「MY SON」鑑賞

地上波放送では史上最低の視聴率を叩き出した東京オリンピックに続いて、米PEACOCKが送る(って前に書いたね)オリジナル映画。クリスチャン・カリオン監督がフランスで撮った「凍える追跡(Mon Garcon)」を自分でリメークしたものだそうな。

舞台は荒凉としたスコットランドの山間部。別れた妻から、彼らの息子がキャンプ場で行方不明になったとの連絡を受けたエドモンドはひとりスコットランドに戻り、元妻や警察から現場の状況や捜査の具合などを聞く。しかしロンドンの警察本部からの謎の圧力により地元の警察の協力が得られなくなったことから、エドモンドは自分で捜査を行い息子を見つけ出そうとするのだったが…というあらすじ。

実のところサスペンスとしてはかなり凡庸なつくりで、TVシリーズの刑事ドラマのほうがもっとプロットが面白くないか?と感じてしまう。主人公が中東で石油ビジネスに関わってることが明かされて、息子の誘拐がそれに関連してるのではないかという話も出てくるものの、なんか中途半端に終わってたし。

じゃあこの作品の特徴は何かと言うと、予告編でも紹介されてるが、主人公のエドモンドを演じるジェームズ・マカヴォイに「一切脚本が渡されてない」ことなんだそうな。ほかの役者は脚本どおりに役を演じているなか、マカヴォイは即興で演技をしてセリフを話し、事件の新情報をその場で知り、自分で謎を解決していかなければならない、という設定のようです。もちろん謎解きゲームではないのでマカヴォイはあくまでも役に乗っ取って演技をしていかなければならず、「スペースボール」みたく「凍える追跡」のDVDをレンタルして結末を知る、というチートは残念ながら行っていなかった。

即興劇というとコメディで演じられる場合が多いが、サスペンスで使われるのは珍しいかな。ただし主人公の職業などといった設定は事前にいろいろ決められているのだろうし、エドモンドが突然人をぶん殴る展開なんかを観ると、ある程度の打ち合わせはあったんじゃないのかと勘繰ってしまう。マカヴォイも劇中で新しい事実を知っても、眉間にシワを寄せて「何!?」と反応してるだけであまり頭を使ってるように見えないし。これ新情報というか手がかりにマカヴォイが気づかずスルーしてたらどうしてたんだろうな。

全体的にプロットに、マカヴォイが演技できる幅というか「遊び」が与えられていて、こういう作品に本来求められるべきである、緻密に練られた脚本が欠如しているのは致命的なんじゃないか。即興の演技は嫌いじゃないけど、サスペンス作品の場合は、完成している脚本に味付けをする程度の役割を果たすべきでは。全編ワンショット撮影の「ヴィクトリア」を観た時も思ったけど、撮影時のギミックが結果的にその作品の面白さに貢献してないと、それ使った意味がないよね、とつい考えてしまうのです。

出演者はマカヴォイのほかに元妻役にクレア・フォイ。スコットランドの寒々しい山と自然の風景は個人的にとても好きで、このようなサスペンス作品にはよく似合うと思ってたので、脚本の緩さがいろいろ残念な作品であった。

https://www.youtube.com/watch?v=kRDXnNwbP2I&t=116s

「Y: THE LAST MAN」鑑賞

ブライアン・K・ヴォーン&ピア・グエラによるDC/ヴァーティゴの同名コミックを元にした、HULU/FXの新シリーズ。この著作権はクリエイターに属してるので、DCコミックス作品とはいえワーナー製作ではないみたい。原作が人気作品なのでずいぶん前から映画化の話などがあったものの、TVシリーズ化は主演が変わったり(バリー・キオーガンが演じる予定だった)ショウランナーが降板したりとグダグダしていたのだが、この度やっと完成したことになる。

