2012年の映画トップ10

昨年同様に、観た順に10本選んでみました。順位は特につけません。

ドライヴ
サソリのジャケット買っちゃったよ。

ファミリー・ツリー
まったりと話が進んでいるようで、家族の絆をしっかり描いている点が秀逸。

CHRONICLE
少年マンガに出てくるような超能力バトルがしっかり撮れた作品。

アベンジャーズ
純粋な娯楽という点ではこれが抜きん出ていた。いろいろツボをちゃんと抑えた大作。

アイアン・スカイ
粗削りではあるんだけど、低予算で風刺と特撮をきちんとまとめたことに敬意を表して。

キャビン
ホラーの定番を見事にスプーフした傑作。これ観ちゃうとB級ホラーが普通に観られなくなるかも。

ムーンライズ・キングダム
あまりにも箱庭的にまとまりすぎてる気もするが、W・アンダーソンの1つの頂点ですな。

THE BAY
まさかバリー・レヴィンソンがファウンドフッテージものをやるとは。パニックに襲われる町を手堅く描いている。

007 スカイフォール
オールドファンに気をつかいつつ、新たな幕開けを迎えることに成功した秀作。

Beasts of The Southern Wild
『ハッシュパピー バスタブ島の少女』という邦題で公開されるみたいです。新人監督が町のパン屋さんを起用して、なぜこうも幻想的な作品が撮れてしまうのか。

特別賞:「ヒューゴの不思議な発明
映画好きが、映画にまつわる映画を観たらそりゃ好きになるのは決まってるので、特別賞扱いとする。少年の話かと思いきや、映画に情熱をかけた老人の話にもっていってしまう巧みさ。

これ以外には「裏切りのサーカス」「ザ・レイド」「ダークナイト・ライジング」「プレミアム・ラッシュ」「ルーパー」などが良かったな。これでも取りこぼしている(観てない)作品が多々あるので、今年はもっと偏見なしに多くの映画を観るように心がけたいところです。

ゴールングローブ考


日本時間で明日の今頃にはゴールデングローブ賞の結果が発表され始めてるのかな。アカデミー賞よりも気楽な感じでテレビと映画のひとたちが一緒になって祝い合うという意味では決して嫌いな賞ではないのですが、受賞者を決定するハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)って調べれば調べるほどウサンくさい団体であるような気がするので、その気になる点についていくつか書いてみる:

・そもそもHFPAの創立の理由が、ハリウッドのスターたちと懇意になりたい記者たちが「ねえねえ、賞をあげるから仲良くしてよ」という考えから生まれたもので、その時点でハリウッドとズブズブの仲であったわけだ。そして授賞式がディック・クラーク・プロダクションにより派手なショーにされてNBCで放送されることにより、その知名度と影響力は大きく上がっていく。

・『外国人』映画記者協会といいつつも、HFPAのメンバーになる条件の1つに「南カリフォルニアに住んでること」というのがある。そりゃハリウッドに近いところに住んでれば便利だろうけど、国際性を強調してるような名前の意味が無いのでは。また公式サイトのメンバー表を見ると「Jean E. Cummings」という人が日本担当の1人になってるのですが…誰だこれ?

・彼女に限らずHFPAのメンバーは素性が不明な人が多いことでも有名で、90数名いるメンバーのうち活動内容がネット上で明らかになってるのは10名ほど。彼らがメンバーであり続けるためには、自分の記事が年に最低4回は何らかの出版物に掲載されることが条件になっているのだが、何をもって出版物と定義するかをHFPAは公表いていない。つまり田舎のコンビニに置いてあるようなフリーペーパーでもHFPAが「出版物」とみなせば、それに年に4回寄稿するだけでメンバーの資格は保持できるわけだ。

・HFPAのメンバーの多くが実は映画ジャーナリストではない、というのも以前からよく語られてきた話で、不動産業者やヘアドレッサー、車のセールスマンなども含まれるという話を聞いたことがあるが、いかんせん素性が不明なので何ともいえんな。メンバーシップが世襲制だという噂も耳にしたが、たぶんこれは事実ではないだろう。ただし加入条件が『現メンバーの2名以上の推薦があり、他のメンバーから反対票が投じられないこと」という実に身内に有利な条件であるため、実際に何が起きてるかは分かりませんが。

・アカデミー賞の会員数が数千人いるのに対し、HFPAは常にメンバーの数を100人以下に絞り、ハリウッドからの厚遇を受けてきた。有名な話では81年にピア・ザドラの金持ちの夫がメンバーを買収して彼女に新人賞を穫らせた(彼女は子役出身であり新人でも何でもなかった)という出来事があって、さすがにこれでバッシングを受けたHFPAはハリウッド受けられる接待の条件を制限したらしいが、それでもハリウッドからの厚遇は続き、昨年「ツーリスト」がコメディ部門にノミネートされて論議を呼んだソニーもメンバーをラスベガスに招待して相当のおもてなしを与えたらしい。

