「AZOR」鑑賞

アルゼンチン・フランス・スイス合作の映画。いろいろ高い評価を得ているので観てみた。

舞台は1980年、軍事政権下のアルゼンチン。銀行家のイヴァンは、謎の失踪を遂げた同僚の後任として妻とともにブエノスアイレスを訪れ、国の富裕層を相手に金融の話をしていく。人や物資だけでなく競走馬までもが消え失せるこの国において、イヴァンは金持ちたちの欲と闇を目にするのだった…というあらすじ。

いちおうスリラーという立て付けだが派手なアクションがあるわけでもなく、一見きちんと管理されているような社会の裏側で蠢く人々の欲望を主人公が目にしていくという内容。主人公に紹介される運転手の名前がダンテというあたり、地獄めぐりを示唆しているのかしらん。聖職者のオッサンが敬虔なようでいちばん強欲だったりします。

右も左も分からないままブエノスアイレスにやってきたイヴァンは、失踪した同僚の残した手がかりをもとに物事の本質に迫っていくわけだが、同僚が普通の銀行員だったのに対してイヴァンはプライベート・バンカーなのでクセのある顧客の取り扱いに慣れている、という設定だったかな?

スイス出身の監督アンドレアス・フォンタナはこれがデビュー作らしいが、画面のスペースなども効果的に使用してベテランのような映像づくりを行っている。これをきっかけにメジャースタジオなどからも声がかかるんじゃないかな。イヴァン役のファブリツィオ・ロンジョーネって「サンドラの週末」の人か…あれ観てないや。

全体的に物静かすぎて、そこまで高い評価を得るべきものかな?とも思ったけど、雰囲気の醸し出し方などは巧みな作品でした。劇中で使われる英語・スペイン語・フランス語を聞き分けることが出来たのが個人的な収穫。

「Mother/Android」鑑賞

クロエ・グレース・モレッツ主演の米HULUオリジナルムービー…のようだけど来月にはNETFLIXで日本でも観られるみたい。

舞台は近未来、人間そっくりのアンドロイドが開発され、召使いとして人間に奉仕している世界。しかしある日世界中を怪電波が襲い、アンドロイドたちは自我を持って人間たちを襲い始める。その直前にボーイフレンドのサムとの子供を妊娠してしまったジョージアは、臨月の身になりながらもボストンを目指してサムと危険地帯の横断を試みるのだった…というあらすじ。

人間に敵対するアンドロイド、ということでSF的な要素があるかと思いきや意外なくらいに無し。ありがちなサバイバルもので襲ってくるのはゾンビでも怪物でも宇宙人でも差し替え可能、といった内容。いちおうアンドロイドが人間の感情を学んでうんたら、という展開もあるものの大して面白くない。せめて「ターミネーター」ばりのアクションがあれば良かったのだが、悲しいかな予算のなさが顕著で顔に機械をひっつけたくらいの役者が追いかけてくる程度。

主人公が妊婦という設定もあまり活かせてなくて、せっかく安全なキャンプに一度はかくまってもらったのにサムの身勝手な振る舞いで追い出されるし、ジョージアも当然ながら派手なアクションができる訳ではないので微妙に話をダルくしている感がある。でも基地の軍人なんかよりも活躍してアンドロイドの襲撃を防いだりしてるんだよなあ。

タイトルが「母とアンドロイド」なのに、母性と機械という要素の絡みがなかったのが至極残念。監督・脚本のマットソン・トムリンって「ターミネーター」のTVシリーズ版のライターも手がけるらしいが大丈夫かね?クロエ・グレース・モレッツもこれとか「シャドウ・イン・ザ・クラウド」みたいなジャンル映画ばかりに出るのは避けた方が良いのでは、と思ってしまうのです。

「マトリックス レザレクションズ」鑑賞

おれ「マトリックス(無印)」好きなのよ。社会人なりたての時にワーナーの試写で何の前知識もないまま観て、これグラント・モリソンの「THE INVISIBLES」じゃん!と勝手に興奮し、メカニックデザインがジェフ・ダロウで、ストーリーボードがマーベルでコミック描いてたスティーブ・スクロースだったりと、MCUもDCEUもライミ版スパイダーマンも無かった時代にアメコミ映画にいちばん近い映画だったんじゃないかな。続編の展開はちょっとアレでしたが。

