「FAST FOOD NATION」鑑賞

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最近は日本でも食肉の不衛生さが暴露された騒動があったけど、アメリカのファストフードのヤバい裏側を暴いたエリック・シュローサーのベストセラー「ファストフードが世界を食いつくす」にリチャード・リンクレイターがストーリーをつけて映画化した「ファスト・フード・ネイション」を観る。脚本にはシュローサーも関わっており、プロデューサーはなぜかあのマルコム・マクラーレン。

原作はファストフードの不衛生さや精肉工場の労働環境の悪さ、ファストフード店が強盗に狙われやすいことなどについて多角的な方面から解説し、非常に興味深い内容になっていたものの、多くのテーマを取りあげたことでやや散漫な印象を与える本だったと思う。それが映画になってストーリーがついたことでもっと統一感が出たかというと、実はそうでもなくて、精肉工場を視察に来たファストフード会社の社員、その工場で働くメキシコからの違法移民、そして近所のファストフード店で働く学生の3者を中心に陰気な話が、あまり絡みあうこともなく淡々と続いていく作品になっている。

出演はグレッグ・キニアをはじめボビー・カナベイルやカタリーナ・サンディーノ・モレノ、ルイス・ガスマン、ポール・ダノ、クリス・クリストファーソンといった実に手堅い連中が揃い、さらにはブルース・ウィリスやイーサン・ホーク、ついでにクリスティーナ・アギレラまでが出演しているものの、なんかみんなセリフが説明的で演技が堅苦しいものになっている。エコロジーについて語るアギレラなんてセリフ棒読みって感じ。知性派(だと思う)のリンクレイターにしては、ちょっと詰めが甘い作品ではないでしょうか。精肉工場や屠殺場の光景なんかは衝撃的だし、あの原作を映画化した努力は認めるものの、普通にドキュメンタリーを製作すればよかったのにと思わずにはいられない作品。

「カスパー・ハウザーの謎」鑑賞

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新作「RESCUE DAWN」が今度やっと公開されるヴェルナー・ヘルツォークの初期の作品「カスパー・ハウザーの謎」を観る。

日本でも有名なカスパー・ハウザーの謎についてはウィキペディアあたりを読めば分かるが、この作品では彼にまつわる陰謀論などは殆ど取りあげられず、長い監禁状態から突然としてドイツの町なかに置き去りにされたカスパーの姿をひたすら淡々と追っていく。主人公がアグレッシヴでなく受動的という意味での「アギーレ」や「フィッツカラルド」よりも「神に選ばれし無敵の男」に通じるものがあるかな。カスパー同様に精神状態がアレだったミュージシャンのブルーノ・Sが演じるカスパーは非常に印象的なものの、いかんせん話にメリハリがないのがキツい。「文明社会におけるタブラ・ラサな人物」というテーマが奥にあるんだろうが、ヘルツォークが2年前に撮った大傑作「アギーレ」(こないだポスター買っちゃいましたよ)に比べるとひどく地味な感じがするのは否めない。室内や市街地での撮影が多くてヘルツォークの素晴らしい自然描写もあまり見られないし、音楽もポポル・ヴーではないのが残念なところ。

IMDBなんかではやけに高い評価を得てるみたいだけど、ヘルツォークの作品としてはあまりオススメではないと個人的には思う。

「夕日のギャングたち」鑑賞

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セルジオ・レオーネの「Giù la testa 」こと「Duck, You Sucker」こと「A Fistful of Dynamite」こと「夕日のギャングたち」を観る。レオーネの映画って邦題で損をしているようなところがあると思うんだが、どうだろう。まあこの作品は原題も「伏せろ、間抜け」というアレな題名なんだけど。