…とまあハリウッドのお手盛り、と言われても仕方が無いような団体であるわけですが、いちおうHFPAの弁護もしておくと、彼らが得ている収益の多くは映画関係のチャリティに寄付されているようだし、昨年の震災に対しても寄付があったらしい。それに判断基準がどうであれゴールデングローブを受賞する作品が結構まともである例も多く、特に数年前にイギリス版「THE OFFICE」が受賞したことであの番組の知名度が飛躍的に上がったことは非常に良かったと思う。

とはいえ上記のとおりウサンくさい団体が選んでいる賞であることは承知しておくべきでしょう。昨年あれだけ物議を醸したリッキー・ジャヴェイスを続いて司会に起用するあたり、HFPAも冗談が分かってきてるような気がするけどね。これを威厳のある賞のように持ち上げてるマスコミにはムカつきますが。また今年からメンバーに加わった日本人ライターがその厚遇ぶりを書いているが、これって裏を返せば他のジャーナリストには不公平な扱いをしているってことだよねえ。まあ誰だってスターとお友達になりたいわけで、彼らが特権にこだわる気持ちは分からんでもないですが。

ちなみにHFPAがこの時期に授賞式を開催するのは、アカデミー賞の投票のタイミングにあわせて作品にハクを与えるためなのですが、昨年あった噂で面白かったのが「アカデミー賞がゴールデングローブ賞をぶっ潰すために授賞式の開催日を早める」というもので、もしこれが実行されてたらHFPAの影響力も大きく変わってたのではないかと。

こんなことを考えつつ、明日の受賞結果に思いをはせる次第です。

今年観た映画トップ10

去年ほど明確な順位付けができそうにないので、良かった映画を日付順に10本挙げていく:

DOGTOOTH
実はこれを年間ベストに推したい気持ちもあるんだけどね。でも単なるキワモノ好きのように思われるので。ギリシャ映画は今年も注目しよう。

127時間
ラストのシガー・ロスの曲がかかるシーンがとても素晴らしいです。

恋とニュースのつくり方
普通だったら選ばないような出来の作品ですが、震災後にモヤモヤしていたしていたとき観に行ったらいい気分転換になったので、感謝の念を込めて。

ブラック・スワン
アロノフスキーの作品としては「レクイエム」と「レスラー」の延長線上にあるような感じで決して期待してたほどではなかったのですが、それでも出来の良い映画であることは間違いない。

X-MEN:ファースト・ジェネレーション
今年のアメコミ映画のなかではこれがいちばん好き。マシュー・ヴォーンやるじゃん。

ミッション: 8ミニッツ
純粋に楽しめるSF映画。邦題が残念なところではある。

スーパー!
繰り返して言うが、目の前で行列に割り込んだ奴を撲殺する光景は素晴らしい。

サブマリン
飛行機のちっちゃい画面で観たことには気が引けるが、とてもよく出来たボーイ・ミーツ・ガールものだよ。

ATTACK THE BLOCK
ニック・フロストなら「宇宙人ポール」よりこっちのほうが面白いよ。来年に日本でも劇場公開されるはず。

WARRIOR
最近観たばかりだから印象が強いのかもしれないが、しっかり作られたスポーツ映画でした。

他にも良かったのは「FOUR LIONS」「トゥルー・グリット」「マイティ・ソー」「MI4」などなど。

それなりに観ているようでイーストウッドとかソダーバーグあたりの作品が抜け落ちているのはいかんなあ。来年はアジアの映画もしっかり観ないと。そして非リア充であるがゆえにロマンス映画を敬遠してるのではないかと、映画のリストを見ていて気付いた次第です。もっとまんべんなく鑑賞しないといかんですね。

「Writing Movies for Fun and Profit: How We Made a Billion Dollars at the Box Office and You Can, Too!」読了


「ナイトミュージアム」や「ハービー/機械じかけのキューピッド」「キャプテン・ウルフ」「TAXI NY」など世界中で大ヒット!の映画の脚本を手がけたロバート・ベン・ガラントとトーマス・レノンによる、ハリウッドで脚本を売って成功するためのノウハウが面白おかしく書かれた本。

彼らの手がけた映画自体は大して面白いとも思わないが、2人ともカルト的人気を誇るコメディ集団「THE STATE」の出身だし、コメディ・セントラルで長年続いた「RENO 911!」なども手がけた人たちなので、決してツマらない脚本しか書けない人たちではないのですよ。そんな彼らがハリウッドにおける10年以上の経験をもとに、メジャースタジオに脚本を買ってもらうためのアドバイスを書き連ねているわけだが、「優れた脚本」や「賞を穫りそうな脚本」あるいは「ヒットする映画の脚本」などの書き方ではなく、あくまでも「スタジオに金を払ってもらえそうな脚本」の書き方に徹しているところがポイント。

まず「ハリウッドで成功したければとにかくハリウッドに住め!」というアドバイスから始まり、「ハリウッド映画の話のパターンは1つだけだ!」とか「却下された脚本にはこだわらずすぐ次の脚本を書け」「映画の企画をスタジオにもちかける際はなるべく他の映画を例に出せ」「スタジオやスターには逆らわず、リライトを命じられたらすぐに書き直せ」「良いアイデアを生むためには酒を飲め」などといった、アート系の人なら顔をしかめそうなアドバイスがいろいろ書かれている。