それで今回の18年ぶりの新作、いわゆるネタが尽きたあとのリサイクル的な作品かな…と思っていたらかなり楽しめる作品だった。ラナ・ウォシャウスキーに好き勝手やらせたような内容で、リメークでもソフトリブートでもなくガチの続編として作られており、約20年前の役者が若々しかった頃の映像をふんだんに使うことも厭わない。前半は特にメタな出来で、三部作をゲームとしてカジュアルに批評し、ついでにワーナー・ブラザースにも言及する悪ノリっぷり。20年前は仮想現実というと「コンピュータープログラムの世界」というイメージだったが、最近は「フリー・ガイ」もそうだけど「ゲームの世界」にシフトしてきた感がありますね。

マトリックス史上最長の148分という長さで、特に前半は過去の登場人物はどうなったかという説明などにずいぶん時間を割いていて、ちょっと配信向けミニシリーズっぽい雰囲気があったかな。前作から引き続き登場している役者はキアヌ・リーブスとキャリー・アン=モス、そしてジャダ・ピンケット・スミスくらいだが、ハリウッド作品にありがちな「ヒロインは若手女優に交代」という展開がなくて、キャリー・アン=モスがMILFと呼ばれて自分の子供たちと出演しててもしっかりキアヌの相方役を演じてたのは良かった。あとクリスティーナ・リッチが30秒くらい出てたのは何だったのだろう。

敵側のコンピューターが何を目的としているのかきちんと説明されないのはシリーズの伝統で、なんかモヤモヤするところもあるし、今まで以上に人類側はコンピューターに頼ってないか?という感もあったな。とはいえ安直に「AIの脅威」、といった話にせずにきちんとしたSF映画にしていて満足。「DUNE」なんかよりもSF映画として楽しめるのでは?スワームたちとのアクションシーンも見応えがあったし、これでまた新たなトリロジーを作って欲しいなと思わせてくれた快作。

「ラストナイト・イン・ソーホー」鑑賞

エドガー・ライト、次作は60年代のブリティッシュ・ホラーにオマージュを捧げた作品になる、みたいなことをずっと言っていて、まさにその通りの作品を作り上げたという感じ。前作「ベイビー・ドライバー」の元ネタがライトの監督したミント・ロワイヤルのミュージックビデオだとしたら、こっちの元ネタは「グラインドハウス」用に作ったフェイクのトレーラー「DON’T」になるのかな。

いろいろ現代的な味付けがされているとはいえ、かなり率直に「60年代ポップカルチャーにオマージュを捧げたホラー」になってるので、他に何を読み取れば良いのか…。冒頭はファッション業界を舞台にした女性同士のドロドロした物語になるのかな、と思ったら舞台が60年代に移ったことで前半は「パフォーマンス」「狙撃者」っぽいギャングスターもの、後半は「赤い影」のようなサイコサスペンスものになっていた。

役者も60年代に活躍した面々を揃えていて、相変わらず渋いテレンス・スタンプとか、これが遺作となったダイアナ・リグとか。リグは「EXTRAS」とか「ドクター・フー」に出演したときは結構老けちゃったなと思ったけど、今作では重要人物を元気に演じていて、当初は別の役者かと思ったくらいです。一方で若手組は、トーマサイン・マッケンジーって「LEAVE NO TRACE」の人か。アニャ・テイラー=ジョイとふたりで主役を張ってるけど、プロットに押されてキャラクター設定がちょっと一面的だったような?マット・スミスはあの変顔を活かして怪しい男の雰囲気をよく出してますね。

エドガー・ライトの映画といえば音楽も売りで、彼が年末に選ぶ「今年の50曲」はいつも拝聴させてもらってます。今作は当然ながら60年代のポップスが中心で、「Puppet On A String」「(There’s) Always Something There To Remind Me」など劇中の展開にあわせた曲の使い方も巧い。ジョージ・ハリスンの「セット・オン・ユー」の原曲も初めて聞きました。あと今回は鏡の映りなどを効果的に使った撮影が非常に特徴的だな、と思ったら撮影監督はパク・チャヌク作品に多く関わってるチョン・ジョンフンが務めてるのですね。