話のプロット自体は極めてシンプルで、ある日突然、世界中の男性および動物のオスが謎の病気にかかって死んでしまう。世界には女性だけが残されて混乱を極めるものの、なぜかヨリックという青年および彼のペットの雄ザル「アンパーサンド」だけは生き残っていた。この貴重な生き残りであるヨリックの存在はアメリカ政府内でも極秘扱いされ、ヨリックは護衛のエージェント355とともに、彼が生き残った理由を突き詰める旅に出るのだった…というあらすじ。

男性およびオスがみんな死んだ、というのはつまりY染色体を持った生物が絶滅したということで、タイトルはここから来ている。主人公の名前のYORICKもこれにかけてるんだろうな。原作はヨリックのガールフレンドがオーストラリアに留学中という設定で、ヨリックは彼女に会おうとするロードムービー的な要素があり、終盤ではコギャルが跋扈する日本に行ったりもしてたが、こっちはガールフレンドがまだオーストラリアに向かう前になっている。また原作ではヨリックの母親はワシントンDCの議員だったが、TV版では大統領の継承権を持った男性がみんな死んだために彼女が大統領に就任したという設定になっていて、政治ドラマの要素にも重きを置いているみたい。

というかコミックが原作の作品にしてはやけに話の展開が遅くて、第1話は大災厄に至るまでの各登場人物のあらましがバラバラに紹介され、第2話でヨリックが母親に再会し、第3話でやっとヨリックとエージェント355が旅に出る、という展開なので、これからロードムービーっぽくなるのか、引き続き政治ドラマが描かれるのか、よく分からんのよな。なおヨリックはアマチュアのエスケープ・アーティスト(脱出系マジシャン)で、この才能が捕まったときにいろいろ役立つのだが、TV版ではいまのところその才能を発揮するシーンがないみたい。

主人公のヨリックを演じるのはベン・シュネッツァー、って「パレードへようこそ」のマーク・アシュトン役の人か。ヒゲ面になったので分からなかったよ。しかしクレジット上では彼の母親を演じるダイアン・レインがトップになっていて、これから察するにやはりヨリックの話だけでなくアメリカ政府の話が、これからもずっと描かれていくのかな。あとは前大統領の娘役でアンバー・タンブリンが出てたりします。

コミックだとあまり気にならなかったが、出演者のほぼ全員が女性という出演ドラマって結構もの珍しさを感じますね。ついでにショウランナーや監督も女性だし。この設定を活かして、ヨリックの物語というよりも世界を再び再興させようとする女性たちの物語にしたほうが面白そうな気もするが、今のところはあまり社会的なコメンタリーはないみたい。しかし今後は原作にない、トランス男性のキャラクターも登場するそうで、ジェンダースタディー的な内容になっていくのだろうか。

プロットの脚色、というよりも映像化があまり上手にできてない印象を受けたが、ヨリックたちが旅に出たことでこれから面白くなるかもしれないのでとりあえず評価は据え置く。コミックの最終回は非常に好きなエピソードなので、あそこまで無事にたどり着いてくれることに期待します。

「FROGGER」鑑賞

地上波放送では史上最低の視聴率を叩き出した東京オリンピックに続いて米PEACOCKが送る、素人参加型のスポーツゲーム番組。日本のコナミが1981年に出したアーケードゲーム「フロッガー」をもとにしていて、あれ日米で人気が高くていろんな機種に移植されてるし、リメークも出たりしてるのでプレーしたことのある人が多いと思うが、タダでも遊べるので興味がある人はどうぞ。

番組では参加者がゲームにおけるカエルとなって、ステージに張られた水に落ちないように、ハスの葉やカメや岩を模したポリウレタンだかプラスチックの上を飛び移ってゴールを目指すのだが、ゲームと違ってステージは縦長でなくて四角い屋内をぐるっと回る感じだし、ステージの種類もいくつかあって宇宙ステージとか海賊ステージなんてのも存在する。それで1エピソードあたり6人の参加者が3つのステージを2人ずつ競い合い、それぞれのステージでの勝者(ゴールまで着かなくても、より遠くまで進んだほうが勝ちとなる)の3人が最終ステージで競い、勝者が賞金1万ドルをゲットするというルールみたい。

