「Tucker & Dale vs Evil 」鑑賞


日本でもトレーラーが一部で話題になってたホラーコメディ。というか純然たるコメディ。

ウェストヴァージニアの湖畔へキャンプにやって来た大学生たち。彼らは途中で立ち寄った店でタッカーとデールという2人のヒルビリーに目をつけられて不気味に感じるが、実はタッカーもデールも単なる気のいい田舎者であった。しかしそんなことを知らない大学生の1人が夜中に彼らの姿を見て驚いて昏倒してしまい、タッカーたちが彼女を介護のために自分たちの小屋に連れて行ったことから、残りの大学生たちは彼女が猟奇的な殺人犯に誘拐されたと思い込み、『救出』を試みるものの、勝手に自滅して1人また1人と凄惨な死を遂げていく…という内容。

タッカーを演じるのは「トランスフォーマー3」のアラン・テュディックで、デール役は「REAPER ~デビルバスター~」のデブ君。彼らに介護される女子大生は「30 ROCK」の悩殺美女アシスタントの子が演じてたのか。役柄がまったく違うから気付かなかったぞ。

「悪魔のいけにえ」とか「13日の金曜日」みたいな「田舎で惨殺される大学生」もののコンセプトを裏返した発想は見事だと思うものの、脚本や演出がその発想に追いついていってないところがとても残念。そもそもトレーラーがおいしいところ(=死亡シーン)を殆どバラしてしまっているため、本編を観ていてあまりサプライズがなく、変に話の進行に予定調和がとれたものになってしまっていたよ。トレーラーを無理に長尺にした映画という感じ。

またタッカーとデールも大学生たちもみんなが「いい人」たちであることが冒頭から明らかであるため、大学生が次々と死ぬところもだんだん素直にわらえなくなってくるんだよな。彼らの1人がサイコ野郎になる展開とかは面白かったんだけど、もうちょっとヒネリが欲しかったというか。冒頭の伏線(?)もうまく回収できてなかったし。

アイデアは素晴らしいのにそれをきちんと活かせなかったのが勿体ない作品。トレーラーは面白いんだけどね…。

「マネーボール」鑑賞


とても丁寧な脚本だなあ、というのが第一印象。アスレチックスの苦境が説明される所から始まり、セイバーメトリクスへの出会いと実践の過程に主人公の過去や私生活の描写が絡み合い、選手たちと親密になるのを避けていた主人公がやがて彼らと親しくなっていくという人間的な成長の様子も描かれ、スポーツの見せ場もちゃんと押さえられているというムダのないストーリー展開。ハリウッドのトップレベルの脚本家2人が関わると、こういう教科書のような脚本が出来上がるのかと納得。

でもまあ逆に話がまとまりすぎていて、ちょっと小ぢんまりとした出来になっている感もなくはない。20連勝がかかった試合での雰囲気とかは大変スリリングなものの、スポーツ映画に特有のカタルシスを与えてくれる作品ではなかったような。金持ちチームとの違いも年俸によって表されるため、いまいち戦力の差などもはっきりせず、「小が大を制す」快感は感じられなかったかな。尤もこれをスポーツ映画として観るべきではなく、ビジネス映画としてとらえるべきなのかもしれませんが。

そしてスクリーンを観ながら何を考えていたかというと「ソダーバーグならどう撮っただろう」ということでして、よく知られた話だがこの映画はもともとスティーブン・スダーバーグが監督する予定だったのが、スタジオの意向によって彼は降板させられたんだよな。選手を本人たちが演じ、セイバーメトリクスがアニメで紹介され、ジョナ・ヒルの代わりにディメトリ・マーティンが起用されていたというソダーバーグ版「マネーボール」がどんな出来になったかは知るよしもないが、この完成版よりももっと冒険的な内容になっていたんじゃないかと思う。

