「レミニセンス」鑑賞

日本だと来月公開ですがHBO MAX経由でお先に。監督がリサ・ジョイ、製作がジョナサン・ノーランという「ウエストワールド」の夫婦コンビによるSF作品。以降はネタバレ注意。

舞台は近未来のマイアミ。国境を跨いだ何らかの大規模な戦争があったことが示唆され、その影響により海面が上昇して街の半分がヴェニスのように水に沈み、一部の金持ちだけが乾いた土地に住んで一般市民の反感を買っていた。そんな街でニックは相棒のワッツとともに、特殊な機械を用いて顧客に過去の思い出を追体験させる商売を営んでいた。そんな彼の店にメイという謎めいた女性が現れ、ニックと彼女は恋に落ちるのだが彼女は謎の失踪を遂げ…というあらすじ。

ニックの店にある機械は、顧客がヘッドバンドをつけて水槽に横たわり、ニックの音声ガイドとともに電流を流すことで、顧客が自分の好きな思い出を追体験することができる、という仕組みらしい。この思い出はニックを含めて他の人が外部から見ることができるので、ニックとワッツは警察にも呼ばれて容疑者の記憶探りなども手伝ったりしている。というかなんでそんな重要なテクノロジーを政府が管轄してないで、小汚い店などで運営できているのかはきちんとした説明なし。

技術を通じて現実逃避するというコンセプトは「ウエストワールド」に通じるものがあるし、ノーランつながりで言えばクリストファー・ノーランの「インセプション」に雰囲気はよく似ている。ただし人が現実から逃れて過去の甘美な思い出に浸りたがるというテーマの掘り下げが不十分で、ニックの機械が単なる「過去に何があったのか」の種明かしマシーンになっていたような。2時間以下の尺に近未来のコンセプトとかワッツの物語とかをきっちり入れ込んだ脚本は手堅いが、セリフが微妙に説明口調なのと、1つの手がかりから別の手がかりへと話が進んでいくあたりが、映画というよりも「バイオショック」みたいなPCゲームを見ているような気になってしまったよ。

主演のニック役はヒュー・ジャックマンで、ワッツ役が「ウエストワールド」のタンディ・ニュートン。フェミ・ファタールのメイ役がレベッカ・ファーガソンで、ほかにクリフ・カーチスなんかが出演している。キャストは豪華だしマイアミのセットも凝ってる一方で、アクションシーンが微妙にショボかったりして、これは予算の関係なんだろうか、それとも監督の手腕によるものなんだろうか。

これだけの独創的なコンセプトを打ち出しているので、いろいろもっと深堀りできるところはあっただろうし、そういう意味ではどうしても中途半端な印象を抱いてしまうのだが、手堅く作られたSF作品としては十分に楽しめる映画じゃないでしょうか。

「ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結」鑑賞

『“極”悪党、集結』とか言われてもそんなダサい邦題、誰も使わんがな。本編でも字数の関係からか、チーム名を「決死部隊」とか訳していて何だかなあと思ったり。「ジャスティス・リーグ」を「正義同盟」とは呼ばんでしょ。公開したばかりなので感想をざっと:

  • 「スーサイド・スクワッド」に何を求めるか?といえば、やはりキャラクターが使い捨てでバンバン死ぬなかでどうにかミッションをこなしていく姿でして。そういう点では「貴重な」キャラが多かった前作に比べて、今回はC級・D級のキャラがいろいろ出てきて冒頭からどんどん死んでいくあたり、ジェームズ・ガンのお下劣テイストとあわせて、作品のセールスポイントをうまく捉えていたんじゃないですか。
  • ストーリーが比較的シンプルで大きなヒネリがない一方で、時系列がたまに過去に戻ったりする演出はちょっと気になったものの、ヒーローのモラルとかジレンマを説かずに、ただただカッコいいアクションと映像を映し出すスタイルは嫌いじゃないですよ。
  • 前作はチームの一員がヴィランであったことで、いまいちヴィランとの戦いも煮え切らないところがあったか、今回はヴィラン戦がまんま怪獣映画なので勧善懲悪のスカッとする感じがありますね。いまでこそコミックのほうでもスターロってコミックリリーフみたいになったけど、昔はまっとうなヴィランだったのだぞ。小スターロが一般人の顔にひっつく描写とかが見れて満足。
  • マーゴ・ロビーとかジョエル・キナマンとかも前作より軽快な演技していて良いんじゃないですか。あの何をやってもクドいジャレッド・レトのジョーカーがいなくなった効果は大きいな。初登場のイドリス・エルバことストリンガー・ベルと、ジョン・シナの掛け合いなどもナイス。なぜピースメイカーがスーサイド・スクワッドにいるのかよく分からんが、あのムキムキの筋肉はやはりヒーロー映画向きだな。これだけキャストが多いのにアメリカ人俳優が少ないのもハリウッド映画ならではか。ピーター・カパルディ、スコットランド訛りが全開でしたな。

