「The Men Who Stare at Goats」鑑賞

何という失敗作。クルーニーにスペイシー、ジェフ・ブリッジスといった歴代のアカデミー俳優とユアン・マクレガーといった豪華な面子が揃ってこれかよ!と思わずにいられないけど、悪いのは役者ではないよな。詳しくは下に書きます。

物語の語り部を務めるのはミシガンで新聞記者をやっていたボブ・ウィルトン。妻の不倫により働く気をなくした彼は、イラク戦争に関する取材をしたいと願ってクェートへ向かう。そこで彼はリン・キャシディという男性に出会う。彼はかつてアメリカ軍のなかに存在した極秘チーム「ニュー・アース・アーミー」の一員であり、ニューエイジ思想に感化された上官のもと、そのチームでは千里眼やテレパシー、念力といった超能力をもった兵士たちを育てようとしていたのだという。たまたま以前にインタビューした元兵士からキャシディのことを聞いていたボブは彼に興味を抱き、一緒にイラクに向かうものの、物事はあらぬ方向に進展していき…というような話。

ボブとキャシディのイラク珍道中と交差してニュー・アース・アーミーの結成と解散までが語られていくんだが、どちらの話も展開がラリっててムチャクチャなので、普通に笑うよりも「何だこりゃ?」という気持ちが先に来てしまうんだよな。いろいろ語られるエピソードの1つ1つは面白いのに、演出がマズいというか、監督がきちんと話を処理しきれていないのが明らかなんだよな。ジョージ・クルーニーと長年組んで来たプロデューサーによる初監督作品だそうだけど、ベテランの監督を起用してストーリーをもっと練れば傑作になったかもしれないのに残念。

あとニュー・アース・アーミーの兵士は自分たちのことを「ジェダイ」と呼んでいて、これはかつてオビ=ワン・ケノビを演じたマクレガーに対する楽屋オチになってるんだけど、何度も彼にジェダイジェダイ言わせてるのはかなりウザかったです。

でもクルーニーの演技は素晴らしいし、セットなどには金がかかってるし、ストーリーは少なくとも斬新だし、決して駄作というわけではないですよ。劇場で観たら頭を抱えて出てくることになったかもしれないが、レンタルとかで観るなら普通に楽しめる作品かと。

ちなみにこれは実話を基にした映画だそうです。アメリカ軍が超能力などに興味を持っていたという話はよく聞くけど、ニュー・アース・アーミーみたいなチームは本当に存在したのかね?

ジャック・カービィの知られざるキャラクターたち

俺もよく知らなかったんだけど、アメコミ界のキングことジャック・カービィは70年代後半から80年代にかけてコミックを離れてアニメーション・スタジオで働いていた時期があったそうな。そのうちの1つであるルビー=スピアーズというスタジオのためにいろいろなキャラクターのコンセプト・アートをカービィは描いていて、それらの作品がこんどフランチャイズ化されることになったらしい

いろいろ描かれたキャラクターのなかには赤毛の女性版インディ・ジョーンズともいうべき「ロキシーズ・レイダース」や、キャプテン・アメリカのごとくシールドを持ったヒーロー「ゴールデン・シールド」なんてのがいて、どことなくバッタもんのような感じもするものの、カービィの力強いデザインを見ていると「2012年に世界を破滅から救おうとする古代マヤ族の戦士!」なんて設定がとてもカッコ良く思えるのですよ。

具体的にこれらのキャラクターがどうメディア展開していくのかは不明だが、このルビー=スピアーズの人たちはカービィの才能を絶賛する一方で「彼はあくまでも雇われ人だったので、作品の権利は明らかに我々にあります」なんて喜々として言っているのが鬼畜だなあ。なおカービィがマーヴェル・コミックスで生み出した有名キャラクターたちの権利についてはこないだ遺族がマーヴェル相手に訴訟を起こしたんだとか。

