「Standard Operating Procedure」鑑賞

新年の気の滅入るドキュメンタリー第2弾。エロール・モリスの最新作で、世界を震撼させたアブグレイブ刑務所での捕虜虐待に関する一連の「証拠写真」の裏に隠された真実を明らかにしていくという内容のもの。

人々がカメラを正面から見つめて独白していくというモリス作品ではおなじみのスタイルをとりながら、実際に虐待容疑で有罪になったリンディ・イングランドなどといったアブグレイブでの当事者たちが、どのように虐待が行われ、どのような状況で写真が撮られたのかを淡々と語っていく。作品自体は決して彼らを糾弾するような内容にはなってなくて、写真を加工してマスコミがいかに情報操作を試みたかを説明している部分もあり、むしろ感覚がマヒして虐待を「悪」として見なすことが出来なくなっていった兵士たちの状況に焦点が当てられている。これに加えて何をもって虐待と見なすのかが極めて曖昧であることが語られ、例えば囚人を窮屈な体勢でベッドにくくりつけ、顔にパンツをはかせる行為は尋問をやりやすくするための「標準手順業務」(Standard Operating Procedure)と見なされるんだそうな。あれが許されるんだったら虐待がエスカレートしていったのも無理はないわな。そしてこれらの虐待が世間に公表されたとき、具体的な罰を受けたのは軍の幹部たちではなく末端の兵士たちだけであった。

「死神博士」や「フォッグ・オブ・ウォー」といったモリスの他の作品に比べるとやや観る人をつかむ力が弱いような気もするものの、興味深い作品であることは間違いない。去年アカデミー賞を穫った「Taxi to the Dark Side」のように、イラク戦争を糾弾するドキュメンタリーは今後も増えてくるのかな。あるいはオバマ政権になって、人々はイラクのことを忘れようとしていくのか。

「LAKE OF FIRE」鑑賞

めでたい新年には気の滅入るドキュメンタリー映画を観よう、ということで妊娠中絶を扱った作品「LAKE OF FIRE」を観る。これは「アメリカン・ヒストリーX」を監督したトニー・ケイが18年もの期間をかけて自腹で製作したもので、中絶反対派と賛成派両方のインタビューを中心に中絶問題の奥の深さを浮き彫りにしていくもの。

監督自身は今でも中絶について特に確固とした意見を持っていないことを公言しているんだが、俺は「客観的なドキュメンタリー」というものはありえないと思っているので何かしらのオピニオンが含まれているんだろうと疑いつつ観てみたら、確かに特に偏向のない内容になっていた。これはバランスのとれた作りになっているというよりも、中絶というテーマがあまりにも深すぎて、すべての意見が一理あるように聞こえるためなんだろう。作品中に出てくる「中絶に関してはあらゆる意見が正しい」という発言が印象的である。

俺自身もこの作品を観るまで自分は明確にプロチョイスだと考えていたけど、母親の腹から出てくる胎児の断片などといった非常にショッキングな映像を見せられると、やはり子供の命は可能な限り守るべきだと実感した次第です。でもその一方で、中絶反対を声高に唱える連中の殆どが、子供の育て方も知らないようなキリスト教右翼のファナティックであるのを見るとプロライフという思想も問題があるよなあと思わずにはいられない。胎児を殺すのはダメだけど中絶医たちを殺すのはオッケー、というロジックは俺には理解できないですね。宗教的な縛りの薄い、たとえば日本のような国ではまた異なる意見がいろいろ出てくるんだろうな。

2時間半という尺は長過ぎるものの、いろいろ考えさせられる作品であった。そして中絶を認めるにせよ認めないにせよ、とにかく苦労するのは女性だということを、われわれ男性は性交渉の前にきちんと肝に銘じておくべきでしょう。

「空の大怪獣Q」鑑賞

前から観たかったのよこれ。ニューヨークはマンハッタンの上空に、翼ある蛇ケツアルコアトル(ただし外見はヘビというよりもトカゲ)が現れて人を襲うという作品だけど、「空の大怪獣ラドン」みたいなガチな怪獣映画にはなってなくて、怪獣がその全貌を表すのは最後のクライマックスのときくらい。むしろクライスラー・ビルディングの中に怪獣の巣を発見したさえないゴロツキと、彼から情報を聞き出そうとする刑事たちの姿に焦点をあてた、異色の刑事ドラマになっている。

デビッド・キャラダインをはじめリチャード・ラウンドトゥリーやマイケル・モリアーティといった濃い役者が揃ってるものの、怪獣の姿を小出しにしたことで話の盛り上がりに欠けていて、全体的に間延びした感があるのは否めない。テレ東の昼間にやるのがふさわしい映画といった感じかな。でも最後のビルのてっぺんでの銃撃戦とかは見応えあるけどね。でもあれ下の人たちに銃弾が降り注いで危険だろうに。あと主人公のゴロツキが徹底して軽薄な性格で、共感できない奴になっているのもマイナスだな。

しかし当時の(映画の)警察って逮捕したゴロツキをずいぶん手荒にあつかったり、卵から孵った怪獣のヒナを問答無用で撃ち殺したり、結構乱暴なことやっても許されたんですね。観てて「LIFE ON MARS」を思い出してしまった。

