「Writing Movies for Fun and Profit: How We Made a Billion Dollars at the Box Office and You Can, Too!」読了


「ナイトミュージアム」や「ハービー/機械じかけのキューピッド」「キャプテン・ウルフ」「TAXI NY」など世界中で大ヒット!の映画の脚本を手がけたロバート・ベン・ガラントとトーマス・レノンによる、ハリウッドで脚本を売って成功するためのノウハウが面白おかしく書かれた本。

彼らの手がけた映画自体は大して面白いとも思わないが、2人ともカルト的人気を誇るコメディ集団「THE STATE」の出身だし、コメディ・セントラルで長年続いた「RENO 911!」なども手がけた人たちなので、決してツマらない脚本しか書けない人たちではないのですよ。そんな彼らがハリウッドにおける10年以上の経験をもとに、メジャースタジオに脚本を買ってもらうためのアドバイスを書き連ねているわけだが、「優れた脚本」や「賞を穫りそうな脚本」あるいは「ヒットする映画の脚本」などの書き方ではなく、あくまでも「スタジオに金を払ってもらえそうな脚本」の書き方に徹しているところがポイント。

まず「ハリウッドで成功したければとにかくハリウッドに住め!」というアドバイスから始まり、「ハリウッド映画の話のパターンは1つだけだ!」とか「却下された脚本にはこだわらずすぐ次の脚本を書け」「映画の企画をスタジオにもちかける際はなるべく他の映画を例に出せ」「スタジオやスターには逆らわず、リライトを命じられたらすぐに書き直せ」「良いアイデアを生むためには酒を飲め」などといった、アート系の人なら顔をしかめそうなアドバイスがいろいろ書かれている。

これらにの行為については書いてる本人たちも決して好きでやっているわけではないことが明確に書かれていて、「ハービー」とか「TAXI NY」が酷評されたこともちゃんと了解したうえでアドバイスをしており、気取ったギョーカイ人のような雰囲気はまるでなし。首切りや再雇用が日常茶飯事である業界で、スタジオから仕事をもらうにはどれだけアホみたいなことをしなければならないのがよく分かる本ではないかと。脚本をまるで読んでないのにストーリーに注文を出してくる重役や、ストーリーの長さを脚本の重さで判断する重役の話、「ハービー」が完成するまでに24人の脚本家が関わった話など、ハリウッドにまつわるいろんなコワい話も紹介されているぞ。

個人的にいちばんツボだったのは、『どこの駐車場に車を停められるか』で自分がどれだけスタジオに気に入られているかが測れるというのが一章を割いて詳細に説明されている部分で、例えばディズニーだと「屋外の駐車場は偉い人向けだが、地下の駐車場はダンテの地獄よりも最悪だ!」といった具合。土地勘がないと分からないネタだけど大変面白かった。

なお冗談めいたアドバイスだけでなく実際に脚本を書くにあたっての説明もきちんとされていて、必須のソフトウェア(Final Draft)やスタジオごとの脚本の余白の取り方、脚本家組合への申請方法やクレジットで揉めた際の調停の仕組みなどについても書かれている。こういう情報をちゃんと載せた本ってそんなに多くないのでは。映画のクレジットの意味を詳細に説明した巻末部分だけでも読む価値があるかもしれない(それでもExecutive Producerが具体的に何をやる人なのか説明できてないけど)。複数の脚本家が関わったときのクレジットで「&」と「AND」では意味が違うなんていう小ネタも面白かったな(前者は一緒に仕事をした場合で、後者は書き直しなどをした場合)。

アドバイスや小話のほかにもサンプルとして映画の企画案とか、没になった劇場版「RENO 911!」の脚本のアウトラインとかが掲載されているんだけど、これがみんなお世辞にも面白いとはいえない代物で、サエない男性がトラブルに巻き込まれるもののどうにかそれに打ち勝ち、意中の女性(もしくは家族の愛)をゲットする、という典型的なストーリーばかり。でもまあうまく脚本が売れて万事がうまくいった場合(いかない場合が多いのだが)、懐に転がり込む金額というのは相当な額になるらしいので、そうなると魂の1つや2つでも売ってゴミのような脚本を書きたくなるようなあ。この本の著者たちがやってることには賛否両論あるだろうが、読んでて非常に面白い本でしたよ。アマゾンのレビューにある「この本は彼らの映画よりも面白い!」という意見がすべてを語っているかと。


最近は「THE STATE」の出身者をいろんなところで見かけるな。

「Terry Gilliam’s Faust」鑑賞


BBC4で放送されたのをiPlayer経由で視聴。ベルリオーズの「ファウストの劫罰」をテリー・ギリアムがオペラ形式で演出したもので、今年の5月にイングリッシュ・ナショナル・オペラで公演されたものらしい。

詳しいあらすじなどはウィキペディアを参照してもらうこととして、この公演では19世紀に書かれた原作の舞台を、20世紀前半のドイツに移しているのが大きな特徴。牧歌的な光景が第一次世界大戦の戦渦を経験してナチスの台頭につながり、共産主義社が処刑されユダヤ人が逮捕されるなか、メフィストフェレス(上の写真左)に翻弄されるファウスト(写真右)の運命が描かれていく。

