「WHIPLASH」鑑賞

Whiplash
センスない邦題は「セッション」。4月公開で、これ何の前知識もないまま観た方が楽しめると思うので、簡単な感想をざっくりと:

・音楽の師弟愛などではなく、あくまでも教師と生徒のガチな戦いに最後まで徹しているところが素晴らしい。教師の一線を越えたスパルタ的な教え方はブラック企業みたいなのですが、主人公がそれに迎合したりせず反撃するところが巧いなあと。

・しかし主人公もけっこう性格に難がある奴だというのがポイント。議論を呼びそうな終り方(意図的にああしたらしい)も含め、安直な感動作にしてないところがいいですね。

・でもタイミングよく起きる事件とか事故がちょっとクサいところもある。話のベースとなった短編映画はインターネット上から削除されてて視聴できないんだけど、どのくらい簡潔にまとめられてたんだろう。

・J.K.シモンズのアカデミー賞受賞は当然ですな。マイルズ・テラーは琴欧州に似ている。

・控え目ながら効果的なカメラワークも賞賛されるべきであろう。監督のダミアン・チェズルは音楽ものというニッチな分野を得意としてるみたいだけど、とりあえず今後の作品にも期待。

「Citizenfour」鑑賞

citizenfour-poster
こないだアカデミー賞を受賞したドキュメンタリーな。いちおうネタバレ注意。

9/11テロや中東のアメリカの戦争に関するドキュメンタリー映画を作り、アメリカ政府の監視の対象にもなったドキュメンタリー監督であるローラ・ポイトラスのもとに、「Citizenfour」を名乗る人物から暗号化されたメールが送られてくる。アメリカ国家安全保障局(NSA)による情報収集に関する重大な秘密を公表したい、というメールの内容に興味を持った彼女は「Citizenfour」と連絡をとり続け、同様のメールを受け取った英ガーディアン紙のグレン・グリーンウォルド(および同紙のユーウェン・マカスキル)とともに香港のホテルで「Citizenfour」と出会うことになるのだが…という展開。

まあポスターにも大きく顔が載ってるしもはや秘密でも何でもないが、この「Citizenfour」こそがNSAの元職員だったエドワード・スノーデンであり、NSAが秘密裏にアメリカ国民および外国の一般市民のあらゆる通信内容や情報を裏で傍受しているという事実が、彼の証言によってポイトラスのカメラの前で明かされていく。

物事はすべてリニアな時系列に沿って展開されていき、謎のメールを受け取ってから、香港でスノーデンに会うまでの展開はまるでスパイ映画のよう(彼が指示する出会い方も映画めいている)。そして彼の証言をもとにグリーンウォルドがニュースをすっぱ抜き、それがまたたく間に世界に広がり、アメリカ政府やマスコミがスノーデンを狙って香港にやってくるものの、うまく国外に逃れた彼は結局のところロシアに落ち着くことになる。映画の終盤(つまりごく最近の時点)では話の内容があまりにもヤバくて口に出せないということでスノーデンとグリーンウォルドが「筆談」を続ける映像が流されるのだが、それが逆に物事の生々しさを伝えている。

そして話のなかで顕著なのが、スノーデンの圧倒的な落ち着き方。自分が公表する内容がどれだけ衝撃的であり、それが自分や自分の身内、およびグリーンウォルドたちの生活にどれだけ影響を与えるかを十分に承知したうえで、冷静に、ときにはユーモアを交えてNSAやアメリカ政府の行いを語っていく。自分はメディアに慣れていないと言いつつも言葉遣いがえらく流暢で、活動家のような血気盛んな意気込みとか、逆に自分の行動に対する不安のようなものが皆無だったのが印象的だったな。彼の話が世界的なニュースになっているのをホテルのテレビで観てもまったく動じないわけだが、アメリカに残してきた彼女のことは心配してたし、終盤にはさすがに疲れたような顔をしてたけど。あとホテルの火災報知器が誤作動してベルが鳴ったときに皆が身構えるのもリアルで面白かったです。

ニュースが公表されたあとにホテルの部屋へマスコミからの電話が相次ぎ、自分の身元が割れたことを悟ったスノーデンはアメリカ政府の手を逃れて国外への脱出を試みるが、香港の人権弁護士が即座にやって来て手助けをし、彼の保護のために国境を超えて弁護士たちがミーティングを行ない、さらにイギリスのエクアドル大使館からウィキリークスのジュリアン・アサンジが手助けをするという、そこらへんの一連の流れがとにかくカッコ良いのよ。これが日本だったら法律を無視して政府に連行され、アメリカに引き渡されてたんじゃないかと考えてしまう。