「北極の基地/潜航大作戦」鑑賞

ハワード・ヒューズのお気に入りだった映画として知られる「Ice Station Zebra」こと「北極の基地/潜航大作戦」(1968)を観る。

雪嵐によって孤立した北極の基地ゼブラから送られて来た救難信号。実はゼブラの付近に人工衛星が墜落しており、それにはアメリカとソ連のミサイル基地などを撮影したフィルムが収められていたのだ。フィルムを入手するためにイギリスのエージェントを乗せたアメリカの原潜が北極に向かうが、ソ連もまたフィルムの入手を目指していた。そして原潜には東側のスパイが潜入しており、凍てつく海の中で原潜は沈没の危機に見舞われる…といったような、冷戦まっただなかの時代の軍事サスペンス。

極寒の基地で何が起きたのか?というようなミステリやスパイ探しのスリル、迫り来るソ連軍などそれなりに面白い要素があちこちに見受けられるばかりに、全体的に間延びした感じがするのが悔やまれる。160分という長尺だが、あと30分は短くできたんじゃないかな。隊員がクレバスに落ちるシーンなんてまるで必要ないのに。主演のロック・ハドソンは貧乏人のグレゴリー・ペックといった感じで味気ないが、アーネスト・ボーグナインが相変わらず濃い顔で共演しているほか、「プリズナー」に主演してた頃のパトリック・マクグーハンが、ナンバー6そのままのクールな雰囲気で冷徹なエージェントを演じているのが一番のみどころかな。

ちなみに個人的には極地でのミステリというと「遊星からの物体X」とかクトゥルフ神話の物語とかを連想してしまうので、画面の隅から触手がウニョウニョと出てくるんじゃないかと思いつつ観てたのであります。

「Star war – The Third Gathers: Backstroke Of The West」鑑賞

ついこないだその存在を知ったんだが、2005年に「スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐」が公開されたとき、中国では例によって海賊版のDVDが速攻で流出されたわけだが、流出させた方々はご丁寧にもDVDに中文字幕だけでなく英文字幕も追加させておられたそうな。それがなぜか英語のセリフをそのまま転写したものではなく、中国語から翻訳し直した字幕であったために翻訳過程で誤訳・珍訳が続出し、その凄まじいインパクトが西側諸国で話題になったのがこの「Star war – The Third Gathers: Backstroke Of The West」というわけ。ルーカスフィルム作品の海賊版の映像なんて見つけるの難しいかな、と思っていたらyoutubeに全編がアップされていた。すげえ。当然ながら映像は汚いし、スクイーズもかかってますが。タイムコードが表示されていることから察するに、原盤を流出させたのは業界関係者だよな。映画館での撮影を取り締まる以前に、こういう悪徳業者を捕まえるのが先だと思うけど。

そしてその翻訳だけど、題名からしてスゴいことになってるのは見ての通り。中国題は「星際大戰三部曲:西斯大帝的復仇」だそうなので「西」が「west」と訳されたんだろうというのは想像つくけど、残りの「斯大帝的復仇」がなぜ「背泳ぎ(backstroke)」となったのかはまるで見当もつかない。冒頭のシーンもインパクト大で、あの奥にスクロールする黄色い英文字幕が出ているにもかかわらず、その上に珍訳だらけの英文字幕がかぶさっているという、実にシュールな展開で映画がスタート。もちろん本編もずっとこんな感じで、「R2 go back」というセリフが「R2 come back」なんて誤訳になってるのはまだ可愛いくらい。「the west ages is already on doing not reply」などといった文法的にも破綻した翻訳がほぼ全ての字幕に対して行われ、もはや字幕というよりもダダイストの詩を読んでいるかのような気分になってくる。「像」を「象」と読み間違えたのか「I can’t lose again your elephant」なんて字幕がでてきたり、もうすごいのなんのって。単純に機械翻訳にかけてるのかと思ったけど、中から英への機械翻訳って初歩的な文法ミスも回避できないのか?

あと固有名詞の翻訳も強烈で、アナキン(阿納金)は「allah gold」だし、オビワン(歐比瓦)は「ratio tile」、ジェダイ評議会は「Presbyterian Church」などといった、元の言葉からは想像もつかないような単語のオンパレード。そしていちばん最後にダース・ベイダーが「Nooooooo」と叫ぶ、演出のマズさで悪名高いシーンの字幕はなぜか「do not want」。これって「Nooooooo」=「イヤだ」=「do not want」ということなのかな。この「do not want」はそのインパクトゆえに一種のインターネット・ミームになったそうな。

まあこのときは中国のアホ翻訳が話題になったけど、日本も対岸の火事だとは思ってられないんじゃないですかね。「All your base are belong to us」のようないわゆるengrishは巷でいろいろ目にするし、いわゆるプロの字幕翻訳家だってとんでもないミスをしてる例もありますから。とりあえずこの映画から学べる教訓としては「海賊版を作るときは自国の言語の字幕だけ付けとけ」ということでしょうか。