「The Manhattan Projects Vol. 1: Science. Bad.」読了


ジョナサン・ヒックマン&ニック・ピタッラによる、イメージコミックスで連載中のコミックのペーパーバック第一巻。

いわゆる架空歴史もので、話が始まるのは第二次大戦中の1942年。ドイツと日本の脅威に対抗するためにルーズベルト大統領の命を受けたレズリー・グローヴス准将は天才科学者を招集して「マンハッタン計画」を立ち上げる。これは世間的には原子爆弾を製造するための計画であったが、実際はそれ以上に驚異的な発明を研究するための極秘のミッションであった。そして亡命してきた科学者たちも計画に加わり、さらに地球外生命からの脅威が出てきたことで計画はあらぬ方向へと暴走していく…というようなプロット。

いちおう登場人物の大半は実在の人物なんだけど、みんな筋金入りのマッド・サイエンティストだし腹に一物もっていて、誰も善人がいないところが凄い。オッペンハイマーの正体は本物を食い殺した双子の兄(しかも多重人格者)だし、アインシュタインはパラレルワールドからやってきた悪人で、フォン・ブラウンは片腕サイボーグ。ハリー・ダリアンは放射能を浴びてガイコツになっているし、エンリコ・フェルミはもはや人間ではなくなっている。せいぜいリチャード・ファインマンがナルシストの若者として描かれてるのが普通なくらいか。彼らを指揮するはずのグローヴス准将はドンパチのことばかり考えているし、その上の大統領はルーズベルトが他界して人工知能に取り込まれ、後を継いだトルーマンはフリーメーソンの儀式に没頭してる無能として扱われている始末。

なお肝心の戦争のほうは第1話で日本軍が鳥居を用いたテレポート装置で殺人ロボット(本田宗一郎製作)を送り込んできたりするものの、そのあとすぐ原爆が落とされて意外と早く決着がついてるみたい。その後の冷戦でも政治家の意向を無視してソ連の科学者と手を組んで陰謀を企んだりしてるわけだが、今後の展開は政治家VS科学者になるんだろうか、それともニューメキシコで遭遇した異星人との戦いがメインになっていくんだろうか。伏線ばかりで話の方向性が見えないのが欠点といえば欠点だな。

なおニック・ピタッラのアートはジェフ・ダロウを彷彿とさせるものになっていて、細かくて神経質な感じがストーリーのピリピリとしたブラック・ユーモアに似合っていてとても良い感じ。日本人読者としてはこれから731部隊の石井四郎とか鬼畜ルメイあたりの登場を期待したいところですが、はてさて。

ジョー・キューバート死去


85歳。アメコミの巨匠がまた1人亡くなってしまった。

一説によると彼は8歳のときからウィル・アイズナーの事務所で雑用を手伝うようになり、12歳のころにはすでに絵を描くことで給料を得ていたという。そんな彼はガードナー・フォックスやロバート・カニハーといったライターたちとともに、宇宙からやってきたシルバーエイジ版ホークマンや第二次世界大戦の戦地を行くサージェント・ロック&イージー・カンパニー、真っ赤な複葉機で大空を舞うエネミー・エース、原始人のトーなどといった人気キャラクターを次々と生み出していった。ヘルメットの陰で鋭い目つきを光らせるロック軍曹の姿とかはカッコ良かったなあ。

さらに彼の仕事はスーパーヒーローものや戦争ものに限らず、ユダヤ教に関するコミックスやサラエボ内戦を描いたものなど多種多様にわたり、従軍経験もある彼は軍の備品のメンテナンスに関する機関誌のイラストを担当したりと、死ぬ直前まで精力的に仕事を続けていた人物であった。これに加えて彼は息子ふたり(アダムとアンディ)を業界トップレベルのアーティストに育てたほか、コミックの技法を教えるキューバート・スクールを設立し、スティーブン・ビセットやトム・マンドレイク、ティム・トルーマンといった著名アーティストたちを輩出したという、アメコミ業界に多大な影響を与えた人物であったわけです。

もっと多くの作品を生み出してくれるかと思っていたのに、お亡くなりになってしまって悲しい。安らかに眠れ。

「The League of Extraordinary Gentlemen, Vol. 3: Century, No. 3: 2009」読了


ついに出てきたLOEG最終章。当初の予定からどれだけ出版が遅れたかはタイトルを見れば明らかですな。

2009年において「リーグ」は解散状態にあり、ミナ・ハーカーは前作の終わりからずっと精神病院に入れられ、アラン・クオーターメインは再びヤク中になってホームレスに身を落とし、オーランドーは中東の戦地において生ける殺戮機械と化していた。そして彼らが阻止するはずだったアンチクライストはすでに誕生してしまっていた。これについてプロスペローから叱責されたオーランドーは40年ぶりにミナを見つけ出し、2人はアンドリュー・ノートンの助言を受けて北の魔法学校に向かうのだが…というような展開。

毎度のことながら当時の文化に関するリファレンスがてんこ盛りの内容になっているわけだが、ほぼ現在が舞台になっているだけに従来の話よりも分かりやすいネタが多かったような?「ハリー・ポッター」やジェームズ・ボンドなどといった明確な元ネタなどに加え、マルコム・タッカーやドクター・フーの面々といったブリティッシュな人たちのほか、意外とアメリカンなネタも盛り込まれていた。まさかアラン・ムーアのストーリーにおいて「バーン・ノーティス」や「30ロック」などが言及されるとは思ってもいなかったよ。また「リーグ」にしては珍しく、実在の人物(ジョニー・デップやアミン大統領)への言及がチラホラあったような。

