今年観た映画ベスト5

本当はベスト10にしようかとも思ったけど、実はけっこう重要な映画を観てないのがバレそうで。

第5位「第9地区
年初に観たからこの順位かも。最近観てればもう1つくらい上かな。きちんと考えて作られた、社会派でもあり娯楽作でもある優れた映画。南アフリカという一見リソースが無さそうな土地のリソースをフルに使い切った手腕には脱帽せざるを得ない。

第4位「インセプション
「ダークナイト」に比べると話を広げすぎている感が無くもないが、それでもこれだけ野心的なコンセプトで、あれだけの製作費をかけ、ちゃんとヒットに結びつけているところがすごい。ここまで独創的な大作ってのはそう目に出来るものじゃありませんぜ。

第3位「Scott Pilgrim Vs. The World
ゲームの要素を取り込んだ映画というのは普通イヤミな出来になりそうなものだけど、この映画ではそれがすべて成功している。ポップ・カルチャー的な映画という点では「キックアス」なんてこれの足下にも及ばない。

第2位「ゴースト・ライター
サスペンスを熟知した監督が本領発揮するとどうなるかという作品。話に引き込まれる冒頭からアッと驚くラストまで、演出も音楽もカメラワークも全てが揃って雰囲気を盛り上げている傑作。

第1位「ヒックとドラゴン
ストーリーがいかに王道であろうとも、きちんとした演出とムダのないストーリーテリングをすればここまで楽しめる作品になるんだよ、ということを証明した作品。個人的にはクライマックスで飛び立つヒックとトゥースを見送るアスティが「GO」とつぶやくシーンが大好きです。

他にも良かった映画は「アバター」「Cemetery Junction」「Exit Through The Gift Shop」などなど。アメリカでは批評家受けの良い「ウィンターズ・ボーン」や「キッズ・オールライト」はピンとこなかったよ。また「ソーシャル・ネットワーク」を年内に観ることができなかったのが残念な点か。もちろん完全版「メトロポリス」を観れたことが一番良かったわけだが、あれは殿堂入り作品なのでランキングには含めません。そして世間的には「ヒック」よりも評価の高い「トイ・ストーリー3」は、どうしても好きになれなかったんだよな。いずれまたオモチャたちは捨てられるのではないか…といらぬ不安を抱いてしまったせいか。

あと3Dで観た映画を1位に挙げといて何ですが、来年は3Dのトレンドが終わる年になってほしいですね。目が疲れる・画面が暗い・料金が高いなど、ろくなことがないシステムだと思うんだけど。ハリウッドは3Dテレビの販売不調と「トロン:レガシー」の大コケを教訓とすべきであろう。

来年は今まで以上にアメコミが原作の大作(「グリーン・ランタン」や「マイティ・ソー」など)が公開され、ファンとしては嬉しいんだけど、日本の市場では厳しいかも。国内映画興行収入が過去最高になったなんてニュースがある一方で、ミニシアターの閉館が相次いだり、普通だったら劇場公開されてた作品がDVDスルー(さらにひどい場合はVODスルー)になっているわけで、あれは良くないよなあ。個人的にはやはりVODがもっと普及して、マイナーな映画でも自由に自宅で観られるようになってほしいんだけど、どうなることやら。

「The Complete Ballad of Halo Jones」読了


アラン・ムーアが「2000AD」誌のために執筆していたSFコミック「The Ballad of Halo Jones」の全話を収録した単行本で、アーティストはイアン・ギブソン。「2000AD」でのムーアの作品のなかではいちばん有名で評価が高いものじゃないかな。以前に単行本化されたときはムーアの前書きが付いていたらしいけど、今回は未収録。ただしムーアのスクリプトが数ページほど紹介されている。