ちょっとプロットというかギミックを前面に押し出した影響で、ストーリー展開や話のテンポが十分に練られていない印象もあり、前作「ベイビー・ドライバー」ほど楽しめる作品では無かったかな。でも初見では見逃した伏線や小ネタなども盛り込まれていると思うので、機会があれば再見して見たい作品です。

「FOR MADMEN ONLY」鑑賞

個人的に興味深いドキュメンタリーを観たので、忘備録的に感想を書いておく。

インプロビゼーション・コメディ(即興コメディ)の草分けとして知られるコメディアン、デル・クローズの生涯を紹介したもので、俺もこの人については全く知らなかったのだけど、ビル・マーレイやボブ・オデンカーク、ジョン・ファブロー、アダム・マッケイ、ティナ・フェイ、エイミー・ポーラーなどといった現代のアメリカン・コメディを代表する人々の多くは彼の教えを受けて育ったのだそうな。

カンサス出身のクローズは若くして家を出て、セントルイスでマイク・ニコルズやエレイン・メイなどと一緒に即興劇団で演じるようになるが、ニコルズとメイが売れてニューヨークに移ったために、それからシカゴを経由してサンフランシスコに移る。そこの即興劇団「ザ・コミッティー」において長時間に渡る即興コメディを発明し、それを「ハロルド」と名付ける。それからシカゴの有名なセカンド・シティでジョン・ベルーシなどをコーチするものの、彼らは「サタデー・ナイト・ライブ」に引き抜かれてしまう。酒もドラッグもやってた破滅型芸人であるクローズはセカンド・シティの管理人とケンカしてトロントのセカンド・シティに移り、そこでジョン・キャンディやリック・モラニスなどの教師になる。そこでも周囲とケンカして一時期は精神病院に入ってたらしいが、こういうのはどこまで信用していいのか分からんね。そしてシカゴのインプロブオリンピック・シアターでティナ・フェイやエイミー・ポーラーなどにインプロビゼーションを教えていたそうな。

クローズはシアターの教師だけでなく「フェリスはある朝突然に」などといった映画にも役者として出演しているほか、80年代には「スーサイド・スクワッド」の作者として知られるジョン・オストランダーと組んで「WASTELAND」というユーモア・コミックをDCで執筆していたそうな。18号が出されたという「WASTELAND」、寡聞にして全く知らなかったのだけど、デビッド・ロイドやティム・トルーマンなどといったアーティストがクローズの伝記的な物語を描いていたらしい。いままで単行本にまとめられたことはないらしいが、結構興味あるな。

やがてクローズは体にガタが来て1999年に64歳で亡くなってるが、直前にビル・マーレイが前倒しで誕生パーティを開催してあげたらしい。マーレイ、いい人じゃないの。

ドキュメンタリー自体はクローズのアーカイブ映像のほか、オデンカークやオストランダーといった生前の彼を知る人たちのインタビューで構成されている。「WASTELAND」の画像もふんだんに挿入されていて、コミックのコマとオストランダーのインタビューが狂言回しのような役割を果たしているかな。さらにクローズやオストランダー、DCの編集者のマイク・ゴールドたちのやりとりを役者が演じる再現シーンも含まれていて、クローズ役を演じるのはジェームズ・アーバニアク。彼は「アメリカン・スプレンダー」ではロバート・クラムを演じてましたね。

インプロビゼーション・コメディとアメコミという、実にニッチなジャンルを取り扱ったドキュメンタリーなので万人向けではないだろうが、俺みたいなどっちも好きな人には大変面白い作品でございました。クローズが確立した「ハロルド」は3つのシチュエーションが3つのシーンに渡って演じられるうちに互いのシチュエーションが入り混じっていく、という複雑な構成をもったインプロビゼーションらしい。説明を聞いてもよく分からないので、ぜひこの目で実演を観てみたいものです。