とにかく下に落ちないように足場を跳び移って進んでいくゲーム番組、という点ではNetflixの「Floor is Lava」(未見)に近いのかな?ただ参加者はゲーム同様に3つまでライフを与えられているので一発アウトのスリルがないのと、体が水に落ちても足場に手がかかってればセーフと見なされるので、参加者が二本足でテンポよく跳び移るのではなく上半身から倒れるような形で足場を移っていくのがちょっとトロいな。カエルのように跳んでいるといえばそれまでなのだが。横から水が吹き出ているコースが結構エグくて、そこで早々に脱落してる人が多いあたり、全体的な難易度の調整はまだまだ必要かと。

番組の司会/コメンテーターはデーモン・ウェイアンズJr.と、スポーツキャスター&俳優のカイル・ブラント。ウェイアンズJr.って「ニュー・ガール」とか「Happy Endings」といったシットコムで活躍してるのだから、こんなゲーム番組の司会しなくても良いと思うのだが…。まあふたりの陽気なかけあいと、編集によってそれなりに楽しめる番組にはなっているんじゃないでしょうか。失敗しても製作費はオリンピックの数億分の1くらいだろうし。

しかしオールドゲーマーとしては、ステージのゴールが1つしかなくて、ゲーム版の「左端のゴールがとてつもなく到着しにくい」設定が反映されてないのが気にくわんな。でももしこれが人気を博したら、次は風船に吊り下げられた参加者が戦いあう「バルーンファイト」、落とし穴をつくってお互いを落とそうとする「平安京エイリアン」、ステージに潜んだ猛獣と麻酔銃で戦う「トランキライザーガン」あたりがゲーム番組化しやすそうなんだが、いかがでしょう?

「FRENCH EXIT」鑑賞

良い評判を聞いていた作品。日本では「フレンチ・イグジット 〜さよならは言わずに〜」の題名で配信スルーだそうな。

裕福な寡婦のフランシスは身勝手な性格で、息子のマルコムを12歳の頃から放任主義で育ててきた。そんな彼女は財産がすぐに底をつくことを銀行より知らされる。財産が尽きる前に死ぬつもりだった彼女は「死ななかった」のでニューヨークのアパートを売り払い、パリにある知人のアパートにマルコムと移り住むことになる。こうして母と息子と猫1匹のパリ生活が始まるのだが、やがて彼らのアパートには様々な人が集まり…というあらすじ。

ヨーロッパを舞台にしたアンサンブルコメディ、という点ではウェス・アンダーソン作品に似てなくもないが、あっちよりも金銭問題とか恋愛関係とかがリアルに描かれていて、もうちょっとアダルトな雰囲気。色彩も当然アンダーソン調ではないが、パリの風景が美しく撮影されていて良いですよ(モントリオールでも撮影したらしい)。パリのウェイターが横柄なところもちゃんと描写されている。

題名の「French Exit」というのは、例によってフランス貶しの表現の1つで、「断りもなしに急に去ること」を指すのだそうな。この作品も急に登場したと思いきや、突然去っていく人たちがチラホラ。まあ人生にすっきりとした別れなんて無いということか。フランシス本人が前述したように人生の退出タイミングを間違えたような人で、金の切れ目が人生の切れ目であるかのように、残った資産を惜しみなく人に与えたりして退出に向かっていく。

