「Something from Nothing: The Art of Rap」鑑賞


最近はラッパーというよりも俳優という印象の強かったアイス・Tによる、ヒップホップ文化およびラップの歴史や影響などについて語られるドキュメンタリー。

特に筋道の通った構成があるわけではなく、アイス・Tと交流があるさまざまなラッパーたちがそれぞれのヒップホップ論を語っていくわけだが、ニューヨークのオールド・スクール一派に始まりデトロイトを経由してロサンゼルスに至るまでに出てくる面子が非常に豪華で、チャック・Dやエミネム、コモン、カニエ・ウェスト、メリー・メルなどといったラップ界の新旧スターが勢揃いといったところ。一方でビースティ・ボーイズやRZA、LLクールJ、南部のアウトキャストなどといった面々は登場していない。しかしみんなガタイがいいのう。出てくる人たちのBボーイ系のファッションにも注目。

ラッパーの常としてみんな言うことがデカいので歴史的考証などは結構いいかげんそうなのだが、各人のリリックに対する考えなどは聞いていて興味深いものがあったよ。個人的にはビーツの作り方とかDJのやり方といった技術的なことも聞きたかったな。また多くの人がフリースタイルを披露してるのだが(エミネムはカンペ読んでるけど)、あれ言葉が多すぎて日本語字幕とかつけるの無理だよなあ。

ラップの完全な初心者向けのドキュメンタリーではないが、俺みたいにそんなに詳しくない者でも楽しめる作品になっておりました。

「BATES MOTEL」鑑賞


鳴り物入りで始まったA&Eの新シリーズ。

ヒッチコックの傑作「サイコ」のプリクエル(前日譚)という設定のもので、父親が変死したあと田舎町に引っ越してきたノーマン・ベイツと母親のノーマのサイコな日々を描くものになるらしい。「サイコ」のプリクエルって「サイコ4」でやってたはずだが、こちらはいわゆるリ・イマジネーション的なものになっており、舞台は現代(だよね?)に移されている。

個人的にはプリクエルってどうも好きではなくて、「ゴッドファーザー パートII」のデニーロのシーンも余分だと考えてるくらいなのですが、観客はそのキャラクターもしくはストーリーの結末(結果)を既に知っているうえ、観客の想像にまかせておけばいいところをベタベタと説明してしまう行為は不要だと思うのですね。「スター・ウォーズ」だってどんなにCGを駆使してクローン戦争を描こうとファンの空想には敵わないわけで。

そしてこの作品もノーマンとノーマの関係とかモーテルの歴史を説き明かしていくわけですが、第1話を観た限りではノーマンは内気だけど心の優しい少年で、ノーマは過保護だけど頑張るシングルマザーといったところ。その後2人にさっそく不幸が降り掛かってくるわけですが、「サイコ」から連想される陰湿な親子関係などはなく、2人で仲良く死体を処分するような、微笑ましい母と息子になっております。

観ていて気になったのが時代描写がチグハグなところで、モーテルのデザインや家具などは50年代のスタイルなのに、高校生とかはスマートフォンを使ってダンスパーティーに行ってる次第。オリジナルのスタイルを残しつつ設定を現代にした結果なのだろうが、とても違和感を感じたよ。またネクラなノーマンは転校してくるなり女の子に囲まれてモテモテだし、それを妬んだジョックたちにイジメられて「こ・の・う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か」的な展開になるかと思ったら男子にもそこそこ人気だし、その一方でノーマはモーテルの元所有者に押し入られて暴行されるなど、話の展開がどうも突拍子がなくて感情移入ができなかったよ。「これって夢の中の展開だよね?」と何度思ったことか。

ノーマンを演じるフレディ・ハイモアは故アンソニー・パーキンスの雰囲気をよく醸し出しているし、ノーマ役のヴェラ・ファーミガも体を張って母親役を熱演している(空回りしてるが)ほか、ゴッサム市長ことネスター・カーボネルが出てたりとキャストも有名どころが揃ってるのに、脚本がそれに見合ってないのが惜しい。古い家を舞台にしたホラーなら、まだ「アメリカン・ホラー・ストーリー」のほうが第1話はつかみがあったような(あちらもそんなに面白くはないですが)。本国のレビューでは「第3話から面白くなる」というものが多いようだけど、「サイコ」の名に恥じない作品になってくれるのかねえ。

