「パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間」鑑賞


原題「Parkland」。こないだの東京国際映画祭でも披露されたの、これ?

ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺が、当時ダラスにいた周囲の人々にもたらした影響を描いた群像劇で、狙撃されたケネディ(そしてその数日後にはリー・ハーヴェイ・オズワルド)が運び込まれたパークランド記念病院のスタッフたちをはじめ、狙撃を阻止できなかったシークレットサービス、『ザプルーダー・フィルム』を撮影したエイブラハム・ザプルーダー、オズワルドの兄や母親、そしてオズワルドを調査していたFBIエージェントたちの動揺が映し出されていく。

ケネディ暗殺を扱っているものの陰謀論などはいっさい紹介しておらず、あくまでもオズワルドが単独でやったこととし、事件の際にグラシーノールに駆けていく人たちも出てこない。それはそれで構わないんだけど、どうも話が淡々と進みすぎるというか、「大統領が暗殺され、みんなが驚いた」という至極当然のことが語られ、中心となるキャラクターが存在しないことからどうも締まりがない感じがしてしまう。ケネディの棺を入れるのに飛行機の座席を取り外したとか、オズワルドの母親もちょっとキ印だったとか、少なくとも自分は知らなかった小ネタもあるんだが、それを知ったところで話が面白くなるわけでもないし。

監督のピーター・ランズマンはこれが初の作品。もともとジャーナリストだったのかな?出演している役者は無駄に豪華で、ポール・ジアマッティ、ビリー・ボブ・ソーントン、マルシア・ゲイ・ハーデン、コリン・ハンクス、ロン・リビングストンなどなど。マーク・デュプラスもちょっと出てるよ。ただやはり1人それぞれの出演時間が短く、これといった演技を見せていないような。

ケネディ家の暗殺に対する周囲の反応といえば個人的に印象的なものが2つあって、1つは「アメリカを斬る」におけるボビー・ケネディの暗殺シーン(暗殺そのものは描かれず、ホテルの厨房になだれ込んでくるスタッフの動揺だけを映している)で、もう1つはベトナム戦争のドキュメンタリーで観た、同じくボビー・ケネディの暗殺をラジオで聞いて驚くユージーン・マッカーシーの選挙スタッフたち(事が大きすぎてすぐに理解できず、ラジオのニュースを聞いたあとに一瞬間ができ、それから皆が一斉に息をのむ)というもの。前者は巧みな演出、後者はそのリアルな驚き方がとても記憶に残っているのだけど、この「パークランド」にはそんなシーンがまるで無いのが残念なところです。

「ソウルガールズ」鑑賞


いちおう実話をもとにしたオーストラリア映画。

舞台は1968年。アボリジニたちはまっとうな市民権を与えられておらず白人に差別されながら暮らし、肌の白い子供たちは勝手に親元から連れ去られ、白人としての教育を受けさせられていた。そんなときでもアボリジニの少女ゲイルとジュリーとシンシアは歌を歌いながら育ち、町の小さな歌謡コンテストに出場する。観客の露骨な偏見により勝つことはできなかった彼女たちだが、司会兼キーボード奏者のデイヴは彼女たちに興味を持つ。そしてベトナム戦争の慰問団としてシンガーの求人広告を見つけた彼女たちは、デイヴに頼み込んでオーディションの機会を作ってもらう。さらに彼女たちは白人の家庭で育てられていたいとこのケイを見つけ出し、4人のソウル・シンガーとして「ザ・サファイアズ」と名乗るようになり、オーディションにも合格してベトナム行きの切符を手にすることになる。しかしそこで彼女たちが目にしたものは…というプロット。

上のようにDVDのジャケットとかではクリス・オダウドが大々的にフィーチャーされてて、確かに有名なキャストは彼だけなんだけど、主役はあくまでもザ・サファイアズの4人の少女たちですよ。このジャケットにはオダウド自身も不快感を示していて、今後のリリースでは修正が加えられるのだとか。

