「クレイジー・ハート」鑑賞

思ってたよりもずっとホンワカした映画だった。

ジェフ・ブリッジス演じるバッド・ブレイクは名の知れたカントリー・シンガーだったが酒で身を持ち崩し、今ではボーリング場の片隅でライブを行うようなドサ回りをして日銭を稼ぐような生活を続けていた。そんなある日、彼はバンドのキーボーディストの姪である新聞記者のジーンと知り合いになり、すぐに2人は恋仲になる。そしてバッドの元弟子であり、今では彼を凌ぐ元スターとなったトミーの前座をやらないかという話がやってきて…というような話。

ミュージシャンの映画というと、ステージでの栄光と挫折とか仲間や恋人との怒鳴りあいとか突然のハプニングなどといった展開が定石になっているもんだが、この映画もそうした展開があるものの、どれもまったりとしてるんだよな。バッドは自分の子供くらいの年齢であるジーンと何の障害もなくすぐに恋仲になるし、疎遠になっていたトミーとも簡単に打ち解けてステージ上でデュエットしたりするし。後半でバッドとジーンがケンカする理由も、「それってバッドの責任じゃないんじゃない?」と思うようなせせこましいものだったような。

かといって話に盛り上がりが欠けているというわけではなくて、バッドの過ごす日々についてはきちんと描かれている。要するに盛りを過ぎたジイさんが、周囲の暖かい行為によって身を持ち直す映画、として観るのがいいのかも。

この比較的凡庸なストーリーにも関わらず映画を優れたものにしているのが明らかにジェフ・ブリッジスの演技であり、もともと大統領からグータラ男まで演じ分けられる名優であったわけだが、今回は曲のボーカルも自らこなしてバッドの役を完全に演じきっている。でもアカデミーの主演男優賞というのは今までの功労賞的な意味合いが強かったと思うけどね。ジーン役のマギー・ジレンホールは相変わらず幸の薄い女性を演じていて、まあ可も不可もなし。むしろトミー役のコリン・ファレルがブリッジス同様にボーカルをこなして見事だった。彼っていつの間にか普通のハリウッド・スターからアートハウス・シネマの役者へと転身を遂げましたね。あとプロデューサーも務めるロバート・デュヴァルがそこそこおいしい役で出演してるぞ。

カントリー・ミュージックという題材については懸念してたんだが、T=ボーン・バーネットによる曲はどれも秀逸で、音楽映画としても見応えがある内容になっている。まず日本ではヒットしないだろうけど、DVDとかで観る分には楽しめる映画じゃないでしょうか。

「ウルフマン」鑑賞

近年では珍しいくらいに何のヒネリもない映画。イギリスの片田舎で怪物による襲撃があって、どうも主人公の親父が怪しくて、そんなうちに主人公も怪物に襲われて狼男になってしまって…という先の読める展開が淡々と語られるだけで、話の盛り上がりがとても欠けてるんだよな。最後は「サンダ対ガイラ」みたいになってたし。

そもそもこういう物語って恐ろしい呪いをかけられた主人公の苦悩を描かないといけないんだが、ベニチオ・デル・トロは仏頂面して悶々としてるだけだから、自分の境遇を甘受してるかのように見えてしまうんだよな。そもそもデル・トロは元の顔が怪物っぽいので、狼男になってもあまり違和感が無いのはどうかと。彼の親父を演じるアンソニー・ホプキンスも露骨に手を抜いて演技してるのがバレバレで、まあギャラがもらえれば良かったんじゃないの。

特殊メイクにリック・ベイカーを起用したことは賞賛できるが、肝心の狼男も半分くらいのシーンはCGなので彼がどのくらい関わったのかはよく分からず。ストーリー自体は全然怖くないのに、血なまぐさい描写を増やしたことでR15指定になって観客を減らす結果になったのも失敗じゃないですか。とにかくCGに頼りすぎというか、今の観客はCGに対して目が肥えているから、CGは抑えめに使わないと逆にチャチっぽく見えてしまうと思うんだけどね。

もし続編があるとすれば「切り裂きジャック 対 狼男」のような展開が期待できたわけで、たぶんそっちのほうが今作よりも面白くなったんだろうけど、興行的に失敗してるから続きは無いだろうなあ。過去のユニバーサル・ホラーをリメイクするなら、特殊効果だけでなくストーリーもちゃんと練り込みなさいよ、ということを教えてくれる一本だろう。

あと音声で「ジプシー」って言ってるのがはっきり聞こえるんだから、変に気をつかって字幕を全て「流浪民」とする必要もないだろうに!「あまり適切でない言葉があったけど、物語の都合で使いましたよ」といった断り書きを最後に入れるのではダメなんだろうか。

「The Men Who Stare at Goats」鑑賞

何という失敗作。クルーニーにスペイシー、ジェフ・ブリッジスといった歴代のアカデミー俳優とユアン・マクレガーといった豪華な面子が揃ってこれかよ!と思わずにいられないけど、悪いのは役者ではないよな。詳しくは下に書きます。

物語の語り部を務めるのはミシガンで新聞記者をやっていたボブ・ウィルトン。妻の不倫により働く気をなくした彼は、イラク戦争に関する取材をしたいと願ってクェートへ向かう。そこで彼はリン・キャシディという男性に出会う。彼はかつてアメリカ軍のなかに存在した極秘チーム「ニュー・アース・アーミー」の一員であり、ニューエイジ思想に感化された上官のもと、そのチームでは千里眼やテレパシー、念力といった超能力をもった兵士たちを育てようとしていたのだという。たまたま以前にインタビューした元兵士からキャシディのことを聞いていたボブは彼に興味を抱き、一緒にイラクに向かうものの、物事はあらぬ方向に進展していき…というような話。