時代設定をナチスの頃にするのってイアン・マッケランも「リチャード3世」でやってたし、少し安直な気もしなくはないが、それでも「水晶の夜」のシーンとか、マルグリートを救うために魂を売って地獄に堕ちてカギ十字に磔にされるファウストや、強制収容所の遺体の山からマルグリートの魂が昇天することが示唆されるラストシーンなどは非常に印象的であった。冒頭のインタビューによるとギリアムはそもそもドイツの歴史に興味があったほか、ドイツ印象派のスタイルがナチスの直線的なデザインにとって代わられる流れを描きたかったらしい。全体的主義社会における悲しい愛というのは「未来世紀ブラジル」を彷彿とさせるし、安易なハッピーエンドにならないところもギリアムの映画作品に通じるところがあるかな。

当然ながら映画みたいなセリフのかけ合いやシーン転換などがあるわけではないので、少し冗長に感じられるところもあったけど、それは俺がオペラの鑑賞に慣れてないからだろうな。全体的にはセットの変化とかがとても凝っていたし、映像投影の効果的な使用などもあって視覚的にも大変楽しめましたよ。またギリアム作品ではお馴染みの奇怪なクリーチャーも出てきますが、みんな生身の人間が演じて見事な振り付けをしているところに圧倒される。CGの怪物なんかよりもこっちのほうがずっと凄いって。

これ日本でもNHKあたりでやってくれないかな。イギリスでの評判も良かったらしいので、ギリアムはまた舞台を手がけることになるのかも。とはいえ往年のファンとしてはまた苦労してでも映画を撮ってほしいところです。

「RED TAILS」トレーラー


タスキーギ・エアメンの通称で知られる、第二次世界大戦に活躍した黒人の空軍部隊を描いた「RED TAILS」のトレーラーが公開されていた。

世間的には「ジョージ・ルーカス製作の映画」になるんだろうけど、キャストはトリスタン・ワイルズやアンドレ・ローヨ、メソッド・マンにマイケル・B・ジョーダンなどといった「ザ・ワイヤー」の面々が揃っており、まるで空飛ぶボルチモアといった感じであの番組のファンには嬉しいこってす。監督のアンソニー・ヘミングウェイも「ザ・ワイヤー」出身だし。

ただ映像を見る限りではやはりCGの戦闘機ってどうも質感がなくて、実機を飛ばした1969年の「空軍大戦略」のほうがずっとリアルに感じられるのは否めない:

ちなみに日本版ウィキペディアでは「スター・ウォーズ」のデススター攻撃シーンは「空軍大戦略」を下敷きにしてるなんて書かれてるけど、ルーカスが参考にしたのは「The Dam Busters」のはず:

「Hobo with a Shotgun」鑑賞


題名が「ショットガンを持った浮浪者」で、内容もそのまんま。「グラインドハウス」公開時に募集されたフェイクのトレーラーのなかの最優秀作品が長編になったものらしい。

主人公の浮浪者は貨車に乗って気ままな旅を続けていたが、このたび彼がやってきたホープタウンという町では犯罪と暴力がはびこり、犯罪王とその息子たちが公衆の目の前で平然と公開処刑を行っている一方で、警察は彼らと癒着して何もせず、町の住民たちは恐怖のなかで生活をしていた。最初は暴力沙汰に巻き込まれるのを避け、小金をためて芝刈り機を買おうと考えていた浮浪者だが、町の住民への度重なる暴力を目にしてついに激怒し、ショットガンを抱えて町のゴロツキどもを殺していくのだが…というような話。まあストーリーなんてあってないものですが。

ショットガンだけでなくナタや手斧、さらにはモリ銃やスケート靴などで人が次々と殺されていき、血がドバドバと出る光景にドン引きする人もいるかもしれないが、「グラインドハウス」なんてそんなものでしょ。そしてCGを使わないアクションというのが、今となっては逆に斬新に感じられるな。個人的にはもっとおっぱいがあっても良かったような気がするけどね。

彩度のぶっとんだ画作りやシンセサイザーの鳴り響くサントラ、血と内臓の飛び散るアクションは他の「グラインドハウス」作品同様にに70〜80年代のC級アクション映画のパスティーシュになってるが、変にジョークなどを入れ込んだりはせず、あくまでも真面目な映画として作っているところには好感が持てるな。監督はこれが長編デビューになるようだけど、カメラの動きとかがきちんとしていて、安っぽさをあまり感じさせない作りになっている。そして主人公にルトガー・ハウアーを持ってきたところが全体に重みを与えているかと。浮浪者なのに歯が真っ白なのは気になるけど、正義感に燃える主人公をシリアスに演じていて相変わらずカッコいいな。ただやはりストーリーが薄いのと、ラストがちょっとあっけないのはいただけない。

観たあと心に何か残るかというとまったく何も残らない作品ではあるものの、20年以上前にビデオショップで「片腕サイボーグ」とか「SF フューチャー・キル」とかをレンタルしてた世代なら楽しめる作品なんじゃないかな。

なおクレジットから察するにカナダ政府から助成金をもらってノバスコシアで撮影をしたらしいが、こんなお下劣映画に対しても援助するカナダ政府は偉い。