「タクシードライバー」の脚本家として知られるポール・シュレイダーの監督作。
舞台となるのはニューヨーク州にある、建造250周年を迎えようとするファースト・リフォームド教会。その小さな教会で牧師を務めるアーンスト・トラーは、過去の罪悪感や現世への苦悩に苛まれる孤独な生活を送っていた。そんな彼は教会に通う妊娠中の女性メアリーに依頼され、彼女の夫であるマイケルと話をすることになる。環境活動家であるマイケルは悪化していく地球の自然環境に絶望し、この世に子供を産みだすべきか悩んでいたのだ。彼に明快な答えを与えられないアーンストだったが、そのうちにマイケルは自殺してしまう。メアリーを慰めるアーンストだったが、彼もまた大企業からの募金に気を遣う教会の親団体に絶望していた。そしてマイケルの思想に感化されたアーンストは、とある行動に出ようとするのだった…というあらすじ。
テーマ上、キリスト教の教義にまつわる会話とかカウンセリングの会話とかがいろいろ出てきて、さらに主人公の独白も重なって非常にセリフが多い作品になっているところは脚本家の映画だなあと。ただ意外と宗教的な映画ではなくて、むしろ神が作ったというこの俗世間において、人はどう行動を起こすべきか、というのを扱った作品のような気がした。映像のアスペクト比が4:3というのも、主人公のおかれた窮屈な状況をよく表しているかと。
主人公のアーンストは病魔に体が蝕まれているほか、過去にイラク戦争で息子を失い、それがきっかけで妻に去られた人物、だというのが話が進むうちに明かされていく。いちおう仲のいい女性もいるものの、世間における欺瞞に耐えられず彼なりの正義を貫こうとする…という展開はかなり「タクシードライバー」のトラヴィスに通じるものがあった。なお主人公の名前は反戦運動に関わったドイツの劇作家エルンスト・トラーからとられているんだそうな。
主役を演じるのはイーサン・ホーク。あまりアカデミー賞とかには縁のない人だけど、同じ世代のなかではトップレベルの安定した演技力を持っている役者じゃないでしょうか。今回も絶望によって道を踏み外していく主人公を抑え気味に好演している。そして教会の親団体の牧師役はコメディアンのセドリック・ザ・エンターテイナーが演じていて、こちらも演技が大変上手なのでビックリしてしまった。いままでシットコムなどで呑気なオッサンの役しか演じてなかった印象があるけど、シリアスな演技ができる人ではないですか。あと妊婦のメアリー役は、撮影中実際に妊娠中だったというアマンダ・サイフリッドが演じている。
キリスト教的な、なんか難しそうな作品だな…と思いきや、思いつめる主人公に共感を抱いてしまう意外な良作であった。「タクシードライバー」好きな人は観て損しないと思う。