オダウド演じるデイブは架空のキャラクターであり、ベトナムに行ったシンガーも4人のうち2人だけ、しかもバックコーラスとして参加だったということで、事実にかなりの脚色が加えられているみたい。シンガーのモデルとなった女性の息子が脚本を書いていることもあり、かなり身内に甘いような話になっているな。アボリジニへの差別の描写は「裸足の1500マイル」のドライさには遠く及ばないし、ベトナム戦争とかカウンターカルチャーとかの描き方ももっと深くつっこんでも良かったと思うけど、オーストラリアの低予算映画にあまり多くを求めるのは酷かな。

演出が全体的にユルい感じがするものの、差別に立ち向かうテーマを扱っていることもあり観ていて悪い気にはならない作品。そういう意味では「42 〜世界を変えた男〜」に似ているかも。

「ゼロ・グラビティ」鑑賞


試写会でちょっと早めに観ました。ネタバレにならない程度に感想をいくつか:

・というか1つ重要なネタバレをビル・マーが自分の番組でしっかりバラしやがってて、本人は「もう公開から数週間たってるんだからいいだろ!」といった弁明をしていたのだが、公開が数ヶ月遅れる日本という国もあるんだよ!
・ディザスター映画というよりもアトラクション映画のような雰囲気。確かに最初から最後までスリルがあるものの、脚本が一本調子であることは否めない。年末になって今年のベスト映画のリストにもチラホラと見受けられるようになってきたけど、やはり脚本が弱いのが気になるな。
・その一方で無重力の空間の臨場感とかはやはり見事ですよ。破片がチョロチョロ飛んできて、あーなんかヤバいなと思ううちに大惨事が起きる流れなどは手に汗にぎって楽しめる。
・音楽も効果的に使われていてスリルを高めているものの、その反面終始音楽が鳴っていて、宇宙の無音さが強調されていなかったような。音がしない漆黒の宇宙に飲み込まれていく描写は「2001年宇宙の旅」のほうがずっと印象的であった。
・いちおう3Dで観たけど、必須というわけではないかな?でも大画面で観ることをおすすめします。
・ロシアがダメな奴らで中国は役立つ、という図式が最近のハリウッドのゴマスリ感を象徴してますね。
・サンドラ・ブロックの体をはった演技はなかなかすごい。無重力なのに髪型がピタっとしてるのはご愛嬌。
・あと補足のような短編映画があるので、本編を観たあとはこっちも観ましょう。

今年のベストというわけではないものの、映画館で観て損はしない作品ですよ。

「The World’s End」鑑賞


エドガー・ライト&サイモン・ペッグ&ニック・フロストによる「コルネット三部作」の第3弾。「ショーン・オブ・ザ・デッド」や「ホット・ファズ」の直接の続編ではないが、小さな町における不可解な事件と騒動というテーマは一緒。以下はネタバレ注意な。

ゲリー・キングは40歳手前になっても適当に生きているボンクラ。彼は楽しかった学生時代のことが忘れられず、かつて仲間と一緒に試みて失敗した、故郷の町のパブ12軒のハシゴを完徹しようと元同級生4人に声をかける。ゲリーと違って職や家族をもって安定した人生を送っていた4人は彼の誘いに躊躇するものの、その熱意におされて5人で故郷の町に向かうことに。そこで昔話をしながら酒を飲み始めた彼らだが、町の住民の様子が何かおかしいことに気づく。数年ぶりにあった人たちが彼らのことを憶えておらず、皆が彼らを監視しているようなのだ。そして彼らは町に隠された恐るべき秘密を知ることに…というストーリー。

前半4分の1くらいまでは中年男性のノスタルジアがテーマになっていて、そこから突然「光る眼」とか「ステップフォードの妻たち」みたいな展開になっていく。冒頭から遠く離れたところで終わるオチは賛否両論あるかな。基本はインベージョンもののオマージュというかパスティーシュであるわけだが、それが小さな町を襲うモノカルチャーの波のアナロジーにもなっているのが明らか(劇中では「スターバックス化」と呼んでいた)。

