カーマイン・インファンティーノ死去


アメコミのシルバーエイジを代表するアーティストのひとり、カーマイン・インファンティーノが亡くなってしまった。87歳。

ティーンのときからコミックを描き始め、40年代から活躍していた彼は1956年に「ショーケース」誌で2代目ザ・フラッシュを描き、スーパーヒーロー・コミックの新たな時代であるシルバーエイジの幕を開けた人であるほか、初代フラッシュと2代目フラッシュがパラレルワールドで共演する「アース2」のコンセプトが登場したコミックを手がけたりと、その後のDCコミックスの設定に大きな影響を与えたアーティストであったわけですよ。

さらに60年代から70年代にかけてはDCの編集長を務め、ジャック・カービーやディック・ジョルダーノといった大物アーティストをDCに引っ張ってきたほか、デニス・オニールにニール・アダムスといった新人ライターやアーティストを育てるなど、経営面でも腕をふるった人であった(すべてが成功したとは言い難いが)。

そのあとはマーヴェルで「スター・ウォーズ」や「スパイダー・ウーマン」のアートを手がけたりもしたが、俺自身がインファンティーノの作品に初めて触れたのは80年代初頭の「ザ・フラッシュ」誌であった。その頃の彼のアートは完熟期に達しており、ものすごい数の効果線を使ってフラッシュの超人的なスピードを表すスタイルは唯一無二のものであったと思う。

さらにシルバーエイジのザ・フラッシュといえば主人公が科捜研の人ということもあり、科学的かつ奇抜なストーリーで有名だが、俺が読んでいた作品もフラッシュがシェイドの暗黒光線とレインボー・レイダーの七色光線を同時に浴びて苦しんだり、カーネル・コンピュートロンによってコンピューターのなかに取り込まれて手足がもげたりと、とにかく奇想天外な展開のコミックばかりで、英語が分からない小学生にとってもそのアートは大変衝撃的であり、正直なところ「怖い」くらいの内容であった。事故死した悪役ザ・トップの霊にフラッシュの父親が操られ、夜中に不気味に笑う父親の姿などはいまだにトラウマとなっています。

個人的に彼の作品のなかでいちばん好きなのは、「シークレット・オリジン」誌のアニュアルで88年に描かれた、ザ・フラッシュのオリジン話かな。アンチモニターの兵器を破壊するためにタキオンを追って走るうちに過去の光景を走り抜け、やがて最初にフラッシュを産み出した一筋の稲妻になってしまう話は実に感動的であります。

晩年はキャラクターの権利を求めてDCに無茶な訴訟を起こしたりしたが、それについては多くを語るまい。また1人、アメコミの歴史を走り続けた人が亡くなってしまうのは残念なことです。

「リンカーン」鑑賞


スピルバーグの映画を観るのはかなり久しぶりだったりする。リンカーンは黒人を解放した一方でインディアンたちは虐殺してた、なんてことを事前にウィキペディアで読んでしまったためについヒネくれた見方をしてしまったが、まあそれはそれで。

南北戦争の勝利を目前にしつつも、勝ってしまえば自分が戦争に対して唱えた奴隷解放宣言が破棄されてしまうことを危惧し、奴隷の所有を禁じた憲法修正第13条を議会で可決させようと努力するリンカーンの姿を描いた作品だが、登場するリンカーンは決して威風堂々としているわけではなく、その長駆を弱々しく曲げ、ひしゃげた声でしゃべる小話好きな老人として表されている。

そして第13条を可決するためには野党の民主党の票が必要であることを悟った彼は、小汚いロビイストたちを雇い、レームダックとなって次の選挙の心配をする必要のない民主党の議員たちを1人ずつ狙っていく。ロビイストたちのやり方は非合法スレスレであり、リンカーン自身も議会で虚偽の証言まがいのことを行ってしまうわけだが、決してリンカーンの行為はダーティなものとしては描かれず、正しい目的のためには多少の汚い手段を用いるのもやむを得ない、とういう趣旨がそこには含まれている。文章で書くとひどく偏向してそうだが、映像では演出の巧みさによって、そうは感じさせない内容になっていた。これを同性愛者の結婚の可決を目指すオバマに対するスピルバーグなりのメッセージとして見なす人もいるようだけど、実際はどうなんだろうね。

