
「ホテル・ルワンダ」を劇場で観た。
1994年に起きたルワンダでの虐殺(被害者数は推定100万人)については大した事実を知らないので偉そうなことは書けないが、虐殺の対象となった人々の不安や、彼らを救おうとする主人公の奮闘が力強く表現された良作である。
ベルギーの統治時代(あるいはそれ以前)から続く積怨により、多数派のフツ族によって「ゴキブリ」と呼ばれながら虐殺されていくツチ族。国連軍は虐殺を目の当たりにしながらも規則に縛られて何一つ行動できず、西洋諸国は早くから無視をきめこむ。そんな中でフツ族の難民を抱え込むことになったホテルのマネージャーである主人公(ドン・チードル)は軍人を買収したり、西洋社会に嘆願をしたりして妻を含むツチ族の人々を守ろうとしていく。実話同士を比べるのは失礼かもしれないが、主人公の行動は「シンドラーのリスト」のオスカー・シンドラーとダブるところが多分にある。また記者を含む外国人が国外退去させられ、現地人が何の助けもないまま取り残されるさまは「キリング・フィールド」によく似ていた。「キリング〜」は変に白人中心の観点がムカついた作品だったが、本作品はあくまでもルワンダの人々が中心に描かれている。ちなみに主人公にずいぶん同情的な国連軍の中佐をニック・ノルティが演じているが、彼だけは架空のキャラクターらしい(カナダ人の将校がモデルだが)。
戦乱時にあっても物資を購入し、軍人を買収できるだけの財力が主人公にあったのは、彼が西洋社会(特にかつての支配階級であるベルギー)の「よき部下」だったからだ、というのは少し皮肉めいている。しかし彼は西洋社会でのコネを利用して、自国の惨状を世界に知らしめようとしていく。フツ族の政府軍の背後にフランスがいるため、ベルギーを通じてフランスに窮状を訴えるところは興味深かった。あくまでも高級ホテルが舞台なので悲惨な状況でも変に優雅な雰囲気があり、あまり虐殺の凄まじさが描かれていない(つまりハリウッド色が強い)という批判もあるかもしれないが、そこらへんは虐殺を扱った他の作品(「Sometime In April」など)に期待しよう。
アカデミー賞では軽視された感のある作品だが、「ミリオンダラー・ベイビー」よりずっと面白かったと思う。
原作の大ファンなので「コンスタンティン」を観に行く。駄作であることを確認するために行ったのだけど、やはり期待は裏切られなかった。マチネー公演で4.25ドルという破格の値段で観れたのがせめてもの救いか。 ニール・ヤングがコンサートをやるというんで見に行ったらポール・ヤングが出てきた、というような感じの映画。キアヌ・リーブス演じる主人公ジョン・コンスタンティンは、俺が愛する原作コミック「HELLBLAZER」の主人公ジョン・コンスタンティンとは似ても似つかぬキャラクターなので、今後は区別のためにキアヌ版を「コンスタンティソ」と呼ぶことにする。
超低予算の作品ながらサンダンスなどで話題になったドキュメンタリー。ガス・ヴァン・サントとジョン・キャメロン・ミッチェルがエグゼクティブ・プロデューサーなので、この監督2人の作品が好きな人なら、かなりツボにはまるかもしれない。 監督そして物語の主人公はニューヨーク在住の役者ジョナサン・カウエット。彼の母親レネーは幼いときにモデルとして活躍するほどの美貌をもちながら、とある事故がきっかけで両親の要望によりショック療法を繰り返し施され、そのおかげで精神が不安定になったまま大人へと成長する。親元を離れた彼女は結婚をするがすぐに離婚、その後にジョナサンをもうけるものの彼女の精神はさらに悪化。ジョナサンは施設に預けられるがそこで虐待を経験することとなる。それに加えて母親の友人にもらったドラッグにより精神に異常をきたした彼は、ゲイのコミュニティーと映画製作と役者稼業に心の平穏を見いだしてニューヨークへ移り、自分の存在さえ知らなかった父親に対面したり、母親と親密になる機会を持ったりするが、やがて母親がリチウムの過剰摂取で倒れたことを知り、故郷のテキサスへと向かう…というのが大まかなストーリー。虐待・心の病・疎外感などに溢れた哀しい物語が、過去の8ミリ映像や写真の絶妙なコラージュとともに美しく語られていく(流れる音楽も最高)。
ウェスタン時代から現在に至るまで、クリント・イーストウッドってものすごく映画業界に貢献した稀有の人で、現在受けている賞賛でも足りないくらいの偉大な存在だと個人的には思っているのだけど、この作品はかなりハズレだった。一見するとボクシング映画のようで、実はボクシングというものはストーリーの刺身のツマでしかないことが上映開始1時間半ほどで分かってくるのだが、それに関する「ひねり」があまりにも突然というか、「何でそうなるの」的にやってくるため、その後の展開にどうしても感情移入ができなくなってしまう。もちろん単なるスポ根映画でないことは事前に承知してたつもりだが、ああいう展開になるとは…。イーストウッドの前作「ミスティック・リバー」は少なくとも観たあとに重ったるい「やるせなさ」が胸に残ったが、この作品には何も残るものが感じられないのだ。