「SOME MOTHER’S SON」鑑賞

長年探していた「SOME MOTHER’S SON」をついに観た。「ホテル・ルワンダ」のテリー・ジョージの初監督作品で、脚本はジョージとジム・シェリダン。この映画を理解するには1981年に起きたボビー・サンズたちによるハンストの物語を知っていることが不可欠なので、先にまずその簡単な解説をしよう:

当時は北アイルランドにおいてIRAの反英活動が激化しており、イギリス政府はIRAのメンバーたちへの取り締まりを強化していた。武器の不法所持によって逮捕されたボビー・サンズをはじめとするIRAの囚人たちは、自分たちはその政治思想によって逮捕された政治犯であり、一般の犯罪者とは区別して扱われるべきだと主張し、囚人服を着ないことや刑務所内で労働を強制されないことなどの権利を要求する。囚人服の着用を拒否して毛布にくるまった彼らは、部屋の壁に人糞を塗りたくるなどの抗議運動に出るが、強硬な立場をとるサッチャー政権は一切譲歩をしようとしなかった。そこでサンズたちはハンストという命がけの手段に訴えることとなる。

最初にハンストを決行したサンズが衰弱していくなか、北アイルランドの国会議員が心臓発作で急死したことで議席に空きができることになった。これに対してサンズは獄中より立候補を行い、刑務所外の支持者たちによる選挙活動が功を奏して(IRAの裏工作も結構あったらしい)、僅差でサンズは当選し、ハンストを続けながらも国会議員になるのだった。

これによってサンズの立場は大きく変わり、彼の抗議活動は世界中から注目を浴びることとなる。果たしてサッチャー政権は自国の議員が衰弱して死んでいくことを黙認するのか?それとも彼の要求に譲歩するのか?結局サッチャーは、サンズはあくまでも犯罪者であり、自らの判断で死亡することは彼の勝手であるという立場を貫き、66日のハンストの末にサンズはついに絶命する。そして彼の死のあとも囚人たちによるハンストは続き、最終的には10人の若者が命を落とすこととなった。

やがて囚人たちの家族による要請によってハンストは終わりを迎え、彼らの要求も非公式ながらイギリス政府に認められることとなったのだが、サンズたちによる壮絶な抗議運動の物語はアイルランドの歴史に深く刻まれ、今でも人々のあいだで語り継がれている。

そしてこの「SOME MOTHER’S SON」はサンズたちの抗議運動を背景にした作品で、主人公は北アイルランドに住むシングルマザーのキャスリン。政治活動に関わることは避けてきたキャスリンだが、彼女の息子がIRAに参加して逮捕されたことで彼女の生活は一変する。さらに息子がハンストに加わったことで悲しみにうちひしがれるキャスリン。同じく息子が逮捕された、よりIRA寄りの母親アニーと友人になった彼女は、アニーに影響されて政治活動に身を投じていく。そんなときに彼女が知った1つの事実、それは息子が意識不明の状態に陥ったとき、延命活動を行うかどうかは肉親である彼女が決定権を持つということだった。果たして彼女は息子の命を救うのか、それとも彼の意思を尊重するのか…?というのが主なストーリー。

主人公を演じるヘレン・ミレンの演技が巧いことに加え、IRAとイギリス政府の拮抗の様子が緊張感を持ちつつも変に扇情的にならずに描かれ、非常に見応えのある内容になっている。それに初監督作品ながらも、住民のデモやサンズの葬列といった大がかりな群衆のシーンもきちんと撮れている。「ホテル・ルワンダ」や「父の祈りを」が好きな人にはお薦めの映画じゃないかな。

「ホテル・ルワンダ」が世界的な反響を巻き起こしたにも関わらず、欧米でも未だにDVDが発売されていない不遇の作品だが、日本でも実は劇場公開が予定されていたものの翻訳が行われた段階で公開中止になった、という話を聞いたことがある。ちょうど今やってるカンヌ映画祭にも、同じくボビー・サンズを題材にした「HUNGER」という作品が出品されているようなので、これを機に全世界でのDVD発売を願いたいところです。