とはいえ南北戦争について初歩的な知識しか持ってないので、前半はなかなか話の流れがつかめず、ヒゲ面の登場人物も誰が誰だかよく分からないし、フランシス・ プレストン・ブレアって誰よ、という感じであった。しかし後半になって票集めに焦点があてられるうちに話が面白くなっていき、評決のシーンは結果が分かっていても見事なカタルシスを感じさせる出来になっていたよ。そこらへんで話を終わらせず、残りの時間で暗殺までを淡々と描いていくクドさも相変わらずのスピルバーグですね。ただ個人的にはやはりヤヌス・カミンスキーの色調を抑えたシネマトグラフィーって好きじゃないんだよな。

役者陣はやはりダニエル・デイ・ルイスが圧巻。他のキャストは「あ、あの役者が演じてるな」と分かるのに対し、デイ・ルイスはリンカーン本人にしか見えない。そんな彼を支える(もしくは振り回される)周囲の人々も他の映画なら主役をはれる一流どころが揃っていて、トミー・リー・ジョーンズも圧倒的な存在感を放っているし、JGLやデビッド・ストラザーンなども巧い。個人的には上記のロビイストたちを演じるジェームズ・スペイダーにティム・ブレイク・ネルソンとジョン・ホークスという実に濃い3人組が好きでした。「ジャンゴ」のウォルトン・ゴギンズもいい役で出てるよ。あと日本ではあまり知られていないがデヴィッド・コスタビルがかなり目立つ役を演じていて、この人は「ザ・ワイヤー」や「ブレイキング・バッド」などでも印象的な役を演じているので今後のブレイクに期待。

日本の観客に通じるものがある内容かというと微妙ではあるのだが、巨匠が丹念に作った佳作ということで観て損はないかと。

「The Private Eye #1」 読了


「SAGA」やスティーブン・キングの「アンダー・ザ・ドーム」のテレビ化などで忙しいはずのブライアン・K・ヴォーンがいつの間にか作っていた電子コミック。アーティストは以前にヴォーンと組んで「ドクター・ストレンジ」などを描いていたマルコス・マーティン。公式サイト(http://panelsyndicate.com)でDRMフリーで販売されており、価格は任意。いちおう99セントというのが作家側の希望価格らしい。

舞台となるのは近未来のアメリカ。時期は明言されないが建国300周年を祝ってるようなので2070年代かな。かつて人々は自分たちの個人的なデータをすべてクラウドサーバーに入れて保管していたが、何らかの理由によってそのデータすべてが万人が閲覧できるものになってしまい、個人情報などがすべて暴かれてしまう。そして人々は新たなプライバシー保護の手段として、仮面をかぶったり変装をしたりするのであった。主人公のパトリック(仮名)はそんな社会において人々の素顔を撮影する私立探偵兼パパラッチであったが、ある謎の女性から彼女自身の素性を探って欲しいとの依頼を受ける。この風変わりな依頼を半ば強制的に受け取らされるパトリックだたが、その女性は後に謎の男によって殺害されてしまう…というのが1話のプロット。

グランブレタン帝国の貴族よろしく皆が仮面をかぶっている社会の姿はなかなか未来的。他の電子コミックにあるような、キャラクターが動いたりコマの1部分だけが変化するなどといった仕掛けはなく、あくまでも従来のコミックの形式をとっている。ただしPCでの閲覧を考慮したのかページのレイアウトが横長になっており、ワイドスクリーンの映画を観ているような感じになる。今後のコミックはこの形式が主流になっていくんだろうか。あとMTVとかLAタイムズなどの企業ロゴが背景にいろいろ描かれているんだけど、あれってプロダクト・プレースメント?それとも「ブレードランナー」の強力わかもとみたいなエキゾチックさを狙ってるんだろうか。

まだ1話しかでていないので今後どう話が展開していくのか分かりませんが、それなりに期待できそうなので当分は買い続けてみます。実は0円購入もできるので、興味を持った方は一読をお勧めします。アメコミ作家によるコミックサイトといえば、古くはスコット・マクラウドがマイクロペイメントによるコミック閲覧を試みていたし、最近ではマーク・ウェイドが無料サイト「Thrillbent」を立ち上げたほか、キックスターターによる出資募集も盛んなようで、この出版社を通さないスタイルはどこまでポピュラーになっていくのだろう。