「ジャンゴ 繋がれざる者」鑑賞


タランティーノってその趣味に走りまくる姿勢が、例えばジョー・ダンテなどと違ってどうも肌に合わないところがあったのだが、これはとても楽しめる作品であったよ。もちろん冒頭のクレジットからして趣味に走ってるわけだが、西部劇(というか南部劇)の枠組みのなかにうまくストーリーが収まっているというか。少なくとも「イングロリアス」みたいに途中でミュージックビデオみたいになってどうしよう、という展開はなかったし。

とはいえかつての「主人」たちに復讐する話かと思いきやその目的はすぐに果たされ、やっとディカプリオが出てきて話の流れが変わる展開は、「キル・ビル」以降の蘊蓄がやたら語られるスタイルに通じていてあまり好きではないのだが、こちらはアクション満載の描写とスピーディーな話の流れもあって2時間超の長尺も殆ど気にはならなかった。

いちばん良かったのがやはりキャスティングで、主役のジェイミー・フォックスはまあ普通としても、対するレオナルド・ディカプリオがイヤミな悪役を怪演していて素晴らしい。彼っていつもは主役ばかり演じているので肩に力が入りすぎている気がするのだが、実はこういう脇役を演じた方がもっと幅の広い演技ができるのではないか。彼の演技が巧いと思ったのは、同じく西部劇の「クイック・アンド・サ・デッド」以来だな。アカデミー賞とったクリストフ・ヴァルツも「イングロリアス」に続いて安定した演技力を見せつけてくれるものの、やはり善人よりも悪人を演じた前作の方が強烈な印象を残していたことは否めない。そういう意味では抜け目ない執事を演じたサミュエル・L・ジャクソンが見事でしたね。あとはブルース・ダーンとかラス・タンブリンといったいかにも監督好みの人たちがキャスティングされてるのだけど、クレジット見るまで気づかなかったよ。

今まであまりメジャー作品では扱われなかった奴隷制度にスポットライトをあてたことについて監督がいろいろ語ってるらしいが、その一方で時代考証とかは結構いいかげんだし(ダイナマイトの発明は1860年代だ!)、主人公の銃弾は相手の体を貫通してるのに悪役のものは死体で防げてしまう描写など、まああくまでも純粋な娯楽大作として割り切って観るべき作品でしょうね。

「TOP OF THE LAKE」鑑賞


ジェーン・カンピオンが脚本と監督を務めたミニシリーズ。いちおう放送局はBBCらしいがニュージーランドの番組という感じ。

舞台となるのはニュージーランドのパラダイスという田舎町。そこにある大きな湖に12歳の少女が服を着たまま浸かっているのが発見され、彼女は警察に保護される。そして検査の結果彼女が妊娠5ヶ月目であることが判明し、性的虐待を疑われて、ちょうど近くに住む母親を訪れていた女刑事のロビン・グリフィンが担当につけられる。しかし少女は誰が赤ん坊の父親であるかについては口を閉ざし、さらに少女の父親は地元で顔の利いたゴロツキであった。そしてその頃、湖に面した土地が購入され、男性に虐待された過去を持つ女性たちによるコミューンが作られるのだが、そのことをゴロツキの親父は快く思わず…というようなプロット。

これもまた「THE KILLING」もしくはこないだの「Broadchurch」に通じる田舎町の暗いミステリーといった内容で、イギリス人はこういうの好きなんだろうね。ただし今回のは殺人事件で話が始まるわけではなく(偶発的なものが1つ起きるが)、ミステリーよりも人間関係のドラマを強調したものになっている。ちなみに「湖の水は冷たい」と言われつつも屋外でタンクトップ着た人がいたりコート着た人がいたりと、季節感がいまいちよく分からなかったな。

主人公のロビンを演じるのは「マッドメン」のエリザベス・モス。アゴの立派なサイエントロジストという印象くらいしか持ってなかったけど、この作品ではメランコリックな役をうまく演じている。そして地元のゴロツキ親父を演じるのがピーター・マランで、それに対する女性コミューンのリーダーを演じるのがホリー・ハンターと、世界の果てで撮影した番組にしてはキャストは豪華な方かな。

