「THE ZERO THEOREM」鑑賞


テリー・ギリアム御大の4〜5年ぶりの新作。イギリスではもうDVD出てますが、日本では秋くらいに公開ということで、ネタバレしないように感想をざっと:

・舞台は明言されないけどおそらく近未来。主人公のコーエン・レスは、とある電話を待ち続けているために在宅勤務を上司に希望。謎めいた会社社長に会ったのちに彼は在宅勤務が認められ、「ゼロは100%」という謎の定理「ゼロ・セオレム」を解明するように命じられる。しかしコンスタントにデータのアップロードが求められるその業務にコーエンは耐えられなくなり、やがてブチ切れることに…というようなプロット。

・「未来世紀ブラジル」を彷彿とさせる近未来のセットのデザインがね、金かかってなさそうなのに独創的で素晴らしいのですよ。ペダルを漕ぐ職場とか、仮想現実スーツのデザインとか。こういうのやらせるとギリアムの右に出る人はいないですね。

・なお「ブラジル」と似ていることろが沢山あって、主人公は妄想(仮想現実)に逃避してるし、彼の上司を演じるデヴィッド・シューリスは話し方とかがまんまマイケル・ペイリン。デブとノッポの「輸送人」コンビは「ブラジル」の修理人コンビみたいで、ついでに言うなら「マインクラフト」みたいな定理解明用のプログラムも「ブラジル」の地下迷宮に似ているな。もちろんダクトチューブも出てくるぞ。

・また自分なりの信念をもって突き進み、身を破滅にさらす主人公というのは80年代〜90年代のギリアム作品に通じてますね。そういう意味では(00年代の迷走期を抜けて)ギリアムが戻ってきた!と喜びたくはなる一方で、過去のスタイルに戻ってしまったのかなという気にもなる。監視カメラやオンラインセックスというネタは非常に現代的で、時代がギリアムに追いついてしまったのかなあとも思う。

・出演者の演技はどれも素晴らしくて、クリストフ・ヴァルツが眉毛も剃ったスキンヘッドになって主人公を熱演。ヒロインはメラニー・ティエリー。あとはマット・デーモンが出てたり、ティルダ・スウィントンがラップを披露してたりします。ベン・ウィショーなんかもちょっと出てるよ。少年プログラマーを演じたルーカス・ヘッジスの演技が特に良かった。

・なお主人公が訳あって自分のことを複数形で呼んでいて(「I」でなく「We」)、そこらへん日本語訳は面倒くさそう。さらに主人公が務める会社の名前が「MANCOM」というのも、日本語字幕にしたらちょっと恥ずかしそうだな。

・話の結末がちょっと弱い気もするが(レディオヘッドねえ…)、ギリアムのファンなら十分楽しめる作品であった。例によって配給会社がなかなか見つからないらしく、カナダでは劇場公開されない憂き目にあっているそうなので、日本で公開されたときは金を払って観に行きましょうや。

「UNDER THE SKIN」鑑賞


日本では「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」の題で10月に公開だそうな。

何もない宇宙から何もないスコットランドにやってきた、スカーレット・ヨハンソン型の宇宙人。彼女は死んだ少女の服を身にまとい、バンを乗り回しながら道を尋ねるふりをして通りの男性たちに声をかけて車内に誘う。彼女とねんごろな関係になれると期待した男たちはいそいそと彼女に従うのですが、彼女の家で服を脱ぎだしたところで暗闇にズブズブと沈んでいき、中身を吸われて哀れ皮だけの存在に…というようなストーリー。

お色気宇宙人に男が餌食になる「スペース・バンパイア」とか「スピーシーズ」を思わせるような設定ですが、中身は全く似てなくて、何の説明もなく断片化された話が続く、コテコテのアートフィルムになっている。70年代のアートなSF映画、特にニコラス・ローグの「地球に落ちてきた男 」に雰囲気は似ているかな。

不安をかきたてるような音楽にのせて描かれる、スコットランドの夜景とか男たちが餌食になるシーンはとても美しくて、批評家たちに絶賛されたのは分かるのですが、じゃあ観てて面白いかというとそうでもなく…。正直なところ結構しんどかったな。

