エターナル・サンシャイン

監督ミシェル・ゴンドリー&脚本チャーリー・カウフマンという、「ヒューマン・ネイチュア」のコンビによる第2弾。何を書いてもネタバレになってしまうような物語構成なので内容についてはあまり詳しく書かないけれども、別れた恋人の記憶を消すために科学療法を受けることに同意した主人公が、消え行く記憶のなかで恋人がいかに大切な存在であったかに気づく、という意外なほどストレートなラブ・ストーリーになっている。

ただ厄介なのは物語の大半が主人公の頭の中で起きていることと、話の進行が時間通りになっていないため、一度観ただけでは話の全容がかなり分かりにくいようになっていることで、もちろんこれがこの作品の特徴なのだけれども、2人の「最初の出会い」が2度起きたりするので、ずいぶん頭がこんがらがってくると思う。

主人公を演じるジム・キャリーは今までのイメージと違う、やつれた雰囲気が出ていてなかなかの好演。でも恋人役のケイト・ウインスレットが個人的にはどうもダメなんだよなあ。演技は上手だと思うけど、恋する女性というよりもえらくタフな女性に見えてしまうのは俺だけだろうか。バカそうで実は…のキルステン・ダンストの役回りが良かった。

カウフマンはその昔、フィリップ・K・ディックの小説「暗闇のスキャナー」の脚本を書いた経験があるそうだけど(現在リチャード・リンクレイターが撮影中なのは別の脚本)、消え行く記憶のなかで自分のアイデンティティを求める主人公の遍歴はディックっぽいと思えなくもない。玄人筋の受けはかなり良い作品(imdbでは歴代33位にランクされてる)だけど、やはり話が難解なので日本でのウケはどのくらいのものか。

スーパーサイズ・ミー感想

マクドナルドのメニューを30日間、朝昼晩食べ続けたらどうなるかという実験に、果敢にも(?)挑戦した主人公のドキュメンタリー。どうしてもその発想の奇抜さだけが注目されてしまうが、いわゆるリアリティー番組のような興味本位の内容でなく、ファーストフードがアメリカおよび世界に与える大きな影響をまっとうに追求した良作になっている。

正直なところ、実験そのものはあまり面白くなかった。確かに必要摂取量の何倍ものカロリーや砂糖をとり続けた主人公の体調はどんどん悪くなっていくのだけど、いくらマクドナルドが体に悪いからって毒を食べてるわけではないから、そんなに極端に悪化したようには見えないのだ。実験の前では完全な健康体だったので血液検査の数値などは実験前に比べて何倍にもなったものの、数値そのものは酒で体を壊した場合と大差ないらしい。それにスーパーサイズのメニューを食べ続けたわけではない(カウンターで勧められたら食べる)ことや、部屋でゴロゴロしてたのではなく取材のためにアメリカ各地を旅していたことなどは、期待していた内容とちょっと違った。

むしろこの作品が優れている点は、さまざまな取材やデータを通じて、ファーストフードがいかにアメリカ人を肥満にし、健康管理や医療システムに深刻な影響を与えているかを的確に突いているところにあるだろう。コスト削減のために学校でジャンクフードを食べさせる給食機関や、体育のクラスを減らす(無くす)ことによって子供たちに運動をさせない教育システムなどを追求しているのは興味深い。別にマクドナルドだけを糾弾しなくてもいいんじゃないかという意見もあるようだけど、数あるファーストフード・チェーンの中でもマクドナルドは遊技場の設置やバースデーパーティーを行うことによって、子供たちを幼い段階から「中毒」にしようとしているという鋭い指摘には納得できるものがあった。冗談のようで硬派なドキュメンタリーですね。低予算なのに視覚効果やアニメーションが凝っていたりもする。

ちなみにDVDの特典には「ファストフードが世界を食いつくす」の著者へのインタビューなどがあり、これらもまた非常に啓蒙的で面白い。あと簡単な実験が1つ紹介されているのだが、これもまた衝撃的だった。マクドナルドの各種バーガーとフレンチフライ、そして手作りの店のバーガーとフライをガラスのビンに入れて放置し、腐り具合を調べるという単純な実験だけど、その結果は…? 答: マックのフレンチフライは10週間たっても腐らない。

