「ボラット」鑑賞

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観ちゃったよ。いや、とても笑える映画なんですけどね、でも素人へのドッキリと人種差別をネタにした笑いというのは、笑いつつも心の片隅でなんか罪悪感を抱いてしまって気まずい感じになってしまうんだよな。今後はこういう素人参加型のコメディが増えてくるんだろうね。日本だと素人にはモザイクとかかけて隠すけど、やはりアメリカでは後から出演者に「この映画を訴えるなよ!」というような誓約書を書かせたらしい(それでもしっかり訴えられてたけど)。あとカメラアングルなどから察するに、いくつかのシーンはヤラセが入ってるみたいだ。

ちなみにコメディ映画としてだけでなく、ロード・ムービーとしても秀逸な作品になっていて、外国人がアメリカ大陸を横断するときの不安さがよく伝わってきて面白い。彼らが途中で遭遇する中南部の田舎の人々はいわゆるレッドネックそのまんまで、これがアメリカのマジョリティの姿なんだよな。我々が普段ドラマで目にするようなNYやLAのオシャレな人々なんてのは、アメリカ人の実像から遠くかけ離れた姿だってのがよく分かる。

良くも悪くも内容がとってもアメリカンだから、この作品って日本じゃ大衆受けはしないだろうなあ。カルト人気は出るだろうけど。

「明日に処刑を…」鑑賞

boxcar.jpgこないだやっとアカデミー賞を取ったマーティン・スコセッシの実質的デビュー作「明日に処刑を…」をVHSでダラダラ観る。

これはスコセッシがロジャー・コーマン閣下のもとで作った映画で、1930年代の不況にあえぐホーボーたちが犯罪に手を出していくさまを描いたもの。反権力のスピーチとか扇動的な暴力描写とかカーチェイスとか、ジョン・キャラダインとバーバラ・ハーシーのセックスシーン(本当にヤッてたらしい)とか、エクスプロイテーション映画の要素がとりあえずいろいろ投げ入れられてる作品。コーマン先生のテイスト満載ですね。

でもいかんせん低予算映画だから全体的に作りが安っぽくて、照明もヒドいし役者のセリフまわしとかも単調で、スコセッシの初期の作品ということ以外は何も見るポイントはない映画かなあ。ラストの録り方は結構うまかったけど。でもこの1年後にスコセッシは傑作「ミーン・ストリート」を作るわけで、やはりこういう練習作品(?)を作るのが監督にとっては大事なことなのかと。日本のピンク映画みたいなものですかね。

ちなみにこないだ神保町でこの映画の日本公開時のポスターを発見したんだけど、当時は「スコシージ」と、より実際の発音に近い形で監督名が表記されていた。誰だよ、「スコセッシ」なんて表記を広めたのは?

「ザ・ファウンテン」鑑賞

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「π」に「レクイエム・フォー・ドリーム」といった傑作を送り出した鬼才ダレン・アロノフスキーの待望の新作「THE FOUNTAIN」をやっと観る。元来は5年くらい前にブラッド・ピットとケイト・ブランシェットという「バベル」の2人が主演で撮影される予定だった作品で、オーストラリアに大掛かりなセットが既に建築されていたんだが、ピットが突然降板してクソ映画「トロイ」に出演することにしたため製作が中止になり、今回やっとヒュー・ジャックマン&レイチェル・ワイズ(監督の恋人)主演で完成にこぎつけたわけだ。ちなみに撮影場所はモントリオール。

尺は96分とそんなに長くない作品だけど、そのなかで3つの時代と場所を舞台にした物語が交差して語られていく(以下ネタバレ注意):

1500年:残虐な異端審問官の勢力に攻めたてられるスペイン。王女イザベラ(ワイズ)はマヤ地域の隠されたピラミッドに生えているという「生命の樹」を見つけるため、忠節なコンキスタドールのトマス(ジャックマン)に南米行きを命じる。多くの犠牲を払いながらもついにピラミッドを発見したトマスだが、そこで彼が目にしたものは…。

2000年:末期ガンに侵された妻イジー(ワイズ)をもった医師のトミーは、脳腫瘍の研究のために猿のドノヴァンの治療を行っていた。ドノヴァンの容態が悪化し死が免れないように見えたとき、トミーは独断で南米の樹から採取された未知の化合物を投薬し、それがドノヴァンに驚くべき結果をもたらすことになる。一方トミーの家ではイジーが宇宙の彼方の星雲を望遠鏡で示し、それをマヤ文明がかつてシバルバと呼び、冥府として崇めたということをトミーに語り聞かせるのだった。陽気にふるまうイジーだったが、そんな彼女にも死の影は近づいていた…。ちなみに「ザ・ファウンテン」というのはイジーが書いている本の題名。トミーの上役を「レクイエム〜」で名演技を見せたエレン・バースティンが演じている。

2500年:枯れ果てた「生命の樹」とともに暗い宇宙を旅するトム(ジャックマン。おそらく上のトミーと同一人物)。彼は亡き妻イジーの幻影を見つつ、「生命の樹」を蘇らせるためにイジーがシバルバと呼んだ星雲へと向っていく。そこで彼が目にしたものは…。