「ブレイキング・グラス」再鑑賞

1980年の映画「BREAKING GLASS」を18年ぶりくらいに観る。パンク/ニューウェーブ系のバンドの成功と没落を描いた映画で、当時そうした音楽にハマり始めていた15歳くらいの自分にとっては大きく影響を受けた作品だったのであります。

バンドのボーカル役を演じるのはヘイゼル・オコナー(知ってる?そういう歌手がいるんすよ)で、彼女とともにバンドを築いていくマネージャー役にフィル・ダニエルズ。彼が「さらば青春の光」の直後に出た作品なので、「モッズを辞めたあとのジミー」として見てみるのも面白いかもしれない。あのころの彼は本当に細かった。他にもジョナサン・プライスが出てたり、撮影がスティーブン・ゴールドブラットでサントラのプロデューサーがトニー・ヴィスコンティと、今になって見てみると結構豪華なスタッフが揃っていたりする。おまけにプロデューサーはドディ・アルファイド君だぞ。

パブでの演奏から地道に成り上がってきたバンドが、成功を手にしたことで酔いしれて当初の志を失っていき、レコード会社からの重圧などによって内紛が絶えなくなり、やがて崩壊していくというストーリーが今となってはとっても陳腐なものに思えるし、ヘイゼル・オコナーの演技が大根であるうえに「1984年は人間が機械に支配されてしまうのよ!」みたいな彼女のセリフがやたら青臭く感じられることも否めない。また当時の流行を反映してバンドがパンクからニューウェーブ(ニューロマンティック?)風になるにつれ、外見がどんどんダサくなっていくことも事実である。

しかし俺はこの映画が嫌いになれないんだよなあ。話が女性マンガ的というかメロドラマ的であることは以前に観たときから十分に理解してたが、それでも俺の青春の1ページ的な作品なのですよ。話の展開を意外と細部まで覚えてたということは、やはり最初に観たときの衝撃が大きかったんだろうな。人種差別反対のデモに参加したらネオナチに襲撃されるシーンとか、80年代初頭のイギリスの若者文化をリアルタイムで描いている点はもっと評価されてもいいんじゃないかと。日本でもずっと前にビデオが発売されてたらしいので、DVDが出てくれないかな。

「GREEN PORNO」鑑賞

イザベラ・ロッセリーニが監督・主演した、サンダンス・チャンネル用のショートムービー「Green Porno」をダーッと観る。カマキリ・カタツムリ・クモ・ミミズといった昆虫や小生物の交尾の仕組みをロッセリーニがコスプレしながら詳しく説明してくれる内容なんだが、子供向けにしてはえげつない表現が連発されるし(もっとも虫のセックスなんてみんなえげつないんだが)、ディスカバリー・チャンネルとかの番組に比べると内容がアート的すぎるし、いまいち誰を対象にしてるのか分からんな。いい年したオバハンがコスプレしてセックスごっこしてる姿が好きな人にとっては格好の作品でしょうが。

YouTubeでも全8作品が観れるぞ。ハチのオスの情けなさが涙を誘う。

「何がジェーンに起ったか?」鑑賞

自分でレンタルしといて何ですが、何故こんな気の滅入る映画を朝っぱらから観ることになったのか激しく自問。

ベティ・デイビスとジョーン・クロフォードの鬼気迫るやりとりが2時間以上にわたって続く作品。特に鈴木その子と松島トモ子を足して2で掛けたような形相をして、姉をひたすら虐待するデイビスの演技は本当に凄まじい。「サンセット大通り」のグロリア・スワンソンもそうだったけど、過去の人気女優という役柄が役者の経歴にそのまま合致してるので、異様なリアリティが存在していて怖いんだよな。現在でこういう役を演じられるのはエリザベス・テイラーとライザ・ミネリくらいしかおるまい。

これを観たからには、次は「愛と憎しみの伝説」を観なければいけないのか?