まあ何にせよこうしてカービィの知られざるキャラクターたちに脚光が当たったのは嬉しいことなので、今後の展開に期待したいところです。

ピストルズちょっといい話

マルコム・マクラーレンの死に関して、ロジャー・イバートのブログに70年代にマクラーレンがラス・メイヤーを雇ってセックス・ピストルズの映画を撮らせようとしたときの話が記されていて、非常に興味深い内容になっている。

ことの発端はメイヤーの「ワイルド・パーティー」をマクラーレンが気に入ったことで、彼にピストルズ版「ハード・デイズ・ナイト」を撮らせようとしたことにある。早速メイヤーとイバートはLAでマクラーレンと会い、彼とメイヤーはウマが合わなかったものの、とりあえず20世紀フォックスも絡め、イバートが脚本を書いて映画を作ることになったそうな。

キャスティングもマリアンヌ・フェイスフル(!)がシド・ビシャスのヘロ中の母親を演じる話があったそうで、打ち合わせのために今度はメイヤーとイバートがロンドンに行き、そこでジョニー・ロットンとシドに出会ったらしい。当時のロットンはマクラーレンがろくに金を渡さなかったせいでガリガリに痩せていたそうだが、それを見たメイヤーが彼に分厚いステーキを奢ることにした時のやりとりが面白い。メイヤーって従軍経験を非常に楽しんだ人なんだけど、こんな感じ:

メイヤー:ジョンよ、お前さんのそんな細い腕では軍隊に入ったら1日ともたんな。
ロットン:何で俺が軍隊なんかに入らなきゃならないんだよ!
メイヤー:よく聞けこのクソガキ、わしらはお前たちのためにバトル・オブ・ブリテンを戦ったんだぞ!
イバート:(実のところアメリカはバトル・オブ・ブリテンに参加していないことが頭に浮かんだが、私はとりあえず黙っていることにした)

そのあとこの映画の話は例によってスタジオが手を引いたり、金のことでモメたりして立ち消えになってしまったのだが、後にジュリアン・テンプルが監督した「ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル」にメイヤーが撮影したショットが使われてるんだとか。ラス・メイヤーによるセックス・ピストルズの映画ってのは観てみたかったなあ。でもブログにあるイバートの脚本の抜粋を読む限り、なんかツマらなそうな話ではあるんだけどね。

「Operation Filmmaker」鑑賞

前から興味のあったドキュメンタリー。事の発端はアメリカが侵攻してから1年後のイラクから始まる。ムサナ・モハメドは映画監督になることを夢見る25歳の青年だったが、通っていた映画学校は爆撃で破壊され、映画関係の本を市場で漁るしがない日々を送っていた。しかし彼の姿がアメリカのMTVで放送されたことで彼の生活は一変する。その番組を見ていたリーヴ・シュレイバーが彼に興味を抱き、自分が監督する映画「僕の大事なコレクション」のスタッフとしてプラハにムサナを招くことにしたのだ。突然訪れた幸運に目を輝かせるムサナ。そしてこのドキュメンタリーは彼の努力を映した感動的なものになるはずだったのだが…。

悲しいかな、イラクの中流家庭でスポイルされて育ったムサナはあまりにもエゴが強く、他力本願な若者であった。自分の境遇に感謝しつつも、撮影現場では雑用ばかりやらされると愚痴をこぼし、簡単な編集の仕事を任されてもパーティに遊びに行ってしまったりして、徐々に彼は周囲の人間に迷惑をかけていくことになる。シュレイバーをはじめとするスタッフたちは彼を招いた手前もありムサナにきつく当たるようなことはしないものの、ビザの期限が迫っても具体的なことを何一つしない彼の扱いに皆が困惑していることがよく分かる。

おまけにイラクの情勢はどんどん悪化し、家族にさえも国に帰ってくるなと言われたムサナは映画の撮影が終わってもプラハに塩漬けになり、アメリカへ行くことを画策する。どうにかプラハに留まる許可をもらった彼は前の現場で得たコネで今度は「ドゥーム」の撮影に携わることになるのだが、そこでも彼は大した仕事をしなかった。しかし彼は人の行為に甘えることについては天性の才能を持っていて、イラク人である境遇を言葉巧みに訴えながら、何と「ドゥーム」の主役であるザ・ロックにイギリスの映画学校の学費を払ってもらうことに成功する!