タバコをスパスパ吸ってる有閑マダムのフランシスを演じるのがミシェル・ファイファー。おれ彼女ってあまり好きな役者ではなかったのだけど(実を言うと、夫のデビッド・E・ケリーの最近の作品が好きになれないのが大きな理由だが)、今回の役は実にハマっていて、絶賛されているのもよくわかる。そんなフランシスを怪訝そうに見守る息子のマルコム役のルーカス・ヘッジスもいい感じ。マルコムの婚約者役にイモージェン・プーツ。フランシスたちと勝手に友人になる未亡人をヴァレリー・マハフェイが演じていて、おれこの人知らなかったのだけど非常に良い演技でした。

原作は「The Sisters Brothers」のパトリック・デウィットの小説をデウィット自身が脚本化し、「モーツァルト・イン・ザ・ジャングル」のアザゼル・ジェイコブスが監督。最近のクドくなってきたウェス・アンダーソンの作品よりこっちのほうが好きかも。良作。

「シャン・チー/テン・リングスの伝説」鑑賞

まだ公開したばかりなので感想をざっと。いちおうネタバレ注意。マーベル・コミックスの原作のキャラクターにはそんなに思い入れがなくて、「燃えよ!カンフー」やブルース・リーに始まる70年代のカンフーブームに便乗して登場した、アジア人から見たら違和感を感じるアジア人キャラ、というのが最初見たときの印象だったな。ポール・グレイシー&ダグ・メンチによる一連の作品は面白いらしいですが。

ポール・グレイシーの連続コマ、カッコいいよね!

70年代のスタイルだと流石にもはや政治的に正しくないので、近年になってからはもっとスポーティな若者ルックになって登場して、それが今回の映画版のもとになってるようです。

内容もきちんとアジア人に配慮したものになっていて、サンフランシスコの中国系コミュニティから話が始まり、マカオに移って、それから謎めいた部族が長い間守り続ける秘境の存在が明らかになって、そこを守るために主人公は立ち上がる…ってこれ「ブラック・パンサー」のプロットじゃないか?あれもカリフォルニア→釜山→アフリカと話が移っていったし、外部からの襲撃に備えて部族が武装するあたり、「これ前にも観たぞ?」と思ってしまったよ。

それを考えるとアフロフューチャリズムでテーマが一貫していた「パンサー」と異なり、こっちはスーパーヒーロー映画、カンフー映画、ファンタジー映画、ついでに最近のディズニーが好きなハリウッド風エスニック映画の要素をいろいろ盛り込んできて、結局はすべてにおいて中途半端に終わっている感じだった。テン・リングスの仕組みとか、最後の敵とか、もうちょっと細部を詰めれば良かったのに。テレパシー?が使えるならさ、単に暴れさせるだけじゃなくて自分の野望とか語らせれば良かったんじゃないの。

デスティン・ダニエル・クレットン監督の過去作は未見。「ショート・ターム」とか評判良いのだけどね。主役のシム・リウはコミックのシャン・チーに比べておっさん顔のような気もするが、トロント出身のアジア人ということで個人的には応援します。オークワフィナもいい役者になったよな。彼女とミシェル・ヨーとロニー・チェンと、「クレイジー・リッチ!」に出てきた役者が3人もいるあたり、ハリウッドにおけるアジア人俳優の層ってやはり薄いんだろうか。シャン・チーの妹役のメンガー・チャンはこれが映画デビュー作?なんでこんな大役にいきなり起用されてるの?この作品の中国公開が決まってないことを考えると、中国市場に媚を売るためとも思えないしなあ。

そして役者としてはやはりトニー・レオンがいちばん巧くておいしい役を演じていて、むしろ彼を主役にしたほうが良かったんじゃないの。「ブラック・パンサー」もそうだったがヒーローに対して複雑な感情を抱く敵役のほうがずっとキャラクターとしては面白いのだけど、ディズニーはそういったキャラを主役には持ってこないだろうね。

マーベルのスーパーヒーローもの、というよりはディズニーのファンタジー作品という印象が強くて個人的にはどうも好きにはなれなかったけど、シャン・チーは今後もマーベル映画に登場してくるでしょうから、アジア人ヒーローとして活躍してくれることに期待します。