「ダージリン急行」鑑賞

遅ればせながら。冒頭からビル・マーレイが出てきて、スローモーションの映像にキンクスの音楽がかぶさるところで「ああ、俺はウェス・アンダーソンの映画を観てるんだなあ」という気分になってしまう。

「オニオン」でもネタにされてたけど、この人の作品は良くも悪くもスタイルが確立されてしまいましたね。今回はインドというエキゾチックな土地を舞台にしているけど、オーウェン・ウィルソンや家族間の問題、シュールなコメディ、ブリティッシュ・ロックのサントラなど、今までの作品にあったテーマがそのまま流用されてる感じ。見慣れたものを観て安心するか、新しいことを期待して失望するかで評価が分かれる作品かもしれないな。俺はどちらかというと後者かもしれない。まあ変に大掛かりなセットを組んで失敗した「ライフ・アクアティック」よりかは話がコンパクトにまとまっていて良いけどね。ウィルソンの顔の傷とか父親の形見のトランクなどのメタファーはあまりにもベタで感心できなかったが。

ここまでのアンダーソン作品を、個人的に好きな順に並べるとこんな感じ:
1、天才マックスの世界
2、ロイヤル・テネンバウムズ
3、アンソニーのハッピー・モーテル
4、ダージリン急行
5、ライフ・アクアティック

どうしても初期の作品のほうが新鮮さがあったという意味で上位に来てしまうな。みんなどれも面白い作品なんだけど。

「アイス・ハーヴェスト」鑑賞

それなりに良い評判を聞いていたハロルド・ライミス監督の「アイス・ハーヴェスト 氷の収穫」を観る。確かに面白い、良く出来たフィルム・ノワール。

舞台はカンザス州ウィチタのクリスマス。マフィアとつながりのある弁護士のチャーリー(ジョン・キューザック)は相棒のヴィック(ビリー・ボブ・ソーントン)とともにマフィアの金を横領し、街の外へ高飛びしようとするものの、悪天候のため一人で時間をつぶす羽目に。そんなとき不運にもマフィアの手下が街に来たり、泥酔した友人の面倒を見ているうちに物事は意外な展開に発展していき…といった感じの作品。ブラックな展開のなかにシュールなコメディが多分に含まれていて、コーエン兄弟のサスペンス作品に良く似た雰囲気があるかな。チャーリーとヴィックとマフィアたちによる心理的な駆け引きもスリル十分だし、クリスマスの飾りが輝く街と雨と氷にまみれた郊外の対比も美しい。当然ながらファム・ファタールも出てくるぞ。

主人公のチャーリーも含めて登場する人物はみんな人生に失敗したようなダメ人間で、現状からの脱出を願って大金を手にしようとするわけだが、あまり話は湿ったものになりすぎずにサクサクと進み、89分という短い尺のなかで非常にタイトな展開を見せてくれる。日本だけでなくアメリカでもあまり知られてないような映画だけど、フィルム・ノワール好きの人にはお勧めしたい佳作。

「アメリカン・サイコ」鑑賞


原作読んでないけどさ。クリスチャン・ベールがバットマンとして知られるようになった今になって観てみると、ブルース・ウェインの両親が殺されずに彼がスポイルされて育ったなら、この映画の主人公のような狂ったヤンエグ(死語)になったんじゃないかという裏の見方ができるのもまた楽しい。

猟奇的だの暴力的だの女性蔑視だのいろいろ叩かれた作品だけど、80年代のヤッピー文化の空虚さの風刺としては素晴らしい出来ではないですか。同僚の名刺の出来に敗北感を感じて冷や汗を流したり、ジェネシスやヒューイ・ルイスのCDについて熱く語りながら喜々として惨殺を繰り返す光景は実はひたすら笑えたりする。そのため後半になって主人公の錯乱が進んで冷静さを失い、警察と撃ち合いをして慌てふためく辺りからは彼がただの凡人のようになってしまうのが残念なところか。主人公が最後までイっちゃっていれば「ファイト・クラブ」にも負けない傑作になってたと思うんだが。

ちなみにこの映画で描かれたようなやっピーってまだ存在してるんですかね。最近の株価大暴落などによりその生存数は激減してると思われるんだが。希少動物のごとく誰かがちゃんと保護してあげないといけないのかもしれない。舌が肥えているのでエサ代は高くつきそうだけど。

「スカウト/涙の81球」鑑賞

世間が日本シリーズで盛り上がってるなか、すごい展開があると聞いた野球映画「スカウト/涙の81球」{The Scout}を観てみる。何がすごい展開なのかは後で述べるが、邦題の「81球」というので分かる人は分かるかな。