観たあとに何か心に残るような作品でもないし、微妙にグロいので万人に勧められるものではないけれど、イカしたサントラにあわせてカッコよく決めたヒーローたちが暴れるアクション映画としては十分に面白かったと思う。初週の興行はパッとしなかったようだけど、ピースメイカーのTVシリーズが面白くなることに期待。

「PIG」鑑賞

評論家に絶賛されているニコラス・ケイジの新作。これドンデン返しなどはないものの、話が進むにつれて登場人物の過去がいろいろ明らかになっていく内容になっていて、どこまでストーリーを語って良いのか悩むのですが、とにかく以下はネタバレ注意。

舞台はオレゴン州ポートランド。ロブは山奥の小屋にて世捨て人のように暮らし、ペットのブタとともにトリュフ狩りをして、それを街からやって来るキザな若者のアミールに売って暮らしていた。しかしある晩、ロブは小屋で何者かに襲われ、ブタを盗まれてしまう。そのため彼はアミールの手を借りて街に繰り出し、ブタの居場所を探すためトリュフにまつわる裏社会に飛び込んでいくのだった…というあらすじ。

こうして書くとイヌの代わりにブタが動機になる「ジョン・ウィック」みたいだが、冒頭は確かにあれっぽくて、地下闘技場みたいなところにロブが乗り込んでいって体を張って情報を聞き出そうとする。しかし徐々にロブとアミールの過去が語られていくにつれて話は渋いものになっていき、過去と喪失に向き合う男たちのドラマへと展開していく。ロブの過去の職業が話の大きなポイントなのだが、それはここでは明かさない。しかしロブ、仕事するときは手だけでなくて血まみれの顔も洗えよ。

ご存知のように、ニコラス・ケイジってここ10年くらいは「頭のおかしい暴力おじさん」みたいな役ばかり演じていて、自分が観たうちでも「ウィリーズワンダーランド」「カラー・アウト・オブ・スペース」「マンディ」「マッド・ダディ」などの一連の作品は正直なところ面白いとは思わなかった(評判のよい「グランド・ジョー」は未見)。今回も「ブタを盗まれて復讐に狂うおじさん」のような役を演じるのかな、と思いきやブタはマクガフィンでして、過去を抱えて生きる寡黙な男を好演している。評論家にも「かつてのケイジが戻ってきた!」と称賛されてるようで、個人的にも彼の演技が良いと思ったのは20年前の「アダプテーション」以来かなあ。

そんなロブと分かち合っていくアミール役に「ジュマンジ」のアレックス・ウルフ。「ヘレディタリー」のおかげで彼が車を運転すると同乗者の首がぽーんと飛ぶのではないかとハラハラしてしまうのです。あとはアダム・アーキンが年取ってなかなか渋い外見になって登場していた。

これ監督&脚本のマイケル・サーノスキーってほぼ新人の監督のようだけど、よく長編デビュー作からニコラス・ケイジやアレックス・ウルフみたいな役者を起用できたな(ケイジはプロデューサーも務める)。話の設定もそうだが、アミールとケンカしたロブが自転車を盗んで走り出すあたり、コメディっぽい展開を真面目に撮れるセンスがあるのかもしれない。パトリック・スコラによる撮影も美しいです。

海外で絶賛されているほどのクオリティを感じるかどうかは人それぞれだろうけど、とても良くできた作品ですよ。ニコラス・ケイジの復讐アクションなどは期待しないように。さてこのあとケイジはまた暴力おじさんに戻っていくのか、それともアカデミー賞俳優としての尊厳を取り戻すことができるのか?