ボブとキャシディのイラク珍道中と交差してニュー・アース・アーミーの結成と解散までが語られていくんだが、どちらの話も展開がラリっててムチャクチャなので、普通に笑うよりも「何だこりゃ?」という気持ちが先に来てしまうんだよな。いろいろ語られるエピソードの1つ1つは面白いのに、演出がマズいというか、監督がきちんと話を処理しきれていないのが明らかなんだよな。ジョージ・クルーニーと長年組んで来たプロデューサーによる初監督作品だそうだけど、ベテランの監督を起用してストーリーをもっと練れば傑作になったかもしれないのに残念。

あとニュー・アース・アーミーの兵士は自分たちのことを「ジェダイ」と呼んでいて、これはかつてオビ=ワン・ケノビを演じたマクレガーに対する楽屋オチになってるんだけど、何度も彼にジェダイジェダイ言わせてるのはかなりウザかったです。

でもクルーニーの演技は素晴らしいし、セットなどには金がかかってるし、ストーリーは少なくとも斬新だし、決して駄作というわけではないですよ。劇場で観たら頭を抱えて出てくることになったかもしれないが、レンタルとかで観るなら普通に楽しめる作品かと。

ちなみにこれは実話を基にした映画だそうです。アメリカ軍が超能力などに興味を持っていたという話はよく聞くけど、ニュー・アース・アーミーみたいなチームは本当に存在したのかね?

ジャック・カービィの知られざるキャラクターたち

俺もよく知らなかったんだけど、アメコミ界のキングことジャック・カービィは70年代後半から80年代にかけてコミックを離れてアニメーション・スタジオで働いていた時期があったそうな。そのうちの1つであるルビー=スピアーズというスタジオのためにいろいろなキャラクターのコンセプト・アートをカービィは描いていて、それらの作品がこんどフランチャイズ化されることになったらしい。

いろいろ描かれたキャラクターのなかには赤毛の女性版インディ・ジョーンズともいうべき「ロキシーズ・レイダース」や、キャプテン・アメリカのごとくシールドを持ったヒーロー「ゴールデン・シールド」なんてのがいて、どことなくバッタもんのような感じもするものの、カービィの力強いデザインを見ていると「2012年に世界を破滅から救おうとする古代マヤ族の戦士!」なんて設定がとてもカッコ良く思えるのですよ。

具体的にこれらのキャラクターがどうメディア展開していくのかは不明だが、このルビー=スピアーズの人たちはカービィの才能を絶賛する一方で「彼はあくまでも雇われ人だったので、作品の権利は明らかに我々にあります」なんて喜々として言っているのが鬼畜だなあ。なおカービィがマーヴェル・コミックスで生み出した有名キャラクターたちの権利についてはこないだ遺族がマーヴェル相手に訴訟を起こしたんだとか。

まあ何にせよこうしてカービィの知られざるキャラクターたちに脚光が当たったのは嬉しいことなので、今後の展開に期待したいところです。

ピストルズちょっといい話

マルコム・マクラーレンの死に関して、ロジャー・イバートのブログに70年代にマクラーレンがラス・メイヤーを雇ってセックス・ピストルズの映画を撮らせようとしたときの話が記されていて、非常に興味深い内容になっている。

ことの発端はメイヤーの「ワイルド・パーティー」をマクラーレンが気に入ったことで、彼にピストルズ版「ハード・デイズ・ナイト」を撮らせようとしたことにある。早速メイヤーとイバートはLAでマクラーレンと会い、彼とメイヤーはウマが合わなかったものの、とりあえず20世紀フォックスも絡め、イバートが脚本を書いて映画を作ることになったそうな。

キャスティングもマリアンヌ・フェイスフル(!)がシド・ビシャスのヘロ中の母親を演じる話があったそうで、打ち合わせのために今度はメイヤーとイバートがロンドンに行き、そこでジョニー・ロットンとシドに出会ったらしい。当時のロットンはマクラーレンがろくに金を渡さなかったせいでガリガリに痩せていたそうだが、それを見たメイヤーが彼に分厚いステーキを奢ることにした時のやりとりが面白い。メイヤーって従軍経験を非常に楽しんだ人なんだけど、こんな感じ:

メイヤー:ジョンよ、お前さんのそんな細い腕では軍隊に入ったら1日ともたんな。
ロットン:何で俺が軍隊なんかに入らなきゃならないんだよ!
メイヤー:よく聞けこのクソガキ、わしらはお前たちのためにバトル・オブ・ブリテンを戦ったんだぞ!
イバート:(実のところアメリカはバトル・オブ・ブリテンに参加していないことが頭に浮かんだが、私はとりあえず黙っていることにした)

そのあとこの映画の話は例によってスタジオが手を引いたり、金のことでモメたりして立ち消えになってしまったのだが、後にジュリアン・テンプルが監督した「ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル」にメイヤーが撮影したショットが使われてるんだとか。ラス・メイヤーによるセックス・ピストルズの映画ってのは観てみたかったなあ。でもブログにあるイバートの脚本の抜粋を読む限り、なんかツマらなそうな話ではあるんだけどね。