でも寡黙な宇宙人の役に、ビッチな雰囲気のスカヨハはよく似合っている。あとはライダースーツを着た、セブン上司のような宇宙人も出てくるのですが、演技力よりもバイクのスキルが求められたということでプロのレーサーが演じてるそうな。またスカヨハに車で誘われる男性たちはみんな素人で、実際に声をかけられるシーンを隠しカメラで撮影していたのだとか。でも普通だったら「あなた、『アベンジャーズ』に出てませんでした?」とか言われそうなものなんだがなあ。彼らスッポンポンになって頑張ってます。顔に障害がある男性も、メークではなく実際にそういう人がキャスティングされたのだとか。

例によってメディアでは「スカヨハがフルヌードに初挑戦!」なんて煽られてますが、どのくらい裸が拝めるのかはここでは書きません。スカヨハの裸を期待した男たちが哀れな目に遭う映画に対して、スカヨハの裸を期待して映画館にやってきた男たちが哀れな目に遭うというメタな展開が繰り広げられるのではないかと、今から勝手に期待しておきます。

「The Strain」鑑賞


ギレルモ・デル・トロ とチャック・ホーガンの小説(邦題は「沈黙のエクリプス」)が原作の、FXの新シリーズ。これミニシリーズだよね?第1話はデル・トロが監督していた。アメリカでは上のイメージのビルボードが悪趣味だと抗議が殺到して撤去する騒ぎになったらしいが、まあ仕方ないわな。

ニューヨークのJFK空港に着陸したドイツからのジャンボ機。しかし機内からは何の反応もなく、周囲に警戒態勢が敷かれる。機内に入ったCDC(疾病対策センター)のイーフリアムたちが目にしたのは、席に座ったまま外傷もなく死亡している200人以上の乗客の姿だった。紫外線のライトには粘液のようなものが映し出され、機内の貨物室からは謎の巨大な棺桶と、線虫のような生物が発見される。一方ではマンハッタンの大富豪がその棺桶を手に入れる画策を始め、スパニッシュ・ハーレムではホロコーストの生存者である老人が事件のことを知り、再び「その時」がやってきたことを感じていた。そして棺桶を格納した倉庫には巨大な怪物が現われ、乗客の死体を置いた安置所では死体が動き出していた…というプロット。

いちおうヴァンパイアものらしいのだが、もっとモンスターパニック的な内容になっていて、犠牲者の喉を割いて血を吸い取る吸血鬼のような怪物が、線虫を使って仲間を増やしていくという展開になるみたい。ナチス・ドイツのときにもこの怪物が現われたらしく、ここらへんの設定は「ヘルボーイ」っぽいですな。

CDCの職員であるイーフリアムが何でも調査しすぎだろとか、大富豪の手配が用意周到すぎるだろといったパニック映画のクリーシェが少なくはないのですが、何かヤバそうな荷物がマンハッタンに運び出される展開はスリルがあってなかなか面白かったぞ。

出演者はあまり良く知らない人たちばかりで、ちょっとした脇役をショーン・アスティンが演じてるみたい。あとナレーションをランス・ヘンリクセンが担当していた。

当然ながらグロい描写も出てくるので、万人向けの作品ではないですが、次も観たいなと思わせるような作品。似たような内容の「Helix」よりも良い出来かと。

「ザ・レイド GOKUDO」鑑賞


邦題どうにかならなかったのか。普通に「ザ・レイド2」で良かっただろうに。11月に日本公開ということで感想を簡潔に述べます:

・すんばらしい出来。前作はアクションシーンのカメラワークが見事だったが、今回はドラマのシーンのカメラの動きも冴え、登場人物の心境などを如実に表している。演出は前作に比べて格段にあがってるのではないか。

・前作は前半が銃撃戦がメインで、爆破シーンとかでCGを使ってるのが明らかだったが、今回は全体的に銃の使用は控え目で格闘シーンが満載。敵も律儀に素手で襲いかかってきます。最初の30分はアクションが控え目だけど、あとからどんどん勢いがついてくるぞ。

・右往左往するカメラワークはどれも凄いんだけど、「走ってくる車を外から撮る → そのまま車内にカメラが入る → 車の反対側の窓から出て、その横から走ってくる車を撮る」というシーンをワンショットで撮ってるのが信じられなくて何度も観てしまった。あれ車のシートのなかにカメラマンが隠れていて、車内でカメラを手渡ししてるらしい!