レオーネの他のウェスタンにくらべて時代設定が新しく、革命をテーマにしているところが特徴か。時代的にはこれが「ワンス・アポン・タイム・イン・アメリカ」につながっていくわけですね。銀行強盗を模索する前半がどことなくコメディ・タッチなのに対して、メキシコ革命が焦点になってくる後半は政治色が強くやや整合性に欠けるところもあるかもしれないが、時代の流れに翻弄される男たちの世界が十分に満喫できる。元IRAの爆弾使いの主人公を演じるジェームス・コバーンがカッコいいのなんのって。クールに決めつつもマシンガンをぶっ放し、ダイナマイトをピンポイントで爆破させる姿は実に豪快。まあその反面「ウェスタン」や「続・夕陽のガンマン」における緊張感満点の撃ち合いなんかはなく、やや大味なところもあるけどね。

目のクローズアップを多用するレオーネ独特の演出も効果的に使われているほか、「ウェスタン」でもあった登場人物ごとに音楽のテーマが決まっているという手法が使われていて、エンニオ・モリコーネによる音楽がそれだけで物語を語っているというのが見事。特に主人公のアイルランドでの回想シーンなんて、音楽だけで一切セリフがないのに登場人物の心情が手に取るように分かるという演出の素晴らしさ。こういう演出が出来る人って最近じゃまずいませんぜ。

「続・夕陽のガンマン」や「ワンス・アポン・タイム・イン・アメリカ」にはやや劣るものの、傑作であることは間違いない作品。

「ボラット」鑑賞

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観ちゃったよ。いや、とても笑える映画なんですけどね、でも素人へのドッキリと人種差別をネタにした笑いというのは、笑いつつも心の片隅でなんか罪悪感を抱いてしまって気まずい感じになってしまうんだよな。今後はこういう素人参加型のコメディが増えてくるんだろうね。日本だと素人にはモザイクとかかけて隠すけど、やはりアメリカでは後から出演者に「この映画を訴えるなよ!」というような誓約書を書かせたらしい(それでもしっかり訴えられてたけど)。あとカメラアングルなどから察するに、いくつかのシーンはヤラセが入ってるみたいだ。

ちなみにコメディ映画としてだけでなく、ロード・ムービーとしても秀逸な作品になっていて、外国人がアメリカ大陸を横断するときの不安さがよく伝わってきて面白い。彼らが途中で遭遇する中南部の田舎の人々はいわゆるレッドネックそのまんまで、これがアメリカのマジョリティの姿なんだよな。我々が普段ドラマで目にするようなNYやLAのオシャレな人々なんてのは、アメリカ人の実像から遠くかけ離れた姿だってのがよく分かる。

良くも悪くも内容がとってもアメリカンだから、この作品って日本じゃ大衆受けはしないだろうなあ。カルト人気は出るだろうけど。

「明日に処刑を…」鑑賞

boxcar.jpgこないだやっとアカデミー賞を取ったマーティン・スコセッシの実質的デビュー作「明日に処刑を…」をVHSでダラダラ観る。

これはスコセッシがロジャー・コーマン閣下のもとで作った映画で、1930年代の不況にあえぐホーボーたちが犯罪に手を出していくさまを描いたもの。反権力のスピーチとか扇動的な暴力描写とかカーチェイスとか、ジョン・キャラダインとバーバラ・ハーシーのセックスシーン(本当にヤッてたらしい)とか、エクスプロイテーション映画の要素がとりあえずいろいろ投げ入れられてる作品。コーマン先生のテイスト満載ですね。

でもいかんせん低予算映画だから全体的に作りが安っぽくて、照明もヒドいし役者のセリフまわしとかも単調で、スコセッシの初期の作品ということ以外は何も見るポイントはない映画かなあ。ラストの録り方は結構うまかったけど。でもこの1年後にスコセッシは傑作「ミーン・ストリート」を作るわけで、やはりこういう練習作品(?)を作るのが監督にとっては大事なことなのかと。日本のピンク映画みたいなものですかね。

ちなみにこないだ神保町でこの映画の日本公開時のポスターを発見したんだけど、当時は「スコシージ」と、より実際の発音に近い形で監督名が表記されていた。誰だよ、「スコセッシ」なんて表記を広めたのは?