「TABLOID」鑑賞


エロール・モリスの新作ドキュメンタリー。ドキュメンタリーなんだけど探偵小説のごとき展開を持った作品なので以下はネタバレ注意。

時は70年代後半。ワイオミングに育ったジョイス・マッキンリーは美人コンテストなどでも優勝していた淑女だったが、モルモン教徒のカーク・アンダーソンと恋に落ちて結婚寸前まで行ったものの、彼女が布教の邪魔になると考えたカークとその仲間は黙ってイギリスへ渡ってしまう。ジョイスはそれにもめげずに金をためて人を雇い、イギリスへ行ってカークの居場所を突き止め、彼をさらって田舎の小屋に連れ込んで三日間にわたる「愛の営み」を行う。そしてロンドンに行ったら誘拐罪で彼女たちは逮捕され、カークをレイプしたという容疑をかけられてしまう。果たして三日間の行為は強制的なものだったのか、それとも合意のもとで行われたことだったのか?この件はイギリスのタブロイド紙の格好のネタとなり、「Manacled Mormon(手枷をはめられたモルモン教徒)」として各紙のあいだで白熱した取材合戦が行われるようになる。世論的は彼女に同情的であり、ジョイスは時の人となるのだが、彼女が過去にいかがわしい仕事に関わっていたことをある新聞が探しあててしまう…というような話。

カルト教団に立ち向かったメンヘラな女性の物語、といえばいいんでしょうか。当時のことを語るインタビューはジョイス本人によるものが7割くらいで、それに昔の仲間やタブロイド紙の記者などのコメントが絡んでくるような形になっている。ジョイスは喜々として自分の冒険を語るものの、その大半が美化されておりウソまがいであることに注意が必要。彼女の話のどこまでが本当なのかを観てる人が考えるようになる、というのはインタビューに定評のあるモリスの映画ならではですかね。ちなみにジョイスは呼ばれてもいないのにこの映画の試写会に出没しては「この映画はウソよ!」なんて言い放ち、しまいにはモリスを訴えたそうな(モリスは以前にもドキュメンタリーの対象に逆ギレされて訴えられている)。

題名から予想していたほどメディア批判などは行っておらず、何にでもとびつくタブロイド紙を揶揄している程度。モリスの近年の作品としては戦争などを扱っていないし、比較的軽めの内容になっているが、おかげでかなりとっつきやすい作品になっているかも。これを観たからといって何かが学べるような作品ではないですが、ジョイスという非常に興味深いインタビュー相手のおかげでなかなか楽しめる映画になっているといえよう。

「RED STATE」鑑賞


ケヴィン・スミスが珍しく真面目に撮ったホラー映画。彼がコメディ以外の作品を撮ったのって初めてじゃないかしらん。ホラーというほど怖くはないし、サスペンス映画というわけでもない中途半端な内容だけどね。以降はネタバレ注意。

アメリカ中部の田舎町に住むジャレッドたち3人の高校生は、近所に住む女性がセックスの相手を募集しているというネット上の広告を見つけ、喜びいさんで彼女の所へと向かう。しかし出されたビールを飲んで気絶してしまった彼らは、半裸になって拘束された格好で目覚めることに。実は彼らはウルトラ保守のキリスト教団体「ファイブ・ポインツ・チャーチ(以下FPC」によって誘拐され、性の乱れを象徴する者として処刑されようとしていたのだ。どうにか処刑を免れようとするジャレッドたち。そしてその騒ぎを町の保安官がたまたま耳にしたことからFPCの所行が明らかになり、教会に機動隊が派遣されるのだが…というようなストーリー。FPCのモデルは明らかにウエストボロ・バプティスト教会で、銃撃戦になる展開はブランチ・ダビディアンの事件をベースにしたものだな。

まず驚くのがその説明的なセリフの多さ。学校の先生がFCPの非道っぷりを語るシーンから始まり、FCPの教祖が彼の信条を延々と語り、政府のエージェントが上司にFCPの捜査状況を説明し、FCPの教会のある建物がどれだけ武装されているかが機動隊に解説され、最後に物事の顛末をエージェントが上司に報告するといったクドい展開が続く。ケヴィン・スミスが演出家というよりも脚本家タイプだってのは十分承知しているのですが、もっとセリフを削っても良かっただろうに。