・物語は前作のラストから2時間後、主人公の兄が殺されるシーンから始まる。よって兄貴の顔と、前作で誰が生き残ったのかを復習しておくとよろし。

・イコ・ウワイスと並んでギャレス・エヴァンス作品の常連であるヤヤン・ルヒアンがまた出演してるのだが、彼のキャラクターって前作で死んでるので、「あんなやられ方をした奴が復活したのか!」と驚愕したが、今回はどうも違うキャラクターらしい。ここちょっと紛らわしいね。

・建物の中が舞台だった前作と異なり、今回はジャカルタ市街が舞台で、主人公の偽名が「ユダ」で、シラットの小鎌を使ったアクションが出てくるあたりは前々作の「タイガーキッド」に似てるなと思ったんだけど、そもそも今回の脚本って「ザ・レイド」よりも前に書かれていたのか。

・ジャカルタって雪が降るのか?あと牢屋のメシがうまそう。

・主人公が潜入捜査をするジャカルタのギャング、そのライバルである日本のヤクザ、両者を対立させようとする第三勢力による三つどもえ(警察が入ると四つどもえ)の展開が繰り広げられるのだけど、説明的なセリフは徹底的に省かれてるので話が分かりにくいかも。あまり言いたくないがジャカルタの人たちってみんな顔が一緒に見えて…。

・寡黙な主人公に代わって、ギャングのボスの息子を演じるアリフィン・プトラが裏の主人公のような存在になっていて、ボンクラなようで野心と忠誠心のあいだで揺れ動く若者を見事に演じている。

・日本のヤクザさんたちはあまり登場シーンないよ。遠藤憲一の演技は良かった。

・インドネシア語なぞ当然分からないので英文字幕で観ていたが、ギャングが日本語を話すところと、松田龍平が英語を話すシーンはわざとらしくて興醒めする。アリフィン・プトラが完璧な英語を話してるだけに、松田龍平の拙さが目立ってしまうんだよな。

・トンカチガールと野球少年という「男塾」ばりのキャラクターを出しておきながら、笑いを狙ったシーンも皆無で、2時間半の尺の最初から最後までテンションを張りつめさせているところが凄い。格闘技映画の常として、あとから考えると整合性のつかないシーンもあったりするんだけど、いいんだよそんなのは!

・第3作目の製作も決まっているらしいが、その前にギャレス・エヴァンスは非アクション映画を1本撮るつもりらしい。今作で見せつけた演技力とカメラワークがあれば、普通のドラマでも立派なものが撮れるはずなので大いに期待。

「THE BATTERED BASTARDS OF BASEBALL」鑑賞


今年のサンダンスで話題になったドキュメンタリーで、アメリカではネットフリックス配信になったもの。カート・ラッセルの親父であるビング・ラッセルがポートランドで立ち上げた、独立系のマイナーリーグ球団「ポートランド・マーヴェリクス」の歴史が語られる。

ニューヨーク・ヤンキーズのキャンプ場の近くで育ったビングは、ジョー・ディマジオやルー・ゲーリッグといった選手たちに可愛がられた少年であった。それからハリウッドに移って役者になり、「ボナンザ」の保安官役を長年演じたりしたものの、野球に対する愛情は消えず、番組が終ったあと1973年にポートランドで野球チームを立ち上げることを決心する。当時はすでにメジャー球団によるアフィリエイト化が進んでおり、独立系の球団は彼らのファームチームになっていったものの、ビングはそれに逆らって、トリプルAクラスのビーバーズが去っていったポートランドに、当時唯一の独立系チームとしてマーヴェリクスを立ち上げ、シングルAのチームとして北西リーグに参戦する。

