「The Standoff at Sparrow Creek」鑑賞

良い評判を聞いていた低予算映画。ヘンリー・ダナムなる人の初監督・脚本作品らしい。

アメリカのとある片田舎の夜。その土地の民兵組織のメンバーであるギャノンは、警察無線を聞いているうちに何者かが警察官の葬式において銃を乱射し、逃走していることを知る。自分たちの組織にあらぬ疑いが向けられることを危惧したギャノンは、組織のほかの6人のメンバーたちとアジトに集結する。そこでしばらく潜んでいようという計画だったが、保管していた銃が1つ無くなっていることが発覚し、彼らの中に銃撃犯がいる疑いが出てきてしまう。メンバーのうち誰が犯人であるかを突き止めるため、元警官でもあるギャノンは調査を始めるのだが…というあらすじ。

舞台は夜のアジトだけで、女性も一切登場しないまま、ムサい男たちの腹の探り合いが繰り広げられる密室劇になっている。メンバーにはそれぞれアリバイがあり、彼らに対してギャノンが尋問をしていくのだが、メンバーのひとり(ギャノンのブラザーらしいのだが、実際の兄弟なのかはいまいち不明)は実は覆面警察官であり、ギャノンもそのことを知っていて、彼には他のメンバーから危害が加えられないよう苦心するというのが話にヒネリを加えている。

閉じこもった状況のなかで緊迫した状況が続き、外部の様子は警察無線を傍受することによってのみ知る、という展開はゾンビ映画に通じるものがあるな。最後のオチは、あとになって考えるとなんかしっくりこないところもあるけど、まあいいでしょう。

ギャノンを演じるのがジェームズ・バッジ・デールで、あとはパトリック・フィッシュラーとかクリス・マルケイなんかが出ています。デビュー作としてはどことなく設定が似てる「パルプ・フィクション」ほどに洗練された出来ではないけど、悪い作品ではないので、今後もこの監督のことはどこかで目にしていくんじゃないだろうか。

「Swamp Thing 」鑑賞

またちょっとVPNをゴニョゴニョして、DCコミックス(失礼、「DCエンターテイメント」ですな)の映像配信サービス「DC UNIVERSE」に加入してみたのであります。正直なところ価格の割にはラインナップは乏しいし、コミックの読み放題サービスもちょっと使い勝手が悪いような気がしますが、「タイタンズ」「DOOM PATROL」(まだ観てない)に続く第3のオリジナルシリーズとなるこれを視聴してみたら意外と面白いのでございます。

原作は植物と人間が融合したモンスターヒーローのスワンプシングを主人公にした一連のコミックで、かつてはウェス・クレイブンが「怪人スワンプシング」として映画化しているほか、TVシリーズ、さらにはアニメシリーズなども作られており、実はよく映像化されているキャラクターだったりする。

原案はレン・ウェインとバーニー・ライトソンというアメコミ界でも屈指のクリエイターたちだが、コミックが本当に有名になったのはアラン・ムーア御大が80年代初頭にライターに就いたときで、初っ端から「スワンプシングは人間と融合した植物ではなく、人間の記憶を持った植物な」と従来の設定をひっくり返し、それ以降はイギリスの魔術師ジョン・コンスタンティンが登場したり、世界の植物界を統治するパーラメント・オブ・ツリーズが出てきたり、さらにはスワンプシングが宇宙での冒険を繰り広げたりと、それはもう革新的なストーリーを繰り広げていたのであります。このコミックによってイギリスのライターたちがアメリカで活躍する機会が広がり、のちのヴァーティゴの立ち上げにつながったのは間違いないだろう。

んでこのTVシリーズのほうですが、賢明にもムーア御大のプロットは殆ど使わず、プロデューサーのジェームズ・ワンの映画を彷彿させるような、サザン・ゴシックのホラー作品に仕上がっている。

舞台は湿地帯に面したルイジアナの町マレー。そこでは植物に関連した謎の疫病が蔓延し、人々が病院に担ぎ込まれていた。マレー出身の医師であるアビー・アーケインは、疫病の原因を突き止めるために数年ぶりに故郷に戻り、そこでエキセントリックな植物学者のアレック・ホーランドと出会う。何者かが湿地に投棄している植物活性剤が疫病に関連していることを疑ったアレックは単身湿地に乗り込むが、何者かに撃たれて沼に沈んでしまう。そこで彼の体は活性剤と交わり、アレックはスワンプシングとして蘇るのだった…というあらすじ。