「IN THE FLESH」鑑賞


BBCによる全3話のゾンビドラマ。

舞台となるのは死人が行き返り、ゾンビと化して生者を襲うというパニックが起きたあとの世界。そのパニックは鎮圧され、ゾンビになった人のうち薬物療法で改善の余地が見られた人は「部分的死亡症候群(Partially Deceased Syndrome)」であると認定され、もといた社会へと戻るためのリハビリを受けていた。主人公の少年キエランもその1人で、ゾンビであったときに人を襲った罪悪感に苛まれているものの、十分にリハビリが済んだと見なされてヨークシャーの田舎町に住む両親のもとへ帰される。息子との再会を喜ぶ両親だったが、その田舎町にはまだ反ゾンビ感情が根強く残っており、ゾンビと戦った義勇軍の残党が幅を利かせていた。そしてキエランの身にも危険が迫ることになり…という設定。

テレビでも映画でもこれだけゾンビものが流行ってくると、このようなポストモダン(?)な設定の作品も出てくるわけで、最近ではゾンビの少年が少女に恋をする「Warm Bodies」なんて映画もありましたね。設定からするとコメディっぽい内容かと思ってたけど、どんよりと曇った空の下で繰り広げられる陰気なドラマでありました。こういうのはアメリカ人は作らないよね。

第1話ではあまり明らかにされないが、どうもキエランはゲイであるらしく、「ゾンビ差別=ゲイ差別」というかなり分かりやすいアナロジーが展開されるらしい。ゾンビ嫌いの義勇軍のリーダーの息子が実はゾンビになっているというツイストも、ゲイを扱った作品ではよく見られるような。「Xメン:ファイナル・ディシジョン」でも同様な展開がありましたね。

あとはゾンビたちによる新興宗教のようなものが存在することが示唆されるのですが、今後の展開にどう絡んでくるかは不明。しかしテレビドラマとかに出てくる宗教のサイトって、なぜ開いたとたんに大音量とともにチープなフラッシュアニメが流れるのだろう。普通だったら一発でスパムサイト認定されるよな。

ゾンビ退治のアクションがあるわけでもなく、内容が暗くて日本人受けはしない作品かもしれないが、それなりに興味深い設定の番組なので残りの話もこんど観てみます。

このトレーラーの曲、ダニエル・ジョンストンだ!

「ゼロ・ダーク・サーティ」鑑賞


イラク駐留軍の日々を淡々と追った「ハート・ロッカー」よりも、こちらのほうがビン・ラディン狩りという一貫した目的がストーリーの軸となっているために作品としてはずっと面白いな。日々が過ぎていくことの焦燥感とか、CIAの決意なども「アルゴ」よりうまく描けてたのでは。主人公のバックグラウンドが全く紹介されていないにも関わらず熱意に共感できるようになってるのは巧いなと。

軍のプロパガンダだとか拷問の肯定をしているなどと叩かれているけど、これは単にキャスリン・ビグローの作家性の表れでしょう。サスペンスの最中にしれっとガールトークを入れてくるあたりが女性監督のセンスなのかしらん。そのあとすぐ爆弾テロが起きてたけど。

ただやはり拷問の扱いについてはモヤモヤとした気分が残るのは確かで、非アメリカ人の有色人種としては、拷問される側の身になって観てしまうんだよな。最初は拷問から距離をおいていた主人公が後に慣れてくるところよりも、オバマ政権になって「捕虜に弁護士がつけられたから情報が聞き出せなくなった」というセリフが出てきたところが不気味だったな。拷問にしろ主人公の最後の涙にしろ、タイトル通りの真っ暗な虚無を表しているのだとは思うけど、やはり煮え切らない気分になってしまったよ。

出演者のうちジェシカ・チャステインはやはりケツアゴに目がいってしまうがタフな女性を熱演。あとはジェイソン・クラークとかジョエル・エドガートンとかマーク・ストロングとか、彼女を助ける男性たちが殆ど非アメリカ人の俳優で固められてるのは何か思惑があるのだろうか。あとカイル・チャンドラーって最近顔色悪くない?

そしてビン・ラディンの片腕探しから居住地の襲撃に至るまでの流れは極上のサスペンス。ビン・ラディンが住んでいることが確信できないまま襲撃の許可が出されたことは知らなかったな。しかし当初はこのような結末は想定されておらず、ビン・ラディン狩りの終わりのなさを描いた脚本になってたらしいが、そちらはいったいどういう結末になってたんだろう?