野球をしたい者はやってこい、というトライアウトの広告を業界紙に出したところ、40〜50人くらい来るかと思っていたところに300人近くの応募者が殺到。その多くはメジャー球団に拾われなかったものの、野球をプレーする情熱が捨てられずに、全米各地からやってきた男たちであった。皆がむさくるしい長髪と口ヒゲをたくわえ、性格や才能にクセのある者ばかりだったが、彼らに野球をする場を与えたかったビングは彼らを積極的に起用。貧乏球団ながら30人の選手枠を用意し、30代のピッチャーや左利きのキャッチャー(!)といった、メジャーなら見向きもしない選手たちに活躍の場が与えられる。

ビングのモットーはただ1つ「楽しめ(FUN)」であり、監督もサインを与えずに選手の好きなようにプレーさせる放任主義。そんな彼らだったが初戦をいきなりノーヒットノーランで飾り、順調に勝利を重ねていく。その頃の相手には無名時代のマイク・ソーシアなどもいたとか。そのアットホームな雰囲気にポートランドのファンは魅了され、チームのトレードマークとなったホウキ(連勝を意味するsweepからとったもの)を手にして球場を訪れ、チームはマイナーリーグの動員記録を塗り替えることになる。舞台裏でも女性初のジェネラル・マネージャーが起用されたり、弱冠22歳のジョン・ヨシワラがアジア人として初のGMに任命され、ビングは全ての人々に門戸を開いていた。

さらに1975年には暴露本を出版したことでメジャーリーグから干されていた、元ニューヨーク・ヤンキーズのジム・バウトンが加入。1977年には圧倒的な勝率をもってプレーオフに臨むものの、アフィリエイトの面子をかけて上位クラスから「降格」してきた相手チームの前に惜敗。翌年の1978年にはトリプルAのチームが再びポートランドに戻ってくることを希望し、いわゆる立ち退き料として通常の5倍の金額をビングは提示される。しかしマーヴェリクスの価値はそれ以上あると考えたビングはさらにその10倍近い金額を要求し、話は法廷に持ち込まれるのだが…というストーリー。

やはり話の要となるのは2003年に他界したビング・ラッセルであり、役者ならではのカラフルなコメントやエピソードが、当時の映像や関係者のコメントなどで紹介されていく。マーヴェリクスの選手としても活躍したカート・ラッセルに加えて、球団のボールボーイであったトッド・フィールド(「リトル・チルドレン」の監督ね)などが当時の思い出を語っていく。なおドキュメンタリーの監督はビングの孫(カートの甥)の2人。

またマーヴェリクスの選手たちは球団が閉じたあとも波瀾万丈の人生を送っていて、FBIの情報屋になったと噂されたあとに失踪したり、ピュリツァー賞候補の作家になったり、バブルガムを開発して大金持ちになったり。千葉ロッテマリーンズに所属したマット・フランコもビングの孫であり、マーヴェリクスのボールボーイであった。またカートは試合中に受けた死球がもとで左目を失明し、ニューヨークから1997年に脱出することになるのだが、それについては多くを語るまい。

貧乏球団が金持ち球団を相手に勝利を重ねるさまは「マネーボール」に似てなくもないが、あっちはあくまでも選手の育成・スカウトに重きを置いていたのに対し、こちらではメジャーで通用する選手の育成しか考えていないマイナーリーグのあり方について、特にトッド・フィールドが厳しい批判を与えている。それに対してマーヴェリクスは選手たちに自由にプレーさせ、地元のファンたちを大切にしたわけであり、それがメジャー球団にとっては目障りであったのだとか。しかしマーヴェリクスに感化されて、今では60以上の独立系の球団がアメリカにあるのだという。

知られざる球団の歴史を描いた非常に楽しめるドキュメンタリーであったが、トッド・フィールドによる映画化の話も企画されているらしいので、ポートランド・マーヴェリクスについての話を聞くのはこれが最後ではないかもしれない。