こうして彼はイギリスへ渡るのだが、相変わらず生活費が無いのに働くのが嫌でバイトもせず、あらゆる知人に電話をして金を無心してばかり(しかもそれなりの額)。さらにはこのドキュメンタリーの監督にまで金をせびるのだからたちが悪い。おかげで最後のほうはムサナと監督のケンカが続くという展開になってしまっていた。結局のところ監督が(それまで渡していた金に加え)手切れ金のようなものを渡す形で両者は別れて映画は幕を閉じるわけだが、現在でもムサナはイギリスでどうにかやっているらしい。

ムサナがろくな人間でない事は序盤から明らかになるわけだが、彼を単なる悪人としてとらえることには抵抗感があって、不思議と魅力的な人間ではあるんだよな。だからプラハでガールフレンドを作ってたりするし、彼の映像を見たニューヨークの映画学校の職員が「僕も家が貧しくて苦労した。だから僕は彼の気持ちが分かるんだよ!」と感激したり、その学校のディレクターが「彼ってハンサムね。私だったらどんな映画にも出演させるわ」なんて言ったりするわけだ。

またアメリカ人のほうにもムサナを利用する魂胆があるのが明らかで、このドキュメンタリーが撮られた当初の理由がそうだし、ザ・ロックもカメラの前で彼に学費を負担することを伝えてたりもする。「僕の大事な〜」のプロデューサーはムサナの話を「エンターテイメント・ウィークリー」誌に売り込むんだけど、彼がジョージ・ブッシュを支持しているのを知って絶句する場面もあったりする。要するにみんな彼をダシにして美談を作りたかったのよ。

ただアメリカの批評にあるような、これをイラク戦争のアレゴリーとして見る考えはどうかと思うけどね。国が戦争になったからって人の性格が突然変わるわけでもないだろうから。俺もむかしアイルランド政府の金でダブリンに移住していたボスニア難民で、すごく性格が悪い奴に会ったことがあるっけ。とにかく善意が悪い方向に進むとどうなるかの一部始終をしっかりとらえたという意味では、非常に興味深いドキュメンタリーであった。

「シャッターアイランド」鑑賞

「スコセッシがヒッチコックをやった映画」という評判を目にしたけど、むしろスコセッシがデビッド・リンチをやったような感じがしたよ。特に前半の雰囲気の盛り上げ方とかは巧みだなと思ったんだけどな。

でも全体的な印象としては映画というよりも洋ゲーに通じるところがあって、行動範囲の限られたエリアを舞台に、主人公がいろんな登場人物と話して情報を入手していき、嵐のイベントが起きたあとは今まで入れなかった収容棟にアクセス可能になる…というような展開が続くというか。

そして肝心の結末については当然ここで触れないが、「ミスティック・リバー」もそうだったけど、デニス・ルヘインのストーリーって予期せぬところでオチがつかなくない?それまでの謎解き作業とはちょっと離れたところで謎の解明がされるというか。この映画がああいうオチになったことは理解できるんだが、正統なミステリを期待してると肩すかしをくらうよ。

出演者についてはディカプリオやマーク・ラファロは可も不可もなし。どちらもベン・キングズレー演じる刑務所長に食われてしまっている。個人的にはマックス・フォン・シドーが怪しい博士役で出てたのが良かったな。ベルイマン作品からキワモノSFまでいろんな役が出来る人ですよ、彼は。

結局のところ悪い映画ではないんだけど、スコセッシの作品としては凡庸な出来といったところかな。あの人はもっと人間関係に深きを置いた映画のほうが似合ってると思うんだが。スコセッシの映画にCGが使われてるのも違和感があるし。あとそろそろディカプリオ抜きの映画を撮ってほしいところです。