ただし話の主人公はあくまでもアビーであって、アレックことスワンプシングの登場はかなり抑えられている。アビーは過去に何らかの理由でマレーを離れており、いったい何があったのか?が徐々に明かされていくほか、湿地に関わる町の有力者の陰謀、さらには幽霊が出てきたりと、いろんな謎が絡み合っているのだが決して詰め込んだプロットにはならず、次はどうなるんだろうと思わせる内容になっている。

登場人物も多彩で、マット・ケーブルやジェイソン・ウッドリューといった原作でもお馴染みのキャラクターに加え、マダム・ザナドゥやファントム・ストレンジャーといった他のコミックのキャラクターも登場。かなりマイナーなブルー・デビル(の中の人)までもが登場したのは驚きました。アビーの叔父でスワンシングの宿敵であるアントン・アーケインが出てこないのが意外だが、いずれ登場するのかな。

役者はアビーを演じるのが「ゴッサム」のクリスタル・リード。有名どころでは有力者の妻をヴァージニア・マドセンが演じていたり、ジェニファー・ビールスとかが出演しています。「スター・トレック:ヴォイジャー」のティム・ラスもチョイ役で出ていたな。

製作ではゴタゴタがあったみたいで、当初1シーズン13話の予定が10話になり、さらに税金免除の見込みが間違ってた(正確な理由は不明)とかで開始直後に1シーズンでの打ち切りが決定されるなど不遇な目に遭っている。DCコミックスの虎の子作品「サンドマン」はNETFLIXに行ってしまったし、「DC UNIVERSE」自体がなんか不調なのでは?という声も出ているけど、数話みた限りではこの「SWAMP THING」かなり面白いので、今後も頑張ってDCコミックスの映像化に挑んで欲しいところです。

「MAD」休刊

1952年に始まった老舗ユーモア雑誌「MAD」がその歴史に幕を閉じるそうで。厳密にいうと発行元のDCからはまだ公式な発表が出てないし、過去の作品のリプリントは続けるて年末号にはちょっと新作を掲載するらしいが、まあ実質的な休刊とみなして良いでしょう。折りたたみマンガで知られる長年のアーティスト、アル・ジャフィー(98歳)は現役のまま「MAD」の終わりを見ることになった。

個人的には熱心な読者というわけでもなかったが、雑誌という形態から日本の洋書店でも比較的容易に見つけることができ、神保町のタトル商会とかでよく立ち読みしてました。DCのヴァーティゴで作品を出していたピーター・クーパーが名物連載「SPY VS. SPY」を引き継いだころで、セルジオ・アラゴネスなんかもよく寄稿していたな。創始者のハーヴェイ・カーツマンによる過去の作品も読んで、その奔放さに驚いたものです。

元々はホラー・コミックで知られるECコミックスから出版され、コミックス・コードと戦ったことで知られる出版人のウィリアム・ゲインズによって立ち上げられたコミック誌だったが、コミックス・コードの規制を避けるために「コミック」ではなく「雑誌」の形式をとって、カーツマンのもとウォリー・ウッドやウイル・エルダーといったアーティストを起用して人気を博していく。

これも個人的にはスケールが掴みづらいのだけど、「MAD」がベビーブーマーの世代に与えた影響ってものすごいものがあるようなのですね。ロバート・クラムやテリー・ギリアム、アート・スピーゲルマンといったアーティストたちだけでなく、「え、あなたも?」と思うような人たちがインタビューで「MAD」の影響を公言しているのを何度目にしたことか。権力やメディアを徹底的に風刺するそのスタイルが、当時のカウンターカルチャーに与えた影響は相当なものであるらしい。アメリカだけでなくイギリスではアラン・ムーアなどが「MAD」の大ファンだし、日本ではモンキー・パンチや赤塚不二夫などがその影響を公言している。さらに言うとジョーダン・ピールだって雑誌をベースにしたTV番組「MAD TV」の出身だぞ。個人的には「シンプソンズ」でのトリビュート(「もう僕はこの目を洗わない」)が好きですね:

最近でもトランプが民主党のピート・ブーテジェッジ市長を「アルフレッド・E・ノイマン」(MADのマスコットキャラクター)呼ばわりして、ブーテジェッジ(37歳)が「それ誰だっけ?」と返したやりとりがありましたが、もう若い世代は「MAD」とか読まないんだろうな。出版業界自体がアメリカでも落ち目なのか、DCはこないだヴァーティゴの終了も発表したし、いろいろ寂しいこってす。