「THE PAPER TIGERS」鑑賞

何も知らずに観て、大変面白かったカンフー・コメディ映画。

90年代にカンフーの達人である師父のもとで修行を積んだ3人の少年たち。彼らは「スリー・タイガー」と呼ばれ、武術試合でもストリートファイトでも圧倒的な強さを誇っていた。しかしそれから30年後、彼らはお互いとも師父とも疎遠になり、カンフーもやめてしがない日々を送っていた。仕事の合間に離婚した妻との子供の面倒をみているダニー、建設現場でヒザをやられたヒン、カンフーの代わりにブラジリアン柔術を教えているジム。しかし彼らは師父が亡くなったことを知って久しぶりに顔を合わせることになり、さらに師父の死には不審な点があることを知って、彼らは調査に乗り出すのだが…というあらすじ。

調査にあたっては血の気の多い連中が登場して、カンフー勝負(「比武」というのですね)で決着をつけるのだが、スリー・タイガーたちは体が鈍ってるのでへなちょこ勝負になっている。でも格闘シーンはよく撮れていて本格的だよ。その過程において、彼らが疎遠になった理由や、師父に対する後悔の念などが語られていく。主人公がダメ男という時点で個人的にはポイント高いのですが、30年遅れてやってきた青春ものというかバディものの要素もあって、ドラマとしてもよくできた作品であった。「コブラ会」が好きな人は楽しめると思う。

ダニーを演じるアラン・ウイって俳優を知らなかったのだけど、「Helstrom」に出てた人か。悲しい目をしたタイカ・ワイティティみたいな感じで主役を好演している。あとはヒン役に「ムーラン」のロン・ユアン。「ベスト・キッド2」のユウジ・オクモトがプロデューサーを務めるほかチョイ役で出ています。カンフー映画とはいえスタッフは中国系ばかりではなく、アラン・ウイは中国系とフィリピン系のハーフだし、監督のトラン・クオック・バオはベトナム系。クレジットにもアジア系の名前がズラズラと並んでいて、白人スターに頼らなくてもこういう映画が作れるようになったんだなあと感慨深いものがあった。

最後の展開とかはかなり読めてしまうのだけど、微笑ましい結末もあっていいんじゃないですか。お勧めの作品。

https://www.youtube.com/watch?v=1zM3IpjY3CI

「NO SUDDEN MOVE」鑑賞

またHBO MAXに入ってだな、オリジナル作品をチェックしてるのだよ。これはスティーブン・ソダーバーグの監督作品で、例によってコロナの影響で配信ストレートになったのかな。

舞台は1954年のデトロイト。刑務所から出所したばかりのカーティスは裏社会のつてで見知らぬ男より、ロナルドとチャーリーという男たちと組んである仕事を行うように依頼される。それはある会社の経理士が会社の重要書類を持ち出してくるまで、経理士の家で家族を人質にとっておくというものだった。仕事の内容の割に報酬が良いことを不審に思いつつも引き受けたカーティスだったが、経理士が書類を入手することに失敗したことから状況は一変し、カーティスはロナルドとともに追われる身になるのだった…というあらすじ。

ソダーバーグお得意のハイスト/ケイパーものだが登場人物が多いうえにみんな腹に一物抱えた人物ばかりで、状況が二転三転するのでプロットを追うのが結構しんどい。よって「オーシャンズ」や「ローガン・ラッキー」みたいな軽快なケイパーものではなくて、もっと重厚な作りになっている。カーティスやロナルドは過去にやらかした行いのためにギャングに追われる身であり、その一方で白人のロナルドは黒人のカーティスを蔑視しているところもあり、お互いに信用しきれる仲ではない。これに経理士の家庭事情とかギャング同士の力関係とかも絡んできて、なかなか複雑な話の作品でございました。

出演者は「オーシャンズ」並みに豪華で、カーティス役がドン・チードル、ロナルドがベニチオ・デル・トロ。あとはデビッド・ハーバーにジョン・ハムにレイ・リオッタにエイミー・セイメッツにブレンダン・フレイザーなどなど、豪華で渋い面子が揃ってます。妙齢になって体型が丸くなった人が多いような。あとはノンクレジットでカメオ出演することが多いあの有名俳優がここでもカメオ出演、というか最後のおいしいところを喰ってしまっていて、あの人仕事を選ばねえなあ。

音楽もソダーバーグ作品常連のデビッド・ホームズ。広角レンズ、というか魚眼レンズを使ってるかのような撮影をしていて画面端の人物が歪んでいるのがえらく気になったのだけど、そういうところも含めて好き勝手やってるのがソダーバーグなんでしょうね。「オーシャンズ」シリーズのようなノリを期待していると肩透かしをくらうかもしれないが、良くできた作品ですよ。

https://www.youtube.com/watch?v=7GRDLX3a-IE