また今までの話に比べてムーアのメッセージが強く打ち出されており、それは「現代における文化は貧相なものになってしまった」ということ。人々はビクトリア王朝時代のように貧しくなり、当時よりも希望がなく、そこから生み出される文化は弱々しいものばかりであり、それが「リーグ」の世界や魔法の世界の荒廃として反映されているのだという。そしてアンチクライストを倒して生き残るのは現代人ではなく、少なくとも60年代以前から活躍していた女性たちであり、彼を倒しても万事よしになるわけではないことがラストで示唆されている。

このムーアの厭世的なメッセージが少し鼻につくところもあるし、ネモ船長の子孫がほとんど話に絡まなかったり、肝心のアンチクライストが意外と弱い(世界に破滅をもたらす規模では火星人たちの比にもならない)といった不満もあるものの、これによって「リーグ」の長い歴史がついに最終章を迎えたことを考えると感慨深いものがありますな。とはいえこれで「リーグ」の話が終わったわけではなく、「Nemo: Heart Of Ice」などといった外伝が早くも年末に出るらしいので(ホントかよ)、今後さらに「リーグ」の世界が掘り下げられていくことに期待しましょう。

「The Random Adventures of Brandon Generator」鑑賞


マイクロソフトがエドガー・ライトと組んで立ち上げたウェブ上のプロジェクト。公式サイトはこちら。当然ながら「IE9で観るのがいちばんいいよ!」なんて書かれてるんだが、うちのマックのsafariでも普通に観られました。

2週間ごとに1話がアップされていく全4話のウェブシリーズで、第1話の脚本がエドガー・ライト、アートがアメコミ・アーティストのトミー・リー・エドワーズ…って久しぶりに名前を見た気がするな。他にも音楽がデビッド・ホルムズでナレーションが「マイティ・ブーシュ」のジュリアン・バラットとスタッフがやけに豪華だったりする。

内容はいわゆるモーションコミックで、主人公のブランドンはライターズ・ブロックに苦しむ作家で、優れた作品を書いてみたいと思うものの何も思いつくことができず、「ヒューゴ」みたいな狭い部屋に住んでコーヒーをガブ飲みしながら空白のPC画面を見つめる日々を過ごしていた。そんなある日彼はPCの前で居眠りをしてしまうが、目覚めるとPCには文章が書かれ、ノートにはイラストが描かれ、音声メモには録音が残されていた。これらについて全く記憶がないブランドンだったが、果たしてこれはすべて彼の手によるものなのか、そして彼が書いた文章とは一体どんなものなのか…というようなプロット。

このあとはどうも読者参加型の形式になるらしく、読者(視聴者?)はサイトを通じて文章やイラストを投稿でき、そこから選ばれたものが次の話に組み込まれる形になるらしい。ファンとしては最初から最後までライトに話を書いて欲しいところなんですが…。個人的にはこういう読者参加型の仕組みって一貫性を欠いたものになりがちであまり好きではないのですが、今回のはどんな結果になるんだろうね。でもまあうまくいけばあなたの作品が世界に認められてライトたちと友達になれるチャンスかもしれないので、腕に自信のある人は何か投稿しているのもいいんじゃないでしょうか。

「JUSTICE LEAGUE: DOOM」鑑賞


DCコミックスのアニメーション・ムービー最新作。

90年代後半にマーク・ウェイドがストーリーを担当したJLAのコミック「TOWER OF BABEL」をベースにしたもので、ジャスティス・リーグの宿敵ヴァンダル・サヴェジがベインやチータ、メタロにスター・サファイアといったヴィランたちを招集し、リーグを壊滅させるためのプランを彼らに与えて実行させる。そしてそのプランは功を奏し、弱点を突かれたリーグのメンバーたちは次々と倒されていく。果たしてジャスティス・リーグはこの危機を脱することができるのか?そして彼らの弱点が網羅されたプランを作成したのは誰なのか?というようなストーリー。

まあ思わせぶりなジャケットの絵を見ると、そのプランを作ったのは誰だかすぐ分かっちゃうんですけどね。原作では敵役となるのがラーズ・アル・グールだったけど、彼は他のヴィランとツルまないタイプなのでヴァンダル・サヴェジに変更されたのかな。原始時代から生きていても未だ世界征服を遂げてないサヴェジって実はかなりのヘタレではないかと思うのですが、まあいいや。彼が招集したヴィランたちのグループが悪のリーグことリージョン・オブ・ドゥームであるわけで、作品の題名もそこから来ている。

いっぽう我らがジャスティス・リーグはリブート後のコミックを反映してサイボーグが加入している一方で、リブート版では在籍してないマーシャン・マンハンターがいるなど、ちょっと変則的な編成。とはいえ声優はベテランのティム・デリーやケヴィン・コンロイが起用されてるので往年のファンも安心して観られるのでは。

脚本はこないだ他界してしまったドウェイン・マクダフィの遺作になるらしいが、弱冠間延びしていた原作を90分以下の尺に収めたためか7割くらいが格闘シーンになってしまったのはちょっと芸がないかな。そもそも「TOWER OF BABEL」ってそんなに面白い話だったっけ?JLAのライターがグラント・モリソンからマーク・ウェイドに交代した直後の作品で、モリソンのファンである俺としては何となく失望した印象が残ってるのだけど。といはいえスーパーマンとグリーン・ランタンが宇宙空間で共闘している姿などはオタク心をくすぐるし、オリジナルの結末も結構良かったよ。

このあとのDCのアニメーションはどんなのがくるんだっけ?一説によると「WONDER WOMAN」の販売不振を受けてスーパーマンかバットマンの出てこない作品は作らなくなったらしいんだが、前に製作のウワサがあったニュー・ティーン・タイタンズの傑作「JUDAS CONTRACT」はアニメ化して欲しいなあと願うばかりです。