「MAD」のライバル誌(たくさんあった)の1つ「CRACKED」が休刊してウェブメディアになってから意外と成功している(こないだスタッフ解雇してたけど)ように、雑誌以外の媒体で「MAD」の伝統を残すことはできないのだろうか。

「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」鑑賞

公開中なので感想をさらりと。とはいえヴィランに言及しないといけないので以下はネタバレあり。

  • 前作では6人いた脚本家が2人になった一方で、全体的にストーリーが散漫になった印象あり。ヨーロッパ各地をまわる設定のため、イベント→休憩→イベントといった流れになっているためか。
  • とはいえピーターたち一行が旅行を楽しんでいる(?)のを眺めるのはそれはそれで面白いわけで。ただ大作映画というよりもTVシリーズみたいな展開だな、と感じました。
  • 「アメイジング〜」のときもそうだったけど、ロマンスの部分になるとスパイダーマンってやはり良いですね。若者がドキドキしてるところがうまく表現されているというか。ここは他のMCU映画にない、スパイダーマン特有の強みじゃないだろうか。
  • その一方で敵役がちょっとなあ。ヴィラン自体はリー&ディトコのキャラクターのなかでもその独創的なデザインが好きだし、彼なりの特徴ある戦い方などはうまく描けてると思うのですよ。ただエレメンタルズという相手がアベンジャーズ的というか、路上で戦うスパイダーマン向きではないというか。もうちょっとマンツーマンで戦うようなシーンが欲しかったな。
  • キャストは2作目(あるいはそれ以上)ということもあり、みんな小慣れててよかったのでは。個人的にはベティ・ブラントが前作以上に出てたのが良かった。最後の最後にはあのお方が復帰されて、やはり「アメイジング〜」に欠けてたのは彼だよね〜。
  • とはいえあの終わり方、次作でちゃんと収集がつくのか不安だが、大丈夫なんだろうか。フェイクニュース!で片付けるのかな。
  • 劇中で「アース616」が言及されていたが、アラン・ムーア考案のネタがMCU映画に出てきたのってこれが初じゃないかな?こうしてムーア御大の呪いがMCUにも発動するのか…?

まー今年(昨年)は「スパイダーバース」というホームラン級の傑作があったために、あれと比べると見劣りしてしまうのは仕方ないのだが、全体的には楽しめる作品であったかと。これでマーベル映画のフェイズ3も終わり、今後はスパイダーマンが他の映画にどう関わっていくんでしょうね?

「BORDER」鑑賞

スウェーデン作品で、日本では「ボーダー 二つの世界」の題で秋に公開みたい。

原始人めいた顔つきをしたティナは、スウェーデンの税関に努める女性。彼女は人の罪悪感や羞恥心を感じ取ることができるという才能を持っており、その力を活かして旅行者が持ち込む規定以上の酒や、さらにはいかがわしい映像の入ったSDカードまでも嗅ぎ当てることができた。その能力を認められ、幼児ポルノの調査を手伝うように依頼されるティナ。その一方で彼女は人付き合いを好まず、山奥に恋人とひっそりと暮らしていた。そんな彼女はある日、自分に顔つきのよく似たヴォアーという人物に出会う。何度かヴォアーと会ううちに惹かれていくティナだったが、やがて自分に関する意外な事実を知ることになる…というあらすじ。

原作は「ぼくのエリ 200歳の少女」のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストで、あの作品と同様に現代社会を舞台にしたファンタジー作品になっている。どこらへんがファンタジーか、というのはネタバレになるので書きませんが、まあムーミンが生まれた北欧らしいというか。ただファンタジーといっても特撮描写みたいなものは殆どなくて、大人のおとぎ話、といった内容になっている。

ティナが自分についての事実を知るにつれて、性格的にもセクシャリティ的にも解放されていくのが1つのサブプロットになっているのですが、例によってキワどいシーンもあるので日本では修正入るんだろうか。

監督のアリ・アッバシとか出演者とか、すいませんみんなスウェーデン人なのでよく知らないです。ティナの原始人メークが評価されてこないだのアカデミー賞ではメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされてたけど、単にメークがすごい、というだけの作品ではないです。

「ぼくのエリ」ほどカルト的人気は出ないだろうけど、あの作品が好きなら観ても損はしないんじゃないかな、という作品。