出てくる女性は主人公も含めてみんな男性に虐げられたトラウマを抱えていて、一方で男たちは粗野なゴロツキ・不誠実な警官・サエない不動産屋など、といったかなり白黒ついた設定になっているのはカンピオンの思想を明確に表しているのでしょう。それはそれで悪くないけど、話が淡々としているためにミステリーであっても次の話への引っかけが無い、というのはシリーズとしてはどうなんでしょう。

「ホーリー・モーターズ」鑑賞

昨年海外では絶賛されていたフランス映画。監督のレオス・カラックスって名前は知ってたけど作品を観るのはこれが初です。なんかよく分かんないんだけどとてもすごい映画であったよ。

ある晩に目覚めた男(カラックス本人)が自室の壁にあった隠し通路を発見。そこを抜けると大衆がサイレント映画を観ている劇場だった…というオープニングは本編とまったく関係なくて、本編の主人公となるのはオスカー氏という男性。大邸宅に住み子供たちにも恵まれた彼は、巨大な白いリムジンに乗って仕事へと向かう。そんな彼の仕事とは、与えられたファイルをもとに、変装をしてさまざまな「業務」をこなすことだった。まず老婆に変装して橋の上で物乞いをしたオスカーは、それからゲーム用のモーションスーツを着込んで撮影用のスタジオでハードなアクションをこなし、同じくスーツを着込んだ女優とセックスの模擬をする。このようにしてオスカーは9つの業務を1日のなかでこなしていく…というストーリー。

ストーリーは本当にこれだけでして、オスカーに仕事を与えるエージェンシーがあることや、同じような仕事をしている人たちが他にもいることが示唆されるんだけど、オスカーの動機とか仕事の目的などは一切説明されず、彼が変装して暴れまくる怒濤の展開が繰り広げられていく。

リムジンに乗った1日の出来事というコンセプトはクローネンバーグの「コズモポリス」、他人の演技をする人たちというのはギリシャ映画の「アルプス」に通じるところがなくもないが、実際の映画はその2つに似ても似つかない実に奇妙なものになっていて、観る者を圧倒させていく。さらに映画の中盤ではご丁寧にもインターバルが儲けられていて、アコーディオンを抱えた集団が一曲奏でてくれるぞ。

登場人物はそんなに多くない、というかオスカーを演じるドニ・ラヴァンが変装して何役もこなし、完全に話を喰ってしまっている。いちばん体を張っているのは3番目の「メルド氏」に変装するところで、カラックスが以前撮った短編にも出てきた役らしいが、地下道を通り抜けて墓場に登場し、献花などをムシャムシャ食べながら(ここで何故か「ゴジラのテーマ」が流れる)、撮影をしていたエヴァ・メンデス演じるスーパーモデルを誘拐し、自分はすっぽんぽんになって彼女の膝枕で眠りだす仕舞。なに言ってるか分からないかもしれないが、本当にそんな展開なんだってば。でもハチャメチャなようで、全体を通じて何ともいえないペーソスがあるのが不思議なところでもある。

あとは彼と同じような仕事をし、彼とは古いつきあいがあるらしい女性をカイリー・ミノーグが出てきて、ニール・ハノンによる曲を歌ってくれたりします。そしてリムジンのドライバーを演じるエディット・スコブって女優、「顔のない眼」の娘さんだった人なのか!

さらに特筆すべきはその映像の美しさ。フランスのアートシネマってチープな撮影しかしてないかと思いきや、夜のパリの車道とか、閉鎖されたデパートとかの光景がとても見事で、カメラワークも凝ってるのですよ。モーションキャプチャーのシーンなんか3Dで観たいと思ったくらい。

この映画が何を伝えようとしてるのかは、俺のような凡人の理解を遥かに超えていることだし、たぶん答えは出されないだろうから深く考えたりはしない。だから観たあとで何が心に残るのかというと戸惑ってしまうのだが、とにかく観てるあいだは圧倒される作品。あなたが今年観る映画のなかで最も独創性にあふれた作品の1つになることは確実でしょう。