ニューヨーク・ヤンキーズのスカウトを務めるアル(アルバート・ブルックス)は大学を中退させてまで引き抜いた期待の新人が、緊張のためマウンド上でゲロを吐くという失態をやらかしたため、メキシコの奥地へと左遷させられてしまう。ろくな野球場もない土地をさまようアルだったが、彼はそこでスティーブ・ネブラスカ(ブレンダン・フレイザー)という驚異の少年を発見する。投げる球は160キロの豪速球、打席に立てばすべて場外ホームランという彼の凄まじい才能に驚愕したアルはさっそく彼をスカウトしようとするが、ヤンキースの上司には話を信じてもらえず逆にクビになってしまう。それでもアルはネブラスカ君をアメリカに連れて帰り、全球団のスカウトの前で彼の凄腕を披露することに成功する。この天才少年に度肝を抜かれたヤンキーズは、オーナーのスタインブレナー(本人出演)による札束攻勢で4年間5500万ドルという大型契約を結ぶことに。ネブラスカ君が長髪だというのも全然オッケーらしい。

成功に酔いしれるアル。しかし契約には1つの条件があった。それはネブラスカ君にメンタル面でのチェックを受けさせること。仕方なくアルは彼を精神分析医のところへ連れて行くが、そこでネブラスカ君の天真爛漫な性格の裏には、極度の緊張と恐怖が隠れていることを告げられてしまう。そして慣れないニューヨークの生活のなかで、ネブラスカ君の心はますます不安定になっていくのだった。そんななかついにネブラスカ君の初登板の日がやってきた(ワールドシリーズ初戦!いいのか新人なんかに登板させて)。不安にかられて国歌斉唱の場を離れ、スタジアムの屋根に逃げ登るネブラスカ君。アルは彼のあとを追って屋根に上がり、必死の説得を行う。そして2人の心が通じ、自信を取り戻したネブラスカ君はヘリコプターに乗ってマウンドへ降り立ち、カージナルズを相手にピッチングを始めるのだが、ここからがすごい展開。

彼の速球は次から次へとストライクを重ねていき、迎える打者はすべて三球三振、しかも自分はバックスクリーンホームランをかっ飛ばす活躍ぶり。そしてついに迎えた最終打者はオジー・スミス(これも本人)。そこでもネブラスカ君は170キロ近い豪速球でスミスを三振に打ち取り、なんと27奪三振(よって81球)という前人未聞の記録を立てて勝利を飾り、アルと一緒に歓喜するのでした…めでたしめでたし。

こんなベタな話はマンガでもそうありませんぜ。最初この27奪三振のことを聞いたときは、ストーリー上もっと前のほうの出来事で、それで高慢になった主人公がケガとかスランプで落ちぶれ、そこから見事復活するという映画かと思ったんですよ。それが話のクライマックスにこんな離れ業をもってきたって、相手が手も足も出ないからまるで盛り上がらないじゃん!ファミコンでいえば無敵コマンドを使って最終ボスを倒したような、なんか空しい達成感の残る作品ではあった。あと登場人物の設定がまるでできてなくて、ネブラスカ君の過去とかがろくに説明されないものだから、なぜ彼がメキシコの奥地にいて、なぜ不安を隠しているのかということが全然分からないんだよね。だからアルの説得シーンも心に訴えるようなものが何も無くて、いつの間にかネブラスカ君はホイホイと屋根から降りてくるし。とりあえず映画としてはダメダメの出来。27奪三振というネタだけは凄いけど。

「X線の眼を持つ男」鑑賞

ロジャー・コーマン大先生の監督作の代表作の1つである「X線の眼を持つ男」(1963)を観た。主演はレイ・ミランド。アカデミー賞俳優(後で穫った人たちを除く)とコーマンが組んだ作品ってこれくらいじゃないかな。でも内容はバリバリのB級ムービーですが。

主人公のエグゼビア博士は人間の眼の機能を飛躍的に向上させる薬を開発し、それを自らに試したことで透視能力を身につける。そうなると当然女の子の服が透けて見えたりするのですが、博士はそれに満足せず(なぜだ!)薬の量を増やすことでさらに多くのものが透視できるようになるものの、精神的にその能力をうまくコントロールすることができず、誤って同僚を殺してしまったために追われる身になるのだが…というのが大まかなプロット。

チープな特撮(「スペクトラマ」という名前つき)やカーチェイスに入り混じって、人知を超えた能力に対する哲学的なスピーチがあったりするのがコーマン作品っぽいところではある。でも博士は自分の能力に困惑してるくせに「能力が弱まった」といって薬をすぐ使うし、薬の研究費が欲しいためやたら金にガメつく、しまいにはラスベガスでカードを透視して大勝ちするなど、まあ都合のいい展開が続いてばかりなんだけどね。「不法侵入者」などに比べれば劣るけど、娯楽作品として割り切ればそれなりに楽しめる映画なんじゃないでしょうか。