スノーデンが公表した事実によってアメリカの保安が危険に晒されることになったという意見ももちろんあるようだし、彼を国家への反逆者だと見なしている人も相当いるようだけど、自分たちに黙って政府が何をやっているのか、アメリカ市民だけでなく世界中の人々はやはり知っておいた方が良いと思うけどね。「最近の電話は受話器を外しておいても政府が自由に会話を録音できてしまうんだ」とスノーデンが説明しながらホテルの電話の回線を抜いてる姿を見ると、日頃普通に使ってる携帯電話やパソコンもすごく怖いものに見えてきますね。

なお冒頭からセキュリティ用語や法律用語、PC画面のメッセージが飛び交い、話のすべてを把握していくのが相当難儀であったことは付け加えておく。グリーンウォルドの記者会見のスピーチとかすごい早口だし(ポルトガル語だったけど)。これ日本語の字幕とかつけるの大変そうだな。しかしナイン・インチ・ネイルズの楽曲も効果的に使われ、下手なサスペンス映画よりもずっと面白い作品であった。オリバー・ストーンが例によって映画化を企画しているようだけど(スノーデン役がJ・G・レヴィットだそうな)、たぶんこれを超える出来にはならないんじゃないですかね。

「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」鑑賞

Birdman
アカデミー候補ということで駆け込み的に鑑賞。4月に日本公開なのでネタバレしない程度にざっと感想を(しかしネタバレするようなストーリーが無いのだが)。

・殆ど切れ目なしの長回しによる撮影で、さらにブロードウェイの舞台裏という設定もあり、1つの芝居を観ているような気分になる。

・演劇界や映画界の内輪ネタみたいなのもセリフのあちこちに散りばめてあって、いろいろ高い評価を受けたのも何となく理解できる。ハリウッドの人たちって自分たちに関する映画が好きだからねぇ。

・でも実際に作品として面白くて、マイケル・キートンの身体を張った演技が見事。あとはやはりエドワード・ノートンがずばぬけて巧いなあと。

・エマ・ストーンはどんどんマンガのような顔になっていっている。あのままCGアニメになっても違和感は無いんじゃないだろうか。

・マイケル・キートンってかつてバットマンを演じた(そしてそれ以降は落ち目になった)役者だよ、という前知識は持っておいたほうが良いでしょう。知らない人はいないと思うが。

・ドラムのみを使ったサントラがセリフとうまく絡み合っていて、ビート・ポエトリーかヒップホップのよう。これ吹替版作るの大変そうだな。

・レイモンド・カーヴァーの短編1本で長編舞台って作れるものなのか(時間的に)?

・最後のシーンを予告編に入れるのはどうかと思うの。

アカデミー賞で最低でも撮影賞は獲得するんじゃないかと。あとはどうだろうね?

「ROSEWATER」鑑賞

Rosewater
先日、16年近くにわたる「デイリーショー」の司会の降板を発表して世界中に衝撃を与え、親会社の株を3億5000万ドル下落させたジョン・スチュワートが、昨年「デイリーショー」を休んで監督した作品。

イランで拘束されたジャーナリストのマジアル・バハリに体験に基づいた内容で、イラン出身のカナダ人であるバハリは2009年にイランの大統領選挙を取材するため、身重の妻を家に残してテヘランへと渡航する。そこで彼はアフマディーネジャードを支持する学生や、対抗馬のムーサヴィーを支持して体制の変革を願い若者たちを取材し、さらには当時イランに来ていた「デイリーショー」特派員のジェイソン・ジョーンズの取材を彼が受けることになる。ムーサヴィーが大勝すると予想されていた選挙はアフマディーネジャードの勝利となり、不正選挙が疑われて各地で暴動が起きるなか、実家で寝ていたバハリは警察に叩き起こされ、西側のスパイだという嫌疑をかけられて刑務所に連行され、そこで激しい尋問を与えられることになる…というストーリー。

おれ上記のジェイソン・ジョーンズのイラン訪問はリアルタイムで観てましたが、イランについてクールに説明していたバハリがそのすぐあとに当局に拘束されたと言うニュースは結構驚きだったんだよな。「デイリーショー」でも彼のことを何度か取り上げていたと思う。その後バハリは強制されて国営テレビで自分の「罪」を告白し、118日間の拘束のあとに釈放されて「デイリーショー」に出演したりもしたわけだが、彼の物語に興味をもったジョン・スチュワートが映画化を企画。最初はほかの脚本家や監督を起用する予定だったものの、ハリウッドに任せてると遅々として話が進まないということで自分で脚本・監督を担当することになったらしい。なおバハリ役はメキシコ人のガエル・ガルシア・ベルナルが演じているが、さほど違和感はない…と思う。