「SOUTHLAND TALES」鑑賞

場外満塁ホームラン的大傑作「ドニー・ダーコ」で衝撃のデビューを飾ったリチャード・ケリーによる待望の第2弾「サウスランド・テイルズ」を観た。

壮絶なる失敗作。

評判通りの出来だった。しかし失敗作だからといって内容がダメダメというわけではなく、話の展開は派手だし映像も美しく、モービーによる音楽も良くて十分に楽しめる内容になっている。ストーリーが根本的に破綻していて、観たあとにものすごく「???」な気分にさせてくれることを除けば、決して悪い作品ではない、ということにしときましょう。

舞台となるのは架空のアメリカ。2005年にテキサスがテロリストによる核攻撃を受けたことにより第三次世界大戦が勃発。中東での戦闘により石油の供給が枯渇し、代理エネルギーの開発が求められるなか、波の動きから無尽蔵のエネルギーを得られるという装置を開発した会社が登場する。またテロリスト対策としてパトリオット・アクトにさらなる権限が与えられ、インターネットを含む多くの活動が監視されようとしていた。政府のそうした行動に反対する新マルクス主義者たちは、南カリフォルニアを拠点にして反政府活動を続けている。そんなとき、国会議員の義理の息子でアクション映画俳優のボクサー・サンタロスが失踪し、記憶喪失の状態で砂漠にいるところを発見される。自分のリアリティー番組を抱えたポルノ女優クリスタ・ナウに保護されるサンタロス。果たして彼の身に何が起きたのか?そしてイラク帰りの警官ローランド・タヴァナーとその双子の兄弟の正体は?さまざまな人物の出来事が交錯するなか、世界は終末に向かって加速していく…。

…というのが主なストーリー。意味分かる?これが最初の30分くらいでダーッと描写されるので話についてくのは結構しんどいかも。そもそも作品が3章に分かれているんだが、いきなり第4章から話は始まっている。最初の1〜3章はコミックとして発売されてるそうだが、登場人物の経歴とかがみんな説明不足になっている感は否めない。ストーリーは明らかにフィリップ・K・ディックの影響を受けていて、ファシズム的な国家と反体制運動の対立を軸に、超常的なものが世界に流れ込んで具現化していく。最後のオチは「ドニー・ダーコ」に通じるところが多分にあったが、「ダーコ」ではあまり宗教色がなかったのに対し、この作品は聖書の黙示録がベースになっていて何度も引用がされるほか、世界の終末における反キリストの台頭と救世主の再来がテーマになっている。

ただしこうした神の介入やタイムトラベル、パラレルワールドなどといった設定は「ドニー・ダーコ」においては一応筋が通ったものになっていてストーリーをものすごく奥の深いものにしていたけど、この「SOUTHLAND TALES」は登場人物とプロットが多すぎて、最も重要な話が何なんだかよく分からないものになってしまっているのが致命的。登場人物がお互いを裏切ってばかりで誰がどういうアジェンダを持ってるのかも理解しづらいし、感情移入できる主人公がいないのも痛いよな。「ダーコ」は観賞後も公式サイトなどでTangent UniverseやManipulated Deadとかの正体について調べたい気になったけど、この作品は意味不明な点が多すぎてもうどうでもいいや、という気になってしまう。

とまあいろいろ書いたけど、やはり悪い作品ではないのですよ。監督の意図するものが思いっきり的を外しているとはいえ意欲の感じられる大作だし、カリフォルニアの風景描写や近未来的なセットのデザインも素晴らしい。あとロック様やサラ・ミシェル・ゲラーやショーン・ウィリアム・スコットといった、お世辞にも一流とはいえない役者たちの演技も何気に巧かったし。「ドニ・ダーコ」は短期間で製作されたオリジナル版よりも、後のディレクターズ・カット版のほうが評判が悪いという珍しい作品だったが、リチャード・ケリーってあまり物事を煮詰めすぎると頭でっかちになって良くなくなる人なのかもしれない。とりあえず次に製作が決まっている「THE BOX」はリチャード・マシスンの原作があるんだから、もうちょっと話の筋が通ったものになるのを期待します。