェイミー・チャンが出てくるのだが、あれがアティカスが韓国に残してきた恋人ということになるのかな?

批評家と視聴者の評判も良いようで、昨年の「ウォッチメン」のような話題作になるでしょう。個人的にはクトゥルフ神話のクリーチャーにどんどん登場してほしいところですが。このままアラン・ムーアのラブクラフト・グレイテスト・ヒッツ的作品「PROVIDENCE」も映像化されたりしないかな。

「BRAVE NEW WORLD」鑑賞

NBCユニバーサルの配信サービス「Peacock」が今週開始されたのだよ。広告付きの無料オプションと、広告あり/なしで追加コンテンツが視聴できる2種類のプレミアムオプションというプラン分けのほか、NBC子会社のケーブルサービスに加入してると無料で観られるあたり、Disney+やHBO MAXよりもApple TV+のような既存サービスの付加価値的な役目を果たすのかな?品揃えはユニバーサル作品の旧作がいろいろあって、まあ目新しさはないけど手堅いラインナップという感じ。

とはいえ最近のトレンドとしてオリジナルシリーズの1つや2つは持ってないといけないわけで、これがその1つ。オルダス・ハクスリーのディストピア小説「すばらしい新世界」を原作にしたもので、ライター兼プロデューサーにグラント・モリソンが関わっている。もともとSYFY用に作られたシリーズのようで、「HAPPY!」つながりでモリソンに声がかかったんだろうか。

舞台は原作と大体同じで、いまから数百年後のニュー・ロンドン。人々は遺伝子操作によってアルファからイプシロンまで5つの身分階級に分かれて生まれ、自らの身分に不満を抱くこともなく上の階級に仕えて暮らしていた。バーナード・マルクスは最上級のアルファ・プラスに属する身分で、人を高揚させるドラッグ「ソーマ」を分け与えられる立場にいたが、彼自身が何かしらの不安を抱えていた。そんな彼は部下の美女レーニナを連れてアメリカの蛮人保存地区へ観光に行くが、そこでトラブルに巻き込まれ…というあらすじ。

「現代社会をよく表してるのは『1984年』よりも『素晴らしい新世界』だよねー」って厨二病の決めゼリフのようであんま言いたくないのだが、実際のところ国民がなんとなく抑圧されて不幸せに生きている「1984年」よりも、自分の与えられた境遇に満足し、ドラッグとフリーセックスにうつつを抜かして政府への不満など抱かない国民が出てくる「新世界」のほうが現代の風刺としてはより効力があると言えるのではないか。みんなハイになってパーティーをやってるなかでも劣等感を抱くバーナードとか、いかにも管理職の小市民的な悩みで面白かったじゃん。

このシリーズも大まかな設定は原作と同じで、アルファやベータ階級の雑用はイプシロンたちが行い、上流階級はパーティーと乱行に明け暮れてる次第。乱行シーンとかはSYFYでも放送できなかっただろうな。ただ原作だと蛮人保存地区はネイティブ・アメリカンの居住地で、そこで育った白人の蛮人ジョンはシェイクスピアを愛する知的な青年という設定だったが、こちらでは蛮人保存地区に住むのは世界政府の管理を拒否したアメリカの田舎のホワイト・トラッシュたちで、ジョンもその一人ということになっている。

そして原作と異なり、その保存地区に住む白人たちは見世物扱いされることに反発して外部からの見学者に襲いかかることになる。またニュー・ロンドンでもイプシロンたちが何かしらの陰謀を企てていることが示唆されるのだが、ここらへんの展開はもろにHBOの「ウェストワールド」でして、いまそれをやるかい!という感じでした。

キャストはそれなりに豪華で、野蛮人のジョン役に若きハン・ソロことオールデン・エアエンライク、バーナード役にハリー・ロイド、あとはデミ・ムーアやハナ・ジョン=カーメンなんかも出演しています。

原作はもっとスピード感があって、特に後半はジョンの新世界における奮闘と空回りがグイグイ進んでいく感じだったが、こちらは全9話のシリーズにして、アクションシーンを加えたりしたことで逆にテーマが散漫になってしまった印象も受ける。批評家の評判もあまり良くないみたいだけど、まだ数話しか観てないのでもうちょっと続けて観てみます。

「8:46」鑑賞

Netflixが突然Youtubeで公開したデイブ・シャペルのスタンダップ。

警察に窒息死させられた黒人男性ジョージ・フロイドの追悼として、シャペルが地元のオハイオで行ったものを撮影したのかな?よってスタンダップ・コメディというよりも差別に関するスピーチといったところでジョークは僅かなのだけど、そこはシャペル、絶妙なスピーチで観客の注目をグイグイ引き付けていく。

デイブ・シャペルといえばコメディ・セントラルの番組「Chappelle’s Show」で人種をネタにした際どいジョークを扱って大人気を博したコメディアンだけど、自分自身が白人スタッフに笑われてるような気がしてちょっと神経衰弱っぽくなり、人気絶頂にあったときに番組を打ち切るなど、以前から人種問題には敏感なところがあった人なのですよね。

彼のスタンダップのすごいところは何も話さなくても観客の気を散らせないところ。ベラベラ喋って客の気を引こうとするするコメディアンなんて山ほどいるけど、ステージ上で何も話さないのに客の視線を引きつけるパフォーマーは彼とジョン・スチュワートあたりがトップレベルじゃないだろうか。もちろんそれなりの知名度が必要なので今までのキャリアが重要なのだろうけど。

今回のパフォーマンスも観客との他愛ないお喋りから始まり、口数も少なめで、つかみでは90年代の地震について語っていく。カリフォルニアで経験したノースリッジ地震はシャペルにとって初めての地震で、えらく揺れて死ぬほど怖かったと。「でも揺れてたのは30秒くらいだろうな…それに比べて、あの警官はフロイドの首に8分46秒も乗っかってたんだぜ!」と突然ジョージ・フロイドに関する本題に入っていくまでの流れは鳥肌もの。

あとはジョークも控えめに、黒人を非難する保守系のコメンテーターへの罵倒や、警察によって不当に殺された黒人たちの話へと彼のスピーチはつながっていく。ここで凄いのは、差別への不満をただぶちまけるのではなく、話の流れがものすごく綿密に計算されていること。最初のほうで「8:46」というのは自分が生まれた時間でもある、と語ったあとで最後のほうでコービー・ブライアントの背番号が自分の誕生日と同じだった、とつなげるところや、ジョージ・フロイドが死ぬ間際に母親の名前を呼んだ姿は、自分の父親が死ぬときに祖母の名を呼んだのと同じだった、としたうえで最後に自分の祖先が誰だったかを語るところなど。スピーチ全体に伏線と回収があるというか、単に言いたいことをぶちまけてるのではなく、しっかり計算した上で話しているのがよくわかる、スタンダップの教科書のような内容だった。

個人的には数年前にシャペルが「サタデーナイト・ライブ」で行ったオープニングのモノローグは神がかったような出来だと思ってたけど、今回のパフォーマンスも(ジョークが少ないとはいえ)非常に力強いものだった。日本ではコメディアンが政治を語るのに顔をしかめるような人も多いけど、コメディアンが本当に上手く政治を語るとどんな見事なことができるかを証明した好例。