撮影は当然イランは無理なのでヨルダンで行なったらしいが、イラン国内の映像もいろいろ使用されていて興味深い。反体制側の若者たちが衛星放送のアンテナを見つからないように設置して、海外のニュース番組から情報を得ているという描写も面白かったな。

なお題名の「ROSEWATER」とはバハリに目隠しをして尋問した人物がローズウォーターの香水をつけていたことに起因するもの。彼とバハリの間には奇妙な友情のようなものが生まれたりするのだが、獄中のバハリの葛藤の描写がどうしても弱いのよな。過去に彼と同様に収監されていた父親や姉の回想シーンとか、国外ではヒラリー・クリントンなどが彼の釈放を求めていたことなどを絡めているものの、出来事を律儀に描きすぎていて、釈放されるまでの流れが逆にあっけなく感じられたりする。例えばベン・アフレックなんかは「アルゴ」でフィクションを盛りまくってちゃっかりアカデミー賞を穫ってたりするわけだが、そういうことをしないところにジョン・スチュワートの人の良さというか、映画作りの経験の浅さが出ているのではないか。

「デイリーショー」を去ったあとにジョン・スチュワートは何をやるのか、という憶測が早くも話題になっているわけですが、この作品は批評的にはまだしも興行的にはかなり残念な結果になったわけで、映画の監督業をまた試みるのは控えておいたほうが良いのではないかと、1ファンとしては考えてしまうのです。

「Nightcrawler」鑑賞

Nightcrawler
硫黄の臭いをまき散らしながらテレポートするXメンの話…などでは当然なく、ロサンゼルスが舞台のサスペンス。

鉄線の泥棒をしていたルイスは、ハイウェイでの交通事故を撮影して映像をニュース局に売りさばくカメラマンを見かけたことから、自分もその仕事を始めようとカメラを購入する。交通案内役として高校を出たばかりのリックを雇って警察無線を傍受し、事故現場に急行するルイス。最初はライバル業者に出し抜かれてばかりだったが、やがて撮影した映像が売れてローカル局のプロデューサーであるニナとコネをもつようになる。警察の警告を無視し、必用とあれば事故現場の証拠の捏造も厭わないルイスの映像はやがて高く売れるようになるが、より刺激的な映像を求める彼の行動はさらにエスカレートしていき…というストーリー。

いわゆる「カメラが捉えた決定的瞬間!」的な映像を求める世間とニュース局を風刺した内容になっていて、映像はショッキングなものが好まれ、特に「郊外の白人家庭を脅かす都市型犯罪」というアングルが良いということが劇中でも語られる。視聴率で苦戦している局にいるニナは脱法すれすれのところでルイスの映像をセンセーショナルに流すのだが、アメリカって国が広いせいかローカル局のニュース番組がかなり人気あるんだよな。

主人公のルイスはモラルが完全に欠如した人物(ほぼサイコパス)で、感情を爆発させる瞬間もあるものの、大抵は瞬きせずに自分の目標を淡々と語るような人物。仲間を脅すことも厭わず、ライバル業者を危機に陥れることも平然とやってのける。良いネタになると判断すれば映像の加工も行なうし、人助けをせず警察にウソをついていく。そんな彼のヤバさを承知しながらも、売れる映像欲しさに彼と手を組むニュース局を描くことで現代社会の批判をしているわけだが、結構突き放した視点で物語が語られていくので、あまり風刺という印象は受けないかも(かといってベタな内容にしてたらもっと凡庸になってたろうが)。

ルイスを演じるジェイク・ギレンホールは役作りのために10キロくらい減量したという徹底ぶりで、見事な怪演を見せつけている。そんな彼と手を組むニナをレネ・ルッソが演じていて、彼女って監督の奥さんなのか。いちおうヒロイン的な役割でもあるのだが、うーむ。あとはライバルのカメラマンにビル・パクストンとか、リック役に『FOUR LIONS』のリズ・アーメッドが出演している。

監督のダン・ギルロイは脚本家出身でこれが初監督作で、全体的にちょっと詰めの甘さが感じられるかな。あと15分くらいは短くても良かったと思う。あと海外のレビューを読んでてなるほどと思ったのが、今や事故現場などにはスマホもった素人がハエのように押しかけ、自らYouTubeなどにアップしてしまう世界なわけで、放送局と(いちおう)プロのカメラマンしか出てこないこの映画はすでに時代遅れになっているのかもしれない。

でもギレンホールの演技は凄かったし、一見の価値はある映画かと。例によって日本での公開が未定なのが残念。