このように死と再生をテーマにした3つの話が何の説明もなく折り重なって進んでいくため、1時間くらいしても何が起きてるのか分かりにくいという致命的な欠点があるんだが、それはこの作品の特徴でもあるから仕方ないにしろ、話が3つに分かれているぶんそれぞれの物語や人物のバックグラウンドがいまいち理解しにくい(特に1500年のやつ)感じがするのは否めない。まあそれが監督の意図なんだろうけど。

ストーリーがいささか弱い反面、 ヴィジュアルや演技は非常に素晴らしい。CGIをなるべく使わず、バクテリアなどの顕微鏡写真を星雲に見たてた映像は非常に独創的で美しい。またヒゲ面のコンキスタドールからハゲの宇宙飛行士までの3役を演じるジャックマンの演技が、それぞれのシーンに巧みに合っていて見事。彼ってこんなに演技うまかったんだ。レイチェル・ワイズは末期ガンの患者にしては丸っこいけど(当時妊娠してたんだっけ?)、ブスのケイト・ブランシェットなんぞよりも良い演技を見せてくれる。

その難解さからアメリカでの興行成績は失敗し、「五年の夢が五日で粉々になった」とまで言われた作品だけど、ここ最近では珍しい雰囲気をもった映画であることは間違いない。衝撃度や革新性という意味では「π」や「レクイエム〜」には劣るけれども、一見の価値はある作品ですよ。

「アートスクール・コンフィデンシャル」鑑賞

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俺にとってオールタイム・ベスト第2位の映画「クラム」(第1位は「メトロポリス」ね)の監督であるテリー・ツワイゴフの最新作「アートスクール・コンフィデンシャル」を観た。あ、そういえば彼の前作「バッド・サンタ」はまだ観てねーや。

これはツワイゴフの前々作「ゴースト・ワールド」の原作者であるダニエル・クロウズのコミックを再び映画化したもので、「GW」同様にクロウズ自身が脚本に関わっている。作品の舞台となるのは題名通りアートスクールつまり美術学校で、芸術家になろうとする大志を抱いて入学した主人公が、一目惚れした女の子の心を自分のアートで勝ち取ろうとするものの、周囲には自分の作品がまったく認められず大きな失望を感じてしまう…というのが大まかな話。

4ページほどしかない原作は美術学校にいる典型的なタイプの人たちを鋭く描写したことで話題になったらしいけど、これが2時間ほどの映画になると、どの登場人物も典型的に描かれすぎているというか、奥の深さを感じさせない人物描写ばかりになっているのが残念。クラスメイトに酷評されてどんどん暗黒面に堕ちていく内気な童貞の主人公(アンソニー・ミンゲラの息子だ)とか、口だけで何の助けにもならない教師のジョン・マルコヴィッチとか、もうちょっと深く掘り下げれば非常に面白くなったであろうキャラクターはいっぱいいるんだけどね。決して悪い作品ではないんだけど、傑作「ゴースト・ワールド」に比べると劣っている感じがするのは否めない。

ちなみにうちのすぐ近くにも美術学校があるんだけど、中ではこの映画のようなことが起きてんのかな。

「LESSONS OF DARKNESS」鑑賞

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ヴェルナー・ヘルツォークの1992年の作品「LESSONS OF DARKNESS」を観た。

これはこないだの「THE WILD BLUE YONDER」と似たコンセプトの作品で、地球にやってきた宇宙人が人間たちのことを観察するという内容のもの。ヘルツォーク自身はこれはSF作品だと言ってるようだけど宇宙人たちが登場するわけでもなく、ナレーションもごくわずかで実際にはドキュメンタリーに非常に近いものになっている。

そして話の舞台となるのは第一次湾岸戦争後のクウェートおよびイラク。一面が茶色い砂漠のなかで爆撃によって破壊された巨大アンテナ、流出した原油によってできた湖、イラク軍の拷問の器具などが、オペラ音楽にのせて淡々と映されていく。話の後半は油田での消火活動にあたる人々に焦点があてられ、原油が雨のように降り注ぎ巨大な火柱が吹き荒れるなか、黙々と作業を続けていく消防士たちが登場する。

これらの映像は、戦争という惨事によって生み出されたとはいえ、実のところ非常に美しい。単なるドキュメンタリーもしくはプロパガンダ映画とは明らかに異なった作品なんだが、ヘルツォークがこれを通じて何を訴えたかったのかを理解するのは難しいかも。最後に消防士たちが油田に火を放つシーンに(実際は消防活動の一環らしんだが)、「火のない生活に耐えられなかった彼らは、狂気に駆られて再び火をつけた」というようなコメントをつけることで、戦争に何度も駆られる人間の性を表したかったのかもしれない。

それにしても現在のイラクの惨状を知ってしまうと、第一湾岸戦争での惨劇がひどく他愛ないものに見えてしまうんだよな…。