ストーリーは西暦4900年代の遠い未来を舞台に、閉塞的な地球を嫌って宇宙へ飛び出すものの、環境の変化と時代の流れに翻弄されてしまう少女ヘイロー・ジョーンズの姿を描いた内容になっていて、ディストピアの未来における少女の物語という点ではフランク・ミラー&デイブ・ギボンズの「マーサ・ワシントン」シリーズに似ているかな。ただしあちらよりももっとスペースオペラの要素が強いけど。かといって宇宙を股にかけた冒険譚になっているわけでもなく、主人公は貧しいが故にまっとうな職につくことができず、あちこちでつらい目に合うという、なかなか社会派の作品になっている。それとイギリスでは男性向けの作品が多かった「2000AD」において強い女性を描いたということで評価が高いようだけど、今になって読むとあまりフェミニスト的なものは感じられないかな。

全体では3部構成になっていて、アシモフの「鋼鉄都市」みたいな地球においてヘイローと友人が買い物にいくのが第1部、地球を飛び出したヘイローが巨大な宇宙船で雑用係として働くのが第2部、軍隊に入ったヘイローが戦場で悲惨な体験をするのが第3部のそれぞれの内容になっている。本来は9部作になる構想があったらしいが、例によって権利の問題でムーアと出版社がモメて立ち消えになったそうな。なおイアン・ギブソンのアートはちょっとクセがあるので、受け付けない人もいるかもしれない。出てくる女性の口がみんな極端な「ヘの字」になっていて、どれも同じ顔に見えてしまうんだよな。

「D.R. and Quinch」と同様に、後のアラン・ムーアの作品のクオリティに達しているとは言い難いものの、優れた作品ではあるので、ムーアのファンならチェックしてもいいんじゃないかな。

「ジョナ・ヘックス」鑑賞


今年度最低の一本との呼び名も高い作品だが、本当にヒドい出来だったよ。

まず驚かされるのが、主人公の設定が原作のコミックと全然違うこと。ジョナ・ヘックスが顔に傷を負う過程も異なってるし、原作ではあんな死者を蘇らせるような能力は持ってないぞ。原作を知らない人のために設定を少し変えるのならまだしも、まったく別物にしてどうするんだよ。

コミック版のヘックスってクセがあるようで実はかなり汎用性のあるキャラクターで、初出誌の「Weird Western Tales」の名に恥じずにガンマンやインディアンはおろかゾンビや怪物と戦ったり、中国人と結婚したり、殺されて剥製にされたり、さらには核戦争後の未来に飛ばされて「マッド・マックス」みたいなことをやったりと(いやホントに)、どんなシチュエーションでも通用するところがあるんだけど、それでもこの映画のヘックスの姿にはかなり違和感を憶えましたね。

話の設定以外のところもみんなボロボロで、カラコレは変だしストーリーは雑だし、ピストルに撃たれた人が2メートルくらい吹っ飛ぶし、やたらと物が燃え上がるし、何でも派手にすればいいってものじゃないのよ。いちばん凄かったのはヘックスが宿敵と戦う最後のシーンで、目の前にいる相手と戦ってるのに、なぜかその相手と「別のところで戦っている」夢のシーンが挿入されてやんの!どうも監督が途中で交代させられたらしく、前の監督が撮影したフッテージを流用したらしいんだが、同じ相手と同時に別のところで戦うなんて演出は普通考えつかないよな。

これに合わせて出演者の演技もダメダメで、ミーガン・フォックスは存在意義がまったく無いし、ジョン・マルコヴィッチは明らかに手を抜いて演技してるし。それになぜウィル・アーネットが真面目な役を演じてるのか。ジョッシュ・ブローリンって最近は当たり役が続いてた印象があったけど、これで一気に評判を落としたね。しかもこの直後に同じウェスタンの「トゥルー・グリット」に出たというのが皮肉というか何というか。

この作品で良かったところがあるとすれば、冒頭のタイトル・シーケンスがアニメになっていて、そこにエデュアルド・リッソのアートが使われてることくらいか。でも「ルーザーズ」のときも思ったけど、コミックが原作の映画だからって無理してコミックの絵を出す必要はないと思うんだけどね。ワーナーは今後DCコミックス作品の映画に力を入れていくらしいけど、こんな映画を作るようでは先が思いやられるなあ。

「Doctor Who: “A Christmas Carol”」鑑賞


11代目ドクター初のクリスマス・スペシャル.ここ数年のクリスマス・スペシャルって前後のシリーズの伏線を引きずっててどうも陰気な印象があったんだけど、これは純粋に楽しめる素晴らしいエピソードだった。