END OF THE CENTURY エンド・オブ・ザ・センチュリー

唯一無二のバンド、ラモーンズのドキュメンタリー。構成自体はかなり典型的で、関係者のコメントを交えながらバンドの結成から解散までを淡々と紹介していく形式になっている。しかしラモーンズという伝説的なバンドの内面深くにまで光を当てていることや、貴重な映像が見られるだけでも一見に値するだろう。しかもラモーンズが影響を与えたミュージシャンへのインタビューが多数あり、彼らが初めてロンドンへ来たときのことを語るジョー・ストラマーのコメントなどはとても貴重だと思う。個人的にはキャプテン・センシブルやジェイン(ウェイン)・カウンティなどが出てきたのが面白かったかな。

初期の映像は白黒ばかりなのだけど、それなりに味のある映像になっているのが不思議。ライブの最中に次に何の曲を演奏するかでケンカしている姿には笑った。80年代になってMTV世代にウケようと作った変なミュージック・クリップとかには幻滅したが。とにかくレコードが期待したほど売れなかったのがずっとネックになっていたらしく、90年代に彼らが影響を与えたバンド(グランジ系とか)の人気が出てきたから、今度はやっと売れるかなと思ったらダメだった、というのが解散の一因になっているのが何とも皮肉である。

意外だったのはバンド末期になっても南米ではスタジアムを満員にできるほどの人気を誇っていたことで、乗り込んだ車がビートルズみたいに無数のファン(女の子とかではなくてストリートチルドレン)に追いかけられている映像も出てきたりする。バンド初期のころイギリスの将来に失望した(NO FUTURE)若者たちに支持されたように、南米の貧しい子供たちにラモーンズは希望を与えているんだ、というコメントが印象的だ。

この他にもジョーイとジョニーの確執とか、ディー・ディーの鬱憤とか、フィル・スペクターの話とかがいろいろ出てくるのだけど、とにかく70年代のNYパンクが好きな人にとっては必見の作品じゃないでしょうか。逆にそこらへんの音楽事情にウトい人にはつまらないだろうけど。あと文句を言わせてもらえば、他の作品(「Blank Generation」や「ルード・ボーイ」とか)から転用したバンドの映像が多かったことか。ちょっとつぎはぎだらけの作品を見ているような気になってしまった。まあ当時の映像記録は少ないから仕方ないんだけどね。ワンツースリーフォー。

スカイキャプテン ワールド・オブ・トゥモロー

アメリカでの評判(と興行成績)がイマイチだったので、あまり期待しないで観にいったらとても良く出来た作品だった。セットデザインとかライティングとかが徹底的に40年代くらいの映画のスタイル(特にフライシャー兄弟の「スーパーマン」のアニメ)にこだわってるので、それで好き嫌いがはっきり別れるところもあるだろうが、個人的にはアール・デコのデザインは好きなのでかなりツボにはまった。

ストーリーは冒険活劇の王道を行くような内容だけど、「Mr.インクレディブル」同様に、変なヒネリを入れたりせずに直球勝負をしているので素直に楽しめるんじゃないだろうか。途中で飽きさせないくらいの展開とアクションは十分あるし、思わずニヤリとさせられる場面が多いのも嬉しい。ゴジラが一瞬出てくるのには笑ったし、アンジェリーナ・ジョリーの役はニック・フューリーのパロディでしょ?ラストの痛快な台詞も最高だった。

文句を挙げるとすれば役者の演技で、ジュード・ロウはやけに低い声で話しているのでセリフが聞きづらかったし、グウィネス・パルトロウに至ってはまるで死んだ魚のよう。「自立した強い女性」をイメージしているのはいいけど、40年代SF映画のヒロインならもっと叫んだり微笑んだりしなきゃ。ちなみにアンジェリーナ・ジョリーは10分くらいしか登場せず(インパクトが強いからいいけど)、ジョヴァンニ・リビシは相変わらず永遠の脇役に徹しています。

興行成績が不振だったのと、プロデューサー夫妻(ジュード・ロウとサディー・フロスト)が離婚したことを考えると続編が作られることはまずなさそうだけど、それこそパルプ小説みたいに続編がどんどん作られたら面白そうなのに。

ちなみに映画に登場する空飛ぶロボットを、宮崎駿のアニメのパクリだと非難する人がアメリカでも日本でもいるみたいだが、もともとあれは前述のスーパーマンに登場したロボットを宮崎駿が転用したものなので、誤解なきよう。