そしてこのクドさを解消できるような演出が出来ているのかというとそうでもなくて、逃げた少年が追いかけられるシーンとか銃撃戦のシーンとかは、前にもいろんな映画で見てきたような感じの出来。もう10本近く映画を撮っている監督なんだからもうちょっと巧みな演出や撮影を期待してたんだけどね。話の展開がグデグデになるところと銃撃戦が膠着状態になるところが妙にシンクロしてたのはいい雰囲気を出してましたが。

その一方で出ている役者たちのレベルは非常に高く、教祖を演じるマイケル・パークスが真に迫った演技を見せつけてくれるほか、メリッサ・レオやジョン・グッドマン、スティーブン・ルートにケヴィン・ポラックなどといった俺好みの濃い役者たちがいろいろ出てきていい演技を見せつけてくれる。あの説明調のセリフを自然な感じで語るには相当の演技力が必要ではないかと。メリッサ・レオはアカデミー賞を穫っても変に気取った映画に出ず、ホワイトトラッシュのオバサンを演じるところがいいですね。

どこかの新人監督が撮った映画として観れば別に悪くはないんだろうけど、ケヴィン・スミスの映画だという前知識を持って観てしまうと全体的に物足りなさを感じてしまうな。俺は彼の書いたコミック(デアデビルとかグリーン・アロー)が好きなので、コメディだけでなく真面目な映画もきちんと撮れるかと思ってたのですが、これを観る限り必ずしもそうではないようで。ちなみにあと2本映画を撮って監督業は引退すると発言してるらしいけど、本当なのかな。

「ATTACK THE BLOCK」鑑賞


イギリス発のSFホラー/パニック映画。

舞台となるのはサウス・ロンドンの、あまり裕福ではない区域の団地。ガイ・フォークス・ナイトということで花火が舞うなか、奇妙な物体が空から落ちてくる。団地に住むゴロツキで、通行人から金銭を巻き上げたばかりのモーゼス率いる少年ギャングたちはその物体に遭遇し、中にいた獰猛な生物に襲われるものの逆にそれを殺害し、その死体を担いで意気揚々と団地へと引き揚げる。しかしその後さらに凶暴な生物が団地のまわりにつぎつぎと飛来し、モーゼスたちを狙って団地を襲撃するのだった…というストーリー。

マッシヴ・アタックのPVに出てきそうな薄汚い団地を舞台に、次々と現れるクリーチャーたちと闘う少年たちの姿は非常に見応えあり。全体的なノリとしては80年代にVHSで観てたB級インベイジョンもの(「クリッター」とか)にかなり近いんだけど、あれらの作品の多くは主人公が純朴な少年たちだったのに対し、こっちはストリートワイズな不良少年たちが主役だというのがポイント。だから武器もナタとか日本刀を使いこなしてたりもする。話の冒頭から女性をカツアゲして財布を奪ったりしてるし、こういうゴロツキにどこまで感情移入できるかが作品の評価の分かれ目になるかな。サウス・ロンドンのギャングのスラングもバンバン出てくるので、字幕がないと観るのはキツいかも。

あと団地を襲撃するクリーチャーはヌルヌルもヌメヌメもしてないゴリラの着ぐるみのような外観ですが、真っ黒な体に鋭い牙だけが闇の中で光るという演出はなかなか巧いですね。彼らに関する伏線が結構バレバレなのは少し残念でしたが。

これが初作品となる監督のジョー・コーニッシュは実際にギャングにカツアゲされたことでこの映画を考案したんだとか。プロデューサーにはエドガー・ライトも名を連ねていて、ニック・フロストも出演してるぞ。ニック・フロストのエイリアン映画としては「宇宙人ポール」よりもこっちのほうがずっと面白かったんだけど、日本での公開予定はいったいどうなってるんだろうか。