話のプロットはエイミーとローリーが新婚旅行で乗り込んだ宇宙船がトラブルに遭い、近くの惑星に着陸する必要が出てきたものの、その惑星(なぜか住民はビクトリア王朝のような暮らしをしている)には気候を操れるガンコな老人がいて、彼は宇宙船の着陸を認めようとしないのだった…というようなもの。

題名が「クリスマス・キャロル」だし、ガンコな老人が出てくるとなれば話の結末は決まってるようなものですが、老人を改心させようとするドクターの奮闘が非常に巧く描かれていた。ターディスで過去に戻って「過去のクリスマスの霊」として少年時代の老人を説得しようとしたり、逆に未来を見せたりするとか。このようにディケンズの「クリスマス・キャロル」を絶妙にアレンジしているばかりでなく、ホロリとさせられるラブストーリーも織り込み、もはや職人芸の域に達した脚本であったよ。

さらに脚本だけでなく話のテンポが非常に秀逸で、過去にいたかと思えば現在に登場するドクターの行ったり来たりが手際良く描かれていて大変面白かった。無駄のない演出のおかげで、1時間という尺ながら下手な映画よりも話に厚みがあったんじゃないかな。過去に戻ってある人物の将来を変えてしまうというのは「ドクター・フー」最大の禁じ手であるはずなんだが、まあそこはクリスマスということで。これらに加えて、ガンコな老人を演じるマイケル・ガンボンの演技も良かったな。

クリスマスという限られたテーマのなかでこれほどのクオリティの話が出てくるようだったら、来年のシリーズ6も相当期待できそうだな。ニール・ゲイマン執筆のエピソードもあるようだし、今から待ちきれない。

「トロン:レガシー」鑑賞


以下いちおうネタバレ注意。あまり期待しないで観たので、まあこんなものかなという感じ。雰囲気が似てるなと思ったのが「スター・ウォーズ:エピソード2」で、CGは見事なんだけどストーリーが弱いところが同じかと。若造とヒロインにオッサンという主人公たちの組み合わせも一緒だし。

俺は世代的にオリジナルの「トロン」をテレビで(初放送時に?)観た人でして、その今まで観たこともない異世界の描写に衝撃を受けた覚えがあるのですが、あちらはプログラムの顔が変色していたり、バイクが直角に曲がったりするところでセンス・オブ・ワンダーが十分に満喫できたんだよな。それに対して今回の「レガシー」はプログラムが結構普通の人間っぽくなっていて、話が進むにつれて「光るコスプレをした人たち」にしか見えなくなってしまったよ。何でプログラムがブタの丸焼きを食べてるんだか。バイクも直角に曲がらなくなってたし。あとMCP出して欲しかったよMCP。

CGは確かに凄いし各デザインも非常に凝ってるんだが、肝心のストーリーがダメダメなので全体的に薄っぺらい印象を受けてしまう。そもそも「アイソー」って一体どういう存在で、何が特別だったのか殆ど説明されてなかったよね?他にもキャスターが想像以上にヘタレだったり、足跡を追跡できるはずのリンズラーが物陰にいる大人2人を探知できないなど、ものすごいご都合主義的な展開はどうにかならなかったものか。1つの世界を造り上げるのにはもっと綿密な設定が必要なはずで、「彼らはどこからともなくやって来た」なんて説明したらいかんだろうに。

ちなみに特殊効果でいちばん凄かったのはライトサイクルでもディスク飛ばしでもなくて、やはりジェフ・ブリッジスの若返らせ方だろう。まるで違和感がなかったぞ。あの技術がハリウッドに蔓延したら、ドリュー・バリモアなんて永遠に女子高生を演じ続けられるんじゃないだろうか。あといつもは不気味顔のオリビア・ワイルドが結構可愛く見えたのもCGのおかげかしらん。

いかにCGが立派でも、ストーリーが破綻してたら良い映画にはならないということの好例のような映画。異世界を経験したいなら「インセプション」を、ゲーム的な映画を観たいなら「スコット・ピルグリム」を代わりに観ることをお薦めします。