また主人公のゲリーはボンクラなようで暗い秘密を抱えていることが示唆され、学生時代が頂点で、それから下り坂の人生を暮らしている男の哀しみが意外にもうまく描かれていた。彼の仲間たちも学生時代のトラウマを抱えてることが語られていくわけだが、彼らみんな俺と同じ世代なのでここらへんは心に結構ビシビシと来ましたよ。彼らの青春時代の象徴としてサントラに使われてる90年代前半のヒット曲なんかね、俺いまでも聴いてますから。まあ自分の場合は学生時代もそんな楽しくなかったけど。

ペッグ&フロストのバディものだった前2作に比べ、今回はペッグ演じるゲリーが圧倒的な主人公で、フロストが演じるキャラはサブにまわっているという感じ。パアディ・コンシダインのキャラと同格といったところか?3部作常連のマーティン・フリーマンも出てるよ。ヒロインとしてロザムンド・パイクがでてるんだけど、「アウトロー」でも「驚いた顔」ばかりしていた彼女はここでも「驚いた顔」ばかりしていて…表情に乏しいのよねこの人。あとは「ホット・ファズ」にボンド俳優のティモシー・ダルトンが出ていたのに続いてピアース・ブロスナンが出ているぞ。

3部作のほかの作品よりも優れているとは必ずしも思わないが、うまーく伏線が貼られた、安定したクオリティで最後まで楽しめる作品。90年代に学生だった人たちは観てみましょう。

「FRANCES HA」鑑賞


ノア・バームバックの新作。前作「Greenberg」(邦題忘れた)はコミュ障中年のしっとりとしたラブストーリーだったが、実はその裏ではリアルなネトラレ劇が進んでいたとのことで、自分の奥さんを出演させておきながらもちゃっかり主演女優とデキていたらしく、ついには「Noah Baumbach」でググると「Noah Baumbach cheated」と検索候補が出てくるようになってしまった。ここらへんグーグル様は容赦ないな。とはいえバームバックと主演女優のグレタ・ガーウィグは交際するようになりまして、これが彼らの組んだ2本目の作品。

フランシス・ハラデイはニューヨークに住む27歳の女性。彼女はプロのダンサーを目指しているもののまだ見習いの立場で、家賃の支払いに苦労している次第。親友のソフィとアパートを共同で借りていたがソフィが別の友人と住むことになり、フランシスはレヴとベンジーという2人の男性のアパートを間借りすることに。それでも貧乏の彼女は年末にカリフォルニアの実家に帰ったり、クレジットカードで借金して衝動的にパリに行ったり、ウェイトレスとして働いたりといろいろ遍歴を続けていく。しかし彼女はダンサーの夢を捨てないのであった…というようなストーリー。

夢を熱心に追いかける女性の物語、というよりも人生設計ができなくてフラフラしてる人の話といった感じかな。フランシスは周囲の空気が読めず、男性にもコミットできずソフィたちに迷惑をかけている始末。これ男性だったら相当イヤな奴の話になってたろうな。彼女は運にも恵まれずダンサーの仕事になかなかありつけずにいたりするのだが、あまり中心となるプロットはなくて、フランシスとソフィの友情を軸にフランシスの生き様が描かれていくような構成になっている。

ダンサーとか彫刻家とかライターといったヒップな人たちがいろいろ出てくる、ニューヨークが舞台のモノクロ映画ということで、なんか学生時代によく観てた70〜80年代ののアングラ映画を思い出してしまったよ。でも貧乏とはいえ高そうなもの食ってるし、いいアパートに住んでるのでなんか全体的に甘っちょろい感じがすることは否めない。恋人同士で映画を作るとこういう出来になってしまうのかなあ。

グレタ・ガーウィグ以外の出演者はみんな知らない人ばかり。ソフィ役のミッキー・サムナーってスティングの娘なのか。ディーン・ウェアハムとブリタ・フィリップスが音楽を担当してるほかチョイ役で出演してたらしいが気づきませんでした。

ガーウィグは体がゴツいけどコケティッシュな魅力があるし、ダンスのシーンも躍動感があって悪くはない映画なんだけど、「AVクラブ」などで絶賛されてるほどではないかな。単におれが女心を理解してないだけかもしれませんが。

ちなみにバームバックの次作はドリームワークスのアニメーションになるの???