これらにの行為については書いてる本人たちも決して好きでやっているわけではないことが明確に書かれていて、「ハービー」とか「TAXI NY」が酷評されたこともちゃんと了解したうえでアドバイスをしており、気取ったギョーカイ人のような雰囲気はまるでなし。首切りや再雇用が日常茶飯事である業界で、スタジオから仕事をもらうにはどれだけアホみたいなことをしなければならないのがよく分かる本ではないかと。脚本をまるで読んでないのにストーリーに注文を出してくる重役や、ストーリーの長さを脚本の重さで判断する重役の話、「ハービー」が完成するまでに24人の脚本家が関わった話など、ハリウッドにまつわるいろんなコワい話も紹介されているぞ。

個人的にいちばんツボだったのは、『どこの駐車場に車を停められるか』で自分がどれだけスタジオに気に入られているかが測れるというのが一章を割いて詳細に説明されている部分で、例えばディズニーだと「屋外の駐車場は偉い人向けだが、地下の駐車場はダンテの地獄よりも最悪だ!」といった具合。土地勘がないと分からないネタだけど大変面白かった。

なお冗談めいたアドバイスだけでなく実際に脚本を書くにあたっての説明もきちんとされていて、必須のソフトウェア(Final Draft)やスタジオごとの脚本の余白の取り方、脚本家組合への申請方法やクレジットで揉めた際の調停の仕組みなどについても書かれている。こういう情報をちゃんと載せた本ってそんなに多くないのでは。映画のクレジットの意味を詳細に説明した巻末部分だけでも読む価値があるかもしれない(それでもExecutive Producerが具体的に何をやる人なのか説明できてないけど)。複数の脚本家が関わったときのクレジットで「&」と「AND」では意味が違うなんていう小ネタも面白かったな(前者は一緒に仕事をした場合で、後者は書き直しなどをした場合)。

アドバイスや小話のほかにもサンプルとして映画の企画案とか、没になった劇場版「RENO 911!」の脚本のアウトラインとかが掲載されているんだけど、これがみんなお世辞にも面白いとはいえない代物で、サエない男性がトラブルに巻き込まれるもののどうにかそれに打ち勝ち、意中の女性(もしくは家族の愛)をゲットする、という典型的なストーリーばかり。でもまあうまく脚本が売れて万事がうまくいった場合(いかない場合が多いのだが)、懐に転がり込む金額というのは相当な額になるらしいので、そうなると魂の1つや2つでも売ってゴミのような脚本を書きたくなるようなあ。この本の著者たちがやってることには賛否両論あるだろうが、読んでて非常に面白い本でしたよ。アマゾンのレビューにある「この本は彼らの映画よりも面白い!」という意見がすべてを語っているかと。


最近は「THE STATE」の出身者をいろんなところで見かけるな。

「Terry Gilliam’s Faust」鑑賞


BBC4で放送されたのをiPlayer経由で視聴。ベルリオーズの「ファウストの劫罰」をテリー・ギリアムがオペラ形式で演出したもので、今年の5月にイングリッシュ・ナショナル・オペラで公演されたものらしい。

詳しいあらすじなどはウィキペディアを参照してもらうこととして、この公演では19世紀に書かれた原作の舞台を、20世紀前半のドイツに移しているのが大きな特徴。牧歌的な光景が第一次世界大戦の戦渦を経験してナチスの台頭につながり、共産主義社が処刑されユダヤ人が逮捕されるなか、メフィストフェレス(上の写真左)に翻弄されるファウスト(写真右)の運命が描かれていく。

時代設定をナチスの頃にするのってイアン・マッケランも「リチャード3世」でやってたし、少し安直な気もしなくはないが、それでも「水晶の夜」のシーンとか、マルグリートを救うために魂を売って地獄に堕ちてカギ十字に磔にされるファウストや、強制収容所の遺体の山からマルグリートの魂が昇天することが示唆されるラストシーンなどは非常に印象的であった。冒頭のインタビューによるとギリアムはそもそもドイツの歴史に興味があったほか、ドイツ印象派のスタイルがナチスの直線的なデザインにとって代わられる流れを描きたかったらしい。全体的主義社会における悲しい愛というのは「未来世紀ブラジル」を彷彿とさせるし、安易なハッピーエンドにならないところもギリアムの映画作品に通じるところがあるかな。

当然ながら映画みたいなセリフのかけ合いやシーン転換などがあるわけではないので、少し冗長に感じられるところもあったけど、それは俺がオペラの鑑賞に慣れてないからだろうな。全体的にはセットの変化とかがとても凝っていたし、映像投影の効果的な使用などもあって視覚的にも大変楽しめましたよ。またギリアム作品ではお馴染みの奇怪なクリーチャーも出てきますが、みんな生身の人間が演じて見事な振り付けをしているところに圧倒される。CGの怪物なんかよりもこっちのほうがずっと凄いって。

これ日本でもNHKあたりでやってくれないかな。イギリスでの評判も良かったらしいので、ギリアムはまた舞台を手がけることになるのかも。とはいえ往年のファンとしてはまた苦労してでも映画を撮ってほしいところです。